軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

72.ダンジョンからドロップが消えた日

夜、街がまだ収穫祭最終日のお祭り騒ぎの中、アリスを家に連れて帰った。

三階建の一軒家、魔力嵐を遮断する新居。

そこにアリスを連れてきた。

「ただいま」

「お邪魔しまーす」

普通に帰るおれと、物怖じせず明るくふるまってついてくるアリス。

一緒に階段を登って二階のリビングに上がる、そこにエミリーとセレスト、そしてイヴ。

仲間の全員が勢揃いしていた。

イヴは食卓について、ステーキ用の鉄板で香ばしく焼かれているなにかを食べている。

よく見ればニンジンだった、それを彼女はうっとりした顔で、ナイフとフォークを使って切り分け、一口ずつ食べている。

「お帰りですヨーダさん」

「ただいまエミリー。あれはエミリーが作ったのか」

「イヴちゃんがいいことを知らせてくれたからお礼にニンジンのハンバーグを作ったです」

「ニンジンのハンバーグ?」

「はいです」

頷くエミリー、おれはイヴに近づき鉄板を見る。

最初はただのニンジンだと思っていたが、近づいて見ると確かに細かく切ったモノを練った、ハンバーグの様なものだった。

それが、ニンジンの色と香りで、ニンジンの形をしている。

「なんでまたこんなことを」

「ちょっと冒険してみたです」

「うさぎはこの日のために生まれてきた」

感動してニンジンハンバーグを頬張るイヴ。

「大好評みたいだな」

「よかったです」

「一生あなたのニンジンが食べたい」

「プロポーズされたぞ」

「そそそそれは困るです!」

エミリーはあわあわした。

ニンジンのハンバーグは興味あるが、それは後回しだ。

おれはまず、アリスをみんなに紹介しなきゃと思った――のだが。

「か、かわいい……」

ニンジンに目を奪われた隙に、セレストがアリスに迫っていた。

目がほとんどハート型になってて、めちゃくちゃうっとりしてる。

「セレスト?」

「かわいい……」

「ホネホネとぷるぷるって名前です」

「なんという可愛さ……ちょ、ちょっと頬ずりしてもいいかしら」

「え? うーん。みんな、どう?」

アリスは自分の肩に乗ってるSDサイズの 二体(ふたり) に聞く。

二体はしゃべれないが、そのかわりアリスの背中にさっと隠れた。

「あっ、怖がってる」

「そ、そんな……」

セレストが「ガーン」ってなった。

ふとおれは思い出す。

セレンダンジョンから戻ってきた初日、引っ越しをした時。

セレストの荷物の中にファンシーなぬいぐるみを見た事を。

ホネホネもプルプルも今はぬいぐるみのようなものだ、しかもコミカルに動く分、男のおれから見ても可愛いと思う。

その可愛さにセレストはすっかりやられたようだ。

それはいいけど、このままじゃ紹介もままならないな。

「アリス、ダンジョンの外でもみんなを大きく出来る?」

「やってみるね。ホネホネ、ぷるぷる」

アリスが声をかけるや、背中に隠れていた二体が大きくなった。

戦闘態勢の元の姿に戻った。

「出来るみたい」

「よし、これなら――」

「かーわーいーいーーーー」

話が出来る、と思ったらそんな事はなかった。

セレストはますます目をハートにして二体に迫った。

「なんて可愛いの二人とも、ちょっと頬ずりさせて、ううん今夜一緒に寝よう!」

オリジナルサイズに戻った二体は更に怯えてアリスの背中に隠れた。

「大丈夫、寝るだけだから。ちょっと寝るだけだから」

「そのセリフで大丈夫はない」

「じゅるり」

「どういう意味のじゅるりなんだよそれは!」

声が裏返るほど突っ込んだ。

目が イ(、) ちゃってて迫るセレスト、間で困るアリス、そのアリスを盾に使って隠れて怯えている二体のモンスター。

なんというシュールな光景か。

「どうしようリョータ」

「こうなったら見られないようにするしかないな」

「見られないように……うん分かった。戻ってみんな」

ホネホネとぷるぷるが再びSDサイズに戻った。

アリスは二体を持ち上げて、懐にしまって文字通り見えなくした。

「ああああ……」

瞬間、セレストの暴走が止まり、代わりに落胆した。

なんというか……。

「変な人」

「お前が言うなよ!」

いつの間にか真横にやってきてしたり顔で言うイヴに、またまた声を裏返して突っ込むのだった。

リビングで全員が向かい合う様にしてすわった後、改めてアリスを全員に紹介した。

「アリスだよ、みんなよろしく」

「彼女を仲間にしたいんだけどどうかな」

「異議無し!」

セレストが真っ先に答えた。理由ははっきりしている。

「セレストはもう少し落ち着かないとずっと避けられるぞ」

「で、でも。可愛いのよ? 可愛いのよ? まるで天使みたいに可愛いのよ?」

モンスターだけどな。

「可愛いのは否定しないけどね。イヴは――」

「低レベルきらい」

「そうきたか。ところでアリスはニンジンのこと好きか?」

「ごめん苦手なんだ」

「ならこれからはアリスの分のニンジンをイヴに――」

「うさぎ、賛成に一万票」

「一人一票だから普通に!」

イヴはイヴでものすごくちょろかった。

最後にエミリーを見る。

「エミリーはどうなんだ?」

「え? ごめんなさいです、別の事を考えてたです」

「別の事?」

「アリスちゃん、スケルトンをもう一回大きくするです」

「え?」

アリスはおれをみた、どうする? って目だ。

「イヴ、セレストをホールド」

「いえす、ゆあにんじん」

意味不明な敬礼をして、イヴはセレストを後ろから抱きしめた。

「これで大丈夫だから」

「うん。ホネホネ」

アリスはホネホネを元のサイズに戻した。

拘束されたセレストが「あああ、やっぱりものすごくかわいい……」と感激していたが、とりあえずスルーする。

「これで良いのかエミリー?」

エミリーは答えず、立ち上がってスケルトンに近づく。

「やっぱりです、服がボロボロなのです」

「え? ああスケルトンだからな」

いままで気にはならなかったけど、スケルトンは服がボロボロなままだ。

全部のスケルトンがそうであり、ホネホネも造形が可愛くなったけど服はやっぱりボロボロのままだ。

「可哀想なのです」

「そ、そうか?」

「ちょっと待つのです」

エミリーはパタパタと三階に駆けていった。

どうしたんだろうかと思ってると、すぐにまたパタパタと戻ってきた。

一着の服を持って。

「これを着てみるのです」

「それは?」

「趣味で作ったものなのです」

そんな趣味があったとは……いやまあ家事万能のエミリーらしいと言えばらしいか。

エミリーはもってきた服をスケルトンに着せた……が。

「ふおおおおお!」

セレストは絶叫する。

いよいよキャラ崩壊を起こしてしまった。

ジタバタしてホネホネに駆け寄ろうとするが、イヴにガッチリ捕まれてて動けない。

それはいいんだけど……と、おれはまじまじとホネホネを見た。

「これはどうなんだ?」

「ダメなのです?」

「あたしは可愛いと思うけど」

「……マジッスか」

セレストほどじゃないけど、エミリーもアリスも「あり」判定を下している。

もしかしておれだけなのか? スケルトンに ゴスロリ(、、、、) が似合わないって思うのは?

そう、エミリーがもってきたのはレースにフリルをふんだんに使った黒のゴスロリ服だ。女の子なら誰も似合うように出来ているが、いかんせんそれを着ているのは骨だ。

なんというか……なんというかだ。

「ホネホネ女の子だから似合うね」

「そういえばそうだっけね!」

ホネホネはいつもの様にカタカタしながらも、白い頭蓋骨がほんのり赤くなっていた。

本人、まんざらでもないらしい。

それはそうと。

エミリー、セレスト、イヴ。

みんな、アリスを仲間に加わる事に異論はないようで、おれはちょっとホッとした。

後夜祭もほとんど終わって、街が静かになっていく頃。

おれはアリスを送るため家を出た。

彼女は前の部屋、月15万ピロの新築2LDKの方に住まわせることにした。

表向きは こっちの(、、、、) 部屋が足りないからだが、本当はあそこで一緒に住んだらセレストにモンスターたちが怯えるからだ。

だからアリスだけ、そっちに住んでもらうことにした。

ちなみにアリスがモンスターを仲間にしたことは特に驚かれなかった。

ごくごくまれにそれが出来る人間が存在するというのは割と知られている事実で、物珍しくはあったけど驚かれはしなかった。

「わるいね、一人だけ」

「ううん、すっごく嬉しい。あたし住むところなかったし、二人と一緒にダンジョンに住もうかなって思ってたから」

「 二体(ふたり) は街中でもいいのか?」

おれの質問に片方がカタカタして、もう片方はぴょんぴょんアリスの肩の上を跳ねた。ちなみにホネホネは前のボロボロの格好だ。元のサイズからSDサイズに戻った時に服のサイズはそのままだったから、似合いはしても着続けることは事実上不可能という結論になった。

「うん、あたしもみんなと一緒ならどこでもいいよ」

アリスが笑顔で二体を撫でた、直接答えてもらってないけど、アリスと一緒ならどこでもいいって事らしい。

「あれ?」

ふと、アリスは立ち止まって、反対方向を見た。

「どうしたんだ?」

「なんか呼ばれた……? 新しい子?」

「ふむ、また仲間になりそうな子がいるって事なのか」

「そうなのかな、よく分かんない」

「まあそれは明日にしよう。今日はもう遅い。色々あったし、まずは休もう」

「そうだね!」

頷くアリス。

しばらく一緒に歩いて、前の部屋にやってきた。

一緒に中に入る、そこはまだエミリーの匂いが残っていた。

優しくて、温かい。エミリーが手を加えたぬくもりが残っていた。

「さあ、入って」

「うわー……すごいお部屋」

「最低限の家具は残してあるから、どっちでも好きなのを使うといい」

「ありがとうリョータ!」

「余ってる部屋だ、気にするな」

「うん! ありがとう!」

アリスはそう言って、笑顔で抱きついてきた。

他意のない、純粋な感謝の気持ちが出た抱擁。

おれはまたちょっとだけ嬉しくなったのだった。

翌朝、エミリーが作ってくれた温かい朝ご飯を食べた。

朝一でやってきたアリス、ニンジン持ち込みで料理してもらったイヴも含めて、五人で昨夜に勝るとも劣らない、騒がしくも楽しい一時を過ごした。

朝ご飯の後、さて収穫祭も終わったし通常モードでダンジョンを潜るか、と家を出た。

ダンジョンに向かう最中、街の様子がおかしい事に気づく。

どうにも騒がしいというか、みんな深刻な顔をしている。

収穫祭最中の雰囲気とも違う、それ以前の日常の空気とも違う。

なにかおかしい、どうしたんだ?

「失礼、リョータ・サトウ様でいらっしゃいますか」

立ち止まって街の様子を見てると、男に声をかけられた。

「そうだけど、あなたは?」

「クリント・グレイ様のつかいです。危急の事態につきお越し頂きたいと」

「クリント……ダンジョン長か」

男が頷く。

ダンジョン長がおれを探してる……なにかが起きているのは間違いないみたいだった。

「やあ! よく来てくれた」

ダンジョン協会、クリントの部屋に入るなり、彼は両手を広げて立ち上がり、おれを出迎えた。

「さあさあ、こっちにかけてくれたまえ」

「失礼します」

応接用のソファーに向かい合って座ると、秘書が二人分のコーヒーを入れてもってきた。

「砂糖は何十個いるね」

「一個でいいですから!」

「相変わらず控えめな人だ」

クリントはおれのコーヒーに角砂糖を一つ入れて、自分のには山ほど投入した。

コーヒーの上までせり上がってくる角砂糖の山はまるで海に浮かぶ氷山。

甘党のクリントはそれを飲んだ、見てるだけで胸ヤケした。

それから目をそらして、聞く。

「なにかあったんですか?」

「実は、今朝から全部のダンジョンでドロップがなくなったのだ」

「え? 全部のダンジョンからって……」

「テルル、シルコン、アルセニック、ビスマス、ボーラン。シクロにある五つのダンジョン、その全てからドロップがなくなったのだ。冒険者がいくらモンスターを狩っても何もドロップしないと報告を受けている」

「……今までにこんなことは?」

聞き返すおれ、自分でも眉間にものすごいしわを寄せているのが分かった。

全てがダンジョンのモンスターからドロップされる世界、そこで何もドロップしなくなった。

ものすごい大問題、大事件だ。

「ないのだよ、こんなことは初めてだ。おかげで朝から冒険者たちは大混乱だ。知っての通り宵越しのゼニはもたないという主義の冒険者が多くてね」

「……毎日稼げるから、潜りさえすれば」

頷くクリント。

そう、この世界の冒険者はまるで江戸っ子の様な気質をもっている。

ダンジョンにさえはいれば稼げるから、稼いだ分をとっとと使う人も多い。

例外は魔法使いだ、魔力嵐でダンジョンに入れない日がたまにあるため、いくらか余分に金を蓄えておくのが魔法使いの常識。

逆に言えばそのほかの冒険者はほとんどがそうじゃない。

それで経済が回ってるんだから、今までそれで問題なかった。

「それに、武器防具のためにローンを組んでるものも多くてね。そういう冒険者からすればドロップがなくなった今の状況はものすごくまずいのだ」

「そうですね」

「キミだけが頼りなんだ! セレンでレアをまとめてドロップさせたキミの力――キミだけが頼りなんだ!」

ダンジョン長、クリントが両膝に手をついて頭を下げて。

「頼む!」

といった。

頭を下げたままのクリントにおれは即答する。

「わかりました」

「本当か!」

「この状況は見過ごせない、やるだけ……いや全力で原因を探ってみる」

「ありがとう! 本当にありがとう! あぁ……これで安心だ」

ダンジョン長はおれの手を握手する様に掴んで、おもいっきり上下に振った。

強い感謝と安堵の気持ちと、それに匹敵するほどの焦燥と困惑を同時に感じる。

ダンジョンからドロップが消えた事態。

なんとかしなければ……。