軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

594.最強のダンジョンマスター

自分でもはっきりと分かる位に、俺は困惑していた。

ダンジョンマスター・エミリー。

そう呼ぶしかない存在に、俺は困惑していた。

それとは対照的に、ネプチューンは実に楽しげな感じで笑った。

「いやはや、彼女がダンジョンマスターか。やっかいなことこの上ないね」

「そうおもうか?」

「強いからね、なんてたって三つ星冒険者――ああでも、ダンジョンマスターだと本人と能力が違うって事もあるのかな?」

「ああ……それもそっか」

見た目がエミリーだからといって、能力までもがエミリーとまったく同じだとは決まってない。

事務のお局様とかも、ちゃんとモンスターっぽい能力だったしな。

「どういう能力なのかな」

「それはさすがにここじゃためせないな」

俺は苦笑いしつつ、ダンジョンマスター・エミリーを消した。

エミリーと能力が一緒にしろ違うにしろ、ダンジョンマスターだ。

こんな酒場の個室で暴れさせて良いはずがない。

俺は一人で、あの安アパートに戻ってきた。

アパートに入って、再びダンジョンへ――サトニウム(仮)に戻った。

ちなみに一人なのは、この段階でまだ他の誰もいれたくないからだ。

新しいダンジョンだから危険があるかも知れないし――場所が場所だし。

だから俺はネプチューン達に別れを告げて、一人でここに戻ってきた。

階段を降りて、エレベータホールの辺りで、再びダンジョンマスターを呼び出す。

ダンジョンの中にいると、より一層強く感じるダンジョンマスターが放つ威圧感とその空気。

天使の様な笑みをたたえたエミリーが、まるで魔王のごときオーラと威圧感を放っていた。

「Gがいるわけでもないのにな」

俺は思わず苦笑いした。

今のエミリーは、 ああいう(、、、、) 時のエミリーを彷彿とさせている。

「さて……やるか」

俺は距離を取ってから、ダンジョンマスターに「GO」サインをだした。

瞬間、ダンジョンマスター・エミリーが肉薄してくる。

ハンマーを軽々と持ち上げ、跳躍しつつハンマーを振りかぶってきた。

俺はさっと真横にとんだ。

勢いはすごいが、直線的なハンマーの振りおろしを楽にかわした。

――と、思ったのだが。

「うわっ!」

思わず声がでた。

エミリーのハンマーが地面を叩いた瞬間、妙な引力が俺の体を引っ張った。

まるで磁石に吸い寄せられるかのごとく、ハンマーに吸い寄せられていった。

身動きがままならない中――ガツン!

ダンジョンマスター・エミリーのハンマーが、横向きにフルスイングして俺を吹っ飛ばした。

「いてて……」

とっさに両腕をクロスさせてガードするも、ガードを貫通して骨の髄まで響く痛みだ。

そのまま空中でぐるっと半回転して、体勢を整えて着地――するとダンジョンマスター・エミリーはもう目の前に迫っていた。

「楽させてくれないのか!」

ほとんど気を抜いていないのに、ハンマーは容赦なく目の前に迫っていた。

今度は対処出来た。

ガードしつつ、その勢いを利用して、さっき以上の速度で飛んで距離を取る。

そして着地する前から二丁拳銃を抜いて、弾丸もこめる。

ダンジョンマスター・エミリーはもう突進を始めていた。

着地するとまた 狩られる(、、、、) から、空中で牽制用に通常弾をばらまくことにした。

「――っ!」

引き金を引けなかった。

とっさに目に入ったのが、いつものエミリーの美しい顔だった。

一番最初の仲間、ファミリーの大事な人。

そんなエミリーと本気で戦おうだなんて思った事は一度もない。

とうぜん、こんな風に銃口を向けたこともだ。

だから引き金を引こうとした瞬間、手が固まって止まってしまったのだ。

俺は引き金を引けなかったが、ダンジョンマスター・エミリーはそういう感情とは無縁の存在だった。

彼女はすぐに目の前に迫ってきて、ハンマーを振り下ろした。

まだ腕をクロスさせてガードするが、体勢が悪かった。

吹っ飛ばされるんじゃなく、地面に打ち付けられるようなハンマーの軌道。

それでガードはしたが動きが止められた。

それを逃さず、ぐるっと縦に一回転して、その勢いのままハンマーを更に振り下ろしてきた。

まずい! エミリーの得意技だ。

足が止まった状態でこれを受けるのは非常に危険だ。

俺はとっさに、加速弾を自分に撃った。

エミリーの見た目をしたダンジョンマスターには撃てなかったが、自分に注射の様に加速弾を撃ち込むのは訳もなかった。

加速した世界に入り、エミリーのハンマーを避けた。

さすがのダンジョンマスター・エミリーも、加速弾をうった俺の動きにはついて来れない。

俺は悠々とその死角に潜り込んで、銃口を突きつける――が。

「だめだ、やっぱり撃てない」

俺は苦笑いして、拳銃を下ろした。

そしてそのまま、ダンジョンマスター・エミリーを「消した」。

引き金は引けなかったが、消すことは出来た。

「しかし……うん、強かったなあ」

ダンジョンマスター・エミリーへの素直な感想、それはシンプルに「強かった」の一言だ。

本物のエミリーを彷彿とさせる強さだった。

動きもそっくりだし、攻撃力も――普段受けてないから想像だけど、ほとんどエミリーのままだ。

そして、エミリーにそっくりな見た目が、反撃できなくさせた。

「これって……普通の冒険者もそうなるんじゃないのか?」

俺は微苦笑しつつ、そう思った。

今や、エミリーも有名人だ。

エミリーモデルのハンマーが同じタイプのパワーファイターの間で愛用されてて、エミリーは教祖というか、アイドルというか、そういう感じのポジションに収まっている。

ファンがものすごく多いって事だ。

そのエミリーの見た目をした、ダンジョンマスター。

「……もしかして、ダンジョンマスターの中でも最強……なんじゃないのか?」

俺は冗談抜きでそう思った。