作品タイトル不明
593.ダンジョンマスター・エミリー
詳しく話が聞きたいということで、ネプチューン達と一緒に近くの酒場に入った。
まだ営業前の酒場だが、店主はネプチューンの顔を見ただけで快く迎え入れて、奥にある個室に通してくれた。
テーブルを挟んでネプチューンと向き合って座り、ランとリルの二人はいつも通りネプチューンを挟み込むように左右に座った。
思えばネプチューンとも結構付き合いが長くなった。
この三人が一緒にいるのをみると微笑ましくて、ちょっとした安心感を覚えるくらいには彼らに馴染んでいる。
……そこまでおもった所で、そういえば彼らのプライベートとかあまり知らないな、と思った。
興味の無い他人にはとことん興味が無い、例えネプチューンくらいの付き合いであっても。
それも精霊化(まだ決まってないけど)した原因の一つなのかな。
「ここの揚げ物は結構美味しいよ」
「なじみの店なのか?」
「まあね、うちのファミリーがよく使ってるところ。君もそういう店の一つや二つくらいあるでしょ?」
「まあ、ね」
うちのファミリーだと、ビラディエーチかな。
いろんな珍しいビールを出してくれる店で、ちょこちょこ仲間達と一緒に行ってたりする。
「今考えたら、一軒だけだった」
「そうなの?」
「ああ、エミリーの料理が美味いから、外食はほとんどしないんだよな」
「彼女の料理、そんなにすごいの?」
「ああ、世界一美味いぞ」
「ふん、そんなわけないじゃない」
反論したのは、ネプチューンではなく彼の横にいるリルだった。
彼女はいつものように強気な顔で、眉をつり上げながらいった。
「そうなのか?」
「そうよ。世界一料理が美味いのはねーくんよ」
「え? お前料理するのか?」
「あはは、うん、ちょっとね」
「ちょっと所じゃないもんね」
今度は反対側にいるランが参戦してきた。
「ねーくんの料理はもう料理じゃないよね。魔法だよ、魔法」
「そのエミリーって子がどれくらい出来るのか知らないけど、どーせねーくんにはかなわないわよ」
ランとリルは同時に、俺に挑戦的な表情を向けてきた。
この二人にとってネプチューンは絶対、それに付き合ってるとキリがないので、受け流すことにした。
「すごいな……なんだけど。お前が料理上手なのは……なんというか、意外なような、イメージ通りのような……」
「あはは、ほめられちゃったかな」
いつものように、穏やかな笑顔を浮かべるネプチューン。
その笑顔がつかみ所なくて、ミステリアス感がになっている。
「さて、それはいいとして、詳しい話を聞かせてもらえるかな」
「そうだな。えっと……詳しい話か、どこから話せば良いのか」
俺は腕組んで、首をひねりながら考えた。
根っこの原因を辿れば、俺が元の世界でブラックな会社にいて、その時のあれこれが影響しているんだと思う。
だがそれを話すわけには行かないし、そこまで話すとキリがない。
だから俺は、ネプチューンも知っている、ニホニウム攻略の所から説明した。
「実は今日、ニホニウムの攻略がほぼ完了したんだ」
「おっ、そうなのかい? さすがだね」
「で、ニホニウムともあった」
「さらっとそれを言う当たりがねえ。君はやっぱりすごいよ」
ネプチューンにそれを指摘されて、俺はちょっと苦笑いしてしまった。
それは……そうかもしれない。
最近感覚がマヒしつつあるけど、本来はダンジョンの精霊に会うのってすごい事のはずだ。
「それで、ニホニウムにあってどうなったんだい?」
「話し合って、円満に」
「願いを叶えたということ?」
「精霊だったらそういうことだろ?」
暗に「お前達ならわかるだろ?」って感じで聞き返す。
「あはは、そうだね。ランとリルはあの時頑張ったよね」
「大した事ない」
「うん! ねーくんのためだから、全然大した事なかった」
そう話す二人は、やはりネプチューンに心酔しきっている表情をしていた。
「それで? 円満に解決した後は?」
「ああ、じゃあ一緒に家に帰ろう――ってなったときに、俺だけ別の場所にいきなり飛ばされた」
「へえ……?」
「そこはなんというか、俺の思い出の場所とそっくりな場所だった。でも、ダンジョンだった」
「ダンジョン?」
「ああ。雰囲気で分かった、ああ、ここはダンジョンなんだって」
「なるほど。うん、それは何となく分かる」
ネプチューンはうんうんと、頷いた。
ネプチューンファミリーのボスで、本人もかなりのレベルの冒険者だ。
ダンジョン生まれではないにしろ、ダンジョンとそうじゃない場所の雰囲気の違いくらい分かっているはずだ。
「君のなじみの深い場所がダンジョンになったって事は、そこが君のダンジョンだったってことかな」
「そうかもしれない。俺のイメージ通りにモンスターを出せるから、多分そうだと思う」
「へえ、ちなみにどういうモンスター?」
「説明が難しいな……とりあえず全員人型だったよ」
そこはこの先変わらない点だと思う。
あのダンジョンがどうなったとしても、そこにいるモンスターは全員人間――会社員っぽい見た目なのは変わらないと思う。
俺が精霊で、俺のダンジョンである以上そこは絶対に変わらない。
「人型か、それはちょっと困るね」
「こまる?」
「どれくらいリアルなのかにもよるけど、やっぱり人型だと戦いにくいって人おおいから」
「ああ、なるほど」
そりゃそうだ。
相手の見た目がモンスターだからこそ、無心で狩り続けて生産に励めるわけで。
相手が同じ人間の見た目ならそりゃやりつらいだろうな。
「それはどうにもならないのかい?」
「多分どうにもならない」
俺は即答した。
そこはもう、本当にそうなんだと思う。
確信してるって言っていい。
「そっか……あっ」
「どうした」
「ダンジョンマスターは?」
「ダンジョンマスター?」
「そこのダンジョンマスターはどうなってる?」
「ああ……それはまだだ」
「それ出せる? 出してみてよ」
「ここで?」
「うん。精霊だったら別に構わないでしょ。ちゃんとコントロール出来る訳なんだから」
「あぁ……」
テネシンの時の事をいってるんだな。
あの時、ニホニウムがダンジョンマスターを出しっぱなしにして、動かないように制御してたのはわりと有名な話だ。
「やってみてよ。本当に精霊になったのか知りたいし」
「そうだな」
それは俺も知りたい事だ。
確認出来る方法を気づかされたんなら、やらない理由はない。
俺は何となく目をつむった。
その方が雰囲気でたりやりやすいかなって思ったからだ。
目を閉じて、ダンジョンマスターの召喚をイメージする。
すると、脳内のマップに、モンスターの出現を感じた。
モンスター――ダンジョンマスターは俺の横に立っている。
「これは勝てないね、二重の意味で。」
「ふん」
「嫌みかな」
ネプチューン達がそれぞれの反応を示した。
ネプチューンはともかく、ランとリルのその反応はなんだ……? って思って目を開けると。
「……エミリー?」
俺の横に立っていたのは、エミリーとまったく同じ見た目をした女の子だった。