作品タイトル不明
568.シェルター
「みんな帰ってるのか」
夕方、転送ゲートを使っての帰宅。
転送部屋にとんだ瞬間、脳内マップで仲間全員の存在を感じ取った。
エミリーはキッチン、セレストとイヴは自分の部屋。
他のみんなはもうサロンに集まっている。
一瞬でこれが把握できる能力、やっぱり便利だ……と思ったが、欠点にも気づいた。
「知らない人が来てる時とかはわからないか」
ここはバナジウムダンジョン、現在俺の仲間――リョータ・ファミリー以外は立ち入り禁止になっている。
だけど、俺が他のダンジョンを攻略したように、ダンジョンを閉じていても、無理矢理こじ開けて入る手段が存在する。
「うーむ」
「どしたの?」
「うわっ!」
いきなり声をかけられて、俺は飛び上がる位びっくりした。
さくらだった。
「い、いつのまに」
「いつの間にって、三回くらい声をかけたよ? おじさんこそ上の空でどうしたの?」
「え?」
驚き、脳内マップで確認。
確かにさっきまでサロンにいたはずのさくらが目の前に来てるのが分かる。
能力がバグってるわけじゃないみたいだ。
「俺、そんなに考え込んでた?」
「うん、眉間のしわで箸をつかめるくらい」
「そんなにか」
思わず苦笑いした。
「なに? またなんか面倒背負い込んだの?」
「俺そんなに色々背負い込むキャラにみえるのか?」
「色々はないけど、ここ一番ででっかい面倒を背負い込むよね、おじさんは」
「むむむ」
「なにがむむむだ以下略」
「いや略してない、そのネタはそこまでだ」
さくらのネタに突っ込みつつ、俺は今感じた事を話した。
「なるほど。でもそれ考えすぎなんじゃないの?」
「いや、万が一って時はそれだけ事態が切迫する時だ。そういう事態にまったく何も準備してないのはまずい」
「あー、そうかもね」
さくらは「ふむ」って感じで頷いた。
「あたし達以外のだれか、例えば侵入者がいたとき、どういう感じになると思う?」
「うーん」
俺はいくつか可能性を思い浮かべてみた。
「まず、みんな殺されてる場合?」
「いきなりヘビーだ」
「でもその場合、能力で分かるかどうか微妙だろ?」
「だね、死んだら分からない、ってのがこういう能力のよくあるパターンだからね」
「その次が、みんな一カ所に集められてたりとか?」
「銀行強盗みたいな?」
「そういう感じだ」
「でも、サロンにみんな集まってることもあるじゃん?」
「そうだよな。全員が自分の部屋にとりあえず監禁ってのもあるけど、それも一緒だ」
「うーん、ねえおじさん、その能力ってあたし達が何をしてるのか分かる? 色とか大きさとか、なんかの点滅で状態が変わってるのが分かるとか」
「いや、わからない」
「こっちからサインを出すのは無理って事かー」
さくらは首をひねった。
俺も色々考えてみた。
泥縄にならないように、今気づいたそれの対応策を考えた。
「なんかあるとき、地下室に逃げ込むとかは?」
「地下室?」
「おじさんの地下室、テスト部屋」
「ああ」
あの部屋の事か。
今まで行ってきたダンジョンの中でも、ちょっとだけ特殊な感じの作りの部屋。
俺達はこのバナジウムダンジョンを、バナジウム本人の協力で、屋敷みたいに改造した。
その屋敷は、ほとんど全部が地下一階部分に存在している。
屋敷の中の二階も、俺がテストのために使っているあの地下室の大部屋も。
そういう てい(、、) になっているだけで、区分上としてはバナジウム地下一階なのだ。
感覚的には、ロフトと床下収納って感じなのかな。
ロフトは二階って言わないし、床下収納も地下一階とは言わない。
あくまで、その階・そのフロアの中にあるちょっとした別スペースって扱いだ。
「なんかある時、そこに誰かが逃げ込めばいいじゃん? どうせあそこ、おじさん以外使わないし」
「いや、それもどうだろう。エミリーが掃除に入ってる事もあるんだ」
「そうなの!? 見た事ないけど」
「あるんだよ。俺も入ってるところみたことないけど、でも、わかるんだよ、エミリーが掃除した後だって」
「ああ……なるほど」
さくらもこっちの世界、この屋敷にきて大分経つ。
エミリーのすごさをよく知っている。
「エミリーさんのあれ、すごいよね」
「ああ、すごいよな」
空間の支配者、エミリーのすごさに頷く俺達。
「じゃあエミリーさん以外がって事で――だめだ、エミリーさんが唯一逃げられたってパターンもあるか」
「そういうことだ……ああ」
俺はポン、と手を叩いた。
「何か思いついた?」
「ああ、全部の部屋につければいいんだよ」
「全部の部屋?」
「そう、全部の部屋の中に使わない部屋、逃げ込むための部屋をつければいいんだ」
「……おお」
さくらも手を叩いた。
「いいねそれ、しかも簡単そうだ」
俺達は頷き合って、バナジウムにお願いしようと彼女の所に向かった。