作品タイトル不明
562.コンプリート
「これでいい?」
キスした直後だというのに、イヴはさしたる感動もなく、振り向いてさくらに聞いた。
「うん、ありがとうね。約束のニンジンはちゃんと届けるから」
「遅れたら、十日で一割……今葬れば無限にふえる」
「ストップストップ、あたしを や(、) ったら一本ももらえなくなるよ」
「……それもそうだ」
イヴは一瞬だけ漏れた殺気を引っ込めて、そのままサロンから出て行った。
それを見送ってから、さくらがこっちに近づいてくる。
「どう? おじさん」
「どうって」
「いやだなあ、ここからでてっても居場所わかる? って意味だよ」
さくらはニヤニヤして、俺はうぐぐ……ってなった。
ため息ついて、あきらめて答える。
「ああ、分かる。イヴは部屋に戻ったみたいだ」
「すごいね、あたしのじゃ仲間の事はわからないから。リョータ、あたしよりすごくなっちゃったね」
アリスは興奮気味にそういった。
俺とアリスの能力はほぼ同じものだ。
ダンジョンの構造がわかり、モンスターの居場所が分かる。
そこまでは一緒だが、ダンジョン産まれ故にダンジョンとモンスターしか分からないアリスと違って、俺はキスをした相手の居場所まで分かる様になった。
「すごくなったって言っても――」
急に目の前が暗くなって、ちゅっ、って音がした。
「あ、アリス!?」
アリスがいきなり近づいてきて、つま先立ちでキスしてきた。
その事に俺は慌てたが。
「うーん、ダメみたい。リョータの事わかんない。リョータは?」
アリスはまったく屈託のない感じで、俺に聞いてきた。
「あ、ああ。分かるようになった……けど」
「じゃあやっぱりそれ、リョータだけの能力だね」
「そかそか。そうなるとおじさん、みんなとちゃんとキスしないとね」
アリスとのやりとりを聞いていたさくらが会話にはいってきた。
「いやそれは……」
「何を騒いでいるの?」
サロンの入り口にセレストが現われた。
「あっ、丁度いいところに来た」
「お邪魔します。あら、皆様おそろいでしたか」
更にマーガレットまでもが、ひょっこりと現われた。
「みなさんどうしたです? まだ寝ないのですか?」
更に更に、片付けを終えたばかりの、腕まくりをしている家事モードのエミリーまでもがやってきた。
一気に現われた仲間達。
場は一瞬にして混沌を極めた。
「あのね――」
さくらが新しくやってきた三人に事情を説明した。
俺が新しい能力を身につけて、ダンジョンの中で仲間の居場所が分かるようになったことを説明した。
あくまで事実の説明だから、止めるのも違うってなってしまって、結局さくらに全部説明させられた。
「キスを……」
「ヨーダさんと?」
「そうでしたの……」
「そゆこと。って、姫ちゃんはどうしてこんなタイミングに?」
さくらがマーガレットの来訪に疑問を持ち、聞いてくれた。
「実は、ラト達の進言で、今すぐここを尋ねた方がよいと、それでお邪魔させていただいたのですわ」
「うーん、さすがニンジャ騎士、主のためならなんでも有能すぎる」
ひとしきり感心してから、さくらはこっちを向いて。
「さあおじさん、みんなとキスを」
「え?」
「した方がいいじゃん? ダンジョンの中でみんなの居場所がわかったほうがいいじゃん?」
「それはそうだけど……でも」
「もう、男らしくないなあおじさん」
「そんな事言われても」
むしろこんな事でキスするのはどうなんだって思うんだけど、俺が間違ってるのか?
「しょうがないな……エミリーさん、ちょっとちょっと」
さくらはエミリーに手招きをして、耳打ちした。
エミリーはそれにうんうん、と頷いて。
「分かったのです」
「じゃあお願い――って、ニホニウム!?」
さくらはいきなりびっくりして、俺の背後を見て目を剥いた。
「え?」
俺もびっくりして、振り向く。
そこにはサロンの、大きな外に繋がっている 風(、) の窓があるだけで、ニホニウムの姿なんて――。
グシャッ!
妙な音が体の中から響いて、俺の意識は闇に落ちていった。
☆
「う、……ん」
頭がズキズキする、戻った意識で状況を把握する。
手で後頭部にふれる、ちょっとしたたんこぶが出来ている。
「一体何が……はっ」
ぱっと起き上がって、まわりを見る。
気絶する前と同じ、サロンの中にいた。
同じサロンにいる顔ぶれにも変わりは無い。
しかし――
「……ふぅ」
「……」
「だ、大丈夫なのです?」
セレスト、マーガレット、エミリーの三人が、頬を赤らめていた。
「こ、これって」
聞くまでもなかった。
脳内のレーダーで、セレスト、マーガレット、エミリーの三人の存在をはっきりと分かるようになったからだ。
「ごめんなさいなのです。ヨーダさんを殴って気絶させた方が、ってさくらちゃんが」
申し訳なさそうなエミリー。
よく見ると、彼女はハンマーを後ろに隠す様に持っている……もちろん何一つ隠せてないが。
「ちょっとさくら――!」
パッと振り向き、さくらに苦情を言おうとした――が。
「おじさん……」
さくらも、顔を赤らめていた!
「え? ちょ、まって――って、してないじゃん!」
一瞬慌てたが、すぐにさくらのが フリ(、、) だって分かった。
脳内レーダーには、彼女のことは分かるようになってない。
「あはは、やっぱりバレる?」
「バレるよ! そりゃ」
ツッコミつつも、俺はほっとした。
仲間達もあまりよくないが、同じ転移者であるため、サラリーマンと女子校生、というそれぞれの元の身分がよくなかった。
淫行という文字も脳内にちらついたが、ほっとした――
ちゅっ!
「ふえええええ!?」
一瞬の隙をついて、さくらがよってきて、一瞬の触れるだけのキスをしていった。
「な、なななななななな」
ほっとした直後の、不意打ち。
俺は、今日一番パニックになってしまったのだった。