作品タイトル不明
561.ニンジン100本
「エルザを感じるって?」
「アリスと同じあの能力、あれがモンスターしか分からなかったのに、今はエルザの事もわかるようになった――はっ」
イーナの疑問に答えて、状況を言葉にした瞬間――全てを察した。
おそらくは今のキス、多分間違いない。
それで目の前のイーナはダメで、エルザが分かるようになった。
条件としては緩くもなくキツくもなく、ありふれたものですぐに理解できたのだが。
「これはまずい、さくらには知られないようにしないと」
「あたしがどうしたの?」
「うわっ!」
横から話しかけられて、俺は飛び上がる位びっくりした。
「さ、さくら。いつからそこに?」
「ついさっき……おー」
さくらは俺をみた。
より正しく言えば、俺と、あの後俺にしがみついているエルザを交互に見比べた。
「よーらさん……んちゅ!」
俺にしがみついたまま、またキスをしてくるエルザ。
それをみたさくらがニヤニヤしだした。
「まて、違うんだこれは」
「大丈夫大丈夫、分かってるから。酔ってるんでしょ」
「ああそうだ、だから――」
「おじさんは大人で社会人だから、お酒の後の一夜のロマンスは当たり前だよね」
「何も分かってなーい!」
「エミリーさん、ふとんしいてふとん。枕は二つ並べて、あとティッシュ」
「やめてえええ!?」
ノリノリで、本当に布団を敷きかねないさくらを止める。
エルザをひっつかせたまま超高速で移動して、さくらの手首をつかんで引き留める。
「おじさん……」
「話を聞いてくれ、そういうことじゃ――」
「おじさんのチーレムは素敵だけど、あたしまだ心の準備が」
「うがーー!」
もじもじしながら頬を染めるさくら。
その仕草が妙に様になってて、かわいく見えてしまうのがたちが悪い。
「だから違うって」
「そうなのイーナ? どういう話なのこれ」
さくらは俺越しにイーナに聞いた。
イーナは「うーん」と少しの間思案顔をしてから。
「リョータさんがエルザとキスをして、それで何かが出来たって話?」
「ちょっとぉ!?」
「間違ってた?」
「いや間違って……ない、け、ど……」
うぐっ、って感じで言いたい事をまとめて飲み込まざるをえなかった。
それは間違ってない、事実だ。
事実で、こうなるのが簡単に予想できたからこそ、このタイミングにさくらとあうのはまずいと思ったのだ。
「ほらやっぱりチーレムじゃん」
「頼むから話を聞いてくれ……」
☆
エルザは自分の部屋に寝かせてきた。
酔い潰れたって事で、イーナが介抱のために部屋に残った。
俺とさくらはサロンにやってきて、アリスも同時に呼び出した。
俺とさくら、そしてアリスとその仲間モンスターたちが夜のサロンにいた。
「なるほど、つまりキスしたら 見える(、、、) ようになったんだ。おじさんらしい能力じゃん」
「今でも見えるのリョータ」
「ああ、感じる。バナジウムのこの一階の間取りと、部屋にいるエルザがはっきりと感じ取れる」
「あたし達は」
「それはダメだ。全く感じない」
「ふむふむ。さっきおじさん、あたしの手をつかんだよね」
「ああ」
「アリスちゃん、はぐしちゃって」
「わかった! ……どう?」
「いや、だめだ」
抱きついてきたアリス、スキンシップはどうか、という話の流れだったが、やっぱり感じない。
「じゃあキスしないとね」
「うっ。で、でも」
「能力の詳細はちゃんと把握しなきゃさ」
「いやでも……」
さすがにキスは……キスは……。
「恥ずかしい?」
「そりゃそうだ。それに、こんな軽々しくキスしちゃダメだろ。ここにいるのはみんな年頃の女の子なんだから。キスをこんなテストみたいな事でやっちゃうのはダメだろ」
「まあ、それがおじさんの良いところなんだけど。わかった、じゃあ年頃の女の子なキスじゃなきゃいいんだよね」
「どういうことさくら?」
アリスがちょこんと小首を傾げる。
「まったくエロい感じにならないキスの相手がいるって事」
さくらは得意げな顔でにやっとして、サロンから飛び出していった。
「エロい感じにならないキスの相手って……だれだ?」
「さあ……」
残った俺とアリスが首をかしげ合っていると、さくらは誰かをつれて戻ってきた。
バニースーツの格好をした、ウサミミの少女。
「じゃあお願い」
「任せる」
「え? ちょっとさくら? イヴ?」
「観念する低レベル……いや」
イヴはじわりじわりと近づいてきて、
「ニンジン100本」
と、俺に飛びかかってきた。
とっさの事でよけきれなくて、イヴに押し倒される。
そして――キス。
唇に柔らかい感触が当った――その直後。
「あ……」
「どう?」
「うん、感じる……」
「濡れたんだ!」
「その感じるじゃない!?」
さくらに盛大に突っ込んだ後、改めて感じる。
エルザの時と同じ。
脳内レーダーで、イヴが俺と重なっていた。