作品タイトル不明
556.脱出
前進してみた。
脳内レーダーで俺はまったく移動出来てなくて、敵の光点と重なったままだ。
ためしに、追尾弾を込めて撃ってみた。
「うおっ!」
追尾弾が少し直進した後、綺麗にUターンしてきた。
とっさによけた――と思ったら更に追尾してきた。
追尾性能の高さに感心しつつ、通常弾で迫ってくる追尾弾を打ち落とした。
今でも断続的に来るダメージをこらえながら、考える。
追尾弾が俺の事を狙ってくるって事は、少なくとも脳内ミニレーダーが見えている状況、俺と敵が重なっているというのは間違いなさそうだ。
そうなると、まともに攻撃は出来ない。
移動するにしても、階段に向かって歩いてみるも、感知している現在位置からちっとも進まない。
「さて、どうしたもんかな」
何か突破口はないか、とあれこれ考えながらぶらぶらする感じで適当に歩いていると――動いた!
振り向き、階段に向かって遠のく形で歩いたら移動が出来た。
「下がれば良いのか?」
そう思ってまた遠のくように歩くが、今度は動かなかった。
さっきのは何だったんだろうと思っていると、今度は左に一歩移動出来た。
「……」
完全に立ち止まって、可能性を考える。
ある可能性に思い至って、前後左右と、一歩ずつ歩いてみる。
すると、今度は右に移動出来た。
その次は左だ。
後ろに二回移動出来て、前に一回動けた。
「なるほど」
なんとなく分かってきた。
俺の頭の中に方眼紙みたいなのがでてきた。
前後左右の四方向の内、常に一方向だけに移動出来る。
試しに斜めを入れた、ざっくりな八方向をやってみたが、斜めのはいった四方向は全てだめだった。
繰り返し試していくと、やはり前後左右のみだっていうことが分かった。
その前後左右で、動ける方向だけに動いてみる。
脳内にあるミニレーダーでは、俺が完全に無規則な感じで動いている。
移動出来るようになった……のはいいけど。
「このままじゃいつになったら帰れるんだ?」
俺は微苦笑混じりにつぶやく。
今この瞬間でも攻撃は続いている……のはまだいい。
アブソリュートロックの石と、少なくなったがまだ少しは残っている回復弾で凌げる。
問題はいつまで経ってもすすめないことだ。
三歩進んで二歩下がる――なんて生やさしい物じゃない。
三歩進んで三歩下がるようなものだ。
前後左右の進める方向が、もしも完全にランダムだったら。
延々とやっても、結果的には同じところで足踏みをするだけになってしまう。
残り十数歩程度なら 偏り(運) 次第でどうにかなるけど、現在地から階段まで、ざっと数百歩はある。
このままではまず無理だ。
なにか、無理矢理にでも前に進める方法が――
「あっ」
ハッとして、思い出す。
無理矢理に前に進む方法、あるじゃん。
グランドイーターのポケットから鉄壁弾を取り出して、撃つ。
それをグッとつかむ。
しばらく待つと――進んだ。
鉄壁弾をつかんだ状態で、わずかながら前に進んだ。
鉄壁弾を撃ち続けた。
それをつかんで、少しずつ、少しずつ前に進んだ。
「……」
途中でやめて、一歩前に進んでみた。
すすめなかったから、鉄壁弾を使って一歩分進んでみた。
そしてまたやめて、進む――今度は普通に進めた。
またしても、脳内レーダーが方眼紙のような感じになった。
たっているマスごとに、前後左右に一方向だけすすめると決まってる。
移動の手段を問わず、違うマスに移動したらすすめる方向がリセットされる。
前に進める時は普通に進む、ダメな時は鉄壁弾につかまって運んでもらう。
それを繰り返して、数時間。
ようやく階段にたどりついた。
そのまま階段を上がって、上の階に進むと、階層をまだいた瞬間、視界が戻って、モンスターが倒れる感触がした。
最初のころ、スケルトンをダンジョンの外に押し出した時に覚えたものと、まったく同じ感触。
俺に取り憑いたモンスターが、階層を上がったのと同時に消滅したのだ。
そして――。
「あっ、鏡だ」
おれの前に、そのモンスターがドロップしたとされる鏡が落ちていた。