作品タイトル不明
541.地下五階
「うーん」
屋敷の食堂の中。
俺は食卓の上に並べた、食べ比べをした果物たちをながめながら、腕組みして頭をひねっていた。
果物は、柑橘類を中心にした、酸っぱいものばかりだ。
新・ニホニウムでドロップしたものに加えて、街にでて調達してきたものも入っている。
「すごいなあ……これ」
つぶやきながら、ニホニウム四階でドロップした、豆粒大の果実をじっと見つめる。
さっきからずっとテストしているが、例外はなかった。
この果実をかじった後、どんな酸っぱいものでも甘く感じてしまう。
みかんやブドウなどはもちろんのこと、どうやっても酸っぱさしかないレモンまで、この果実の後では甘さしか感じない。
正直、魔法の様な果実だ、と感じている。
「ただいまーって、うわっ、何やってんのおじさん」
「さくらか。お帰り」
外から帰ってきたさくらが、食卓の上に散らばっている果物を見て驚いた。
新しく手に入れた魔法の様な果実、それをさくらに自慢したかった。
「これ、たべてみて」
「え? って、ミラクルフルーツじゃん」
「ミラクルフルーツ? 知ってるのかさくら」
「うん」
「どっかに売ってたのか?」
「前にダイエットしてた友達がこれたべてたんだよね」
「え? 元の世界でのこと?」
「そうだよ?」
何をいってんだ、って顔をするさくら。
「元の世界なのに? ミラクルフルーツ?」
「なかなかない名前だよねー」
さくらはケラケラとわらった。
「これを食べると、その後三十分間くらい、酸っぱいものが甘く感じるんだ」
「そうだな」
「で、それなら酸っぱいものをあまいものの代わりにできるから、砂糖抜きで実質ゼロカロリー! って感じでダイエットに使ってたんだ」
「それは……どうなんだろうか」
俺は首をひねった。
ものすごく何かが間違っているような気がする。
「でも、これどうしたの?」
「実は……ニホニウムの四階からこれがドロップしてきたんだ」
「これが?」
「うん」
「……ここまでドロップしたものは?」
「えっと……」
俺は食卓の上から、一階から三階までドロップしたものを集めた。
「一階はこれ、青リンゴ、二階はパッションフルーツ、三階は……」
「スターフルーツじゃん」
名前をしらないからためらってたら、さくらがあっさりと教えてくれた。
「スターフルーツ? それも元の世界でもそうだったの?」
「そっ、なんかファンタジーっぽい名前だよね、今にして思うとさ」
確かに、と俺は頷いた。
スターフルーツ、そしてミラクルフルーツ。
どっちも、RPGのアイテムだって言われてもまったく違和感のない名前だ。
「で、全部酸っぱいものだよね」
「だな」
「四階のミラクルフルーツは酸っぱいのを甘くする」
「うん」
「五階から下は?」
「五階から下?」
「五階から下も酸っぱいものばっかりなのかな。だったら四階、なんかありそうなきがする」
「――っ!」
俺はガタン! と椅子を倒すほどの勢いで立ち上がった。
そのまま食堂から飛び出して、転送部屋でニホニウム四階に飛んだ。
「待ってよおじさん」
転送に、さくらが一緒についてきた。
「あたしもいく。なんか気になる」
「ああ」
一旦四階に飛んだ俺達はそのままダンジョンを進んで、階段を降りて地下五階に足を踏み入れる。
「うっ……」
「うげえ……」
脈動するダンジョンに、赤い雪がふっていた。
ダンジョンスノーだ。
新しい現象じゃないけど、今のニホニウムでそれが降ってると怖さが倍増する。
俺は気を取り直して、ダンジョンをすすむ。
モンスター……妖怪はどこだ、って探していると。
「ひゃ!」
さくらが急に悲鳴を上げた。
ふりむくと、彼女はすっころんでいた。
足を滑らせたのか? ――っておもっていたら、さらに驚く現象が。
なんとすっころんで尻餅をついていた彼女の足が急に何かによって切り裂かれて血が噴き出した。
かと、思えば。次の瞬間傷が治っていた。
「な、なにこれ」
「……かまいたち」
その現象を、俺は知識として知っていた。