作品タイトル不明
534.引き留め
「それはおかしいですわ。わたくしがドロップして、リョータ様がしないなんて。何かの間違いですわ」
「……もうちょっと試してみよう」
「はい!」
何故か俺以上にやる気になっているマーガレットを連れて、新しいニホニウムの中を歩き出す。
前は前でホラー感のあるダンジョンだったけど、今のは気持ち悪さが全開だ。
内臓のような見た目のダンジョン、天井、壁、果ては地面に至るまで規則的に脈動を続けている。
天井や壁はまだいい、地面が脈動すると、たまにそれが足元に来て。
「うげ……」
となるくらい気持ち悪かった。
「どうかなさいましたか?」
「マーガレットは平気なのか? これ」
「これ、とは?」
「グロいとかは感じない?」
「ええ、平気ですわ」
「そうなのか……」
それはちょっと意外だった。
いつもおっとり感でお姫様的な彼女は、こういうのをみて、きゃーきゃー悲鳴をあげるものだと思っていた。
いや、女性の方がグロに耐性があると聞くし、そのせいなのかもしれないな。
「リョータ様!」
「うん? ああ!」
少し離れた先にお化け傘が現われた。
地面の肉壁から生まれるような感じで現われる。
そっちはそっちで気持ち悪かったが、モンスターを前にまずは「倒す」っていう気分が先に来るから、精神的なダメージはほとんど感じなかった。
さっきは銃で倒したから、今度は地を蹴って肉薄し、拳で殴り倒す。
武器じゃドロップしない、遠距離だとドロップしない。
色々考えられる可能性を一気につぶすべくの、近接戦闘。
ニホニウムから返してもらった能力が力を発揮した。
一瞬でゼロ距離まで詰めて、えぐりあげるような右フックがお化け傘を真っ二つにした。
上下二つにちぎれて吹っ飛びながら、すぅと消えていくお化け傘。
そして――
「うーん、やっぱりドロップはしないか」
「おかしいですわ」
「次はマーガレットが」
「はいですわ」
更に歩いて、モンスターを探す。
ほどなく出会ったお化け傘を、どこからともなく現われたニンジャ騎士の四人が一瞬で弱らせて、マーガレットが大剣を担いでむかっていき、トドメを刺す。
ポン、と青リンゴがドロップされた。
「……おかしいですわ」
マーガレットは青リンゴを拾い上げて、ぷぅ、と膨れてしまう。
そのふくれっ面も可愛らしく思ったのだが、一方で状況はますますよくなかった。
マーガレットのドロップは今のところ2の2。ドロップAなら当たり前だ。
一方の俺はここまで2の0。ドロップSの威力をここまで体感し続けてきた俺にとって、結構ショッキングな出来事だ。
「やっぱり、俺だけドロップできないみたいだな」
「それはおかしいですわ」
「マーガレット」
俺は彼女の名前を呼び、まっすぐ見つめながら――微笑みながら話す。
「おかしくても何でも、実際ドロップはしていないんだ。だったらそれをまず事実として受け入れてから、対策を考えるべきだ」
「ですが……」
マーガレットはそれでも不満げだった。
俺がドロップ出来ないことをよほどいやだと思っているようだ。
彼女はまたちょっと頬を膨らませて、可愛く唇を尖らせて。
そして、それらをすべて飲み込んで。
「そうですわね。わかりました」
と、ひとまずは納得した、って顔をした。
「なにはともあれ、ニホニウムが変わった以上、ここも調査をしなきゃならないな」
「それならわたくしにおまかせください」
「マーガレットが?」
「リョータ様のお仲間達でもよいですよ?」
「……?」
「だって、ドロップしないのでは、リョータ様が今後、ここにくる必要性がありませんわ」
「ああ、まあ、そうだな」
それはマーガレットの言うとおりだった。
後でみんなに話して調査をお願いしよう。
セルにも、現状を話して分かってもらわないとな。
まあそれはそうと、ここで一つだけはっきりしているのは。
「わかった、俺はもう来ない」
その方がいいってことだ。
しかし、それを宣言した瞬間。
ドックン!
ダンジョンが、今までで一番大きく脈動した。
足元にきたそれは、予想外の大きさにたってられないほどだ。
それだけではなかった。
まるでたたみかけてくるかのように、お化け傘がたくさん現われた。
俺達を取り囲むようにして。
「あぶない!」
いきなり至近距離に、取り囲むように沸いたモンスター。
俺はマーガレットを守るべく、二丁拳銃をぬいて乱射した。
銃弾が次々と、正確にお化け傘を打ち抜き――ポポポポポポーン。
なんと、それまでドロップしなかったのが。
青リンゴが大量にドロップされるようになった。