作品タイトル不明
510.パンデミック
「大変な事になっちゃったね」
テルル一階。
俺がせっせとスライムからもやしを生産しているところに、「遊びに来た」と宣言したネプチューンがそう言った。
いつものように、何を考えてるのかいまいちよく分からないニコニコ顔で言い放った。
その背後にはいつものように、ランとリルもついている。
「フェッルムのことか」
銃口をスライムに向け、それが魔法カートの上に来たところで、正確に打ち抜く。
もやしは一本残らず、ドロップ直後に魔法カートの中におちていく。
「うん、なんか話聞くと本当大変そう。あそこまでこじれちゃうと修復も無理だね」
「そういえば、それが不思議だったんだけど、何を根拠に精霊付きの解消って分かったんだ? そんなにパンパン精霊のところに行けたのか?」
「フェッルムはね、精霊付きの子が精霊と会ったときに約束を交わしたんだよね。その約束の見返りとして、あそこではレアモンスターは出さないって事になったんだ」
「ってことは……」
「そう、逆に今はレアモンスターだらけ」
「……で、レアモンスターは紙製品ドロップしない、と」
「そういうこと。階層によって違うけど、様々な布がドロップされるよ。フェッルム7階のシルクは品質がよくて、たまに副収入として重宝されてたみたい」
「それが今、全部そうなってる、と」
「そういうこと」
なるほどな、と頷いた。
スライムが飛びかかってきたので、落ち着いて撃ち抜く。
その状況を想像して、生じる影響も考えてみる。
「それ……長引けば今度は布の方の値段にも悪影響が出そうだな」
「でるね、間違いなく」
「そっちは大丈夫なのか?」
見えている分のスライムを一掃したから、手を止めてネプチューン達に振り向いて、聞いた。
「大丈夫って、なにが?」
「ハイドロジェンと、オキシジンだろ」
そうなのだ。
目の前のこの三人も精霊付きなのだ。
ネプチューン・オキシジン。
リル・ハイドロジェン。
ラン・ハイドロジェン。
それぞれオキシジンと、ハイドロジェンの精霊と会ったことのある「H2O」トリオだ。
フェッルムの精霊付きが解消となって被害を出している以上、彼らも全くの無関係じゃない。
「それなら大丈夫」
「えらくあっさり言い切るな」
「ぼくたちはね」
ネプチューンはそう言って、肩越しにランとリルを見て、同意を求めた。
「うん!」
「人の心配するよりそっちのが危ないんじゃないの?」
ランは無邪気にネプチューンの言葉にだけ反応して、リルはジト目で俺を睨んで反撃してきた。
「ごもっとも」
俺は苦笑いした。
スライムが現われて、苦笑いしつつも通常弾で撃ち抜いてもやしをドロップさせた。
リルの指摘通りだ。
こっちの方が精霊と多く、そして深く接している。
万が一怒らせてしまった場合、フェッルムの比ではない何かがおきる可能性が非常に大きい。
「注意するよ」
「……ふん」
「にしても、さっきから見てるけど」
「ん?」
ネプチューンは俺と、俺が使ってる拳銃をじろじろと交互に見比べた。
「しばらく見ないうちに、キミ、また強くなってない?」
「そうか?」
「そうだよ――あっスライム」
ネプチューンが横を向いた。
そっちからスライムがとんできた。
銃口を向けて、スライムが魔法カートの上に来たところできっちり撃ち抜く。
もやしが、ちゃんと魔法カートの中に入った。
「ほらやっぱり」
「どういう事?」
「銃口でスライムの動きを誘導してるよね」
「……そうかな」
銃を見つめる。
スライムを倒した時の動きを思い出す。
「そうだよ。銃口を向けて、最初はあえて撃たないでスライムの動きを誘導してた。その誘導の動き、前はもっと大きかったよね」
「あー……そうかも?」
ネプチューンに言われると、確かにそうかもしれないと思った。
かもしれない、というのは自然にやっているから、自分でもよく分からない。
自転車に乗ってるとき、膝をこうして使ってるからバランス取ってるよね、っていわれてるのと同じで。
無意識のことでそうかもしれないけどいまいちピンと来ない。
「どんどん先に進むね、キミは、こういう細かいところも」
ネプチューンは、いつものニコニコ顔で感心していた。
そのネプチューンの背後に、見知らぬ男が現われ、近づいた。
リルがそれに気づき、男に向かって行く。
男はリルに何か耳打ちする。
知りあいなのかな。
「うちのファミリーの子だよ」
振り向いていないのに、ネプチューンはその事を把握していた。
「分かるのか?」
「空気でね」
お前の方がすごいぞ、という言葉が喉まで出かかったが。
「なんですって!?」
リルの切羽詰まった声が先に出て、それ所じゃなくなった。
男をまたせて、リルがネプチューンのところにやってくる。
そして俺をちらっと見てから――。
「大変な事になったわよ」
「どうしたの?」
「ネオンの全ての産出がとまったそうよ。理由は多分精霊」
「ありゃ……」
気の抜けたへんじだが、ネプチューンの目は真剣だった。
レベッカ・ネオン、別名ザ・パーフェクトのステータスオールAの女。
そのレベッカ、精霊付きの、精霊、ダンジョン。
ネプチューンは俺を見て、やや苦笑いしながら。
「 どっち(君も僕) も、大丈夫だったみたいだね」
「わらえないけどな」
俺も、苦笑いしてしまった。