軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

505.バナジウムの縁側

「じゃあおじさん、あたしもテルル行ってくんね」

朝ご飯のあと、仲間達のほとんどがダンジョンに出かけていったあと、残ったさくらが言ってきた。

俺は食後にすすっていたお茶の湯飲みを置いて、さくらを見あげた。

「テルルに行くのか」

「うん。お金を稼ぐのもいいけど、あたし、レベルもあげたいからね」

「レベルを上げるならもっといいところがあるんじゃないのか?」

「ちっちっち、わかってないなあおじさん」

さくらは立てた人差し指を揺らして、得意げな笑みを浮かべた。

「テルルはスライムばっかでしょ?」

「ああ」

いろんなスライム、スライムしかでないダンジョンだな。

「そしてレベル上げと言えばスライム、風鈴と言えば縁側なのといっしょ」

「そうだっけ?」

「そうだよ。スライムを倒して3○0年とか、アリ○ハンのみでレベル99とか名作もそう言ってるじゃん」

「……ノーコメンツ」

さくらは相変わらず、返答しにくい事ばかりをいう。

彼女の場合リスペクトがあるからますます反応しにくい。

魔法「ジェネシス」で実際にネタに沿った特効が出ているのを見てると、「本気でそう思っている」のが分かる。

だからツッコミにくい。

「って事で行ってくるねー」

俺が突っ込まず話が広がらないから、彼女はノリノリで出かけていった。

食堂に残った俺、お茶をすすり続ける。

そこへ、後片付けしていたエミリーが話しかけてきた。

「ヨーダさんはお仕事にいかないです?」

「うーん」

俺は少し考えた。

カリホルニウムの件は一段落した。

完全にどうこうというわけじゃないけど、イヴとカリホルニウムが意気投合しているから、そこは完全に任せてしまった方がいいと思う。

イヴとカリホルニウムが間違った方向――冒険者に必要以上に厳しくしてしまう可能性もなくはないけど、今のところは大丈夫だと思う。

間違った方向に行くかどうかは俺のニンジンにかかってるけど、まあ、大丈夫な気がする。

……俺のニンジンってのはいやらしい意味じゃないからな? 念のため。

ともかくそっちは一段落したし、プルンブムは朝起きた直後にいってきた。

つまり今日は、急ぎで何かをする必要はないって訳だ。

「……うん、今日は休むよ」

「休むのです?」

「ああ、たまにはいいだろ。そういうわけだから、悪いけど、エミリーが出かける前にもう一杯お茶をもらえるかな」

「分かったです。私もお休みするです」

「エミリーも?」

「はいです。お茶を淹れてくるです」

エミリーは嬉しそうに、スリッパをパタパタとならして、小走りで食堂からキッチンにいった。

嬉しいのか……なんでだろう。

なんでか分からないけど、嬉しそうなのはいいこと。

エミリーも 仕事(ダンジョン) に行かないと言ってるし今日は一緒にまったりしよう。

「……(ぐいぐい)」

「ん?」

バナジウムがいつの間にか隣に来て、俺の服をぐいぐい引っ張りながら、じっと見つめてきていた。

相変わらず何も言わない、でも何か言いたげな表情。

「一緒にまったりする?」

「……!」

バナジウムは大喜びで俺に飛びつき、ぎゅっと抱きしめてきた。

それだけじゃない、俺の胸板に顔をスリスリしている。

幼い見た目通りの、ストレートな感情表現。

「それじゃまったりするためにサロンに移動しよう……いや待てよ?」

ふと、さっきのさくらの言葉を思い出した。

異世界に転移してきてから、考える事が少なかった元の世界、日本の事。

それがさくらの言葉でよみがえった。

俺はしがみついてきている、バナジウムを見つめて。

「……なあ、バナジウムはダンジョンの部屋を好きなように改造出来るんだよな」

「……(こくこく)」

バナジウムは俺を見あげながら、即答でこくこく頷いた。

「それなら……」

俺は屈んで、今思っていることをバナジウムに説明した。

「ヨーダさんどこですかー。あっ、ここにいたです……あれ?」

部屋に入ってきたエミリー。

お盆に載せた湯飲みを持ったまま、きょとんとなってしまった。

「ここは……」

エミリーは、初めて見る部屋の中をきょろきょろした。

「ああエミリー、ごめん、こっちに来ることを伝え忘れてた」

「それはいいです……ここはどこなのです?」

字面を見れば、何を言ってるんだって思うだろう。

部屋に入ってきて、「ここはどこ?」っていう質問は普通出てこない。

それでも、エミリーはそう聞いてきた。

そう聞くような、部屋の中だった。

部屋の中は和室になっていた。

い草の香りがする畳が敷かれている和室で、入り口の向かいは広々とあいていて、「外」が見えている。

もちろんサロンの窓と同じで、バナジウムが作った「外に見える壁」だ。

そして、その「外」の一歩手前に、縁の部分は畳ではなく板の通路になっている。

つまり――縁側。

この部屋の一番のポイント。

縁側。

なのだ。

「縁側だよ」

「えん、がわ?」

「ほら、こっち来てみて。ここに座って」

「はいです……」

狐につままれたような顔をするエミリーを呼んで、俺の側に座らせた。

そして湯飲みを受け取って、すする。

チリーン。

風鈴が鳴った。

俺は何も言わず、茶をすすった。

隣に座ったエミリーをちらっと見た。

部屋の中に入ってきた時の不思議そうな表情がもうどこにもなくて、穏やかな表情で景色を眺めていた。

「いいだろ? ここ」

「はいです。すごく落ち着くなのです」

「さっきこれを思い出したんだ……今日はここでまったりしよう」

「はいです!」

嬉しそうに頷くエミリー。

そんなエミリーとバナジウムと、仲間達が帰ってくるまで、ダンジョン内に作った縁側でまったりし続けた。

明日から、またがんばろう。