作品タイトル不明
504.ウサギ操縦
朝ご飯の後、リョータファミリーは次々と仕事に出かけていった。
エミリーやセレストなどはダンジョンに出かけて、エルザとイーナはダンジョン経由で独立した買い取り屋に向かった。
本来は出会うことのないアウルムやカーボンら精霊も、屋敷から通勤していった。
この世界でも異色ずくめの一家の中で、とりわけ上位に数えられる異質な二人が残った。
星野さくらと、イヴ・カルスリーダーである。
さくらは亮太同様、この世界に ドロップ(転移) してきた日本人。
イヴはなぜこの一家にいるのか分からないとよく言われるように、普段の振る舞いを見るにつかず離れずのポジションにいる、ゲスト的な空気がある少女だ。
その二人は、仲間達がいなくなった食堂でいちゃついていた。
イヴが他の誰にもほとんど見せない、デレデレな顔でさくらになつき、さくらも可愛いペットにするかのようにイヴを可愛がっている。
「イヴはダンジョンに行かなくていいの?」
「もう少し高レベルと一緒にいる。行きたいところがあるならついて行く」
「それでいいの?」
「たとえ明日で世界がほろんでもついていく」
「あはは。イヴのそれあたし好きだな。おじさんから聞いたけどニンジンの時もそうだっけ? 世界滅亡とニンジンのどっちかを選べって言われたら?」
「大地が裂けて空が割れて太陽が燃え尽きてもニンジンしか選ばない」
「あはははは、すごいねそれ」
亮太が時には引いたり呆れたりしていたイヴのそれを、さくらは楽しそうに笑った。
こういった反応に悪意はなく、また悪意がないと相手に正しく伝える事ができる振る舞いが出来るのは、さくらという少女の特技のようなものだ。
そのさくらが、一歩踏み込んだ。
「カリホルニウムのところもいいの?」
「あいつより高レベルのほうがいい」
イヴは即答した。
さくらはさらに踏み込む。
「おじさんの為にもうちょっとご機嫌を取っといた方がよくない?」
「……」
イヴが一瞬固まった。
さくらは「やっぱりそうだ」とは思ったが、わざわざ口には出さなかった。
「……なんのこと?」
数秒ほどの間をあけて、イヴはすっとぼけた。
「あの誘導見事だったよ。精霊をおだてて、実質冒険者に都合がよくなるようにダンジョンを改造する、うん、見事」
「……」
「見事だけどさ、いつものおじさんの手じゃん。あたしまだここに来てちょっとしかたってないけど、その程度の期間で聞いた話だけでも同じだってわかるもん」
「そんなこと……ない」
「本当?」
「うさぎ、嘘つかない」
「ニンジンに誓える?」
「そんな事が無いとはいえなくもないと思えなくもないかもしれなくもない」
「あはははは、ニンジンを持ち出すと素直だ、イヴは」
「……高レベルは意地悪」
イヴは顔を真っ赤にして、唇を尖らせてそっぽ向いた。
そこでチョップをたたき込まないのは、さくらが高レベルだからなのか、それとも……。
いずれにしても、さくらは突っ込まなかった。
必要以上に追い込まない、引き際を心得ている。
日常的に「いじり」をしている少女は、引き際のバランス感覚に優れている。
「そっかー」
「なにが?」
「精霊をうまく騙くらかしてけば、いい感じにダンジョンを作りかえる事ができるってリアルタイムで見れたのは大きいじゃん。あたしもやってみたいな」
「……私利私欲でやると、低レベルに怒られる」
「うん、それはもちろん分かってるから安心して。……ありがとうね心配してくれて」
「……ん」
さくらは そういうこと(、、、、、、) にしておいた。
イヴのそれが自分の身を案じてくれただけではないことを知りつつも、そういうことにした。
チーレム――チートハーレムという言葉を常に口にしている彼女は、イヴと二人っきりの時だけはそうしない。
仲間になって間もない彼女でもよく分かる。
イヴは、複雑な精神構造をしている。
そして、亮太の意をくんでそれにそって精霊をだましてダンジョンを作り替える程度には、亮太に好意を持っている。
だからこそ、言わない。
彼女がそれを口にするときは、イヴが 完落ち(、、、) する時だ。
今はまだ、じっくりとその感情の種を育てていく時。
さくらは、イヴといちゃつきながらそんな事を考えていた。