軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

496.スライム

追いかけて扉の中に入ると、そこは見慣れた、精霊にたどりつく一つ前の、何もない空間だった。

だが、既にさくらが先に入ったせいか、空間の中にはもうモンスターが出現している。

仰々しい魔道士のローブを纏い、悪魔の頭部をかたどった杖を持っている一体のゴブリン。

「おじさん! これ倒せばいいの?」

「ああ、今まで全部、倒したら精霊に会えた」

「よーし――これでもくらえ!」

さくらはスケッチブックを開いて、ジェネシスを発動。

スケッチブックからメタリックな右腕、握りこぶしの右腕が飛び出して、ゴブリンに向かって飛んでいった。

それはゴブリンに当って、はじかれた。

「なんだいまのは」

「ロケットパンチ。ロマンの極北」

「あ、えっと。そうか」

「なに? もしかしておじさんは紐アリ派? 私紐アリをロケットパンチって認めてないから」

「いやそうじゃなくて。まあいい」

俺も銃を抜いて、いつものようにまずは通常弾を撃った。

手癖の通常弾、様子見の一発目。

弾はロケットパンチ同様、はじかれてしまう。

「だめか」

「弾き方が普通だったから、威力の問題かな」

「なら――」

今度は+10銃に持ち替えて、成長弾を込めて狙いをつける。

単発最大威力の弾、ゴブリンに当たったが、これも普通にはじかれてしまった。

「硬い……のかな」

「……黄金の右足とか使ってみて」

「わかった」

応じるさくら、即座にスケッチブックのページをめくり、黄金の右足を召喚。

ゴブリンのそばで具現化した金色の右足はゴブリンを蹴り飛ばした。

ゴブリンは壁に当って、崩れ落ちる。

すぐに立ち上がろうとして、しかしふらついている。

「ダメージはいってるな」

「はいってるね。おかしいな、こっちの方が弱いはずなんだけど」

「……黄金シリーズでなんか撃ったり投げたりするのってないか」

「あるよ、黄金の玉、略してキン――」

「略さなくていいからそのまま撃って」

「はいなー」

三度の召喚、今度はスケッチブックから黄金の左腕が出て、振りかぶって黄金の玉を投げた。

黄金の玉はまっすぐ飛んでいき――かと思いきや、途中でブレてめちゃくちゃな軌道を描いた。

「なにそれ」

「無回転シュート」

「腕だからナックルボールだろ!」

突っ込んでいる内に、黄金の玉はゴブリンに当って、そしてはじかれた。

「なるほど、やっぱり遠距離無効かもね」

「そうなのか?」

「うん、こっちよりさっきの黄金の右足の方がダメージ大きいはず。こっちは剥き出しの内臓を蹴られたくらいの痛さだけど、あっちはタンスの角に小指をぶつけたくらいのダメージがはいるんだ」

「差がわからん!」

「じゃあまあ、近づいて倒しちゃうか」

「ああ」

俺は銃をしまって、腕まくりして近づいていく。

すると、ゴブリンが何かを唱えて、足元に魔法陣を作って――それが弾けた。

「おじさん!」

とっさのさくらの声が俺を止めた。

弾けた魔法陣は俺達の足元に集まって、赤い円を作った。

人一人分、直立不動くらいしかできない狭い円だ。

「なんかそれまずくない?」

「……試してみる」

深呼吸一つ。

何が起きても対処出来るように様々な可能性を想定してから、一歩赤い円の外に踏み出す。

瞬間、全身が炎上した。

「おじさん!?」

「大丈夫だ」

体を激しく動かして、炎を吹き飛ばす。

あっちこっちがやけどを負いダメージを受けた。

銃を抜いて、回復弾を自分に連射した。

「これ……出ちゃいけないのか……あっ、消えた」

「消えたな」

「今のうちにやっちゃおうよ。なんか時間かけるとまずそうな気がする」

「そうだな――むっ」

攻撃してイニシアチブを取ろうとする俺。

するとまた魔法を使われ、足元に今度は青の円が出現した。

「……そこから出ろさくら!」

「――っ、うん!」

俺の叫びを聞いて、俺と同じように円から逃げ出したさくら。

円から出てもなにも起こらなかったが、青い円は追いかけてきた。

「そっか、こっちは止まっちゃだめってことか」

「多分そうだ」

青い円から逃げる、その間にゴブリンは更に詠唱して、青い円を増やした。

俺とさくらは必死に円から逃げた。

複数の円は、上手く俺達の行動を制限、誘導した。

遠距離の攻撃が効かないことと合わさって、とてもゴブリンに近づけずに、反撃する余裕がない。

加速弾を使って、ダメージ覚悟で突っ込むか? ――と思ったその時。

「そっちはダメだ!」

さくらに向かって思いっきり叫んだ。

「あっ」

ハッとするさくら。

青い円に追われたさくらは、袋小路に追い込められたかのように、待ち構えていた赤い円に自ら足を踏み入れてしまった。

赤に入って、動けないさくら。

青が追いついて、さくらを囲う。

出てはいけない赤い円、出なきゃいけない青い円。

行くも地獄、戻るも地獄の二律背反。

躊躇を――する間も与えてくれなかった。

直後、 俺が(、、) 炎上した。

「おじさん!?」

「大丈夫、だ」

息を吸い込んで、回復弾を自分に撃つ。

更にもう一度炎が来てから、赤と青の円が順番に消えた。

さくらが駆け寄ってきた。

「おじさんだいじょうぶ?」

「ああ、大丈夫だ」

「なんでおじさんが……」

「今の、二回来た」

「え?」

「多分さくらの分と、俺の分。両方とも俺に来た」

「なんで――あっ」

直に喰らったおれに比べて少し遅れて理解したさくら。

「レベル……1」

「多分そうだ」

このダンジョンの特性、弱い人間を狙う攻撃。

ここも、ダメージは弱者が背負うシステムみたいだ。

「そういうことなら簡単だ。俺がこらえてるから、その間にそいつを倒してくれ」

「……それよりもっといいのがある」

「もっといいの?」

「そっ」

悪戯っぽくウインクして、さくらはスケッチブックから何か召喚した。

召喚されたのは……モンスター。

とても見覚えのあるモンスターだ。

「それはまずいだろ!」

「どうして? 日本人でスライムっていったら こっち(、、、) のフォルムでしょ?」

「そうかもしれないけどまずいって!」

更につっこむ。

さくらが召喚したのはスライム。

スライムなんだけど……水滴っぽいシルエットの、可愛らしいスライムだった。

「それよりも……うん!」

足元に赤い円が出来たさくら。彼女は躊躇なく円の外にでると、スライムが炎上して蒸発した。

「大成功」

「レベル1で……弱いのか」

「最弱♪」

まるでそれが真理かのように、楽しげにこたえるさくら。

そしてまた、スライムを召喚。

今度は俺が赤い円から踏み出す、またしてもスライムが吹っ飛んで――再召喚された。

俺と同じレベル1で、俺よりも遙かに弱いという設定のスライム。

さくらが召喚したそれを使って、俺とさくらはゴブリンにゆっくり肉薄して――パンチ一発で倒した。

そして、今度こそ――な扉が開かれる。