軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

486.社畜の必須スキル

「――さん」

「う、ん……」

「ヨーダさん」

「……えみりー?」

すっきりしない頭をさすって、ベッドの上で体を起こす。

もはや実家レベルに馴染んだ屋敷の自室の中に、エミリーの姿があった。

「おはよう……どうしたんだ俺の部屋に」

「朝ご飯はどうするです?」

「朝ご飯……? うんたべるよ?」

「……」

答えるが、エミリーはじっと俺を見つめたまま何も言わない。

「エミリー?」

「分かったです。食堂で待ってるです」

何か言いたげな雰囲気を残して、エミリーは部屋から出て行った。

どうしたんだろう……って不思議に思ったが、頭が重くて思考がまとまらない。

「とりあえず起きるか」

このままだと二度寝しちゃいそうだったから、俺はあえて声に出して自分を鼓舞して、ベッドから起き上がった。

そのまま着替えて、部屋を出る。

「……ん?」

廊下にでた途端、ちょっと違和感を感じた。

それが何なのか……も、やっぱり頭が重くてよく分からなかった。

諦めて食堂に行くと、そこにはエミリーしかいなかった。

「おはよう。みんなは?」

「みんなは出かけたのです」

「でかけた?」

「ヨーダさんがお寝坊さんなのです」

「……ああ」

そういうことか。

壁を見た、バナジウムの力で作り出した壁掛け時計があった。

新屋敷は建物ではなくダンジョンの中、故に窓はあってもリアルの景色とはリンクしていない。

そのため、ある程度の時間が分かるように、外の様子を読み取って時計にするのをバナジウムと一緒に編み出した。

時計にしたのは、せっかくだからわかりやすくするように、って考えからだ。

その壁掛け時計を見ると、俺が普段より一時間以上寝坊している事がわかった。

「こんなに寝過ごしたのか……」

「ヨーダさん」

エミリーは、おそらく温め直した料理を持ってきてくれた。

そして、心配そうな顔で俺を見つめる。

「あまり無理をしたらダメなのです。健康第一なのです」

「ああ、分かってる。今だけだ。指輪分の金が貯まったらやめる。ちょっとの間だからあまり心配しないで」

「はいです……」

そうは言っても心配そうなエミリー。

彼女と一緒に暮らし始めた直後に、無理をしないで、って約束を交わしている。

そう思うと心苦しいが、恒常的に無理をするんじゃなくて一時のものだ、って自分と彼女に言い聞かせた。

エミリーは寂しそうに微笑みながらも頷いてくれた。

こうなったら、一日でも早く目標を達成しなきゃ、って強く思った。

プルンブムダンジョン、精霊の部屋。

寝坊したということは、毎朝の日課のここに来るのも遅かったということ。

指輪も大事だが、プルンブムとの約束も大事だ。

俺はダンジョンに行く前に、いつも通りここに来た。

「おはよう。今日の調子はどうだ」

「ぼちぼちじゃ」

「そうか。元気そうで何よりだ」

「……」

プルンブムは答えず、じっと俺を見つめた。

「どうした」

「そなた、何があったのじゃ?」

「へ?」

「体力、気力、全ての能力が低下しているのじゃ。何かあったのかえ?」

「全ての能力が低下……わかるのか?」

「むろんじゃ。そなたのことじゃ、顔を見ていればわかる。普段より相当弱っておる」

「おー……」

見ていれば分かる。

嬉しい台詞だけど、言われるとちょっと恥ずかしいな。

「その事なら大丈夫、ちょっと寝不足なだけだ」

「寝不足? なにかあったのかえ」

「実は――」

俺は指輪の一件を話した。

その性能故に、仲間のみんなに一つは持たせたいと、そのための金稼ぎをしている事を話した。

「それでちょっと寝不足なんだ」

「なるほど。そなたらしいのじゃ」

「そうか?」

「そういうことなら……少し待っておれ」

プルンブムはそういって、すぅっと立ち上がった。

しなやかな手を伸ばすと、その指先からぼわ、とした光が溢れ出した。

次の瞬間、感覚が変わった。

それまで普通の部屋だったのが、急に何かが体にまとわりつくような不思議な空間になった。

「これは……ダンジョンと同じ?」

手を見つめる、拳を握ったり離したり、腕をぐるぐるさせたり。

確認した感触は、プルンブムのダンジョン内のそれと同じだった。

まるで水の中にいるような、抵抗がありつつも重力が低い感じの空間だ。

ダンジョンの特性だから、精霊であるプルンブムがこの空間をそれに変えられるのは不思議ではないが。

「どうして急に?」

「ここで休んでいくといい。回復効果を高める空間にした」

「え? そんな事ができるのか?」

「むろんじゃ。妾がその気になれば、ダンジョンでも常時体力が減り続ける空間にすることも出来る」

「地形効果か……」

「さあ、少し休むといい」

プルンブムは有無を言わさず、俺の手を引いた。

バランスを崩した俺は、その場で寝そべる姿勢にさせられた。

水の中にいるのと同じ感じのそこでは、寝そべったポーズのまま空中に浮かぶ事ができた。

それは――心地よかった。

どんなベッドでも布団でも、硬かったりこすれたりと、わずかな違和感と不快感を覚えるものだが、この空間では全身がなにか温かいものに包まれているかのような、安らぎを覚えた。

一瞬で、俺は眠りに落ちてしまった。

「……おはよう」

「はやすぎなのじゃ」

俺が目を開けると、プルンブムは微かに眉をひそめた。

「そうでもない、15分も仮眠を取れたんだ」

社畜時代に体で覚えた感覚がよみがえった。

体内時計で、バッチリ十五分は寝たのが分かった。

仮眠って決めてから寝ると、ばっちり十五分で起きることが出来る。

――のは、社畜の時と同じなんだが。

「なんか……すごく回復してる。これがプルンブムがしてくれた?」

「うむ、この空間の効果じゃ」

「すごいな、ほぼ全回復だ、頭もめちゃくちゃすっきりしてる」

15分の仮眠なのに、俺は8時間ばっちりねたのと同じくらい回復した。

「役に立ったようじゃな。指輪に届くまでの間、妾のところで休憩をとるといい」

「ありがとう、助かるよ」

15分仮眠で完全回復する空間。

エミリーにこれ以上の心配をかけさせないためにも、俺はプルンブムに甘えることにした。