軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

470.から割り

「あれ? さくらは?」

朝ご飯の後、ちょっと話をしよう、そう思ってさくらをさがしたが、どこにもいなかった。

そのさくらに懐いているイヴが恍惚とした顔でエミリーが作ったニンジンのきんぴらを頬張っているのを見て、彼女の事を尋ねた。

「ダンジョンに行った」

「また?」

「思いついた事があるから、試してくるって言ってた」

「なるほど、そういう段階だったな」

わくわくしてすぐに試したいという段階では、同じように新しい事を次から次へと思いつくものだ。

そしてその思いついたものを片っ端から試したがって、試した結果テンションが上がって、また新しいものを思いつく。

そういう好循環な段階が人間には確実にあって、さくらはまさにそのまっただ中ということだ。

それならばしばらくは好きにさせよう。

レベルは上がっているし、このシクロなら、休憩所をはじめとする、冒険者に対する様々なバックアップの体制が、セルのおかげで整っている。

この世界に来たばかりのさくらでも、よほどの事が無い限り命の危険は無いだろう。

「魔法の実の話を聞いた」

シクロダンジョン協会、会長室の中。

セルと向き合った俺は、開口一番そう切り出した。

「さすがサトウ様、耳がお早い」

「本当に、魔法の実はもうドロップしないのか?」

「今のところは」

セルは真顔で答えた。

「大規模な環境変動があった、その調査を向こうもしているところで、まだ確定とはいえぬのだが」

「なるほど」

「ただ、あの変わりようなら『おそらくはもうない』という事だ」

「それは残念」

「今のうちに買い占めておこうか? サトウ様がいると言うのならば、現存している全ての魔法の実をかき集めるが」

「いや、それはいい」

眉をひそめ、苦笑いする。

セルはきっと本気だ。

「それよりも、情報が欲しい。変わったダンジョンの事。そのうち必要にならないとも限らない、情報だけは仕入れておきたい」

「なるほど――で、あれば」

セルは神妙な顔で、何かを取り出した。

それをおれの前に、テーブルの上に置く。

「これは?」

「魔法の実にかわるもの――と言っていいものか」

めずらしく、 真面目な話(、、、、、) で煮え切らない言い方をするセル。

フィギュア関連ならいくらでもごまかしたり話を逸らしたりするのだが、真面目な話でこうするのは非常に珍しい。

「どういう事なんだ?」

「同じ階層のレアモンスターがドロップしたものだ。だが、今のところどんなものか、何の効果があるのかがまったく分からない」

「なるほど……」

頷きつつ、それを手に取ってみる。

まず、石だった。

あっちこっちに「ヒビ」が入っている石だった。

そのヒビの入り方が普通とは違う。

ダイヤモンドがあの「カットされた」形が特徴なのと同じように、この石も「ヒビ」によって形成されているという見た目のイメージだ。

それ以外では――手にしてまじまじと見つめたが、確かにこれと言った特徴は無い。

「ちなみに、破壊は不可能だった」

「そうなのか――試しても?」

「是非」

セルははっきりと頷いた。むしろやって欲しいというレベルか。

俺は+10銃に成長弾を込めて、ガッチリとつかんだその石めがけてトリガーを引いた。

驚く事に、+10の成長弾でもはじかれてしまった。

「すごいな」

「サトウ様、カーボンの扉を開いた弾丸では?」

「おっ? ……ああダメだ」

セルの提案でやってはみたが、すぐにダメだと分かって苦笑いを浮かべてしまう。

カーボンの次元の扉をこじ開けた+10鉄壁弾。

それを亀裂の石に向かって撃ったのだが、鉄壁弾がゆっくり進むのに対して、亀裂の石は俺がつかんでいるが、それに押されてしまっている。

力SSでがっちりつかんで押しとどめようとするが、それでも+10鉄壁弾の「直進」性能にはかなわない。

ただ普通に、押されてしまってるだけだ。

「これではむりか」

「そうみたいだ……いや!」

俺は未だにノロノロ直進している+10鉄壁弾の向こう側に回りこんだ。

そしてもう一つ+10鉄壁弾を、最初のヤツの直進コース上に撃った。

真っ向から向き合う二つの+10鉄壁弾。

その間にあるわずかな隙間に、亀裂の石をさしこむ。

二つの+10鉄壁弾に挟まれた亀裂の石。

最初はやはりダメって思ってしまうくらいなにも起きなかっただが。

「サトウ様!!」

「ああ、軋んでいるな」

うなずき合う俺とセル。

二つの鉄壁弾にペンチの如く挟まれた亀裂の石は、ミシミシと音を立てはじめた。

+10鉄壁弾はなにがあろうと直進するだけ、その直進力は力SSの俺でも止められないくらいだ。

だから、俺がもって押しつけてもなにも起きない――が。

それを押しつけるのが同じく+10鉄壁弾なら話は変わる。

次元の壁さえも押しとどめてしまう鉄壁弾は亀裂の石をはさんで、つぶしていく。

ミシミシと音を立てる亀裂の石。

それは最後の一瞬まで元の形を保ち続けたが、限界を超えた瞬間――

「危ない!」

とっさにセルの前にでて彼をかばった。

「パァン!」と、鼓膜が破れるほどの爆発音とともに、亀裂の石がはじけ飛んだ。

破片が飛んできたが、手で払いのけた。

「サトウ様!」

「大丈夫だ。それより――これが中身か?」

地面に落ちている それ(、、) を拾い上げた。

亀裂の石の外側だったかけらが飛び散っている中に、明らかに一つだけ異質なものがある。

「何かの……種か?」

「そのようだ」

持つ手にちょっと力を込めてみる。

どうやら亀裂の石と違って、こっちは見た目通りの硬度みたいだ。

冒険者じゃない普通の街の人でも、ちょっと力を込めれば割ることが出来るくらいだ。

それ以上力を込めるのをやめた。

亀裂の石はとてつもなく堅かった、だから「割ろう」と経験的に思った。

しかしこれは柔らかい、明らかに「割る」が障害になるものじゃない。

「どうすればいいのかな、飲めばいいのか?」

種を二本指で摘まむようにもって、光に透かして中を見てみようとしたが、それで何かがわかるなんて事はなかった。

ニホニウムの種みたいな感じでもない。

「持ってみてくれる?」

「うむ」

セルに手渡して見ても、普通に持つことが出来て、何も起きなかった。

「何も起きないか、何かがあるとおもうんだけどな」

「同感だ」

セルは俺の意見に賛同してくれた。

あれほど堅かった外殻を割って手に入るものだ、何もない、という事はなかなか考えづらい。

そりゃ「ない」こともありえなくはないんだけど……。

「うーん、お手上げだな」

「……サトウ様が預かってくれないか」

「俺が?」

「うむ」

セルははっきりと、迷いのない顔で頷いた。

俺が持っていればそのうち何かの拍子で解明するだろう。

と、思っているのがアリアリと見て取れる。

それは信頼であり、それ自体悪い気はしないから。

「分かった、預かっとく」

俺は種を預かることにした。

カリホルニウムダンジョン。

あの後セルとわかれて、ここにやってきた。

種は何に使うのかわからないし、さくらもさくらでダンジョンに潜っている。

だから俺は、本来の仕事に戻った。

フェルミウムでみんなと一緒にあつめた券を使ってみることにした。

ダンジョンに入って、券を使う。

券は光った――その瞬間。

「なにっ!?」

あの種も、一緒になって光っていた。