軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

465.そしてママ

胸を押さえて、今にもうずくまりそうなダメージを受けた俺。

懇願する目でさくらを見る。

「おじさんと子持ちは効くからやめてくれ」

「でもパパって呼んでるよ? それにおじさんはおじさんだし」

「うぅ……ユキ、 元の(、、) 姿にちょっともどってくれ」

「分かりました、パパ」

ユキは素直に頷いたあと、全身がどろどろに溶け落ちた。

可愛らしいドレスも体の一部――いわば「皮」みたいなもので。

ユキはたちまち元の姿に。

ユニークモンスター・スライムの姿にもどった。

「なにこれ」

「見ての通りだ。ユキは人間じゃなくて、スライムだ」

「へえ、そうなんだ」

「ってことで、ユキは俺の娘って訳じゃなくて、子持ちというのは違うから」

「いやわかんないよ。おじさんがスライムに苗床にされて産んだ子供かもしれないし」

「そんな誰も喜ばない発想やめて!」

「私は喜ぶ!」

さくらは胸を張って、大いばりで言い放った。

あーそうだったな、そういうご趣味だったな。

別にそれはいいんだけど、「おじさんが」って言われたせいで、フェミニの時以来のおぞましい想像が脳裏をよぎった。

「とにかく違うから」

「そっか。でもじゃあなんでパパって呼んでるの? そういうプレイ?」

「とことん俺を変態にしたいらしいねあんたは。そこは色々あるんだ、ユニークモンスターの件も、説明してあげるから」

「なんか複雑そうな話っぽいね」

「この世界の仕組みは、色々尖ってるからな」

「へえ、それはおもしろそうだ」

俺はくすっと微笑んだ。

まだ出会って間もないが、さくらの性格ならそういうのは何となくなっとくだ。

良くも悪くも、愉快な性格をしている少女だなと俺はおもったのだった。

テスト部屋で立ち話も何だから、俺達はサロンに移動した。

俺とさくら、そしてさくらに「高レベルしゅき」とひっついて離れないイブ。

更にアリスとセレスト、そしてバナジウムにユキ。

まだ帰宅してない仲間達が多くて、普段の半分くらいの人数だ。

「いやでも信じらんないけど、ここって本当にダンジョンの中?」

どこぞの貴族の屋敷にしか見えないサロンの中を見回したさくら、当たり前の疑問を口にした。

「それはこの子――バナジウムのおかげだ」

「バナジウム? 女の子の名前っぽくないね」

「水兵リーベの23番なんだ」

「水兵リーベって、どういうこと?」

さくらは首をかしげた。

周期表の存在自体知らないってことはないだろうが、その詳細まで知っている訳でもないようだ。

それならそれでいい。

「この世界のダンジョンって、必ず一人、ダンジョンの精霊が存在するんだ。精霊は自分のダンジョンの構造を好きに変えられる。ここがダンジョンっぽくないのは、バナジウムが仲間になってくれて、要望を聞き入れてくれたからだ」

「……(ニコッ)」

バナジウムは俺のそばで、嬉しそうな笑顔を浮かべた。

ありがとうって言いたいのはむしろこっち、といいたげな表情だ。

「すごいね、よく知らないダンジョン? の精霊を仲間って、物語の中盤から終盤くらいの話じゃん」

「普通はそうかな」

俺はちょっとだけ苦笑いしてから、改めて彼女に質問した。

「それで、これからどうするつもりなんだ?」

「うーん。ねえ、こっちの世界にゴブリンとかいる?」

「ゴブリンとオーク? まあゴブリンはいたな。オークも――ああ、ミニオークというのと戦ったことがあったな」

「そかそか、じゃあゴブ×オークいけるね」

「は?」

きょとんと、目が丸くなった俺。

いきなり何を言い出すんだこの子は。

「あっ、私は大抵は許せるけどこの組み合わせでリバは無しね。単体でも強いオークと単体じゃ弱いゴブリン、だからこそ生まれるゴブ攻めオーク受けの王道は譲れないって思うんだ」

「いや意味がわからないし」

というかそういう話でもないし。

「くっ殺姫騎士を巡って争う善人オークと七人のゴブリンってのも捨てがたいところ――」

「いやそうじゃなくて、ここにずっといるのか? って意味だ」

「――ここに?」

「帰る方法を探してやろうか、ってことだ」

さくらは黙り込んだ。

仲間達もだまって何も言わなかった。

しばし沈黙が流れる、さくらは思案顔をしてから。

「うーん、ちょっと考えさせて。ここおもしろそうだけど、今はちょっときめらんない」

「そうか。うん、まあそうだな」

気持ちはわかる。

俺もこっちの世界に来て、最初はエミリーへの恩返しと生活に追われていたからそう思う暇もなかったが、こっちの魅力的な世界を前に、すぐにもどるもどらないと決めるのはちょっと難しい。

「おじさんは帰らないの?」

「……俺はもうその気はないかな」

ふっ、と微笑んだ。

セレストとアリスは神妙な顔で俺を見つめた。

今となっては、仲間達との生活が大きくなって、もどるつもりなんてさらさら無い。

向こうでの日々があまりにもクソゲーだったというのもあるけど、それ以上に仲間達との日々が素晴らしくてもどる気がしない。

「そっかー」

俺の表情から何か感じ取ったのか、さくらはやはり神妙な顔で頷いた。

そうしてまた沈黙が流れると、ドアがノックされて、エミリーがワゴンを押して入ってきた。

「お待たせなのです」

ワゴンの上には湯気立ちこめる紅茶と、ケーキやクッキーなど、色とりどりなスイーツが載せられている。

「おー、なんかすごいね。なんか全部美味しそう」

「美味しいぞ、なんたってエミリーの手作りだからな」

「ほっぺたが落ちるわよ」

「食べると安らぐんだよね」

「ニンジンケーキから食べるべき」

それまで黙って成り行きを見守っていた仲間達が、一斉にエミリーの手作りスイーツを褒め称えた。

エミリーはといえば、いつものように頬を赤らめつつ、嬉しそうな照れ笑いをしていた。

まだ半分お客様なさくらに、エミリーは皿とフォークをつけたケーキを手渡した。

さくらが器用にデザートフォークを使ってケーキを一口頬張ると――。

「私ずっとココにいる!」

「へっ?」

「ママって呼んでいいかな!」

保留になっていたさくらのそれを一瞬で答えに寄せたエミリーの料理。

俺達は一瞬だけきょとんとしたが、すぐに「まあそうなるか」って感じになったのだった。