軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

447.ありがとう

深夜、バナジウムダンジョンの外。

俺は屋敷を出て、一人で夜空を見上げていた。

ますます栄えるようになったシクロ、夜でも灯りが消えないほど賑わっていて、明るすぎて空は何も見えなかった。

それでも見あげた。

元の世界とまったく違う原理で動いている異世界。

レベルがあって、モンスターがあって。

あらゆる一次産業に相当するものがモンスタードロップから成り立っている世界。

そんな世界でも――。

「ヨーダさん」

「エミリー。どうしたんだ」

バナジウムダンジョンの中から姿を現わしたエミリー。

パジャマ姿で、寝る時の格好をしている。

「ヨーダさんこそどうしたです? 夜更かしですか?」

「うん、ちょっと空をみたかった」

「空、です?」

エミリーは首を傾げてから、俺の視線を追いかけて空を見上げた。

「空ってさ、どこにいても同じように見えるだろ? 昔の事を思い出してたんだ」

「スライムからドロップする前もこんな空の所にいたです?」

「ああ。星がまったく見えない空だった」

「シクロとおなじくらいの都会だったです?」

「それ以上かもしれないな」

俺は微笑んだまま答えた。

シクロも賑わっているが、化石燃料を燃やして、まるで永遠にも思えるように電気を垂れ流す日本の大都会にはかなわない。

「すごいです、どれくらいなのです?」

「そうだな……俺がすんでた所、人口は1300万くらいだったな」

「ふぇぇ! そ、そんなに人がいるのです?」

「すごいだろ? なんでそんなにいるのか俺にもよく分からない」

そのせいで満員電車で朝晩死にかけてたっけなぁ……今となってはいい想い出だ。

「それがちょっと懐かしくて、空を見上げていたんだ」

「オールSSSになったからです?」

「……うん」

エミリーに微笑みかけた。

「エミリーと出会った時は、オールFだったもんな」

「はいです。レベル1でオールFだったから、すごく切なく見えたです」

「だろうね」

笑顔が苦笑いに変わった。

もし今、俺が同じレベルオールFの人間と出会ったら、やっぱり切なく見えただろうな。

マーガレットの時そうだったかも知れない。

レベル90まで、ドロップ含めて全部オールFだったマーガレット。

アレをみて、他人ごとながら、ちょっと切なかった気がする。

「遠くまで来たなあ」

「はいです」

「すむ家もすごくなったよな」

「はいです」

「そういえば、あのアパートはどうしてる?」

「今でも毎日お掃除に行ってるです」

「そうか」

最初に借りた、一月2万ピロのボロアパート。

あれを今でも保持している――と思いきや。

「アパートごと買い取ったです」

「買い取った? エミリーが?」

「はいです」

俺はちょっとびっくりした。

「古いから取り壊すって話が有ったです、それは切ないから買い取ったです」

「なるほど」

頷いた直後、エミリーの小さな手が俺の手を握ってきた。

「ヨーダさん」

「な、なに?」

至近距離で真っ直ぐ見つめられて、ちょっとどきっとした。

エミリーは、ものすごく真剣な顔で。

「ありがとうなのです。ヨーダさんが誘ってくれなかったら、今でもきっとダンジョンにすんでいたです」

「お礼をいうのはこっちなんだけどな」

俺は真顔で見つめ返した。

「エミリーのあの温かいスープがなかったら、俺こそ今頃どうなっていたことか」

多分、今ほど順調にいってないだろうな。

「ありがとうエミリー」

「こちらこそありがとうなのです」

「いやいや、それはこっちの台詞だ」

「私の台詞なのです」

「「……」」

しばし見つめ合った後、同時にふきだした俺とエミリー。

「お互い様、だな」

「はいです、支え合ってここまで来たです」

SSSという、ちょっとしたゴールに辿りついた俺だが、まだまだ、異世界の生活はこれからだと思った。

「これからも宜しく頼むな」

エミリーを向いて、握手を求めた。

彼女はにっこりと微笑んで、俺の手を取った。

俺たちは握手して、微笑み合ったのだった。