軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

441.君の名は

「多分……もうちょっとためそうか」

「わかりました」

スライムは頷いた。

俺は少し離れた所で待機している、今日はついて来てもらったバナジウムに手招きした。

ニホニウムは人間がまったく来ないダンジョン。

ニホニウム本人に聞いてみたが、最近は一段と少なくなって、月一でマーガレットが空気箱を仕入れにくる以外、冒険者は「0」になっている。

それを聞いていたバナジウムは安心して、まるで実家――というか自分のダンジョンのようにダンジョンの中をぶらついていた。

人間がいない(カーボンの姿をしているスライムはモンスター)所では、まったく俺にくっつかなくなったバナジウム。

とは言え、俺が呼べば嬉しそうに駆け寄ってくる。

「頼むな」

「……(こくこく)」

バナジウムはスライムと手をつないだ。

俺達は連れだって、二階に降りていった。

早速、ゾンビとエンカウントする。

デロデロって感じの、ニホニウムのモンスターでは一番戦いたくない、精神的にきつい相手だ。

「気持ち悪くないか?」

「何がですか?」

スライムはキョトン、と小首を傾げて聞き返してきた。

「ほら、あのモンスター」

「……?」

ますます首をかしげ、マンガとかなら頭上に「???」が浮かんでいそうな仕草をする。

ゾンビのあのデロデロ感を気持ち悪いとは感じないのか。

おなじモンスター、だからって事なのかな。

「まあいっか。じゃあさっきと同じ動きを止めるから、その間に」

「はい!」

俺は銃を抜いて、ゾンビに拘束弾を撃った。

スライムが突っ込んでいって、攻撃をしかける。

やっぱりデロデロだ。

俺がゾンビとたたかい始めた最初期の事を思い出す。

竹の槍が折れて、銃が手に入るまでの間。

ゾンビと肉弾戦を強いられたあの頃の事。

HPはSになっていたから、危険は無かったが、ゾンビとの肉弾戦は精神的にきつかった。

あれも、今となってはいい想い出だ。

――などと想い出に浸っている内に、スライムはゾンビを無事に倒した。

やっぱり種はドロップしなかったが。

「どうだ?」

「みてて下さい」

スライムはそう言って、スライムの姿を経由してから、またカーボンそっくりの人間の姿になった。

そして、やっぱり服装は替わっていた。

「能力は?」

そう言って、ポータブルナウボードを差し出す。

スライムはそれを使った。

―――1/2―――

レベル:1/1

HP F

MP F

力 S

体力 F

知性 F

精神 F

速さ F

器用 F

運 F

―――――――――

HPがFに戻って、代わりに力が。

ニホニウムダンジョン地下二階、ゾンビがドロップするのは力の種。

それに対応するかのように、力がSになった。

「やっぱりこうなったか」

「なりました」

「さっきの格好――HPがSの格好には戻れるのか?」

「えっと……ダメみたいです」

スライムはむむむ、と唸って力を込めたりしてみたが、戻ることは出来ないようだ。

「なるほど、じゃあ一旦戻ろう」

「わかりました」

二人で地下一階に戻った。

スケルトンを探して、拘束して、たおした。

力がSな事もあって、今度は一撃で倒せた。

「どうだ?」

「出来るみたいです」

スライムはそう言って、さっきの格好に戻った。

念のためにポータブルナウボードでも確認。HPはSで、力はFだった。

「力がSには?」

「ダメみたいです」

「なるほど。ちなみに倒したあと、変身しないでおくのは?」

「それはできます」

「ふむふむ」

何となく法則性が分かってきた。

スライムは何か一つ、Sになる格好に変身できる。

別のモンスターを倒せばそれに変身できるが、一つ前のに自由に戻ることは出来ない。

戻るには、また対応するモンスターを倒さなければならない。

しかしストックは出来る。

倒して、変身しないで取っておくことは可能だ。

「よし、地下三階も試して見よう」

「はい」

地下二階でゾンビを倒させて、力をSにしてから三階に降りた。

ニホニウムの地下三階、マミー。

プロレスラーばりの大きくて筋肉質な肉体を、全身包帯でぐるぐる巻きにしているモンスターだ。

こいつは(、、、、) まだ特殊能力は無いから、さっきと同じ拘束弾で拘束して、倒させた。

「どうだ?」

「できます」

頷くスライム、もはや見なれた感じの、元のスライム経由で、新しい格好になった。

能力も確認。

―――1/2―――

レベル:1/1

HP F

MP F

力 F

体力 F

知性 F

精神 F

速さ S

器用 F

運 F

―――――――――

力がFになって、速さがSになった。

法則通りだ。

「戻ることは?」

「できません」

「そうか、よし次行こう。バナジウム」

「……(コクコク)」

「……」

バナジウムがやってきて、スライムの手をつなごうとした。

しかしスライムはその手を取らずに、バナジウムをじっと見つめた。

「どうした」

「バナジウム、さん」

「ん?」

「バナジウムさんって、たしかパパがつけた名前ですよね」

「ん? ああ、まあ。そうなるのかな」

厳密には違う。

バナジウムの元の名前はエリスロニウム。

その名前にトラウマがあるから俺が別の名前をつけたと言うことになっている。

しかし、本当は微妙に違う。

名前をつけるにあたって、俺がタカラバコから元の世界の百科事典をドロップさせて、エリスロニウムというのはバナジウムの古い名前だと知った。

だから、バナジウムだとつけた。

俺がつけたと言えばそうなのだが、バナジウムは元からバナジウムではあった。

「……」

だが、スライムはそれに引っかかっているようだ。

なぜ今? って俺が思っていると。

「私も」

「え?」

「私も、名前が欲しいです。パパ」

「……あっ」

俺は自分の頭を小突いた。

うっかりにも程がある。

今の今まで、心の中で彼女の事を「スライム」と呼んでいた。

口で「おい」とか「お前」とかで呼んでないのがせめてもの救いか。

スライム――彼女は上目遣いで俺を見た。

瞳は期待でキラキラしている。

その期待を裏切っちゃダメだ、って気分になる。

どういう名前がいいかな。

元はテルルのスライムだが、見た目や生まれた経緯を考えればカーボンの娘って言った方が正しい。

カーボン……C……有機化合物……ユウキ……。

「……ユキ?」

口に出してみる、心の中では優希とか由紀とか夕貴とか、いろんな字の女の子の名前を思い浮かべた。

彼女をみて、聞く。

「ユキ、でどうだ?」

「はい! ありがとうございます!」

彼女はものすごく喜んだ。

名前がどうこうよりも、俺につけてもらったのが嬉しい、って顔だ。

俺はもう一度自分の頭を小突いた。

こんなに喜んでくれるのなら、もっと早くつければ良かった。

まあいい、これからはちゃんとユキって呼ぼう――

「あっ」

「どうした」

「えっと……あの……みてて下さい!」

「?」

俺が首をかしげていると、ユキは一度スライムの姿に戻って、また人間の姿に変身した。

しかしその格好は――。

「これ、最初のヤツ?」

「はい、器用もちゃんとSです。それに」

またまた変身した。

「今度はHPがSの時か」

「力と速さもできます」

次々に変身するユキ。

驚くことに、さっきまでは出来なかったのが出来る様になった。

経験したことのある姿に自由に変えられる様になった。

「驚いた。どうしていきなり」

「パパが名前をつけてくれたからだと思います!」

「……なるほど」

自信たっぷりにそういい放つユキ。

そうかもしれない、と俺は納得したのだった。