軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

416.ものすごく馴染む気配

夜になって、強い風が吹くようになった。

仲間達と一緒に夜道を歩き、ビラディエーチに向かう中、俺は新しく目覚めた力の確認をしていた。

歩きながら、セレストが差し出したメモ帳に、頭に浮かび上がってきた街の地図を書き留めていく。

強い光を見た後の残像を紙の上に重ねて、それを書き留めていくイメージ。

一通り書いた後、それを覗き込んだアリスが。

「すごーい、本当に分かるんだ」

「むしろアリスが分かるのか?」

「うん! だってここ」

アリスは俺が書いた地図の、一箇所だけぽっかり空いてるところを指した。

「昨日取り壊したばっかりだから。まだ何処の地図にも載ってないし、リョータも忙しかったから知らないじゃん?」

「なるほど、最新情報を持ってたのか」

「むしろ、どうしてあなたがそれを知っているの?」

セレストが疑問を持った。

「ケルちゃんの散歩を毎日してるもんね」

ケルちゃん――ケルベロス。

サーベラスというモンスターのハグレモノで、ユニークモンスター化して我が家の飼い犬となっている子だ。

「散歩をしてたのか」

「うん!」

「あいつ、毎日リョータの村に行ってるから、運動は足りてるもんだとばかり」

だから散歩のことは考えてなかったのだが。

「ちっちっち、それは甘いのだリョータ」

「なんだその口調は」

微苦笑しつつ、オヤクソク的に突っ込んでおく。

「ワンちゃんにとって散歩は運動不足とは関係ないのだよ。飼い主との散歩はワンちゃんの心を豊かにする効果があるのだよ」

また変な言い方があったが。

「なるほど、そういうものなのか」

「そういうものなのだ」

「私もそう思うです」

横からエミリーがアリスに同調した。

「ヨーダさんの村から帰ってきた直後でも、散歩に行く? って聞いたらすごく大はしゃぎするです。体じゃなくて心が喜ぶみたいです」

「なるほどね」

「話を戻すけど、リョータさんが書いたこれが最新、今現在の街の地図だと判明したのだけど、分かるのは街だけ?」

「ああ、街だけ」

話を整理してくれたセレストに向かって頷く。

「アリスもこういう風にマップ書き出しはできるか?」

「出来るよ?」

「モンスターは?」

「ちゃんと書けるよ」

「なるほど。俺はモンスターは分からないっぽいな。もっとも街中にモンスターは居ないからダンジョンに居たときの話だけど」

「そんな事ないよ」

「え?」

「ハグレモノ居るじゃん。ほらこの家」

アリスは俺が書いた地図の、民家があると思われるところを指さした。

「ここんち、スライムのハグレモノがいるよ」

「そうなのか」

「うん。今もいるかどうか分からないけど……そもそも、飼い主のいるハグレモノがけっこういるじゃん?」

「そういえばそうだった」

元からハグレモノを飼う人間はいた。

それが、俺がケルベロスを迎えてからはますます増えた。

シクロはかなり大きい街、ハグレモノを飼ってる人間は両手の指じゃ収まらない。

「うん、やっぱり分からないな」

「そのうち分かるんじゃない?」

「そうだな」

そうこうしているうちに、なじみの酒場、ビラディエーチに到着した。

俺たちは店に入って、いつもの席で、いつもの様に宴をして盛り上げたのだった。

ほろ酔い気分の帰り道。

仲間の足取りがみんなふわふわしてて、バナジウムは俺の背中ですやすやと寝息を立てている。

仲間達は皆ニコニコしている。

エミリーもセレストもアリスも、皆ニコニコしている。

店を出てからも一人ニンジンをかじり続けているイヴも、なんだかんだで楽しんでくれたみたいだ。

元の世界にいた時は上司の説教&自慢酒がひたすらウザかったから飲み会は嫌いだった、だから気の合う者同士と飲むのがこんなにも楽しいものだとは知らなかった。

「ねえねえリョータ」

「なんだ?」

「これは感じる?」

アリスはニコニコしながらやってきて、ホネホネを元の姿に召喚・変化した。

サイズは元のもの、しかしデフォルメされた愛くるしさのあるスケルトン。

それが目の前に立って、後ろ向きで俺と同じ速度で歩いた。

「なるほど、店に入る前の話の続きか」

「うん。みんなさ、普通のモンスターとも違うじゃん?」

「確かに、倒されてもすぐに復活できるし、ダンジョンの出入りや階層を跨ぐことも出来るもんな」

「そっ。ちなみにあたしはちゃんと分かるし、区別も出来るよ」

「そうなのか?」

「普通のモンスターが赤い点で、皆が青い点って感じ?」

「なるほど」

分かるような、分からないような話だ。

「でもそうだな、やってみる」

俺は目を閉じて、意識を新しい能力に集中した。

目を閉じたのは、そうした方が開けている時よりはっきり感じるからだ。

目を開けてると目からも物が見えるから、どうしても集中力が分散されてしまう。

だから目を閉じて、網膜の裏に地図を写し出すイメージでやってみた。

ホネホネの気配は感じられなかった――が。

「あれ?」

「どうしたの?」

立ち止まった俺。

話してるアリスとホネホネがまず止まって、直後に気づいたエミリー、セレスト、イヴも立ち止まって振り向いた。

全員が揃って、「どうした?」って顔で俺を見る。

皆の姿越しにマップを見ていた。

喉に引っかかった小骨のような違和感、それが徐々に大きくなっていく。

「さっきの空き地」

「さっきの?」

「昨日取り壊しの所なのです?」

「ああ、あの空き地に何かがある」

「何かって、なにが?」

「分からない、でも何かだ。モンスターじゃない、でもすごくなじみ深い何かが」

「もしかして、ニンジン?」

「さすがに違う」

俺は苦笑いする。

そんなピンポイントな感知じゃないはずだ。

「……行ってみましょう」

少し考えて、セレストが提案した。

「リョータさんの『すごくなじみ深い何か』というのが気になるわ」

「だね、よし行こっか」

セレストの意見にまずアリスが同調して、真っ先に歩き出した。

他に反対意見もなく、全員がアリスの後についていった。

夜道をぐるぐる回って、アリスの先導で進んでいく。

しばらくすると道の先に開けた空き地が見えてきて――。

「あれを見て!」

いきなり、セレストが大声を出した。

切羽詰まった声、何事かと彼女が指す空き地の中を見ると、そこに倒れている盆栽があって、盆栽がまさにハグレモノに孵っている最中だった。

サイズは縦に十メートルほど、横にも広い石の巨人。

「ゴーレムなのです!」

「まずいわ、暴れ出す」

「止めるわ!」

セレストが魔法の詠唱に入る。

同時にイヴもニンジンを咥えたまま、ビシッと揃えた手刀を構えて飛びかかる。

アリスは一斉に仲間モンスターを召喚して、まずはゴーレムを取り囲んで、攻撃で街中に被害が出ないように包囲する。

そんな中、武器を家に置いてきたエミリーが俺に近づき。

「ヨーダさん、感じたのはこれなのです?」

「ちょっと違う、それだったけどそれじゃない」

「どういう事なのです?」

「厳密には『ハグレモノが孵りそうな気配』だった気がする」

一瞬目をつむって、気配を感じとってから、エミリーに答える。

目の前のゴーレムの気配はなかった、しかし残滓のようなものは感じられた。

なじみ深いと感じた気配は、ハグレモノが孵る気配だった。

多分、この世界で俺が一番、ハグレモノが孵る瞬間に立ち会ってるからだろうな……なんて思った。

そうこうしているうちに三人の仲間がゴーレムを倒した。

結構強かったが、三人の速攻に押し切られた感じだ。

それでも暴れたせいで、空き地の地面がボコボコになった。

「ヨーダさんの力で周りに被害が出なかったです」

エミリーが言うと、アリスも戻って来て。

「なになに、気づいたのはやっぱりこいつの気配? すごいじゃんリョータ」

「微妙に違うけどな」

俺は苦笑いしつつ、戻って来た仲間達に説明。

ハグレモノそのものじゃなくて、孵る瞬間の気配の可能性大、と。

するとアリスは。

「なにそれ、ますますすごいじゃん」

と、目を輝かせたのだった。