軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

381.エリのプレゼント

エリスロニウムダンジョン内、新しい俺の部屋。

ベッドの上に座っている俺に、エリがぎゅっとしがみついている。

出会った頃と同じくらいの強い勢いでしがみついて、顔を埋めている。

「すごーい、まったくモンスターいないし生まれる気配ないじゃん。エリエリがやってくれたのかな」

部屋の外からアリスの声と、バタバタしている音が聞こえてくる。

エリスロニウムに引っ越してくる仲間達の声だ。

それが、エリが俺に強くしがみついてる理由でもある。

エリスロニウムダンジョンは庭に現われて以降、レベル1以外を拒むダンジョンになった。

このままじゃ引っ越せないから、俺がエリに頼み込んで、仲間だけ入れてもらったのだ。

そのせいで、エリがちょっと怯えて、俺にしがみついている。

そんなエリを優しく撫でてあげた。

「怖がらなくていいよ、みんな知ってる人だろ」

「……(ぎゅっ)」

「それに、俺の仲間は誰もエリをいじめない。俺が保証する」

「……」

エリは俺にしがみついたまま、顔だけ上げて俺を見た。

うるうるした目は本当に? って目だ。

「本当だ、だから安心して」

エリは再び俺にしがみついた。

正直……難しい。

秘密基地感覚で俺も盛り上がってあっという間に話を進めたが、ここに引っ越すって事は再びエリスロニウムダンジョンに俺以外の人間を入れることでもある。

エリが怯えて当然だ。

一方で、ここを屋敷と同じ風にして、俺を引っ張ってきたのは他の誰でもないエリ本人だ。

それもあって、ますますもって話が難しい。

一方的にじゃあやめよう、と言うのも違う気がする。

実際。

「向こうに戻るか?」

「……(ぷるぷる)」

引っ越しをやめるかどうかと聞くと、エリは首を振って拒否するのだ。

「やっぱり、難しい」

コンコン。

「だれ?」

「あたし! ねえ、今ちょっといい?」

「わかった」

訪ねてきたアリスに、俺は立ち上がってドアを開けようとした。

しかしエリはますます強くしがみついてきた。

ならばとエリを抱っこした。

抱っこしたまま、立ち上がってドアをあける。

「どうした」

「お風呂がないんだけど、エリエリに作ってもらえないかな。こう、すっごいの」

「すっごいの?」

「すっごいの。滑り台とかあるやつ」

「それはもうアトラクションだろ」

「でもメラメラが言うには、図面とか書けば作れるはずだよって」

「へえ」

メラメラ=フォスフォラス。

アリスの仲間モンスターでエリと同じ精霊だ。

メラメラがそう言うのならそれは出来る事だろう。

「どうかな、エリ」

「……(こくっ)」

エリは頷いた。

新しい部屋を作る、と言うことに関してはまったく問題はないみたいだ。

あるいは目の前のアリスの肩に、 お仲間(、、、) であるメラメラがいるのが大きいのか?

それはよく分からないが、渋々頷いてるって訳じゃないようだ。

「ならーー」

まずは図面だな、と思っていると、エリは何かに気づいたのか、俺が抱っこしてるのから床に飛び降りた。

そのままパタパタ駆け出す。

「どうしたの?」

「さあ」

アリスと首をかしげ合いながら、エリの後を追いかける。

玄関ホールにやってきた。

そこでエリが周りを見回して、ぽかーん、となっているのが見えた。

「どうしたです?」

玄関の掃除をしていたエミリーがエリの事に気づいて、手を止めて優しく話しかけた。

エリは周りを指しつつ、エミリーを見つめる。

「お部屋がどうしたです?」

「あのねー、ここの掃除をしたのエミリーなのかって聞いてるよ」

二人に近づき、メラメラ経由で通訳をするアリス。

エリがこくこく頷いた。

俺も玄関周りを見た。

ああ、そういうことか。

玄関は、早くも変貌を遂げていた。

見た目に変わりは無い、エリが作りあげた、屋敷とほぼ同じ玄関そのものだ。

だが、温かい、そして、明るい。

穏やかで優しいエミリー空間に早変わりしていた。

エリはそれにびっくりしているのだ。

「はいです。まだまだお掃除の途中なのです」

「…………」

エリは思いっきりびっくりして、目を見開いた。

しばらくしてトタトタと俺の所に戻ってきて、ズボンをぐいぐい引っ張りながら、エミリーの方をさす。

「あのね――」

「ああ、すごいだろエミリー。俺の自慢の仲間だ」

アリスに通訳してもらわなくてもエリの言いたいことはわかった。

あの人すごいよ!?

はっきりと、声に聞こえた気がした。

エリは俺のズボンにしがみつく体勢に戻りながらも、尊敬の眼差しでエミリーを見た。

「すごいよエミリー、精霊に尊敬されちゃってるよ」

「何をなのです?」

詳しくは言葉に出してないので、エミリーからすれば何をほめられたのか分からないだろう。

本人には当たり前すぎて、言われないとわからないんだろう。

エリはしばしエミリーを見つめた後、俺から離れ、トタトタと小走りでエミリーに近づき、目の前に立ち止まった。

見あげる体勢で両手を差し出すと、手の間がぼわぁ、と光って、そこに水が現われた。

水でありながら、空中に浮かんでいる。

テレビで見た、無重力の中で浮かんでる水みたいな感じだ。

「はいです?」

「……」

エリはその水を更にエミリーに差し出した。

エミリーは困って、アリスに通訳を求めた。

「アリスちゃん、何を言ってるのです?」

「それをあげるって」

「なるほど――ありがとうなのです」

エミリーが受け取ると、エリはまた逃げるように俺の所に戻ってきて、ズボンにしがみついてきた。

「あはは、エミリーはすごいけど、やっぱりリョータじゃないとだめなんだね」

「ヨーダさんのそばが一番安心できるです」

「そう思ってくれてるとうれしいな。それよりもエミリー、その水どうする? 飲んでみるか?」

「はいです。飲んでいいです?」

エミリーが聞くと、エリはおずおずと頷いた。

出した本人がそう言ったので、エミリーは受け取って、手の上で浮かんでいる水をそっと口に運んだ。

それを一滴も残さず、口の中に運び込む。

ごく……ごく……。

エミリーの喉が数度上下して、水が完全に飲み干された。

「どう? 美味しい?」

「あっ……」

「どうしたんだ?」

「水」

「水?」

「水、効かなくなったみたいです」

「水が効かない? ……耐性のことか?」

驚く俺に、エミリーははっきりとうなずいた。