作品タイトル不明
356.カルシウム
カルシウム地下五階。
今日も、イヴと二人で改良していた。
追加で手配した牛の模型からのミノタウロス召喚、イヴの足止めに、能力調整してからの改良。
ミノタウロスを倒した後に出てきたのは天使――ではなく、髪の色も服の色も、翼の色もまでもが黒くなった、堕天使とも呼ぶべきモンスターだった。
堕天使の剣は黒いオーラを纏っている。
それを避けつつ、成長弾で撃ち抜く。
堕天使を一撃で倒して、ドロップしたのは。
「お金」
「1000ピロ札だ」
そう、ドロップしたのは1000ピロの紙幣。
イヴに能力調整でやってもらったのは特質、特質Aで改良して変わった堕天使がドロップしたのはお金そのものだった。
「失敗」
「……ああ、これは失敗だ」
「珍しい、ウサギと同じ意見」
「内訳は違うけどな」
俺は苦笑いした。
イヴが失敗って言うのはいつも通りの事。
ニンジンじゃないから失敗という、イヴルールだ。
俺が失敗と言ったのは、変わったのが金だからだ。
特質、に変化したって意味では成功だ。
しかし金その物をドロップするのはよくない。
セルの一族が集中管理してることと、フォスフォラスを無力化した今までの流れから、現金が直ドロップするのはよくないと思う。
が、まあ。
「特質になってるし、後は俺が同じ特質の中で調整すればいいか」
「ウサギは何をすればいい?」
「とりあえずなにも。この地下五階の特質がどうしても現金だけなら別のジャンルに変える。それまで待機だ」
「ん」
イヴは納得した顔で頷き、どこからともなく弁当を取り出した。
ニンジンを主材料にした、エミリー作の弁当。
イヴ曰く「ウサギ弁当」という代物だ。
かつてエミリーに「ニンジンの可能性を信じよ」と天啓の如く言われて以来、イヴはエミリーの料理だけ生以外で食べるようになってる。
そのウサギ弁当を美味しそうに頬張るイヴ。
俺はあたらしい牛の模型を出して、現金から別のものに変える為の準備に入った。
それで待っていると―― 違うこと(、、、、) が起きた。
俺とイヴ、二人の体が光に包まれる。
「なにこれ」
「これは……精霊の召喚か!?」
「本当!?」
驚く俺に対し、イヴは弁当を投げ出す程の勢いで目を輝かせた。
頷く俺。やっぱりこの感覚は知ってる。
テネシンの時、あのツンデレ精霊に召喚された時と同じ感覚だ。
って事は――と思った次の瞬間。
あふれ出す光に包まれて、目の前が真っ白になった。
そして光が収まった後――。
「こんにちわー」
目の前に、ふわふわした感じの女がいた。
小柄で体つきは 豊満(、、) 寄り。
胸が服の上からでも分かるくらい、俺が異世界に来てから出会った相手のなかで一番大きい。
エミリーとは違う意味で母性にあふれる女だ。
「あんたがカルシウムか」
「うん、私がカルシウム。よろしくねー」
ふわふわとした喋り方をする精霊だ。
性格も、はっきりと今までのどの精霊とも違う。
「牛乳、のみますかあ?」
そう言ってカルシウムはドン! と牛乳を出してきた。
その量たるや――プール一杯。
仕切りこそないがプールのサイズくらいの立体に形を保たせられた牛乳が精霊の部屋に出た。
「そんなに飲めないから」
「じゃあお風呂入るー? 牛乳風呂、人間さんは好きだって300年前に聞いたことがあるよー」
「それは人間の中でも更に一部だけだから」
牛乳風呂なんて絶対に入らない。
そもそも固まるとぱりっとなる上、乾くと臭くなるのがはっきりと分かる代物だ。
それで風呂にするなんてどう考えてもあり得ない。
「うーん、それはこまったー」
カルシウムは頬に人差し指をあてて、微かに首をかしげた。
糸のように細い目の間で皺をつくって、本当に困ってるように見えた。
「困ってることを教える」
フンス! って感じでイヴがカルシウムに迫った。
ここぞとばかりにだ。
イヴの目的、それを考えればカルシウムがはっきりと「困った」って言ってる今が押し時だ。
「お礼をしたいのー」
「お礼?」
「うん、今のでね、カルシウム、全部のジャンルを制覇したんだ」
「制覇……? ああ、そういえば全種類があるように変えたな」
ドロップのステータス、その五種類。
植物
動物
鉱物
魔法
特質
その五種類を、カルシウムの1から5階に全部一種類ずつ配置した。
誰にも言ってないが、エルザの為だ。
セレストもイーナも、エルザの事を高く評価している。
それはきっと正しい。多分エルザの買い取り屋――商売人としての能力はすごく高い。
それが高い人間には、負荷を掛けるべきだ。
例えばイチロー。
あのクラスの天才なら、日本球界に慰留するんじゃなく、世界最高峰の舞台であるメジャーに送り出した方がいい。
才能や能力が圧倒しているのであれば、より難しい環境を作り出した方が絶対に輝きが増す。
それと同じで、俺はエルザに負荷を掛けるべく、カルシウムに「全種類」を揃えた。
そしてそれは、カルシウムにとって――
「はじめてなのー。一つのダンジョンに、全部があるの」
自慢げに胸をたゆゆん! と張るほどのことらしかった。
「そうなのか?」
「うん、全部あるのはカルシウムだけ。みんなに自慢出来ることなのー。だから、お礼したい」
「なるほど」
頷く。
それが実際の所どうなのかは分からないが、話は分かった。
「じゃあ精霊付きに。イヴにあんたの名前を名乗るのを許可してくれ」
「ウサギはカルシウムになる!」
「そんなのでいいのー?」
「ああ」
頷くおれ、更にフンス! と鼻息を荒くさせるイヴ。
「わかったー」
カルシウムは俺たちの申し出を快諾した。
こうして、イヴも精霊付きに。
イヴ・カルシウムを名乗れる精霊付きになった。