作品タイトル不明
349.息をするようにソロる亮太
ミノタウロスが消えて、ダンジョンが通常の空気に戻っていく中、俺はミノタウロスがドロップした物を拾い上げた。
「……プラモ?」
ダンジョンマスター・ミノタウロスがドロップした物だから相当の物だって予想してたのに、拾い上げた物のしょぼさに思わず戸惑った。
手のひらに載るサイズの、プラスチックに似た質感の牛だ。
つまり牛の模型。
手のひらに載せたままマジマジと眺める。
これってバイコーンとか、ニホニウムの三種の神器とか。
そういうのと同じように、何か由来でもあるんだろうか。
「身替わり」
「うぉ!」
後ろから声がして、飛び上がる位びっくりした。
ミノタウロスで気絶したイヴがいつの間にか起きて、俺の真後ろに立っていた。
「起きたのか、いや大丈夫なのか?」
「……」
イヴは無言で俺の額にチョップした。
いつもなら「低レベル嫌い」ってセットで飛んでくるチョップだが、無言のそれはびっくりする位痛くなかった。
なんとなくその事には触れない方がいいかな、そう思って話をそらした。
「そういえば身替わりってどういうことだ?」
「それはすごく貴重」
「へえ?」
「持ってると、どんな攻撃でも一回引き受けてくれる」
「どんな攻撃でも?」
イヴはこくり、と静かにうなずいた。
「持ってると、世界が滅んだ時も生き残る」
「なるほど、どんな攻撃でもか」
イヴの説明が本当なら、いわゆるハルマゲドン級の攻撃でも凌げるって事だ。
それはつまり。
「正攻法だと、ミノタウロスは常に14回倒さないといけないってことか」
アブソリュートロックの石とか、特殊アイテムがドロップされた場合、元のモンスターの特性をそのまま、あるいは一部持つ事がある。
が一つだけ確かなことはある。
アイテムの方が、オリジナルよりも弱いってのは今までなかった。
つまり、ミノタウロスの命のストックも、一発ごとに何でも受けられるって思った方がいい。
この先の攻略法は――なんて考えていると。
「売るとすごく高い」
「そうなのか?」
「ニンジン一年分」
「それは高いのか?」
「ウサギの一年分」
「そりゃ高いわ!」
イヴはニンジンの時に限って、胃袋が異次元レベルな大きさに変わる。
いつだったか密かにカウントした時、一日でニンジン50キロを胃袋に収めていた。
ウサギと言うより象レベルだ。
それの一年分って考えればかなりの値段だ、だが納得でもある。
が、これはアイテムとして使うでも、換金するでもない。
「孵すぞ」
「……」
こくり、と頷くイヴ。
高価で強力なアイテムだが、今はこれを使って自由自在にダンジョンマスターを出すことが最優先だ。
牛の模型を地面に置いて、距離を取る。
少し待って、新しいミノタウロスに孵った。
初っぱなからの咆吼、殺意を剥き出しにしてる。
斧を振りかぶって、こっちに突進してきた。
迎撃。
クズ弾――いやもう名前を変えよう。
物理攻撃を完全に弾くことが出来る――鉄壁弾を振り下ろされる斧の軌道上に撃った。
ミノタウロスの豪腕が振り下ろしてくる斧を、鉄壁弾が完全に弾いた。
二丁拳銃全てに鉄壁弾を詰め込んだ。
体感の推定ではパワーS、速度はCって所だろう。
そんなミノタウロスの攻撃全部に、軌道を読み切って鉄壁弾をおいてきた。
攻撃をことごとく弾いた、ミノタウロスの動きが完全に制限される。
時間稼ぎ。
ダンジョンマスターを出したまま時間稼ぎ。
豪腕だが物理オンリーのミノタウロスを完封したまま、時間が経過。
フィリンの時でさんざん経験した、モンスターが変化する程の時間を待った後。
「リペティション」
と唱えた。
MPがほとんど持ってかれる虚脱感とともに、ミノタウロスが消えて牛の模型がドロップ。
「うん、これならすっ飛ばせる」
リペティションがきくことにホッとした、これから何度も倒す事になるから、いちいち14回倒すのは面倒臭すぎる。
今回に限って、ミノタウロスはリペティションで片付けることにしよう。
それよりも、結果だ。
ミノタウロスがいなくなって、通常の空気に戻ったダンジョンの中を歩いて回る。
「いた」
モンスターとエンカウントした。
天使なのは変わらないが、前のと少し見た目が変わっている。
その天使が襲いかかってくるのを、リペティションで迎撃。
天使の突進は止まらない、リペティションが効かない。
前に一度倒した事があるカルシウム4階の天使、しかしリペティションは効かない。
それはつまり、品種改良がひとまずは成功したと言うことの証拠だった。
それは良いのだが。
「……」
出番がなかったイヴが、俺の背後でぶすっとしていた。