軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

344.恒例行事

ハセミのダンジョン協会、会長室。

部屋の主であるアーロンに、俺は仲間のエミリーとセレストの二人を連れて訪ねて来た。

ダンジョン掃除、その計画を一通りアーロンに話すと、彼はものすごく驚いた顔でエミリーとセレストを見て。

「ま、まさか『聖母』に『獄炎の女王』まで来てくれるとは」

「聖母?」

エミリーを見る。

エミリーは困った顔をした。

「獄炎の女王?」

セレストを見る。

セレストは大人びた笑顔で静かにうなずいた。

「二人の異名か」

「私よりエミリーの方が多いけどね。『小さな巨人』『豪腕の聖母』『一振りで岩が粉々になったんだけどマジで』。色々あるのよ」

「なんか聞いたことあるなそれ」

「そ、それを言われると恥ずかしいのです」

「まあいいじゃん、格好良くて。それに『聖母』なんてエミリーのためにあるような言葉だしな」

「他にもステータスが存在してるなら、エミリーはさしずめ料理A、優しさA、ママAって所ね」

「ママAか、いいな」

むしろママSだろ。

部外者のアーロンがいるからそうとは言わないが。

エミリーはますます困り顔になった。

ただの本当のことなんだが、これ以上言うと彼女が困るのでやめとこ。

「ってことで、エミリーとセレストがストックを減らしたらいつも入ってる冒険者を投入してくれ。ドロップした分はこっちが買い取る」

「分かりました――ありがとうございます!!」

アーロンは立ち上がり、俺たちにむかって深々と頭を下げた。

ダンジョン協会の建物を出て、寂れた街中。

そこで向き合う俺とエミリーとセレスト。

「というわけで、悪いが頼む」

「任せて。予報はこのさき一週間魔力嵐がないって言ってるし、やれるだけやるわ」

「うん、本当にありがとう」

「あの……ヨーダさん」

「どうした」

「さっきからこっちを見てる人がいるです」

そう話すエミリー、視線は俺じゃなくて反対側を向いていた。

そっちを見ると、離れた先の物陰で、こっちをじっと見ている男の姿が見えた。

男はじめっとした、暗い目をしている。

「お知り合いなのです?」

「そういう雰囲気じゃなさそうね」

「ランドルって男だ」

ハセミに初めて来た時、アーロンに紹介された買い取り屋の青年だ。

そいつが今、暗い瞳で俺をじっと見つめている。

「逆恨みね」

「ヨーダさん、大丈夫なのです?」

「大丈夫だ、今までもちょこちょこあった事。それよりも」

俺はランドルから、エミリーとセレストの二人に目を向けた。

真っ直ぐ、仲間の二人を見つめる。

「この街を救いたい。まずはダンジョンだ」

二人は俺を見て、周りの寂れた街並みを見て。

「そうね、こっちの方を優先すべきね」

「任せるです!」

二人はそれぞれの言葉で、やる気になってくれた。

夜のハセミの街。

寂れた街の一角の屋台に来ていた。

隅っこの席を取ってもらって、料理をいくつか注文する。

その料理が運ばれてくるまでに周りを眺める。

離れたテーブルで男が四人、サイコロを使った賭け事をしていた。

ルールはよく分からないが、そこそこ熱中して、テーブルの上に置かれた金がいったり来たりしている。

割と、コスパの高い遊びかもしれない。

「悪いねお客さん、ああいうの嫌いかい?」

頭の上から声が聞こえてきた。

見ると、屋台の店主が注文した料理を運んできた所だ。

「いや、そんな事はない。何をしてるのかって純粋な興味本位なだけだ」

「そうか。この街にゃもともと娯楽が少なくてね。最近は景気も悪くなったせいで、娯楽を提供してくれる人達が真っ先に逃げ――じゃない、越してったのよ」

「いなくなったのか?」

「そういうのは余裕がないとねえ。寒村にパン屋が建つ可能性はあるけど、ケーキ屋はどうやっても建たないでしょ」

「なるほど」

店主は苦い顔のまま、料理を置いて屋台にもどっていった。

サイコロで賭け事してる客達を見る。

ハセミの状況、そこまで悪くはないが、未来も見えない。

そんなところか。

俺は料理をそこそこにかっ込んで、金を払って、屋台をたった。

灯りがほとんどないハセミの街を適当に歩き、人気の無い所まで来ると。

目の前に数人、背後からも数人。

覆面マスクで正体を隠した男達が俺を取り囲んだ。

そこそこの殺気を放っている。

やっぱりなあ。

というか、芸が無いなあ。

昼間のランドルを見た瞬間、こうなる予感がしていた。

今までも何度かあった、俺が邪魔で、いっそ消してしまおうと刺客を放ってくるのが、今までもあった話だ。

それは予想してた。

だからこうして一人で動いて、誘い出した。

カルシウムの事が進んでから横やりが入るとやっかいだからな。

片付ける、そして威嚇するなら今のうちにだ。

刺客は無言で俺に飛びかかってきた。

無駄なやりとりをしないという意味ではかなりのプロかもしれない。

俺は気を引き締めて、二丁拳銃を抜いた――

バキッ!

ドカッ!!

グシャアアア!!!

次の瞬間、まったく動いてない俺の代わりに、何者かが割り込んできて、刺客達を瞬殺した。

「――イヴ!」

やったのはケモミミのバニーガール、イヴだった。

「どうしてここに。そうか、イヴも読んでたのか」

「違う。ニンジンのため、低レベルをつけてた」

「……なるほど、今回はやる気だもんな」

静かにうなずくイヴ。

俺にくっついて、何かが必要な時に手を出すって事か。

「にしてもすごいな、三人を瞬殺するなんて」

「たいしたことない。0.01低レベルもない」

「俺が単位か」

「ニンジン一本分」

「それは多いのか少ないのか!?」

イヴは、地面に倒れ呻いてる刺客達を見た。

「どうする」

「うん?」

「ウサギが、なんとかした方がいい?」

「その『なんとか』の響きがものすごく怖いんだが」

「ウサギは残虐」

「知ってるよ! 子供とかかみ殺すんだろ!」

小学校の頃、飼育委員会のトラウマが蘇ったぞ。

涙目になるのをちょっと我慢して。

「いいよ、何もしなくて」

「いいの?」

「示威行為にはなったから、もうどうでもいい。今はそれよりもハセミとカルシウムを助けるのが先だ」

「わかった。ウサギ頑張る」

「頼りになるな」

ハセミの街、ランドルの買い取り屋

その一番豪華な部屋のなか、ランドルは部下からの報告を受けた後、ドン! テーブルを叩いた。

上質なテーブルがへこみ、手が裂けて血が出る。

「眼中にすらないって言いたいのか……舐めやがって……」

ランドルは、血管がぶち切れそうになるほど、青筋をヒクヒクさせていた。