軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

323.新生、ニホニウム

夜、仲間が皆それぞれの部屋に戻っていった後の時間帯。

風呂から上がった俺が部屋に戻る途中で、サロンに通りかかったところ、一人っきりでいるニホニウムを見つけた。

彼女は一人っきりで、窓の外を眺めている。

背中姿なのに哀愁漂っている。

「どうした」

声をかけつつ、サロンの中に入った。

「リョータさん……」

「浮かない顔をしてるけど、何かあったのか?」

「……テネシンの事を考えてました」

一呼吸ほどの間をおいてから答えるニホニウム。

「テネシン?」

「人がたくさん増えて、本人嬉しそうだと聞きました」

「ツンデレってるけどな。今日も『お礼とかじゃないんだからな』ってフォアグラ一年分届いたよ。どういう計算で一年分なのかはわからないけど」

何々一年分を一気にもらって困らないのは鏡餅くらいだから、かなりの量のフォアグラを一気にもらった俺も実際に調理するエミリーも困っていた。

「それでも、嬉しそうです」

「……ありがとうな」

「え?」

「ニホニウムのおかげだ。あんたがいなかったらテネシンの希望通りにしてやれなかったかも知れない」

「……」

「マーガレット・テネシンなんて形になったが、本当はニホニウム・テネシンの方がいいくらいだ」

それだと周期表の暗唱になるけど、という言葉は喉の奥に飲み込んだ。

「私にもああしてくれるのですか?」

「そのつもりだ。アウルムに今止められて無ければするつもりでいた」

「……無理ですよ」

ニホニウムは寂しげに微笑んだ。

自嘲する様な、そんな笑み。

「なんでだ?」

「テネシンのモンスターを止めている間色々考えました、そして気づきました」

「……」

「私は人を苦しませたい。苦しんで欲しい。それはきっと、何があっても変わりません」

言いながら、徐々にうつむいていくニホニウム。

多分本音だ、そしてそう考えてしまう自分がいやだ。

そんな風に見えた。

「……例えばさ、俺を苦しませようとしたらどうなる?」

「え?」

「やってみるか。ダンジョンはある程度自分で変えられるんだよな。そしたら俺が一階から入るから、俺を苦しませるようにやってみよう」

「やめろとは言わないのですか?」

「とりあえずは俺に」

不思議がるニホニウムをまっすぐ見つめ返してそう言い切った。

その直後に、表情を変えて、おどけた顔で。

「直前の例もある、実際にダンジョンに入ったらあんたがツンデレってサービス満点になるかも知れない」

「そんな事ないです」

「それは残念だ。でも、そうだとしてもさ」

「だとしても?」

「まずは、俺」

「まずはあなた?」

「苦しめられるのが俺ならなんの問題もないからな」

「……」

肩をすくめて、おどけるように言う。

ニホニウムはしばし俺を見つめてから。

「どうなっても知りませんよ」

と言ったのだった。

ちなみに、「苦しめられるのが俺だけなら問題ない」という発言は、偶然通りかかったエミリーに怒られて、メシ抜きの刑を言い渡されたのだった。

翌朝、ニホニウム一階。

先にダンジョンに戻ったニホニウムの後を追いかけて、俺は転送部屋じゃなくて、玄関から出て街の外に出て、正規の入り口からダンジョンに入った。

「むっ」

空気が違っていた。

前に来たときと違う、慣れ親しんだニホニウムの空気じゃない。

それに、体も重い。

手を開け閉めして、にぎにぎする。

体に感じている違和感の正体を探った。

パンチを放つ、遅かった。

ボクシングのシャドーを見よう見まねでやる、動きが鈍かった。

二丁拳銃をパッと抜き放つ――。

「……ない」

すっかり相棒になって、もはや体の一部と言ってもいいくらい馴染んだ二丁拳銃がなかった。

いや、二丁拳銃だけじゃない。

銃弾も無かった。

アブソリュートロックの石を始めとする装備も全部なかった。

丸腰。

いつもは持っている武器やアイテムが何一つ無かった。

「……もしや」

思うところがあって、一旦外に出た。

入ったばかりだが、すぐにダンジョンの外に出た。

体の違和感が消えた。

シュッシュ! と見えない程速いパンチを繰り出し、思いっきり早く動くと残像が出来た。

二丁拳銃も銃弾も他の装備もいつの間にか戻っていた。

「能力もアイテムも初期化するダンジョン、か……」

それに似てるのを俺はよく知っている。

ニホニウムの宣言通り「どうなっても知らない」くらい苦しめられそうだが。

「やりがいがあるな」

俺は、もう一度ダンジョンの中に足を踏み入れた。