軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

03.SランとAランの壁

次の日、テルルの地下一階に一時間くらい潜ったあと、ドロップしたもやしを担いでシクロの街に戻って、お世話になってる買い取り屋「燕の恩返し」に持ち込んだ。

燕の恩返しはこの日も大盛況だ。

この世界では全ての物がダンジョンのモンスターからドロップされる。

俺が元いた世界でいうところの第一次産業――「原材料を生産」にあたるのがダンジョンと冒険者、そしてこういう買い取り屋って訳だ。

街はほとんどダンジョンの近くに集まって、街には冒険者と買い取り屋があふれかえってる。

それがこういう盛況を作り出してる。

よくよく考えたら面白い光景とシステムだ。

そんな事を考えつつ、買い取りのために開いてるカウンターを探す。

ちょうど一組の買い取りが終わって、カウンターが空いた。

俺はそのカウンターに向かった、何回も買い取りを担当してもらった、もはや顔なじみの店員、エルザ・モンスーンが笑顔で俺を出迎えた。

「いらっしゃいませ。今日も大漁だったみたいですね」

「そこそこさ。頼むよ」

「はい、ちょっと待ってくださいね。えっと、サトウ・ヨータさん」

「亮太だ」

「ああっ、ごめんなさい。リョータさんの名前他のみんなとちがって、難しいんですもん」

「わるいな」

「いいえ、こっちこそごめんなさい」

エルザはペロッ、と舌をだすイタズラっぽい笑顔をして、カウンターの上に置いた袋の内容を確認した。

量をはかって、金額を計算する。

「はい、えっと……全部で1967ピロですね。リョータさんいつも大量に持ち込んでくれますから、2000ピロにサービスしてあげます」

「ありがとう。でもやっぱりもやしだから大した金にはならないな」

ダンジョンに潜った時間を考えると時給は1000ピロとちょっとだ。

ピロの価値は大体円と同じだから、いいといえばいいし、悪いといえば悪い。

……サビ残が月平均100時間だったあの頃からすれば天国だけどな。

「テルルの地下二階に行ってみるかな。地下二階はどんなんだっけ」

「モンスターは眠りスライム、ドロップはニンジンですね」

「ニンジンか……」

俺はその光景を想像した。

スライムを倒して、アイテムとしてニンジンがポン、とドロップされるのを。

シュール過ぎる。

シュール過ぎるけど、これがこの世界の「あたりまえ」なんだよなあ。

「他のダンジョンはどうですか? 地下一階でも、他は全部テルルより稼ぎがいいと思いますよ?」

「他のダンジョンってどんなのだっけ」

「シリコンとか、アルセニックとか、色々あるんです」

「面白い名前ばかりだな」

「そうですか?」

小首を傾げるエルザ。

まあ、そこにすんでる住民にとっては普通なのかもな。

「あっでも、最近生まれたダンジョンの名前は難しくて、ちょっと言いにくいです」

「生まれた? ダンジョンって生まれるものなのか?」

「はい、時々生まれますよ?」

またまた小首をかしげて、「あたりまえじゃん?」みたいな顔をするエルザ。

そうか生まれるのか。

「どんな名前なんだ?」

「えっと、ニポ――じゃなくて、ニホニウム、っていうみたいです」

「ニホニウムか、言いやすいな」

「そうなんですか」

なんというか「俺がかんがえたさいきょうのげんそ」って感じの名前で、妙に親近感が湧く。

「ドロップは今、ネプチューン一家が調べてるからすぐに分かりますよ」

「ネプチューン一家?」

「しらないんですか? シクロで一番力のある組織です、植物ドロップAが五人もいるすごい集まりなんですよ」

「へえ、じゃあすごい野菜とか果物とか持ってくるのか?」

「すごいのはすごいですけど、うちには持ってきませんよ」

エルザは苦笑いした。

「なんで?」

「量が多いし、高価な物もあるから。聞いた話ですけど、この前一玉五万ピロのメロンを何百個も一気にダンジョンから持ってきたみたいです。一家総出の大ミッションだったみたいですね」

「ほえー」

すごい話もあったもんだな。

つか一個五万ピロのメロンってどんなんだ? 夕張メロンとかマスクメロンとか、ああいう高いやつか?

そんな風にエルザと話し込んでたが、ふと、後ろがつっかえてることに気づいた。

同じように買い取りを持ち込む冒険者達がみんな渋い顔をしてる。

おっと、これはまずいな。

「ごめん話しこんだりして。俺はこれで。また明日」

「あの!」

「ん?」

きびすを返して店を出ようとしたら、エルザに呼び止められた。

立ち止まって振り向く、彼女は何故かもじもじしている。

「どうかした?」

「リョータさんは! び、ビールとか好きですか?」

「ビール?」

「はい。そこの角に最近できたお店があって、ランタンっていうダンジョン直送の美味しいビールを出してくれるんです。も、もしよかったら今日一緒に行きませんか!」

「ビールか……」

迷うなあ。

ビールは嫌いじゃない、むしろお酒の中じゃ一番好きだ。

好きなんだけど……今の全財産は2000ピロだ。

飲みに行けるほどの持ち金じゃない。

それに、家でエミリーが待ってるしな。

「わるい、今日は遠慮しとくよ」

「そうですか……」

「じゃ、またな」

「あっ、ちょっと待ってください。これ」

今度こそ立ち去ろうとしたが、またまた呼び止められた。

エルザはカウンターの裏からチケットの様なものを取り出して俺に渡した。

「これは……クーポン?」

「はい! 次回だけ5%増しで買い取り出来るクーポンです」

「こんなのがあるのか」

「はい」

エルザはウインクをして、イタズラっぽい笑みを浮かべる。

「これからもうちをいっぱいひいきにしてくださいね」

「わかった、ありがとう」

エルザに手を振って店を出た。

表は店の中に勝るとも劣らない程多くの人々が行き交っていた。

五つのダンジョンを持つ、農業都市シクロ。

ダンジョンのモンスターがほとんど植物をドロップするから、そっちのドロップが高い人間が集まってくる街で、今も数万人がここで生活している。

純粋な住民と、ダンジョンにもぐって野菜を生産してくる冒険者。

この二種類の人間が自然と混ざり合う、不思議な街並み。

夕食用に何かもやしと合う食材を買って帰ろう、2000ピロ以内で。

そう思いながら、街をぶらつきつつ、家路についたのだった。

燕の恩返しの中、切なげな顔でドアを見つめるエルザと、隣のカウンターにいる同僚のイーナ。

「残念、フラれちゃったね」

「ふ、ふふふふふられてないし。というかそういうのじゃないし!」

「あははは、隠さない隠さない。そんな顔をしてたらバレバレだから」

「そういうのじゃ……ないし……」

「一つだけアドバイスしよう。ああいう仕事人間っぽいのは飲みにさそったら飲みだけでおわるから、違う誘い方をするか、ちゃーんと言葉にしないと伝わらないよ」

「だから――」

「あっ、お客さん来た。いらっしゃいませー。わあイヴちゃん、今日もすっごいいっぱい持ってきたね」

イーナは今し方入って来た、カートを引く小柄なバニーガールの接客に向かった。

一方的に指摘され、取り残されたエルザは。

「ちがうし……全然違うし……」

と、またまた切なげにつぶやくのだった。

家に戻ってきた。

シクロの街の寂れた場所にある、築87年の安アパート。

ドアに手をかけて、とまる。

中から人の気配がする。

ごめん嘘ついた。気配が分かるのは言いすぎだ、そんな達人じゃない。

安普請のアパートで、外にいても中のバタバタしてる足音がきこえるのだ。

中に人がいる、エミリーだ。

それはいい、いいんだが。

……どうしたらいいんだ?

よくよく考えたら、誰かがいるうちに帰るのは数十年ぶりだ。

どうすればいい、ただいまって言えばいいのか?

あー……うぅ……。

ええい!

考えててもしょうがない! とにかく中に入ろう。

「た、たりゃひっ――」

ドアをあけて――かっこわるくも盛大に噛み倒してしまった。

百年の恋がいっぺんにさめかねない、かっこわるすぎる噛み方だ。

「お帰りなさいです」

エミリーはニコニコしながら俺を出迎えた。

「た、ただいま」

今度はつっかえたけど、なんとか言えた。

「はい、お帰りなさいです」

「今日何を――って、なんか部屋がすごく綺麗になってる?」

「はい、お掃除しました」

「お掃除って……そういうレベルじゃないぞ」

そう、そういうレベルじゃない。

壁は真っ白、床はピカピカ。

朝出かける前はゴキブリ大戦争が起きてもおかしくなかったくらいぼろっちかったのが、今はまるで新築かってくらい綺麗になってる。

これじゃ掃除というよりリフォームだ!

「ダメだったですか? お部屋をお掃除するのはじめてですから、ついついはりきっちゃったです……」

「いや、まずいって事はない。むしろすごい」

「そうですか!」

シュンと沈みかけたエミリーの表情が明るくなった。

しかし……すごいなあ。

部屋の中にはいって、隅々まで細かいところをチェックする。

一つだけある窓の枠を指でなぞってみた――つるっと滑った!

どんな意地悪な姑でも文句がつけられないくらい綺麗だ。

もうひたすらすごい、すごいって言葉しかでない。

「はい、ヨーダさん。タオルどうぞ」

「タオル?」

エミリーが差し出したのは熱い蒸しタオルだった。

それを受け取って、自然に手をふいて顔もふく。

すごくさっぱりして気持ちがいい。

「これは?」

「一日ご苦労様です。お茶もありますけどどうですか?」

「お茶まであるのか!?」

なんかすごい、至れり尽くせりとはこういうことをいうんだろうな。

エミリーのおかげで、帰宅してからずっと気持ちいいのが続いた。

その分エミリーがせわしなく動いていた。

「エミリー、そんなに色々いいから、休んだらどうだ? つかれただろ」

「おうちの中でなんかデキるの新鮮でたのしいです、全然つかれてないです」

「はあ。ならいいけど」

エミリーは自己申告通り、本当に楽しそうで、終始ニコニコしていた。

まあ、そういうことなら好きにさせとくか。

「そういえば、新しいダンジョンが生まれたってな。ニホニウムっていう」

「それ、私も聞いたです。なんかダメなダンジョンみたいです」

「ダメなダンジョン?」

「いろんな人が調査に行ったんですけど、全然何もドロップしないダンジョンみたいです。他の街からも応援を呼んで、いろんなドロップAの人もたくさん行ったですけどやっぱりなにもドロップしないみたいです」

「へえ、そういうのもあるのか」

「あるですよ。クロムってダンジョンがあるですけど、同じように何もドロップしないです。でもそこのお水は美味しくてそれを売る人もいるので、ドロップが水だって言う人もいます」

「なるほどな……」

ドロップしないダンジョン、ニホニウムか。

ちょっと気になるな。

次の日、いつもどおりテルルの地下一階に行くエミリーと別れて、俺はニホニウムに向かった。

あれこれドロップするこの世界のダンジョン。

ビールとかワインとか、焼酎とか、アルコールだけをドロップするダンジョンもあるし、肉は肉でも霜降り肉ばかりドロップするから荒くれ者集団に独占されてるダンジョンもある。

ダンジョンがあらゆる物をドロップするこの世界で、何もドロップしないというのが逆に興味をそそった。

ダンジョンにやってきて、中に入った。

テルルの地下一階とは違って、鍾乳洞のような、天然の洞窟って感じのダンジョンだ。

中には人気もなく、能力をチェックできるナウボードもない。

多分なにもドロップしないから、そういうのを取り付けないんだな。

なんというか、生まれたばっかなのにこの放置されっぷりが本当になにもないって証明しているようでもある。

まあいい、実際にみてみるだけだ。俺でも――ドロップSでも何も出ないならテルルに戻ってエミリーと合流するだけ。

さて、どんなモンスターがでるかな?

しばらくダンジョンの中をぶらつくと、モンスターが現われた。

現われたのは人間っぽい姿の、しかし服がぼろぼろで、骨しかない様なモンスター。

名前は多分スケルトン、そういうモンスターだ。

スケルトンに攻撃をしかけた。

狙いをつけて、竹槍でスケルトンの体をつく。

ボロボロの服を貫通したが、骨には当たらなかった。

竹のヤリをぬいて、必死に避けて、横合いから今度は頭を突き刺した。

全力の一撃、竹のヤリは頭を貫通した。

そのままケリをいれて、竹のヤリでメッタ突き。

あっちこっちの骨を破壊されたスケルトンはよろめき、膝から崩れ落ちて、地面に倒れる。

動かなくなって、そのまま消えた。

ふう……。

そしてドロップは……おっ?

スケルトンがいたところに種みたいなものが落ちてた。

これがドロップなのか?

そう思って、種を拾い上げると――触った瞬間すぅと溶けた。

アライグマが綿菓子を水の中につけたのと同じように溶けてなくなった。

どうしたんだ? どういうことだこれ?

そんな事を思っていると。

――HP最大値が1あがりました。

どこからともなくそんな声が聞こえてきたのだった。