軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

270.リョータのブロマイド

次の日、屋敷の転送部屋を使って、プルンブムの所にやってきた。

「おはよう」

「あっ……」

声を掛けると、それまで下を向いて何かを描いていたプルンブムが顔を上げた。

俺の姿をみると、嬉しそうに微笑んだ。

「待っておったのじゃ」

「何を描いて……ああ」

近づいて彼女の手元をのぞき込むと苦笑いした。

プルンブムが描いてたのは俺。

俺なんだが……俺であって俺じゃない。

リョー様。

アウルムとアリスが名付けた、ダンジョンマスター・リョー様だ。

「そなたがいない間、これで 無聊(ぶりょう) を紛らわせていたのじゃ」

「そうか。それなんだが、頼みがあるんだ」

「なんじゃ? ほかの誰でもないそなたの頼み、妾に出来る事ならなんでも叶えるのじゃ」

微笑むプルンブム。心苦しいがそう言ってくれると助かる。

因果関係は直接確認してないけど、多分間違いないと思う。

ダンジョンの精霊である彼女がこうして描いてる影響で、ダンジョンマスターの見た目は「リョー様」に変わった。

ならば、彼女がこうして描いてる俺の見た目をかえればいい。

ダンジョンマスター・リョー様よりも、ダンジョンマスター・佐藤亮太の方がいくらかマシだ。

りょーちんとかでもいい。

「もっとこう、普通に描いてくれないか」

俺は言葉を選んで彼女に頼んだが。

「普通? 妾は見た目通り描いてるだけじゃが?」

「ふぇっ!?」

びっくりしすぎて変な声が出てしまった。

見た目通り描いてるって……見た目通り?

俺は彼女が描いた リョー様(俺) を改めて見た。

さらさらヘアーに、キラキラ瞳。

背後だけじゃなくて口にまで薔薇をくわえているこれが見た目通りだって!?

「……そ、そうか」

その瞬間、俺は察した。

ああ、これは何を言ってもどうしようもないパターンだって。

もう彼女の好きにさせよう。

「ふふ……」

何しろプルンブムは俺と、彼女自身が描いた「俺」を交互に見比べて嬉しそうにしてるんだ。

最初にあった時のギスギスでやけくそな時に比べれば全然いい顔だ。

なら、止める事は出来ない。

「頼みというのはそれでよいのかえ?」

「ああ、それでいい」

「ならば、今度は妾の頼みを一つ聞いてたも」

「なんだ?」

「手を……握らせてくれ」

「手?」

俺はまず自分の手をじっと見てから、彼女に差し出した。

握手でもするのか? それとも指をからめての恋人繋ぎ?

展開を予想したが、どっちでもなかった。

プルンブムは俺の手をまるで確認するかのように、握ったりいじったりしてみた。

まるでその形を確認するかのように。

「何をしてるんだ?」

「実はのう、手がどうしても上手く描けないのじゃ。だからそなたの手を実際に触ってみて、それで描けるようにならないか、とおもってのう」

「なるほど。確かに手は難しい」

俺は絵が苦手な方だ。

子供の頃から思春期に教科書の隅とか、ノートで落書きをした事があるが、人を描く時は常に手はポケットの中か背中に組んでる。

手はまったくかけない、と言っていい。

だからプルンブムの「手は難しい」というのにものすごく共感出来た。

プルンブムはしばらく俺の手の形を確認した後、再び絵を描き出した。

ちらっとのぞき込む、今度は全身じゃなくて手だ。

これならば大丈夫だ、好きに描かせよう。

と、と思ったのだが。

「出来たのじゃ」

「色っぽーい!」

プルンブムが描く(多分)俺の手はものすごく色っぽかった。

しなる指先、関節と肉のバランス。

ただの手なのに、そこはかとない色気が滲み出ていた。

ぶっちゃけセクシーだ。

「うむ、実物通りに描けたのじゃ」

「……」

満足するプルンブムに、俺はもう、苦笑いするしかなかった。

午後、プルンブム一階。

俺とテトラミン協会長のデール、そして各買い取り屋や商会の代表者達。

それらが集まって、一人の冒険者が今からする事を見守っていた。

若い女性の冒険者で、露出の大きいビキニアーマーを装備している、典型的な女剣士。

そんな彼女はロングソードを一振り持っている。真新しいロングソードだ。

それをふるって、空中を泳ぐ魚タイプのモンスターを斬る。

斬られたプルンブムのモンスターは倒されなかったが、分裂もしなかった。

「「「おおおおお!?」」」

歓声が上がった。

その場にいる誰もが、分裂しなかった事に向けた歓声だ。

一番近く、そばに立っていたデールが俺の手を取った。

「ありがとうございます! ありがとうございますリョータ様!」

「まだ試作品だけど、上手くいったからこの感じで量産させる事にする」

「はい! ありがとうございます!!」

感激して、俺を握る手に力が入るデール。

女戦士が使っているのは、オルトンに作らせたプルンブム武器の試作品だ。

プルンブムの髪の毛を素材に使ったそれは、このダンジョンのモンスター分裂を防ぐ効果がある。

今までのダンジョンの効率低下を改善する特効薬になる武器だ。

この武器を使えば、プルンブムは普通のダンジョンと同程度の効率で狩りが出来る。

「これなら……テトラミンは昔通りに……」

「いや、昔以上になると思う」

「え? ど、どうしてですか?」

訝しむデールに、俺は彼の背後を指さした。

「なにもありませんが……」

「ないからなんだよ。さっきまでそこに商人達がいただろ」

「あっ……みんないなくなってる」

「金になるって確信したから、みんな一斉に動き出したんだよ。多分準備はしてあるけど止めてて、この結果で一斉に動かしに行ったんだろ」

「なるほど!」

商人ほど機を見るに敏な人種もいないけど、この場合はそれが安心に繋がる。

デールは見るからにはっきりとホッとした。

「本当にありがとうございます」

「気にしないでいいさ。俺は俺がやりたいことをやっただけだから」

むしろ感謝をするべきなのは俺の方かも知れない。

デールが来てくれなかったら、今でもプルンブムはあの空間で怨嗟を振りまいていた可能性が高い。

それをなんとか出来たきっかけをくれたデールに感謝したい。

「あっ」

「どうした」

ふと、試作のロング・ソードで試し切りを続けていた女戦士が声を上げた。

腰を屈めて何かを拾ったが、それを見て困った表情をしている。

どういう事なのかと近づいてみた。

「これ……」

「これって……ぶ、ブロマイド!?」

女戦士が俺に見せたのは写真サイズの絵。

俺が――いやちがう。

リョー様が描かれたブロマイドだ。

「どうしたんだこれは?」

「モンスターを倒したらドロップしたんだ」

「これが?」

「名前は『リョータの威光』あっ……使用アイテムか」

ブロマイドを持ったままの女戦士がハッとする表情をした。

手にとったことで何かを感じたのか?

直後、彼女はブロマイドを「使った」。

するとブロマイドが消えて、代わりに「リョー様」があらわれた。

「なっ――」

ダンジョンマスター・リョー様。

俺はとっさに手を突き出してリペティションをかけようとしたが――気づく。

ダンジョンにモンスターは存在したままだ、ダンジョンマスターの空気でもない。

どういう事だ? と不思議がってたらリョー様が動いた。

もっとも近くにいる、空中を泳いでる魚に攻撃した。

俺をベースにしたリョー様、女戦士よりも遥かに強力な攻撃で、モンスターを一撃で葬った。

モンスターは消えてドロップして、リョー様も消えた。

「ああ……なるほど」

「ど、どういう事ですかリョータ様」

「一度限りの消費アイテムだ」

一人状況を飲み込めていないデールに説明しつつ、再現してみせようとする。

俺はフロアに残った全部の魚にリペティションをかけて、まとめて倒していく。

三十体ほど倒した所で、ブロマイドが一枚でた。

ブロマイドを拾う、消費アイテム『リョータの威光』という名前が頭の中に浮かんだ。

それを使った。

手がとてもセクシーなリョー様が現われて、近くにいるモンスターを一撃で倒して、ブロマイドごとなくなった。

「こんな感じだな」

「すごい! こういう形で出るってことは、リョータ様が精霊に認められたからなんですな」

「さすがリョータファミリーの長だ!」

デールと女戦士、二人は尊敬の眼差しで俺を見る。

たしかに精霊に認められてこうなったのは事実なんだが……。

異世界に転移してきてから何回も「すごい」とか「さすが」とか言われてきたが。

こんなに恥ずかしい「すごい」は初めてだった。

……二人が本気でそう言ってるのが恥ずかしさに拍車を掛けた。