軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

259.社会科見学

テルルダンジョン、地下一階。

俺は休憩所近くで休んでいた。

レイアは屋敷に戻っている。

周回最適化で出した数字を聞きにいったのだ。

カスタムカート屋のオルトンが改造してくれた魔法カートにも集計機能はあるが、アレはあくまで簡易的なもの。

ちゃんとした数字が欲しくて、レイアにおつかいを頼んだのだ。

それで今はこうして、休憩してる。

「みんなー、ちゃんと並んで。遠くへ行くと危ないですよー」

「ん?」

気の抜けた声が聞こえてきた。

声の方を見ると、二十代の若い女が、小学校中学年くらいの子供達をぞろぞろ連れている。

「なんだ? あれは」

「しらないのか?」

近くにいる顔見知りの冒険者が俺の独り言に反応した。

「どういう事だ?」

「街の学校の行事だ、冒険者はだいじな職業だから、こうしてたまに先生がダンジョンにつれてきて見学させるってわけだ」

「なるほど、社会科見学か」

そういうのがあったんだなあ、と、何となく感心してしまった。

「危ないから一階から下へは行かないし、あんたには釈迦に説法だけど、子どもがいるときは巻き込む様な攻撃は控えてくれ」

「ああ、もちろんだ」

顔見知りの冒険者は休憩所に入っていった。

しかし、社会科見学がダンジョンか。

この世界らしいといえばらしいけど。

「あの――こんにちは」

女の子の一人がこっちにやってきて、ぺこり、と頭を下げた。

「こんにちは、なんだい」

相手が子どもだからか、つい言葉使いが優しくなってしまう。

「おじさん、冒険者ですか」

「おじ……ああ、そうだ」

「あの……モンスターを倒す所を見せてもらってもいいですか」

更に別の女の子がやってきた。

新しく来た子も礼儀正しかったが、最初の女の子に比べて気が強そうに見える。

この子なら近い将来ダンジョンで再会しそう。

そう思わせるような女の子だった。

「ああ、いいぞ」

俺は休憩を切り上げて、銃を抜き構えた。

「ありがとうございます」

「ありがとうございます。さっきあそこにモンスターを見かけました」

「いや大丈夫だ。そろそろのはずだ」

「……?」

女の子は小首を傾げた。そろそろってどういう事だ? って顔だ。

俺は銃を構えた、何もない空間に向けた。

周回してると大体分かる、モンスターの復活ポイントと、大体の復活の間隔を。

それに合わせて拘束弾を撃った。

何もない所に銃弾が飛んでいき、ちょうど復活したスライムに命中。

置き拘束弾が命中して、スライムが光の縄に縛られて動けなくなった。

「わっ! すごい」

「近くで見るか? それか倒してみるか?」

「いいんですか!?」

元気な方の女の子は目を輝かせて、拘束されたスライムに向かって行った。

殴ったり蹴ったりしている。

もう一人の女の子は同じようについていって、遠くから石を拾ってぶつけてみる。

仲良し同士だろうか、二人はスライム相手にペチペチやってて、見てて微笑ましい。

俺は拘束を切らさないように気を配った。

女の子はえいえいと実に五分かかってスライムをたおした。

スライムは一つまみのもやしをドロップした、女の子はそれをもって、嬉しそうに

戻ってきた。

「おじさん! もやしが!」

「やったな!」

「はい!」

「ありがとうございます」

女の子たちは花が咲いたような笑顔を浮かべた。

「おい、何やってんだよ」

更に子どもがやってきた。

今度は男の子、ちょっと乱暴そうな感じの男の子だ。

「あのね、この人すごいよ」

「見て、このおじさんのおかげでスライム倒せたよ」

「はん、すごいって、お前らあまいな」

「甘いって何さ」

「おいおっさん」

「うん?」

「おっさんの名前は」

「佐藤亮太だけど?」

「サトウ……リョータ……ふん。ちがうじゃねえか」

「どういう事なのさ」

「いい事を教えてやる、冒険者はな、精霊付きってのが一番すげえんだよ」

「せーれーつき?」

「そうだ。ダンジョンには精霊がいるんだ、その精霊に認められたらダンジョンの名前を名乗れるんだよ」

「そうなの?」

女の子達は俺を見た。

「ああ、本当だ」

「サトウもリョータもダンジョンの名前じゃねえ。こいつはたいした事ないヤツだ」

乱暴そうじゃなくて、生意気な子どもだった。

言ってる事は間違いじゃないが、冷や水をぶっかけられた女の子の二人はシュンとしたり、ぶすっとしたりした。

少しフォローするか、って思っていると。

「やあやあ、久しぶりだねリョータくん」

「その声は……ネプチューン」

「声だけで分かるなんて、僕たちの友情がますます深まったような気がするよ」

「好感度なんてステータスはこの世界にないから平気だ」

やってきたのはネプチューン、いつもの様にランとリルの二人を引き連れている。

「こんな所で何を――ありゃ、子供達の相手かな」

「休憩がてらにな」

「そかそか。子どもは大事だよね、人類の宝だもんね」

「そうだな」

「な、なあ……」

生意気な男の子が俺の時とはまったく違う様子で、ネプチューンに話しかけた。

「うん? なんだい?」

「ネプチューンって、もしかしてあのネプチューン・オキシジンさん?」

「よく知ってるね」

「す、すげえ。精霊付きだぜ!」

男の子のテンションが上がった。

精霊付きを生で見れて大感激って感じだ。

「あ、あの! 握手してください」

「いいよ」

「おれ、冒険者になります! ネプチューンさんみたいなすごい冒険者になりますから!」

「そうか、それは嬉しいね。でもぼくよりも彼を目指したほうがいいな」

「え?」

ネプチューンが俺を指さすと、男の子はきょとんとした。

「なんで……このおっさんを?」

「彼の方がすごいよ。ねっ」

「それはいいけどウインクはやめてくれ」

「あはは、君は相変わらずお堅いね」

「お前が砕けすぎなだけって人から言われたことないか?」

ネプチューンととりとめの無い世間話をした。

気軽に話してくるネプチューン、割と話しやすい相手だ。

「じゃあぼくらはこれで。行こう、ラン、リル」

「うん!」

「待たせすぎよ」

ネプチューン一家は階段を降りて、下の階に向かって行った。

「ふ、ふん!」

「ん?」

ネプチューンがいなくなると、男の子が鼻をならした。

「調子にのるなよ」

「えっと、うん」

どういう事なのかなって思ってると、男の子は一気にまくし立ててきた。

「すげえのは精霊付きなんだからな、精霊付きと友達だからって威張るとかっこ悪いだけなんだからな!」

「……ああ」

なるほどそういう事か。

一瞬なんの事なのか分からなかったけど、要するに羨ましいんだな。

憧れの精霊付き、ネプチューンと俺が親しく話してるの。

微笑ましいな。

「マスター」

「お、戻ってきたかレイア」

背後から声を掛けられた、振り向かなくてもレイアだって分かった。

レイアは俺の前に回り込んできた。

子供達など目にも入らないって感じで、俺だけを見ていた。

普通ダンジョンに子どもがいるとそれに目が行くもんだが……まったく気にも留めないのは実にレイアらしい。

「遅くなってしまって、済みません」

「なんかあったのか?」

「セレンに呼ばれました。無視すると声が頭に響いてマスターの妨げになるので、まずはそっちへいってました」

「そういうことなら仕方ないな」

セレンの呼び出しって事はなにかエッチな事をされたのかもしれないが、レイアは言わないし、俺も聞かないでおいた。

ふと、男の子の表情が目に入った。

彼は愕然とした様子で、レイアと俺を交互に見比べる。

「どうした」

「せ、セレンって。あのセレンダンジョンのことか?」

「ああ」

「もしかしてこの姉ちゃん、セレンの精霊付きなのか?」

「そうだな」

俺が頷くと、男の子はますますびっくりした顔で、目を見開かせた。

「セレン……精霊付き、なのにマスター……えぇ……」

思ってる事が全部口にでるタイプだろう。

精霊付きのレイアが俺をマスターと呼ぶ、精霊付きが俺の部下になってる事に愕然としてるみたいだ。

「リョータ! かーえーろー」

「うわっ! いきなり後ろから抱きつくって誰だ?」

「あ・た・し」

「アウルム!」

背後からタックルする様に抱きついてきたのはアウルムだ。

彼女はミーケを抱きしめたまま、器用に俺に抱きついている。

「どうしたんだいきなり」

「迎えに来たんじゃん。リョータがあたしをダンジョンから連れ出したようにね」

「そうか」

「どう、嬉しい?」

「精霊に迎えに来てもらえるなんて滅多に出来ない経験だな」

「ふふーん」

アウルムは楽しそうに胸を張った。

感情豊かな彼女を見て、連れ出して、そしてミーケを組ませてよかったなと思った。

その、一方で。

「アウルム……精霊……まさか最近噂のアウルム本人!? なんでこのおっさんに!?」

男の子は更に愕然、そしてブルブルと震えだした。

これまたわかりやすい感じで口に出してて、やっぱり微笑ましい。

男の子は俺に目を向けてきた。

口を引き結んで、俺を睨む。

そして。

「――か」

「ん?」

「勝ったと思うなよー!!」

男の子はそんな捨て台詞を残して、身を翻して駆け去って行った。

その後ろ姿を見送りつつ、俺は「頑張れ」と、密かにエールを送ったのだった。