軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

254.リョータの贈り物

ニホニウムダンジョン、地下二階。

特殊弾の火炎弾が切れてしまったから、その補充のためにやってきた。

地下二階に住まうゾンビを、成長弾のレベルあげがてらに、一体ずつ丁寧に頭をぶち抜いていく。

頭をぶち抜かれて倒れたゾンビは力の種になって、ポーチの中に吸い込まれる。

「うーん、特殊弾ももうちょっと楽な補充のしかたがあればいいんだけどな」

作業の合間の小休止、なんとなくぼやいてみた。

弾の補充で一番楽なのは通常弾と追尾弾だ。

通常弾はもやしとか野菜系をハグレモノに、追尾弾はゴミをハグレモノにすれば補充できる。

しかし特殊弾はニホニウムのダンジョンのモンスターからしかうまれない。

通常弾とかは普通のハグレモノからも生産されるものだから、量を揃えやすく、揃えるまでの手間はほとんどない。

それに比べると特殊弾は材料から自分で作らなきゃいけないから、一手間かかる。

……無理だよなあ、ここがドロップする事自体俺にしかできない事なんだから、どうしようもない。

せめて周回のパターンを構築して少しでも楽にできるようにしよう。

そう思いながら、ゾンビを一体ずつ倒していった。

「ん?」

ふと立ち止まる俺、ある方角をじっと見た。

人の気配を感じた。

「このニホニウムに人の気配?」

俺は自分の感覚を疑った。

ニホニウムは何も産み出さない、普通はモンスターをいくら倒しても空気しかドロップしない。

そのため俺以外の冒険者は一切来なくて、唯一の例外が空気箱を生産するマーガレット一味だ。

そのマーガレットも空気を生産するだけだから、地下一階より下は降りてこない。

ここは地下二階、普通なら誰もいるはずがないのだ。

銃を下ろし、深呼吸する。

気を取り直して改めてその方角を見つめると……やっぱりいる。

勘違いとかじゃない、ちゃんと人の気配だ。

ほかのダンジョンで人の気配を感じてもどうもしないしスルーするのだが、ここは違う。

何故こんな所に人がくるのか、それが気になって、俺は種集めを中断して、気配のする所に向かって行った。

いくつかの角を曲がっていくと――。

「――早まるな!」

天井に縄を掛けて、今まさに首を吊ろうとしている男の姿が見えた。

男の首は今にも縄にかかろうとしている。

とっさに銃を抜いて、ぶら下がっている縄を撃ち抜いた。

切れた縄をもったままバランスを崩して、男は地面に倒れ込んだ。

俺は駆け寄った。

「大丈夫か」

「……」

男は俺を見あげて、最初は頷き、直後に首を振った。

「助けなくてもよかったのに」

「そうも行かない。なんでこんな……」

「ニホニウムは人が来ない。ここで死んでも、俺の装備のハグレモノは誰にも迷惑を掛けないから」

「いや、なんでここでって意味じゃなくて、なんで自殺をって聞いてるんだ」

男は再び俺を見あげて、力なく笑った。

「俺はもう、ダメなんだ……」

これはまずい。

放っておく訳にはいかない、と、俺は転送ゲートを使って、彼を屋敷に連れて帰った。

「落ち着いたか」

「……ああ」

頷く男。

屋敷のサロン、エミリーがいれたお茶で体を温めた彼は、あった直後に比べて少し元気が出たように見えた。

エミリーの料理やお茶とかには人を落ち着かせて和む効果がある。

男をサロンに押し込んで、速攻で転送部屋でアルセニックのエミリーの居場所に飛んで、かえってきてもらったのだ。

そのかいあって、

「ありがとう。もう大丈夫だ」

男は自殺の再チャレンジを思いとどまってくれたようだ。

「とりあえず名前を聞いてもいいか」

探り探りで、まずは当たり障りのない話題から入る。

「……マッティアだ」

「そうか。俺は――」

「知ってる。リョータ・サトウ。今一番の有名人だ」

マッティアは自嘲する様に笑った。

「圧倒的な力で度々難事件を解決し、部下に四人もの精霊付きを従える、シクロ最大勢力のボス。俺なんかとは違うすごい男だ」

ほとんどいじけてるかのようにつぶやくマッティア。

「何があったんだ? なんで自殺なんかを」

「もう……どうしようもないんだ」

「よかったら話を聞かせてくれ。もしかしたら力になれるかも知れない」

「……力に?」

「俺は度々難事件を解決してきたんだろ? 話してくれないかな」

まっすぐ、マッティアを見つめた。

なんかほっとけなかった。

彼のような人間を元の世界にいた頃たくさんみてきたせいか、ほっとけなかった。

しばらくして、マッティアがとつとつと語り出した。

「うちのファミリー、新しい事業を始めたんだ」

「新しい事業?」

「ああ。一年くらい前だったかな、飲み会でみんな盛り上がって、せこせこ働かなくても、ダンジョンの各階層、モンスターの一番効率のいい倒し方を見つけて、その方法を冒険者に売り込めば金になるんじゃないか、って」

「ああ、教導隊――いや普通にノウハウを販売するってことか」

マッティアは頷く。

「飲み会の席ではものすごく盛り上がったけど、その時だけの冗談だと思ってたんだ。ところがボスが本気で、翌日本気でプロジェクトをぶち上げて、その時一番近くにいた俺にやれって命令してきた」

「……」

「一年間頑張って、いろんな武器を使って、魔法も使って。ルートとかの最適化もやってみたけど……」

「上手く行かなかったんだな」

更に頷くマッティア、そのままうつむいてしまった。

そりゃ……そうだろ。

この世界では、大勢の冒険者が日夜ダンジョンに潜って、周回している。

ダンジョンの構造とか生息するモンスターはなかなか変わらない、最近変えるための品種改良は「精霊付き二人以上」というルールも出来たくらい、ダンジョンはあまり変わらないように保たれているんだ。

だから冒険者達はほとんどが通い慣れたダンジョンで、自分の動きを最適化している。

新しい最良の方法なんて、そう簡単に見つかる訳がない。

「だが、それでなんで自殺を?」

「一年間やっても結果が出なかったのは俺の責任だって、その損害を弁償するか、いい方法をすぐに編み出せって言われて……」

「おいおい」

ボスの業務命令でやった事で損害を弁償だって?

そんな馬鹿な話があるか。

「それでどうしようもなくなったんだ」

「なるほど」

話は分かった。

そのボスには色々と思うところはあるけど、とりあえずは目の前の事を解決するのが先だ。

「その最適化って、どのダンジョンでもいいのか?」

「え? ああ、そうだけど……あっ、ニホニウム以外で」

「そりゃそうだ」

誰もドロップしないニホニウムの最適化をしても金にはならない。

逆に誰でもドロップする様になる方法だったらメチャクチャ金になりそうだ。

まあ、それはともかく。

「行こうか」

「え? どこに?」

「いいから、ついてきてくれ」

そう言ってそのまま歩き出す。

ちらっと振り向く、迷いながらも、マッティアは立ち上がって、ついてきてくれた。

廊下を進み、転送部屋にやってくる。

転送部屋の機能を使って、行き先を設定する。

光の渦の様な見た目のゲートが出現する。

「行こう」

「え? ちょっとまっ――」

半ば無理矢理に、有無を言わさずにマッティアをゲートの中に連れ込んだ。

やってきたのは、日本家屋の様なダンジョン。

「こ、ここは?」

「ランタンの地下二十階だ」

「ランタン!? ランタンってあのランタン? フィリンにある」

「ああ」

「うそだろ……どうやって……」

「その事はとりあえずどうでもいい。ランタン地下二十階の事は知ってるか?」

「え? ……あっ、新しいワインの」

「そう、俺が品種改良をしたダンジョン、つまり構造が変わったばかりのダンジョンだ。今から俺が周回をしてみせる、それを覚えてボスに提出するといい」

「え? でもそんなの……」

「とりあえず急場凌ぎだ。それにどのみち」

俺はにやりと笑った。

「新しく生まれ変わった階層だ、今の最適でもそのうち更に最適化されるものだ。だから気にするな」

そう言って、マッティアを見つめる。

彼は少し迷った後、俺に深々と頭を下げた。

「ありがとうございます」

俺はフッと笑い、彼を連れてランタン地下二十階の周回をしてみせた。

普段からモンスターを倒す最適化をしてきたから、ネタには困らなかった。

最初にやって見せたのがついうっかりして、能力がSとかSSとかじゃないと無理なやり方だったから、能力をBあたりに抑えるイメージをしてから、別のやり方をして見せた。

それをマッティアが覚えて帰って行った。

数日後、ニホニウム地下八階。

この日はレイアと一緒に、運の能力上げをしていた。

「サトウさん!」

「うん? マッティアか。元気そうだな」

「サトウさんのおかげです」

やってきた彼は、数日前とはまるで別人な、吹っ切れたさわやかさをしている。

「あれからどうなんだ?」

「やめたよ、あそこは」

「やめた?」

ちょっとびっくりした。

「なんでやめたんだ?」

「サトウさんが教えてくれたあれをボスに教えたんだけど、ボスが一人でやったみたいな感じで手柄を横取りされたんだ」

「ああ……」

なんか目に浮かぶようだ。

失敗は部下の責任、成功は上司の手柄。

うん、よくあるよくある……ちょっと殺意が湧くレベルでよくあるな。

「それをやられて、一気にさめたんだ。だからファミリーはやめてきた」

「そうか。おれが言うのもなんだけど、その方がいい」

「ええ。だから今日は――」

マッティアは一歩下がって、深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。と、お礼を言いに来たんだ」

「そうか」

頭をあげたマッティアは、最初にあったときとはまるで別人なくらい、晴れやかな表情をしていた。

問題を解決したとは微妙に言いがたいけど。

「本当にありがとう」

マッティアの顔を見て、これでいっか、とおもったのだった。