軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

232.最善は尽くした

「ただいま――どわっ!」

シクロの街にある我が家。

戻ってきて屋敷の中に足を踏み入れるなり、ものすごい衝撃が来てそのまま尻餅をついた。

「お帰りなさいご主人様!」

俺を押し倒したのは我が家の飼い犬、ケルベロスだ。

動物園のライオンよりも更に大きいサーベラスというモンスター、それにいきなり飛びつかれて尻餅をついてしまった。

ケルベロスは更にペロペロ俺の顔を舐める。

本能丸出しの親愛の仕草、悪い気はしない。

尻尾をメチャクチャ振ってる、犬の尻尾振り、ご機嫌なサインだがサイズがサイズだ。

ちょっとしたこん棒でドッスンドッスンと地面をたたきつけているように見えてしまう。あたったら痛そう。

こんな上機嫌だとしばらくかかるな、と思っていたらいきなりケルベロスの体が浮き上がった。

「メッ! なのですよ」

浮き上がった訳ではなかった。

よく見ればちょっと遅れてやってきたエミリーがケルベロスを掴んで、ひょいと持ち上げていた。

身長130センチのエミリー、傍目から見たら小学生女児って感じの見た目だ。

それが超巨大な――ライオンくらいある犬を片手で持ち上げてる姿はアンバランスでちょっとおかしい。

「ヨーダさんは疲れてるのです、じゃれるのはほどほどにするです」

「うぅ……ごめんなさい……」

我が家の影の支配者・エミリーにしかられたケルベロス。

シュンとしてしまい、それまで乱舞していた尻尾も力なく垂れ下がる。

俺は立ち上がって、尻餅ついた尻をさすりつつ、もう片方の手でケルベロスの頭を撫でてやった。

「後でまた遊んでやるから」

「――うん!」

屋敷のサロン、エミリーとセレストの二人と向き合ってソファーに座る。

穏やかな日差しで、窓を開けて心地よい風が吹き込んでくるのを楽しんだ。

エミリーがいれてくれたお茶を飲む。

「うん! 美味い! エミリーのお茶を飲むとかえってきた感じがするな」

「ありがとうなのです」

「エミリーのいれたお茶にかなわないのは当たり前だけど、向こうではお茶は飲まなかったの?」

「なかったな。フィリンは酒ばっかりだったよ。びっくりだぞ。井戸の中からも酒がでてくるんだ。安い酒なら全部ただ、飲み放題の飲んべえの街だ」

「それはすごいわね」

「そのフィリンでもヨーダさんは大活躍だったです、すごいです」

「噂はもう届いてるのか」

エミリーとセレスト、二人が同時に頷いた。

「ダンジョンマスターを手玉に取って、何回も倒して思う様にダンジョンを作り替えた。既にその噂で持ちっきりよ」

「ダンジョン協会の敷地に銅像もできてるです」

「また ヤツ(セル) か!」

フィギュアじゃなくて銅像かよ。

セルのいつもの行動にツッコミつつ、フィリン滞在中の事を二人に話した。

気心の知れた仲間達ととりとめの無い雑談をしていたんだけど。

「うっ!」

急に、セレストが頭を抑えて苦しみだした。

「どうした?」

「急に……魔力嵐だわ」

「窓を閉めるです」

エミリーが立ち上がり、バタバタと走って行って、窓を閉めた。

締め切ると風が止まった代わりに、セレストの頭痛も和らいだようだ。

「ありがとうエミリー」

「どういたしましてなのです……急なのです」

「そうね、今日の予報だと魔力嵐がくるなんて話はなかったのに」

「天気予報だからな、まあ外れる事もあるさ」

エミリーとセレストが頷く。

天気予報が外れて、傘を持って無くてびしょ濡れになったような、その程度の出来事。

この時はまだ、そんな風に思っていた。

「ダンジョンマスター?」

夜、屋敷を訪ねてきたセル。

珍しく深刻な表情をしている。

「うむ。シリコンでな、現われていたのだ」

「そうなのか……現われて いた(、、) ?」

「さすがはサトウ様」

セルは苦笑いして。

「そう。実は今朝からいたのだ、シリコンのダンジョンマスターは。もちろんいつもの通り即討伐させようとしたが、複数の買い取り屋の連名で、品種変更を提案されてな」

「……もしかして俺のせいか?」

「起因は」

頷くセル。

「サトウ様がフィリンでなさったこと。ボドレー・リョータの事をしって、シクロの名産になるものを作りたいということで、ダンジョンマスターのしばらくの生存、それをつかった品種改良を提案されたのだ。しかし」

「……魔力嵐が予報を無視してやってきた」

更に頷くセル。

話が大体分かった。

シリコンダンジョン、前に人助けで入ったことのあるダンジョンだ。

そこにいるモンスターは例外なく物理無効で、魔法しか効かない。

厳密には無効じゃない、しかし力SSの俺でも、物理でやろうとしたらザコがダンジョンマスター以上に硬くなるってレベルだ。

普通は魔法で倒すんだが、たまに魔法を一切使えない魔力嵐がきて、そういう時はシリコンのモンスターが全員事実上の無敵になる。

「ダンジョンマスターも同じ性質か」

「その通り。最初は魔法でうまくやっていたのだが、魔力嵐が急にきて、その魔法が効かなくなった。結果、ダンジョンマスターは完全無敵になり、手のつけられないモンスターに変わってしまった」

「もうだいぶ時間経ってるし、シリコンの生態系ぐっちゃぐちゃだよな」

「魔力嵐はまだ続く、このまま放置してしまえば、シリコンダンジョンそのものがダンジョンマスターに殺されてしまう」

「わかった」

俺はすっくと立ち上がった。

「今すぐ倒してくる」

「感謝する」

シリコンダンジョン地下一階。

忍者屋敷のランタンと違って、シリコンは掘った洞穴――洞窟タイプのダンジョンだ。

あっちに比べるとこっちこそ「ザ・洞窟」って感じである意味落ち着くんだが。

「そうも言ってられないな」

足を踏み入れた瞬間ヤバさを感じた。

ダンジョンマスターがでている時はダンジョンそのものの空気が変わるのだが、今はその空気が輪にかけてヤバイ。

空気そのものがものすごくよどんでいるし、洞窟のあっちこっちが崩壊しかかっている。

これはまずいと先を急ぐが、不幸中の幸いと言うべきか、こういう状態だからこそダンジョンマスターの存在を強く感じた。

まるで導かれるようにしてダンジョンを進んで行く。

一直線にすすんで、いくつも階を降りる。

辿り着いた先にそいつがいた。

芋虫やハエ、バッタなどの昆虫ばかりのいるシリコンらしく、ダンジョンマスターも虫だった。

そのかわり巨大だった。

体長がざっくり10メートルはある巨大な蛾だ。

「まるでモスラだな」

そんな感想を抱いていると、向こうがこっちに気づいて飛んで来た。

反射的にパンチを放った。

飛んでくるのに会わせた綺麗なクロスカウンター、こぶしがモスラの複眼に突き刺さる――。

「――っ!」

腕がもがれそうになった。

しくじった。

シリコンダンジョン、物理攻撃は一切効かないんだ。

綺麗にあわせたクロスカウンターは向こうに一切のダメージを与える事はなくて、逆にこっちの拳、そして肩が一方的に突進の力を受ける羽目になった。

肩がじんじん痛む、思いっきりジャンプで距離を取って、無限回復弾で回復する。

そうだ、銃弾だ。

前に魔力嵐の時に人助けをしたときも、物理も魔法もダメだったけど、特殊弾だけは効いた。

あの時は弾切れでピンチに陥ったが、今回はそうはならない。

無限雷弾と成長弾(こっちも弾数は無限)を中心に戦った。

モスラはそれほど強くなかった。

今まで戦ってきたダンジョンマスターの中で最弱だろう。

物理無効ダンジョンというフィールドだからやっかいで、モスラ自体そんなに強くはない。

丁寧に攻撃を躱して無限雷弾を五発もぶち込んだ頃にはもう倒れていて、トドメは成長も期待して、成長弾でトドメを刺した。

モスラがアイテムをドロップして消えたあと、通常のモンスターが戻ってきた。

翌朝、屋敷にセルが訪ねて来た。

「まずは礼を申し上げる」

セルはいつものように鷹揚な口調でそういった。

ステム家という、とんでもないレベルの貴族である彼は、俺の事を「サトウ様」と呼ぶ一方で、自分の一人称が「余」で、口調も微妙に尊大なのだ。

今もそうなのだが……何か……。

微妙に苦虫をかみつぶした様な顔をしてないか?

「さすがはサトウ様というべきか。あの劣悪な条件のダンジョンマスターをいともあっさり倒してしまうとは。つい先ほど魔力嵐が過ぎ去ったのだが、そこまでダンジョンマスターを残してしまえばシリコンは間違いなく死んでいただろう」

「それはいいけど、なんであんたの表情がそうなんだ?」

「サトウ様のせいではまったくないのだが――むしろサトウ様が即座に討伐してくれたおかげで この程度(、、、、) ですんでいる」

「この程度? 何が起きた」

「シリコンの生態系が変わった」

「……ふむ」

昨日の事を思い出す。

ダンジョンに入ったときから感じていた。

洞窟はボロボロになって、今にも崩れ落ちそうになってた。

ダンジョンマスターの影響だが、それはダンジョンマスターがいなくなっても戻らなかった。

討伐後地上に戻ってくる道中も、そういえばモンスターが変わっていた。

「そういえばはじめて見るな、ダンジョンマスターで生態系が変わってしまったのは。話にはよくきいてたけど」

「……」

「なにがどうなったんだ?」

「物理……それに加えて魔法」

「……まさか」

セルは頷いた、そのまさかだ、といわんばかりに。

「シリコンのモンスターは、物理も魔法も効かない様になってしまったのだ」

眉がキュッと寄ったのが自分でも分かった。

シリコンは、かなりの大事になっていた。