軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

213.お姉様の憧れの人

自分の部屋で朝を迎えたセレストは目が真っ赤だった。

端的に言えば寝不足だった。

昨夜布団に入ったのはいいけど、目を閉じるとまぶたの裏に亮太の姿が浮かび上がってきて、胸がドキドキして眠れなかった。

「ずるいわ……あんなに格好良くなるなんて」

唇を尖らせて、一緒に寝ているぬいぐるみを抱き締めて、顔を埋める。

セレストは亮太にほのかな恋心を寄せている。

それは普段、理性で抑えていたが、いきなり爆発した。

亮太を見て、胸がかつてない程に高鳴ったのだ。

彼を好きになったのは昨日今日の話じゃない、なんでいきなり――と驚いたが、亮太の説明で、特殊弾の効果であるとその後聞かされて納得した。

納得はしたが、それでドキドキが消える訳ではない。

セレストは一晩中ドキドキして眠れなかった。

「ずるいわよ……」

ぬいぐるみに顔を埋めたまま、セレストは、昨夜見た亮太の姿を思い浮かべて、また胸がキュンとし始めた。

シリコンダンジョン、地下十二階。

セレストは単身でここにきた。

シクロのダンジョンの一つ、モンスターのほとんどが魔法に弱く、物理にメチャクチャ強いダンジョン。

そのためここに入るのはほとんどが魔法使いだ。

ドロップ品はほとんどが野菜の葉物だから、魔力嵐に影響を受けて葉物の値段が乱高下する事がある。

そこにセレストがいた。

十二階のモンスター、エボリューションキャタピラ。

セレストは魔法道具、バイコーンホーンを使ってファイヤボールを連射した。

中型犬くらいはある芋虫はファイヤボールを連続で受けて炎上、向かってくる動きが止まった。

止まった後、糸をはき始めた。

敵――つまりセレストに向かってはいたのではない、自分に向かってはいたのだ。

糸はぐるぐると芋虫を包んで、ダンジョンの周りのがれきや、ドロップしたが金にならない様な野菜の切れ端とか取り込んで、さなぎになった。

セレストはバイコーンホーンをおろし、すぅ、と息を吸い込んだ。

「純炎よ、虚空より産まれし虚空ごと焼き尽くせ――インフェルノ!」

高まった魔力、かざしたセレストの手からでた炎がさなぎを包み込んだ。

炎がさなぎをやく、炎の高い熱からさなぎはしばらく耐えていたが、しばらくして徐々に溶け出した。

エボリューションキャタピラ。芋虫から成虫の蝶に 変態(、、) するモンスター。

地下五階以降の特殊モンスターで、芋虫状態では倒してもアイテムがドロップされない。

成虫で倒さないとドロップしないのだ。

一方で成虫になった後の攻撃力は元の十倍以上、進化する芋虫と呼ばれている。

その体力は芋虫の段階から引き継がれる、セレストは動かないさなぎにダメージを蓄積させる。

しばらくして、さなぎが半溶けになったところでセレストはグッ! と握ったこぶしをぐいっとさせた。

炎が止まる。

セレストは待った。

更にしばらくしてさなぎがうごめき、中から成虫が出てこようとする。

セレストはバイコーンホーンを取り出して、ファイヤボールをうった。

最弱の魔法、ファイヤボール。

それまでに蓄積したダメージととどめの一撃で、モンスターは成虫状態で倒された。

そして、この階のアイテム、ほうれん草がドロップされる。

最近はラーメンなどで大量に使われて、野菜の中でそこそこいい値段がするものだ。

それを拾って、自分の魔法カートにいれるセレスト。

周りの冒険者も同じような戦い方をしていた。

芋虫からさなぎまでの間にダメージを蓄積して、成虫になった瞬間トドメを刺す。

いうがやすし、行うは難し。

火力が足りなくて変態しきるまでダメージを蓄積させられなくて成虫の蝶に手こずるものもいれば、ダメージ量をコントロールし損ねてさなぎで倒してドロップ無しになってしまう者もいる。

そんな中、セレストは常にぴったり、ダメージを計ったように与えて、最後のバイコーンホーンだけでトドメをさせた。

そんなセレストを見て、周りは――

「さすがリョータファミリーの正メンバー」

等と、尊敬や憧れの目を向けていた。

当のセレストはそれに気づくことなく、亮太にクイックシルバーで上げてもらった能力と、ポーションで上げてもらったドロップで、冒険者としてダンジョンを周回していた。

「あ、あの……っ!」

そんなセレストの前に一人の少女が現われた。

小柄でふわふわの髪型をしてて、可愛らしいワンピースドレスを着た人形の様な少女。

それだけ見れば冒険者らしくないが、セレストは少女の指に魔力を高める指輪がある事を見逃さなかった。

つまりはれっきとした冒険者である。

セレストは体ごと振り向いた。

「なに? 私に用かしら」

「あ、あの! その……」

言いよどむ少女。

なんどもなんども勢いをつけて、顔を真っ赤にして。

そうしてようやく叫ぶような勢いで。

「お姉様って呼んでもいいですか!」

きょとんとするセレスト、周りから「おー」の声があがった。

「はあ……別にいいのだけれど――」

「あ、ありがとうございます!」

少女はパッと頭を下げて、今にも泣き出しそうな――うれし涙がこぼれそうな歓喜の顔で、セレストに背中を向けて逃げる様に立ち去った。

「――どうして私を、ってもういない……」

今一つ訳が分からないというセレスト。

それを見た周りの冒険者は。

「切ないねえ」

「気持ちを理解してもらえてないのが切ない」

「でも甘酸っぱいわ」

等々の声があがり、セレストはますます意味が分からなくて、首をかしげた。

ダンジョンでの周回を終えて、ゲートで屋敷に戻るセレスト。

アレは何だったんだろうか、と、少女の遠回しな告白をずっと不思議がっていた。

誰かに聞いてみよう、そう思って魔法カートを押して歩き出すと、後ろからゲートが誰かを転送して戻ってきた。

振り向くセレスト、胸がキュン、と一瞬にして高鳴った。

佐藤亮太、この屋敷とファミリーの主にして、セレストがほのか気持ちを寄せている人。

「ただいま」

「お、お帰り」

今日も 成長(モテ) 弾をレベル上げしてきた亮太。

その姿にセレストは胸がキュンキュンして嬉しくなり。

今夜もまた、眠れないだろうなと思ったのだった。