軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18.情けは人のためならず

朝の自宅。

エミリーのおかげでメチャクチャ温かくて住み心地のいい部屋で、おれは悩んでいた。

座ってる前のテーブルに、全財産をだした。

額は49万5千――まあ50万ピロだ。

それが、ここしばらく溜めてきた金で、全財産だ。

「どうしたですかヨーダさん、お金とにらめっこして」

「ある程度まとまったお金が貯まったから、どっちに使おうって思って」

「どっちってことは、もうある程度絞ってるのです?」

エミリーが察した通りだ、おれは頷いた。

「中古でもいいから魔法カートを買うか、それとも引っ越すかのどっちかって思って」

「引っ越すですか?」

「ここ、住み慣れてきてるけど、やっぱり狭いんだよな。月20000ピロの築87年、広さはワンルームだからな」

「わたしは別に――」

「やっぱり部屋は二つほしいよなって思って」

「二つ……ですか」

「うん?」

エミリーが驚いた表情になった、どうしたんだろう。

「3部屋にした方がいいかな、エミリーのものはなんだかんだで多いから、その方がいいかもなあ」

「あっ……一緒にいっていいですか……」

エミリーがなんか嬉しそうな顔をした。なんだ?

まあそれはともかく。

「それと魔法カートをどうしようかっておもってさ。流石にこの持ち金じゃ両方ってのは無理だ。ちゃんとした部屋を借りようって思ったら敷金礼金かかるし、引っ越しも――」

「引っ越しは任せるです」

エミリーは両手をあげてガッツポーズした。

力仕事は任せて、って意味だ。

130センチのエミリーがやるとその仕草は可愛いが、力仕事は本気で完全にお任せできちゃうんだよな、彼女の場合。

まあ、それもそれとして。

「どっちにしようかって迷ってて。エミリーはどっちがいいと思う?」

「それなら魔法カートです。魔法カート先に買った方がお仕事の効率あがるので、両方ともほしいときは、魔法カート先の方が最終的に早くなるのです」

「ごもっとも。よし、じゃあ魔法カートから先に買うか」

「はいです!」

エミリーと一緒に、魔法カートを買いに街に出た。

手持ちの金は約50万ピロ。魔法カートの相場はほぼほぼ車と同じ感覚なので、この額じゃ中古車しか買えない。

エルザに聞いて、紹介されたのは中古の魔法カートを扱う『プログレス』って店だ。

店先にたくさんの魔法カートが並べられてて、種類も数も多くて、こりゃ期待出来そうだな。

と思って、店の中に入ったのだが。

「オヤジ……一体どうしたんだよ」

店番をしてるのは二十代前半の青年だった。

青年は何かを心配している顔をしている。

何かあったのか?

「……と、お客さんか。すいません、いらっしゃいませ」

おれ達に気づいた青年は、気を取り直して、って様子で商売スマイルを浮かべた。

「魔法カートをお探しですか? うちはノーマルタイプもカスタムタイプも色々揃えてますよ――」

「何かあったんですか?」

青年の商売の口上を遮って、そう聞いた。

青年はびっくりした、目を見開かせ、おれを見つめてくる。

「ヨーダさん?」

「わるいな、ちょっと寄り道になるかも」

「大丈夫です!」

エミリーは笑顔で頷いた。

改めて青年をみる。

「なんか困ってるみたいでしたけど、なにかあったんですか?」

青年はじっとおれを見つめた。

商売用の顔がどんどん崩れて、次第に困って――果ては泣きそうな顔になった。

しばらくして、藁にもすがるような思いで、って顔で語り出す。

「実は、オヤジが三日前から行方不明っす」

「えええええ! 大変なのです」

「店開いてる場合じゃなくないか?」

「一応行く場所は分かってるんで、大丈夫かなって思ってたんっすけど、流石に三日も帰ってこないから心配になって。かといっておれじゃ探しにもいけないし」

「どこに行ったんですか?」

「アルセニックってダンジョンです。動かない岩だけだから何かあるとは思えないんですけど……」

それでも心配だ、って顔をする青年。

エミリーと顔を見合わせて、うなずき合った。

「親父さんの名前何て言うんですか?」

「どういう見た目をしてるですか?」

「え? も、もしかして――」

青年は、救世主をみた様な顔をした。

アルセニック、地下十階。

降りても降りても動かない岩型のモンスターしかないダンジョンを、おれとエミリーは一直線に降りてきた。

地下十階も上の階と同じ顔のある、動かない岩ばっかりだった。

「ヘビーロックです、アルセニックで一番重いモンスターです。うっかりハグレモノに戻しちゃうと他のものを押しつぶしちゃうですから、アルセニックの中で一番扱い要注意なのです」

「へえ」

そういうこともあるのか。

アルセニックのモンスターは全部動かない岩型だから、ハグレモノに戻っても無害な者ばっかりだって思ってた。

まあ確かに、花から急に重い岩にもどったらそれはそれで地味に困るよな。

「あれ? なんか上に一匹いるぞ」

「あれはライトロックです。地下十階のモンスターで、アルセニックで一番軽いモンスターです。レアなのです」

「一番軽い……言われてみると岩のくせに風船みたいにプカプカ浮かんでるな」

なるほど地下十階はそういう階層か、と何となく理解した。

おれ達は青年の父親を探した。

それはすぐに見つかった。

青年に教えてもらった特徴。

四十代のずんぐりむっくりで、ヒゲぼうぼうの男。

一言で言えばドワーフみたいな見た目っていわれた。

この世界にドワーフっているのか、おれの知ってるドワーフなのかな?

ってちょっと不安になったが、まるっきりおれの知ってるドワーフな見た目だった。

そいつは、洞窟の真ん中で寝てる。

岩に囲まれたままグーグー寝てる。

「……」

「……」

「……」

「……」

「エミリー」

「ハイです」

「頭を蹴っ飛ばしてやって」

「ハイです!」

エミリーはスタスタと近づいていって、男を蹴っ飛ばした。

蹴っ飛ばされた男は何体かのヘビーロックを巻き込んで吹っ飛んでいき、「あいててて」と頭を押さえて立ち上がった。

「なんじゃい、いきなり」

「失礼、あなたがオルトンさんですね」

「うん? いかにもわしはオルトンじゃが、なんじゃい? あんたらは」

「息子さんが探してたです」

「チャックが? わしゃちゃんとここにくるって書き置きを残したぞい」

「三日も音沙汰無しなら心配にもなります」

「三日? ほー、三日もたったのか。夢中になってたらついつい時間がたったようじゃ」

「……」

「ヨーダさん、わたしもう一回蹴りたくなったです」

「我慢しよう、おれも我慢する」

「はいです」

まあ、これでオルトンさんの無事は確認出来たんだ。

戻って息子さん――チャックに報告してやろう。

そう思って、身を翻そうとしたが。

「オルトンさんは何をしてるですか」

エミリーが聞いた。

「魔法カートの改造の素材を取りに来てたんじゃい。うちが改造カートも売ってることは知ってるよな」

改造カート……そういえばチャックもそんな事を言ってたっけ。

「自分で改造するですか」

「おう。魔法カートをいじるのが生きがいじゃい。三日前にすっごい機能を思いついたからそのための素材を取りに来たんじゃい」

「はあ……でも素材って、アルセニックのドロップは全部花なのです」

「ふふふ……誰がドロップ品を使うなんて言った」

「へ?」

「モンスターを使うんじゃい」

「モンスターを? でもモンスターだとハグレモノに――あっ」

「そう、アルセニックのモンスターは動かない岩。唯一ハグレモノとしても活用出来るモンスターじゃい」

「おー」

ちょっと感心した、そして興味を持ち始めた。

そこまで考えてモンスターを、ハグレモノを利用するオルトンさん。

魔法カートをどう改造するのか、それが気になった。

「レアのライトロックが一向にでないんじゃい。ヘビーとライト、一体ずつ必要なのに、こいつらばっかりなんじゃい」

オルトンさんは足元にいる、山ほどいるヘビーロックを蹴った。

「それならそっちにいましたよ」

「ほんとうか! どこじゃい?」

オルトンさんは顔がどアップになる程迫って――食いついてきた。

アルセニックを出て、街から更に離れて、人気のない草原にやってきた。

そこに、二輪の花を置く。

花はどっちも薔薇で、片方が赤、片方が青い薔薇だ。

地面に置いて、おれ達三人は離れた。

ぎりぎり見れる場所まで離れて、ハグレモノに戻るのを見守った。

しばらくして、ポン、と二輪の薔薇がモンスターに戻った。

ハグレモノ化した、ヘビーロックとライトロック。

「よっしゃ、これでいける――っていかん!」

オルトンさんはダッシュしていった。

ヘビーロックは地面に残ったままだが、ライトロックが戻った瞬間浮かび上がった。

洞窟の中でも天井に張り付いていた程風船っぽいライトロックが空に飛んでいく。

オルトンさんがダッシュして飛んだ。

ドワーフを彷彿とさせるずんぐりむっくりは届かなかった。

エミリーがダッシュして飛んで、ハンマーでたたきつけた。

空中に浮かんでるライトロックは硬さそのままに風船の性質を持つ。

かすめただけで、更に浮かび上がっていった。

「あぁ、あああああ……」

離れて行くライトロックをみて、悲痛な声を上げるオルトンさん。

ここまで来て逃してしまうのか、という声。

「大丈夫」

「どうするですかヨーダさん」

「こうする。一発残っててよかったよ」

おれは銃を取り出して、冷凍弾を込めた。

マーガレット姫の空気箱製造の時に取ってきた、残り一発の冷凍弾。

それをライトロックに打った。

命中、ライトロックは凍った。

巨大な氷の塊になった風船っぽいライトロックは、重力に負けて落ちてきた。

「ヨーダさんすごい!」

「おまえやるもんじゃな」

興奮する二人。

なんとか、レアモンスターのライトロックを無駄にしないですんだ。

プログレスに戻ってきたオルトンさんは、息子の心配もよそに店の奥に引っ込んだ。

息子のチャックさんは呆れつつも、諦めた様子で苦笑いした。

「いつもああなんっす、オヤジは」

そう言いながらも、やっぱり安心した顔をのぞかせるチャックさん。

別に危険とかあったわけじゃないけど、安心させてやれてよかった、と、おれとエミリーは密かにハイタッチした。

さて、これで魔法カートを選べる――と思っていたら。

奥からオルトンさんが再び現われた。

一台のカートを押して出てきた。

「できたのじゃい」

「早いですね!」

「一瞬でした」

「もうほとんど出来てるんじゃい、あとはこいつらをはめるだけだったんじゃい」

魔法カートを押す部分に、ヘビーロックとライトロックが一体ずつ固定されてた。

重いヘビーロックにはつぶされず、軽いライトロックは逃さずに。

それぞれがちゃんと固定されている。

「これが改造したやつなんですか?」

「そうじゃい。ここにパンが二つあるじゃろ?」

「おやじ! それおれの昼飯」

「こいつの単価を設定して、入れる」

オルトンさんはカートを操作してから、パンを入れた。

一つ150ピロの菓子パン、これもダンジョンでドロップされるものらしい。

入れた直後、二体のモンスターの上の方にあるパネルが数字を表示した。

150、と。

「もう一個入れるとこうじゃい」

二つ目の菓子パンを入れた、今度は300って表示された。

「こういう風に入れたものの重さを判別して、金額をはじき出す機能じゃい」

「おお、それは便利」

ダンジョンを潜るときにどれくらいの稼ぎがあるのかすぐに分かるのはいいな。

なるほど、重さを量るから、ヘビーとライトを一体ずつか。

原理は分からないけど、なんか妙に納得する。

「これをお前にやる」

「えっ?」

「協力してくれたお礼と、探しに来てくれたお礼じゃい」

「いいんですか?」

「おう! じゃあな」

オルトンさんは再び奥に引きこもった、最後に「さーて次は何作ろうか」と聞こえてきた。

作るのが大好きで、それ以外どうでもいいんだな。

「えっと……」

おれとエミリーは気まずそうにチャックをみた。

「どうぞ、オヤジのいつものクセっす。それにお礼もまだっすから」

「そうですか……じゃあ頂いていきます」

こうして、おれ達はただでカスタムの魔法カートを手に入れて、金がまるまる残った。

このまま引っ越しも出来るぞ、とおれはおもったのだった。