軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

163.プルス・ウルトラ

ニホニウムダンジョン、地下七階。

稲妻を纏ったマミーを狩っていた。

魔法が使えないこの階ではよりテクニックの練習を頑張っている。

この日も狙撃したり、命中率の維持を意識したり、カウンターしたりと、単なる脳死周回だけではない「技」の練習にも力を入れている。

狩り始めてからしばらくして その事(、、、) に気づき、意識するとよりはっきりと分かって、確信するようになった。

マミーを倒した時に種がドロップされる、ニホニウムのドロップ品だ。

それだけではない、砂金もドロップする。

アウルムの加護、何を倒しても少量の砂金がついでにドロップするという内容。

それが、いつの間にか増えていた。

おおよそで1.5倍。

一気にドカーンと増えたものじゃないから、気づくまで、そして確信するまでに時間がかかった。

「アウルムの加護、か」

増えた砂金のドロップ、手のひらに載っている分を見つめる。

何故増えたのか、多分アウルムをうちに連れてきたからだ。

日がおちると迎えに行って、夜は屋敷に住まわせる。

その言葉は使ってないが、実質「ファミリー」の一員として迎え入れたアウルムはその事を喜んでいた。

元々外に出るのが好きで、エミリーが手入れした屋敷も気に入ったから、こうなったんだろう。

それは、嬉しかった。

嬉しく思ってくれるアウルムの気持ちが嬉しかった。

砂金をしまい、マミー狩りを再開する。

嬉しさがテクニックにいい影響を及ぼした。

後半の、精神がDからCに上がるまで。

銃の命中率は、100%を維持する百発百中だった。

夜、屋敷のサロン。

食事を終えた後、仲間達はそれぞれやる事があると散っていき、サロンには俺とエミリー、そしてアウルムの三人だけがいた。

「今日はみんな忙しいんだな」

「はいです! 明日から二日連続で魔力嵐予報が出てるです、セレストさんは今夜頑張るっていってたですね」

「なるほど。アリスとイヴは?」

「アリスちゃんはサルファなのです。今日のヨーダさんが絶好調だからりょーちんともっと頑張ってくるっていってたです。イヴちゃんはニンジンの会の続きなのです」

「ニンジンの会?」

俺が好調だとりょーちんもそうなのかは新しい情報だが、それ以上にイヴのニンジンの会とやらが気になった。

「はいです」

「どういうものなんだ?」

「すみません……私も分からないです、イヴちゃんはニンジンの会としか言ってなかったです」

「なるほど。まあある程度予測はつくけど」

イヴの事だ、ニンジンのおいしさを語る会か、美味しさを追求する会か、まずその辺りってところだろう。ニンジンへのこだわりと愛は本物だからな。

「そういえば、エミリーも年度の表彰相手に入ってるな」

「は、恥ずかしいのです」

「☆2ってどれくらいのものだって見たけど結構すごいじゃないか」

セルは丁寧に説明してくれた。

毎年ということと、☆1から更に頭一つ抜けた業績とか著名度とかを持つもので、でも決定打に今ひとつかけている相手、が大体☆2のランクらしい。

ノーベル賞とか、芥川賞とか。

ああいう年に一回程度の大きな賞にノミネートされたクラスって感じがした。

「私なんてたいした事ないです」

「そんな事ないだろ。最近エミリー・ハンマーの愛用者がますます増えたし。新モデルも企画してるって?」

「はいです。次は重さとかそのままにもうちょっとふりやすくしてくれるみたいなのです」

「ハンマーにサインも求められるらしいな?」

「な! なななななんでそれを知っているです?」

いきなり慌て出すエミリー。

顔が真っ赤になって、目もほとんど X(ばってん) 状態だ。

手をアワアワとふってる姿はとても可愛くてさらにいじりたくなってしまう。

「街中でサイン入りのハンマー持ってる冒険者を見かけたんだ。サインしてもらった人が自慢してたぞ」

「はうぅ……」

「すごいなエミリー、有名人じゃないか。あいつ、ニューモデルが出たら真っ先に買うだろうな。ああ、その前に例のトレーディングカードがあったか。そうだ、俺の魔法カートにもサインしてくれよ」

「うぅ……ヨーダさんの意地悪なのです」

とうとう唇を尖らせてすねてしまった。

その拗ね顔も可愛かったから、いじりすぎたことは謝りつつも、表情はしっかりと心に刻んでおいた。

ふと、気づく。

さっきからアウルムが同じサロンの中にいるのにまったく会話に参加してきてないことに。

明るい性格のアウルムが会話に参加してこない事を訝しみつつ、目を彼女の方に向けた。

「……」

「アウルム?」

「……」

アウルムはぼうっとしていた。

どことなく上の空で、顔を妙に赤らめている。

「アウルム、どうしたんだ?」

「……え? なに」

「何って……どうしたんだ、上の空じゃないか」

「うん……うーん、うん」

上の空のまま考える仕草をして、ぼうっとしてる表情のまま更に頷く。

生返事の連続、一体どうしたんだ。

「……ちょっとごめんなさいなのです」

エミリーは身を乗り出して、アウルムの額に手を当てた。

「熱があるのです」

「熱?」

「はいです」

頷くエミリーの横から割り込んで、同じように手のひらをアウルムの額に当てた。

「って熱っ!」

「熱なのです」

「これ結構あるぞ。40度近くあるんじゃないのか?」

「……ふぇ?」

ものすごい熱だが、当の本人は理解しているのかもあやふやな、ぼけーっとしていた。

アウルムの部屋の外、待っていた俺にエミリーが部屋から出てきた。

「多分風邪なのです」

「風邪? 精霊も風邪を引くのか」

「症状が風邪なのです」

「そりゃそうだけど……」

上の空で、ものすごい熱が出てて。

部屋に無理矢理連れ戻して寝かしつけた途端鼻水も垂れてきた。

これがただの人間だったら俺も風邪を普通に納得していただろう。

「多分ですけど……精霊さんはずっとダンジョンの中にいたです、だから病気の抵抗力があまりないのです」

「あぁ……無菌室で育ったようなもんか」

「むきんしつ?」

「過保護で育ったから余計に体が弱いって意味だ」

「はいです」

「なるほどな……」

部屋のドアを見た。

このドアの向こうでアウルムが風邪で、熱でうなされている。

本当に抵抗力が低いから風邪を引いたのなら、連れ出した俺が……。

「それは違うのです。ヨーダさんは悪くないのです」

「……人の心を読むなよ」

苦笑いした。

「アウルムちゃんもきっとそういうです。大丈夫です、風邪なのですから何回か引けば丈夫になるです」

「そうだな。そんな事で彼女が外に出られたときの嬉しさから目をそらしちゃいけないな」

「はいなのです!」

さて……風邪となると……。

「魔法でどうにかなるか?」

「風邪は温かくして水分が一番なのです」

「こっちでも一緒か……」

本当の風邪薬を開発したらノーベル賞ものだって言われてるのと同じように、こっちでも風邪をどうにか出来る魔法はないんだろう。となると回復弾もきっと一緒だろう。

まあ、風邪だし静かに休ませるのが一番か。

「……なら、モモがほしいな」

「モモですか?」

「ああ、モモの缶詰、というかモモのシロップ漬けだな。風邪の時の定番だ」

「それは素晴しいのです。私モモをかってくるです、今から作れば治った頃に食べられるです」

「……待て、俺が取ってくる」

「ヨーダさんが?」

「せっかくだからな。俺のドロップの美味しい桃でそれを作ろう」

「うーん……」

エミリーは何故か首をひねって難色を示す。

俺、なんか難しい事いったか?

「どうした?」

「シクロのモモの階は一つしかないです。それちょっと難しい階層なのです」

「地下五階以降か……どんなのだ?」

「強者殺し、なのです」

「ん?」

穏やかじゃない名前に眉をひそめた。

「モンスターの強さがレベルじゃなくて冒険者の能力次第なのです。弱い冒険者だとモンスターも弱いからいい装備があれば泥仕合くらいで済むです。でも強い冒険者だと向こうもすごく強くなるから、ものすごく危ないのです」

「なるほど」

弱い方が有利――いや比較的有利って事か。

「何処のどの階なんだ?」

「行くのですかヨーダさん」

「ああ」

「でも危ないです」

「危ないからと言って――」

アウルムにいいものを食べさせたい気持ちもある、感謝の気持ちもある。

「――避けるのは俺の気持ちがすまない」

「でも……」

「エミリーの最高の腕が控えてるんだし、せっかくだから最高の食材をもってくるよ」

「ヨーダさん……」

エミリーは俺を見つめた。

心配そうな顔だったが、やがてふっ、と笑顔に変わった。

「ヨーダさんはやっぱりヨーダさんなのです」

「すまないな」

「謝ることはないです。私準備をしておくです」

「ああ、準備して待っててくれ」

ドアを少し開けて、ベッドの上で顔を苦しそうな顔で寝ているアウルムの顔を見る。

まってな、今最高のモモを用意してくるからな。