軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16.グルメからの依頼

夜、アルセニックから帰ってきたあと、エミリーと一緒に酒場にやってきた。

ビラディエーチという店で、ビールがメインだけど、毎日違うダンジョンから10種類のビールを揃えるのが特徴だ。

全てのものがダンジョンドロップに依存しているこの世界だから、生産量も品質も、その日ダンジョンに潜った冒険者とその能力に依存する。

この店はビールに特化して、毎日上位十箇所からビールを集めて出している。

そこにエミリーと一緒にやってきた。

お祝いだ。

「それじゃ、エミリーの稼ぎが一日10000ピロを突破したことを祝って、乾杯」

「か、乾杯、です」

エミリーは恥ずかしそうに乾杯した。

祝われるのは慣れてないという感じだ。

「なんか……不思議です」

「うん?」

「こんな風に、酒場でビールを飲めるなんて思ってなかったです」

「日給10000ピロならこれくらいは出来るだろ」

この世界の通貨ピロは、日本円と大体同じくらいの価値だ。

もやし1パックが店先で大体30ピロだし、ニンジンも三本で100ピロくらい。

今飲んでるビールだって500ピロでちょっと高いけど、ビールの専門店だと思えばこんなもん。

その物価で日給10000は普通に普通の暮らしが出来るくらいの稼ぎだ。

「ちょっと前までは想像も出来なかったです」

「いつかちゃんと家に住みたい、とか言ってたな」

「そ、そんな事言ってないです……」

抗議しつつ、ビールに口をつけて、コップで口を隠す。

ビールのせいか、それとも恥ずかしいせいか。

エミリーの顔は真っ赤になった。

そんな彼女をからかいつつ、一緒にビールを飲む。

仕事の後、一日の終わりに明るい酒。

こんなの、だいぶ久しぶりだ。

「すいません、エリオットさんですよね」

「ああん? そうだけどおめえだれよ」

「おれエリオットさんのファンです! ボーランのエリオットはおれらのあこがれで、目標です!」

「おう、そっちも頑張れや」

ふと、二つ先のテーブルの会話が聞こえてきた。

仲間と飲んでいた男の元に、別の若い男がやってきて、しきりに頭を下げながら挨拶をして、最後は握手してもらった。

「有名人なのかな」

「有名人なのですよ」

即答するエミリー。おれは彼女をみて、視線で先を促す。

「ボーラン……っていうのはダンジョンの名前なのです。ボーランのエリオット、レベル49の植物ドロップAの有名人さんなのです」

「へえ」

ドロップAか、しかもうん、レベルはかなり高い。

レベルが高ければダンジョンの深い階層まで潜れて、ドロップが高ければドロップ品の数も品質も高くなる。

エミリーの限界レベルが40で、彼が最低でも49って事を考えれば相当すごい事がわかる。

「ボーラン37階のマツタケはエリオットさんしかとれないからピンポイントでそれを取ってきてって依頼もあるって聞いたことあるです」

「それはすごい、ピンポイントで依頼がくるのか。取ってきて売るんじゃなくて」

おれは素直にすごいと思った。

そんなエリオットに、あこがれの人に挨拶できて満足した若い男は離れた場所にある、自分の席に戻った。

おそらくは仲間である連れに自分の手を見せて、自慢している。

「おいアクロ、あの席の会計もらってこい」

「うす」

エリオットは自分の仲間だか舎弟だかにそういった。

アクロって呼ばれた男は席を離れて、カウンターにいって店の人に何かを話してから、戻ってきた。

「話つけてきたっす」

「おう」

かっこいい男だな、と思った。

実力者で、有名人で、男気もある。

うん、かっこいいな。

ああいうのを目指したい。

そんな事をおもってると、エリオットはおもむろに立ち上がった。

仲間達が不思議そうなのをよそに、かれは一直線に店の入り口に向かった。

そこに立つ、恰幅がよくて上品そうな男に話しかけた。

「エリックさんじゃないか。こんな所に何しに?」

「おお、エリオットくん。最近ますます活躍しとるそうじゃないか。噂は聞こえてきとるよ」

「まあまあってところだ。最近はボーランに籠もりっきりだから、そろそろ新しい所開発せにゃって思ってるところだ」

「あれは?」

「すみません、分からないです」

エミリーに聞いてみるが、エリックと呼ばれた男の事は知らないようだ。

なんとなく眺めてると、いろいろ分かってきた。

「元雇い主か、それに近いなにかかもしれないな」

「分かるんですか」

「というか力関係かな。ほら、普通に話してても、エリオットの方からエリックって人の所に行っただろ。さっきのファンっぽい人が挨拶に来たとき椅子から動きもしなかったのに」

「あっ、なるほど」

「それに口調は普通だけど、妙に気を使ってるし。雇い主、最低でも大口の取引先って所かな」

「みてるだけでそんなことが分かるってすごいです」

「なんとなくだけどね、複数の取引先が一緒にいるときの力関係を読めないと致命傷につながる事があるからね」

ちょっとだけ昔の事を思い出した。

エミリーと話してるうちに、エリオットは自分の席に戻って、エリックはカウンターに行って、店主と話した。

そっちの話が終わったっぽいから、みるのをやめて、エミリーの方を向いた。

「明日もアルセニックだよな」

「そうしようって思ってるです」

「力上がったし指輪もあるし、もうテルルに行く必要はないのかもな。このままさっきのみたいに、アルセニックのエミリーって呼ばれるようになるかも」

「そ、それはちょっと恥ずかしいです……」

「かっこいいと思うんだけどね」

半分からかいで、半分本気のおれ。

コップを持ち上げてつきだし、エミリーがコップをとって乾杯してくるのを待つ。

すると。

「もし、サトウ様……はこちらですかな」

「え?」

背後から声がした。

エミリーが驚いてる。振り向く、そこにさっきの恰幅のいい男、エリックがいた。

エリックはおれをまっすぐ見つめて来てる、というかピンポイントにおれの名前を口にした。

酒場中の注目を――特にエリオットに見つめられて気まずいから、おれはとにかくエリックに座ってもらった。

とりあえず話を聞いた。

エリックは自分の事をただのグルメだと名乗った。

そんな事はないとおもった。

この物腰に雰囲気、育ちの良さが普通に出てる。

恐ろしいのは隠そうとも、大きく見せようともしてない。

ものすごく自然体で育ちの良さが出ている。

そのエリックは、「燕の恩返し」からおれの事を聞いて、やってきたと言った。

「テルルの地下四階には行かれてますかな」

「地下四階? いや行ってない」

エミリーの事もあって、ハグレモノの一件もあって。

テルルは地下三階までで止まっている。

「さようですか。じつはテルルの地下四階、バットスライムがタケノコを……このシクロで唯一タケノコをドロップする階層なのです」

「そうなんだ」

「サトウ様が取ってきたニンジン、口にさせてもらいました。今までの人生を後悔するほどの、何故もっと早く出会えなかったのかと悔しがるほどの美味でした」

そんなにか。

「……つまり、おれにタケノコを取ってきてほしい、と?」

今までの話を総合するとそうなるんだろうな、と思ってエリックに聞いた。

エリックは静かにうなずいた。

表情は相変わらずものしずかだ、が、目が輝きだした。

まるで子供のような、何かにわくわくしている目に変わった。

本当に食べるのが好きなんだなって、初対面のおれでも分かる目の輝きだ。

「わかりました、取ってきます」

「おお! 感謝いたしますぞ!」

こうして、おれはピンポイントに依頼を受けて。

テルルの地下四階を攻略する事になった。