作品タイトル不明
147.りょーちん
早朝、屋敷の庭。
仲間がフル集結して、アリスを取り囲んでいた。
「どんな魔法を覚えたの?」
口火を切ったのはセレスト。普段通り落ち着いている感じではあるがどこか目がわくわくしているのは、本人が魔法使いだからなんだろう。
「オールマイト、って魔法だよ」
「オールマイト……聞いたことないわね」
ファミリー随一の頭脳派・知恵袋であるセレストは首を傾げた。
「オールマイトか……」
「ヨーダさん知ってるのです?」
「言葉の意味だけな。全能とか完璧とか無敵とか。神を称える文章にちょこちょこ見かけるフレーズだ」
最近だとその意味にふさわしいヒーローにも使われたりするけど。
「つまりはニンジン」
「言うと思った」
「言うと思ったわ」
「言うと思ったのです」
イヴのボケ(ボケじゃないけど)に全員総突っ込みだ。
「それが本当ならすごい魔法になりそうですね。どんなものなのかな」
エルザも期待に目を輝かせた直後、アリスの言葉がそれを更に強くした。
「一日に一回しか使えない魔法だよ」
「そういう制限がかかってるってことは……ますますすごそうですね」
「制限という意味ではリョータのリペティションもそうだったわね」
「倒した相手のみだからな」
倒した事のない相手にはノーダメージだが、倒した事のある相手は瞬殺という「制限」だ。
制限が強ければ強いほど強そう、その感覚は分かる。
オールマイト、一日一回、長い間ルーレットを回して引いたもの。
条件が揃って、俺までわくわくしてきた。
「それを使って見せてくれるかしら……使ってもいいものなの?」
「そういえばそうなのです、そんなにすごい魔法を屋敷の庭で使って大丈夫なのです?」
「大丈夫! だからみんなをここに呼んだんだよ」
アリスがはっきりと言い切ると、いよいよ仲間達の期待感がピークを迎えた。
それを受けてアリスは少しだけ俺たちから距離を取った。
身をかがめて、グググ……って感じで力を溜めてから、パッと両手を拳にして天に突き上げた。
「りょーちん!」
……うん?
なんだそりゃ。
りょーちん? オールマイトじゃなかったのか?
俺は困惑した、仲間達もやっぱり眉をひそめたり首を傾げたりした。
直後、空間が割れる。
何もないところがいきなりひび割れて、そこから何かが出てくる。
異次元から出てきた、そんな感じだ。
次元の裂け目から最初に見えたのは手っぽいものだった。
なるほど召喚魔法か――って思ってると。
「……ヨーダさん?」
「……リョータさんね」
「……リョータさんですね」
「……低レベルのくせに生意気」
仲間達が口々にそういった。
次元の裂け目から現われた、アリスが召喚したのは俺っぽいヤツだった。
っぽい、ってのは完全に俺じゃない体。
そいつは一言で言えば遊園地の着ぐるみ。
どう見てもモデルは俺だが、アリスの仲間モンスターのようにデフォルメされている俺だ。
俺の名前はリョータ。
だからりょーちんなのか。
「アリス、これは一体……」
「油断するとケガするよー」
「えっ? ――っ!」
瞬間、りょーちんが視界から消えた。
いや消えたわけじゃない、消えたように見える直前に右足がぐっと力を込めたのがみえたから、超高速で移動したんだ。
右……後ろ? いや上か!
パッと上を向くと、りょーちんの跳び蹴りが既に目の前に迫っていた。
腕を上げてガードすると蹴りの軌道が変わって、攻撃目的じゃなく拘束目的で俺の腕に絡んできた。
その体勢のまま二丁の拳銃を抜いた、拳銃もデフォルメされてて可愛い。
突きつけられた銃口、とっさによける――打ち出された銃弾が見えて更に大きくよける。
りょーちんを蹴って、絡まれてるのを無理矢理剥がして大きく横っ飛び。
直後、それまでいた場所に消滅弾が発生した。
火炎弾と冷凍弾の融合、空間ごと呑み込む消滅弾。
「それも使えるのか!」
叫ぶ俺、スイッチを入れる。
それまでの日常生活モードから戦闘モードに切り替えた。
銃を抜いて、通常弾を乱射して弾幕を張る。
同時にぐっと地面を踏み込んで、SSまであげた速さでりょーちんに肉薄する。
銃弾とほぼおなじ速さで突っ込みつつ、再充填した通常弾を撃つ。
最初に撃った弾幕に更に通常弾――貫通弾の弾幕をはってそれと一緒に前進、りょーちんに迫る。
りょーちんは冷凍弾を連射、一部の貫通弾を凍らせてとめた後、それを掴んで他の貫通弾を殴って弾いた。
そうきたか。
貫通弾は直進・貫通力に強い一方、横合いからの力に弱い側面を持つ。
タイミングを合わせて横から殴ればかなり楽にはじけるのだ。
それをりょーちんがやった。
初手の応酬が終わり、戦いは白熱する。
戦いの中で俺は感じ取った。
デフォルメされているが、りょーちんと俺の能力はほぼ同じだ。
銃をもって扱える弾丸も一緒で、パワー・スピード・タフネス。どれをとっても――。
「リョータさんと同じね」
「うん! オールマイトはあたしが見た一番強い相手を召喚する魔法。強さはそのままだよ」
ちらっと聞こえてきたアリスの言葉でやっぱりだと思った。
そう、どれをとっても俺と同じだ。
見た目こそ違うが、能力面はどれをとっても同じ。
戦いは決着つかず、これは長引くぞ――って思っていたら。
ポスン。
空気抜けの音がして、りょーちんは急に消えてしまった。
「むぅ?」
「はい、おしまい。一日一回、これくらいの時間しか呼べないんだ」
「その制限もあるのね」
「あるのですね。でも納得なのです。だからこそヨーダさんを召喚できるのです」
「低レベルのくせに高レベルだった、生意気」
戦いは不完全燃焼だったが、オールマイトの効果は分かった。
一日一回、体感で大体――60秒くらいしか呼べない召喚魔法。
「すごいですね、リョータさんを召喚できるとアリスさんってほとんど最強ですね」
エルザが言い、仲間達はアリスを取り囲んで持ち上げている。
アリスもよろこんでいるが、どっちかというと強さより、デフォルメされた俺=りょーちんが仲間っぽい感じを喜んでいる。
それを眺めながら、考える。
「どうしたのですヨーダさん?」
「ああ、一つだけ気になってな」
「何がです?」
「今後俺が更に強くなって――種と魔法の実で更に強くなったときりょーちんはどうなるんだろうなって」
「なるほどなのです!」
りょーちんはこの段階の強さのままなのか、それともリアルタイムで俺の強さをコピーしてるのか、それが気になった。
「強くなるよ、リョータと一緒」
「そうなのか?」
「うん!」
はっきりと頷くアリス、そうなのか。
なら、試してみよう。能力にテストをして把握するのは大事だ。
この場合はっきりと変化が分かるのは。
「魔法の実ね」
魔法使いであるセレストが俺の考えを読んだかのようにいって、俺は頷いたのだった。