軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

120.絶対防御

シクロの街、ダンジョン協会の中。

応接間に通された俺は、クリントにメチャクチャ感謝された。

「ありがとう! ありがとうサトウ! まさか本当にやってのけるとは思わなかった」

「信用してなかったのか」

「気を悪くしないでくれ。藁にもすがる思いだったのだ、何しろダンジョンの死は未だかつて一度も回避された事がないのだから。血の雨が降り出したらもうおしまい、というのは今までの常識だったのだ」

「そうか」

「それだけじゃない、血の雨を止めただけじゃなくダンジョンのモンスターの数も増やした。これでアルセニックからの産出量が増える。税収も増える。全てサトウのおかげだ」

「おれは依頼された事をやっただけだ」

「それでもありがとう。そうだ、割合としてはささやかな物になるが、今度アルセニックの税収の一部はサトウの取り分にする事にした」

「いいのか?」

「もちろんだ、サトウがいなかったらアルセニックそのものがなくなっていたのだ。これくらいはさせてくれ」

「なら、言葉に甘えてありがたくもらうよ」

これでアウルムに続いて、アルセニックからも税金の一部を分け前にもらえる事になった。

不労所得は素直に嬉しい。

「それとささやかながら、砂糖一年分を――」

「それは謹んでお断りする」

もらっても嬉しくないところか盛大に困る砂糖一年分は食い気味で即座に断ったのだった。

夜、ビラディエーチ。

仲間の四人と打ち上げをやっていた。

日替わりのビールを注文して、五人で乾杯する。

一仕事終えた後のビールは五臓六腑に染み渡る程うまかった。

「精霊……ものすごくまれにダンジョンの最下層でそういう事がおきるというのは聞いたことあるのだけれど、情報が少なすぎて今までよく分からなかったわ」

「レアモンスターのドロップは盲点だったのです」

「ねえねえリョータ、精霊ってどういう人? みんなみたいに可愛い?」

アリスはそう言って、仲間モンスターの三体を肩からテーブルの上に置いた。

スライム、スケルトン、小悪魔。

三体はテーブルの上を可愛らしく駆け回った。

「いいや、全然。小さいおじいさんだった、可愛くはないな」

「そうなんだ……」

「可愛くなくても、低レベル二号なら可愛く出来る」

「あたし二号なんだ!?」

「わかるです、アリスちゃんの仲間になると元の姿よりもすごく可愛くなるです」

酒が入って、仲間たちは口がなめらかになった。

普段は寡黙な感じのイヴも、おつまみの野菜スティックからニンジンだけを食べながら上機嫌に笑っている。

「でも謎が一つ解決したわ。わたし、どうしてアブソリュートロックがアイテムをドロップしないのかずっと不思議に思ってたの」

「そういえばアイテムという意味ではドロップしてないな」

セレストの言葉で思い出す。

アブソリュートロックを倒した後、階段が現われた。

扱いとしてはあの階段はドロップ品だ。ドロップSの俺だけが100%ドロップさせられるドロップ品。

「アブソリュートロックって本来のドロップがあるのか?」

「あるわ。あまり使えないものだけど、ちょっとしたアイテムね」

「どういうものなの?」

「うさぎ、何故か持ってる」

ニンジンスティックをかじっていたイヴがバニースーツの谷間から小さな石ころを取り出した。

テーブルの上に置かれた石ころは何の変哲もない、路傍で拾った石のように見えた。

「これは?」

「エミリー」

「はいです?」

訝しむエミリーに耳打ちするセレスト。

「はいです」

「じゃ……」

エミリーが頷いたあと、セレストは石を手に取って、そのままちゅっ、と口づけた。

次の瞬間、セレストの体が徐々に石に変わる。

3秒もしないうちに、彼女は石像のように――いや石像そのものになった。

「どういうことだ――」

どごーん!

俺が聞くよりも早く、エミリーは横に置いたハンマーをセレストにたたきつけた。

エミリーの本気、力Aのエミリーハンマー。

テーブルのコップや皿がまとめて宙に浮くほどの衝撃の一撃。

が、セレストは無傷だった。

アルセニックの岩をほとんど一撃で砕くエミリーの一撃をまともに食らってもセレストは全くの無傷だった。

「どういう事だ?」

「使うとあの岩のようにかたくなるアイテム」

「あの岩って……アブソリュートロックか」

「そう」

「すっごーい、それって無敵じゃん?」

「そうでもない。岩になってる間は動けない。何も出来ない」

「ありゃりゃ」

「それじゃ使い道が限定されるな」

「そう。だから絶対防御なのに、これは一個わずか9万8000ピロ」

「やすっ!」

「安いな……」

アブソリュートロックの硬さはおれがよく知っている、あれはまさに絶対級だ。

それと同じ硬さなのに10万ピロ程度ってのは安いのにも程がある。

まあ、かたくなるだけで何も出来ないんじゃしょうがないな。

しばらくしてセレストが元に戻って、石が再びテーブルの上に置かれた。

「というわけなのよ」

「なるほどな。これは使い物にならないな」

俺は苦笑いして、ビールを一気飲みして新しいのを注文した。

アルコールが回って、頭がぐるぐるする。

何かがある、あるビジョンが浮かんできそうだが、なかなか浮かんでこない。

まあ、大した事じゃないだろう……。

「せめて、動きさえすれば逃げる用に使えるのだけれどね」

「かたくなってる間にすたこらさっさだね」

「ニンジンもかたくしたら歯ごたえますかな?」

「わたしのハンマーを硬くしたいです、多分もっとよくなるです」

「……」

硬くなったまま、動く?

硬くなったまま、硬いまま……。

「あああああ!」

パン! とテーブルを叩くように手をついて、立ち上がる。

「よ、ヨーダさん? どうしたですか?」

「動けるかも知れない!」

「「「「え?」」」」

シクロの街郊外、いつもの場所。

石ころを置いて、それから距離をとった。

戻ってきた俺を出迎える仲間たち、言葉はなかった、しかし全員の目にある種の期待が籠もっていた。

俺がやろうとしてることはみんな分かってる、今までの事でその経験で分かってる。

そして俺の狙いも分かってる。

だから目に期待の光がある。

しばらくまって、石がハグレモノに孵った。

アルセニック地下30階のレアモンスター、アブソリュートロックに。

「リペティション」

倒した事のあるモンスター、MP満タンの状態から最強の周回魔法をぶっ放す。

最強の防御力を持ったアブソリュートロックは倒され、また石ころをドロップした。

さっきのと同じ石ころ、見た目的には変わらない。

俺はそれを拾い上げ、使った。

体がみるみるうちに硬くなる、石になっていく。

「どうですかヨーダさん?」

聞くエミリー、他の三人も固唾をのんで俺を見つめてくる。

おれは動いた、ジャンプして、ぐるぐる回って。

最後にヒーローっぽいポーズをとった。

「動けるみたいだ」

「「「「おおおおお!」」」」

「エミリー、俺をぶったたいてくれ」

「はいです!」

エミリーがハンマーを振り回して、飛びかかってきた。

ハンマーが振り下ろされた、直前で俺は動いて、あえて尻を突き出した。

エミリーのハンマーが尻をぶったたく。

店の中の時以上の衝撃波があたりに拡散する。店の中でのエミリーは手加減していたみたいだ。

手加減無しの一撃だが、石になった俺にはまったく通用しなかった。

おどけて尻をぷりぷりふる余裕があるくらいだ。

「すごいです」

「やっぱりこうなるのね、リョータさんが再ドロップさせると」

「これはすごいよ。安いし、みんな一つずつもった方がいいよ」

「賛成、ファミリーの標準装備にする」

大はしゃぎの仲間たち。

俺たちは新しい、強力な装備を手に入れたのだった。