軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10.ポップコーンと黒いアレ

朝、ニホニウムのダンジョンに向かう途中。

朝起きてからのほんのりな幸せをかみしめつつ……なんとなく前の事を思い出していた。

おれがこの世界にやってきた時の事だ。

あの日の数日前から体調があまりよくなかった。やたら立ちくらみがして、気がつけば意識がすっ飛ぶ瞬間とかあって。それでもまあ、栄養ドリンクとか使って働いてた。

その日も朝からの出勤で、終業時間くらいから本格的にキツくなって、それでも仕事終わらないから働いてるうちに終電すぎてしまって、目の前が真っ白になってちょっと仮眠するかって机に突っ伏して――。

――次の瞬間スライムにドロップされた!

なんというか、思い返して、言葉にしてみると訳がわからないよな。

訳わからなく、「あれここ夢の中?」って思ってしまう。

考えても答え出なさそうだから、考えない事にした。

そうこうしてるうちにニホニウムのダンジョンについた。

なんとなく目に入った表のナウボードで能力チェックをしてみた。

―――1/2―――

レベル:1/1

HP S

MP F

力 C

体力 F

知性 F

精神 F

速さ F

器用 F

運 F

―――――――――

レベルは1のままだけど、種のおかげで順調に力が上がってる。

今日も頑張ってあげるぞー。そう思って中に入って、鍾乳洞の様な洞窟の地下二階にやってきた。

すぐにゾンビと出くわした。

ゾンビはいつもの様にうー、あーとか呻きながら襲ってきた。

昨日のゴリラから――この世界の人間が口を揃えて「ドロップしない」ハグレモノからドロップしたものを取り出した。

パン!

爆音が耳をつんざき、硝煙が鼻の奥につーんと来た、手もビリビリしびれる。

そして――ゾンビの頭が吹っ飛んだ。

おれの右手にあるのは、この世界にはないリボルバーの拳銃。

ゴリラからドロップしたのは、この拳銃と大量の弾丸だった。

今日は種狩りをしつつ、試しうちをやろうと思ってる。

一発で頭を吹っ飛ばしたゾンビはそのまま死んで、種になった。

種を拾って、力を1あげて、更にゾンビを探す。

遠くにゾンビを見つけた。二十メートルくらいはある。

銃を構えて撃った……外れて肩にあたった。

よろけたゾンビにすかさず二発目をぶち込む、今度はしっかりヘッドショットを決めて頭をぶち抜いた。

早くもゾンビ二体、慣れれば早いかも知れない。

さて種を――。

「うおっ!」

拾いに行こうとしたら壁が急に崩れて、そこからゾンビが現われた。

奇襲したゾンビがおれに組み付いて、口を開けてかみつこうとする。

「――このっ!」

強引に引きはがして、前蹴りを入れる。

ゾンビは体がくの字に折れ曲がって、トラックにはねられた様な勢いですっ飛んでいく。

こいつらはこの程度じゃ死なない! すかさず銃を構えて――。

「うー、あー……」

「後ろからもか! このっ!」

うしろから組み付いてきた別のゾンビを力任せの背負いで地面にたたきつける。

銃を構える、今度こそトリガーを引いた。

パン! パン!

足元のゾンビと遠くに蹴り飛ばしたゾンビ、両方の頭を吹っ飛ばす。

一瞬ひやっとしたけど、何とかなった。

種二つ拾って、力を2あげて、更にダンジョンを回る。

銃の試し撃ちと、ここ数日で体が覚えつつある格闘とのコンビネーションを試しつつゾンビを倒していき。

昼過ぎには力がBまで上がった。

エミリーに合流するために、ニホニウムを出て、テルルに向かう。

銃は便利で、強力だった。

最初はこんな世界だからモンスターに効くのかって心配になったけど、鉛の弾をものすごい速さで物理的に飛ばす銃だから、普通にかなり効いた。

ダンジョンでのモンスター狩りがかなりはかどりそうだ、竹のヤリが折れてから武器をどうしようかって思ってたけど、これで考えないですむようになった。

問題は弾丸だな。

昨日、ゴリラから銃と一緒にドロップした弾の数は二百弱。

普通に生活してたらかなりの数だけど、実は午前中で既に50発くらい撃ってしまった。

このままじゃすぐに足りなくなる、補充しなきゃ。

「……やっぱり、ハグレモノかな」

なんとなくそう思った。

なんというか、法則が分かってきたような気がする。

みんなが口を揃えてドロップしないってニホニウムからおれだけ触れる種がでて、ドロップしないから戦うのは割りに合わないっていうハグレモノからは向こうの世界の銃と弾がドロップした。

共通のキーワードは「ドロップしない」だ。

ハグレモノ……ダンジョンから離れて街を襲うモンスター。

出ない方がいいに決まってるけど……期待しちゃうな、これ。

テルルの地下二階、そこで少し待った。

「来ないのです」

「来ないな」

エミリーと合流して、眠りスライムを一匹狩って、ニンジンをドロップさせた。

それをもってイヴを待ったが、彼女は現われなかった。

待てども待てども来ないイヴ、エミリーは心配そうな顔になった。

「何かあったですか」

「向こうも都合があるだろ、そうそう毎日くるもんじゃないさ」

「はいです」

「このニンジンは取っとこう、もしかしたら家に帰ってドアを開けたら中にいた、なんて可能性もあるしな……ないよな」

言ってから、その光景を想像してちょっと不安になったおれ。

家に帰ったら、ニンジンを待つイヴが侵入してて中で待ってた……。

なんというか、ものすごくリアルに想像出来てしまう光景で、ちょっと怖かった。

それは心の準備だけにして、ニンジンを荷物の中にしまった。

「さて、今日は下の階に行こう」

「いくのですか?」

「ああ、武器も手に入れたし、力もCからBに上がった。戦闘力があがったし、ちょっと挑戦してみようかなって」

「はいです」

エミリーはニコニコしながら一緒についてきた。

小柄なのに巨大なハンマーを振り回すエミリー、ゴリラにも負けないくらいのパワーファイターだけど、戦ってないときはこんな感じでほんわか空気をだす。

一緒にいるだけで和む、そんないやしキャラだ。

そんなエミリーと一緒に地下三階に降りてきた。

「エミリーはここに来たことがあるのか?」

「ないです。モンスターの名前とドロップだけ知ってるです」

「へえ、どんなんだ?」

「モンスターはコクロスライム、ドロップはカボチャなのです」

またスライムで……コクロはどういう意味なんだろ?

カボチャは分かる。もやしとかニンジンとか、普通のダンジョンでドロップする野菜は割と普通だ。

この世界は全てのものがダンジョンで生産される、ダンジョンで生産するもの自体は普通だ。

ゴリラをダンジョンで倒したらマグロ一頭がドロップするとかどうかと思うが、ドロップするもの自体は普通だ。

だからここでドロップするカボチャも普通だと思う。

そして普通のカボチャなら……。

エミリーをちらっとみた。

ニコニコして小柄な女の子、温かい部屋を作りあげて、身も心も温まる料理を作る女の子

うん、彼女ならきっとやってくれる。

ちょっとだけ期待した。

しばらく歩いてると、コクロスライムとやらが現われた。

……形はスライムだ。ただしサイズがちっちゃくて、体が黒光りしてる。

それでいて移動は上の二つの階のスライムと違って跳ね回るんじゃなくて、地面を這って――カサカサカサって音をだして移動してる。

――ビシッ!

空気が固まった。

横を向く、エミリーは黒光りするスライムを見つめている。

表情は――ニコニコ、ほんわかなままだ。

が、どこか違う。

「エミリー……?」

「ヨーダさん」

「は、はい!」

「 殺(、) るです」

「なんか怖いですよエミリーさん!!!」

エミリーはニコニコ顔のままハンマーを構えた。

いつも通り小柄に巨大なハンマー、だがかつてない程恐ろしかった。

背筋がぞくぞくー、ってなった。

エミリーはハンマーを引きずって突進――って突進!

はじめてだよ! スライム相手に先手取るのはじめてみるよエミリーさん!

エミリーはハンマーを振り下ろした、ダンジョン全体が揺れた気がした。

ハンマーに叩かれてひび割れる地面、そこに――。

ぐりぐりぐり。

エミリーはハンマーを押しつけて、地面をグリグリした。

「え、エミリー、そんな事しなくても大丈夫なんじゃないかな」

「何を言ってるですかヨーダさん」

エミリーが振り向く、にこっと微笑んだ。

「これくらい殺らないと悲劇が広まるですよ」

「は、はひ」

声が裏返った。

おかしいな、エミリーの顔優しげなままなのに怖いぞ、彼女の向こう側に修羅の何かが見えたぞ?

この階はまずい、上に戻ろう。

そう思っていた所に、ハンマーとひび割れた地面の隙間からカサカサカサ。

コクロスライムがでてきた。

「うち漏らしたのです……」

「もういいエミリー、もう戻ろう」

「ヨーダさん」

「な、なんだ」

「わたしの事は嫌いになっても、ドロップは嫌いにならないでくださいです」

「嫌わないから! 嫌う前にやめて!」

「はああっ!」

ものすごい気合と共に、更に振り下ろされるハンマー。

それは正確にコクロスライムを捕らえて、ダンジョンを更にゆらした。

ポン!

ハンマーが跳ね上がった、黒光りするアレと同じサイズだったスライムがいた場所から、バスケットボールサイズのカボチャが現われた。

そしてエミリーの雰囲気も元にもどった。

あれ以上まずい事態になる前に倒せてよかった。

「エミリー、上に戻ろう。今日はニンジンな気分だ」

「はいです」

エミリーはハンマーをどかして、カボチャを回収した。

そうして、二人で上の階に戻るため歩き出す。

しかし、あの小さいスライムからこのサイズのカボチャか。

ドロップした瞬間のあれ、ポップコーンがはじけた光景に似てるな。

見た目が黒光りするアレじゃなかったら、ちょっと面白かったんだけどな。

なんて事を思ってると。

カサカサカサ。

カサカサカサ。

カサカサカサカサカサカサカサカサカサ――。

上の階に続く階段に戻ってきた瞬間、大量のコクロスライムが現われた。

1匹見つけたら30匹は居ると思え。

まさにそんな光景だ。

「ヨーダさん……」

「え?」

「わたし、人に戻れないかも知れないです」

「まて早まるな! 任せろ! ここはおれに任せろ!」

空気がまた変わったエミリーの前に無理矢理出た。

彼女にやらせたらだめだ!

絶対に――だめだ!

銃を構える、スライムに狙いを定める。

パン! パン! パン!

この瞬間、おれはかつてないくらい集中力が高まった。

パン! パン! パン!

銃をメチャクチャ撃った、研ぎ澄ました集中力で、一発一殺、最速でスライムを屠っていく。

全弾命中した、すべてスライムのど真ん中をぶち抜いた。

「ほっ……」

胸をなでおろした、背後でエミリーの空気がやわらなく戻っていくのを感じたからだ。

が、その直後。

ポンポンポンポンポンポンポンポンポン――。

スライムからカボチャがドロップした、ポップコーンがはじけるかのようにドロップした。

しかも――多分おれのドロップSのおかげで、エミリーのより遥かに大きい、バランスボールくらいのサイズのカボチャが一気にドロップした。

はじけた カボチャ(ポップコーン) は、一瞬で道を――帰り道を塞いでしまった。

スライムを瞬殺したことが皮肉にも、コクロスライムがうじゃうじゃいる地下三階におれ達を閉じ込めてしまう結果になった。

その後、ニンジンの匂いをかぎ付けて、カボチャの山をチョップ一発でかち割ってイヴが登場するまで、おれはエミリーを宥めるのに必死だった。

テルルの地下三階、エミリーを二度と連れてこないようにしなければ。