軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第75話 野生の肉食恐竜が飛び出してきた

狩猟祭開始まで残り数分。

ウィルゴは緊張した面持ちで剣を握り締めながら多くの参加者と共に開催を待っていた。

周囲にいるのはどれも強そうな強面ばかりで、何だか自分が酷く場違いに思えてくる。

巨大な戦斧を持った筋骨隆々の大男に、「フッ」とか格好つけている全身黒尽くめの変な人。

どう見ても身長が2mは超えていそうな格闘家に、肥満体型のフンドシ一丁のよく分からない人間。

全身フルアーマーの騎士など一目で強そうだと思ってしまう。

『さあ、いよいよ開催間近となりましたドラウプニル狩猟祭!

ここで改めてルールを説明させて頂きます!

といっても至って単純。王都に放たれた魔物達を狩って狩って狩りまくる! それだけでございます!

魔物達にはそれぞれ、その強さに応じてポイントが振り分けられており、1時間の制限時間が過ぎた時に最も多くのポイントを保有している勇士が優勝となります!

あ、申し遅れました。わたくし実況のケイロンと申します』

拡声の魔法か天法だろうか。

実況と名乗る誰かの声が響き渡り、ウィルゴが顔を向ければ実況席にはいかにも旅人、という感じの軽装の優男が座っているのが見えた。

隣には虎の獣人がおり、何だか凄く強そうだ。

『今回は解説としてこの国の誇り、大陸最強の剣聖であるフリードリヒさんにお越し頂きました。

剣聖さん、何か一言どうぞ!』

『グルワァァァァァ!』

『ミズガルズ共通語でOK』

虎さんのユニークなジョークに会場がドッと沸く。

きっと皆の緊張を和らげようという彼なりの粋な計らいだろう。

流石に剣聖と呼ばれる者は緊張の和らげ方も心得ているようだ。

『さあ、いよいよ開幕の時間が迫って参りました! 皆様準備はよろしいですか?

さあそれでは位置についてえ……スタートォォ!』

実況より狩猟祭開始の声が響き、それと同時に魔法か何かで鳴らしたのだろう大きな破裂音が響く。

選手達は我先にと走り、ウィルゴも置いて行かれないように必死で走った。

そして容易くトップに躍り出てしまった。

あれ? と思うも仕方のない話だ。レベルとステータスが違う。

皆が遠慮してくれてるわけじゃないよね? などと思い後ろを振り返りつつウィルゴはトップを走る。

とはいえこの祭は徒競走ではない。いかに魔物を狩るかの祭だ。

選手達はそれぞれが勘や経験で見出した魔物の集まりやすいスポットへと走り、東西南北へ散っていく。

そしてウィルゴの前には早速、いかにも『俺強いよ?』と顔に書いてそうな全長2mはあるだろう魔物が立ち塞がっていた。

緑色の肌に鍛えられた肉体。腰蓑一丁の格好。

ホブゴブリンと呼ばれる亜人の一種だ。

「ゴブゴブ!」

ホブゴブリンは見た目からして弱そうなウィルゴに油断しているのだろう。

ニタニタと笑いながらゆっくりと近付いてくる。

一方ウィルゴは、自分の強さというものにあまり自信がなかった。

井の中の蛙大海を知らずとはいうが、彼女が住んでいた井戸は大海を消し飛ばすような化け物しか住んでいない。

だから彼女は自分の強さが分からないのだ。

それでもウィルゴを踏み止まらせたのは主からの期待があったからだ。

剣まで貰っておいて、それで逃げるなんて無様は晒せない。

「やあああああ!」

そう思い、ヤケクソ混じりで突撃!

剣を突き、ホブゴブリンの胸へと当てる。

するとホブゴブリンの身体はまるで抵抗もなく貫通されてしまい、声も発せず地面に崩れ落ちた。

『選手番号760、ウィルゴ選手! 8ポイント獲得!』

「え?」

あまりにも呆気なく勝ててしまった事にウィルゴが呆け、恐る恐るといった様子でホブゴブリンの死体をつつく。

だが反応はない。再生するとかそんな気配もなく、本当に死んでしまっている。

それを見てようやくウィルゴは自分の勝利を理解し、そして考えた。

(もしかして……この狩猟祭のモンスターって凄く弱い?)

実際は魔物が弱いのではなく彼女が強いのだが、そうはまだ思えないらしい。

しかし相手が弱いならば何とかなる。

ウィルゴは微妙な勘違いを治さぬままに立ち、そして気合を入れた。

これならいける! 優勝は無理でも恥ずかしくない程度には戦える!

ウィルゴは白い翼を羽ばたかせ、一気に空へと踊り出た。

飛ぶのは別に反則ではない。空を飛ぶのもまた技の一つとして認められている。

ウィルゴは空から魔物を探し、そして一番近くにいた狼型の魔物を標的と定めると、一気に加速した。

すれ違いざまに一閃!

狼の魔物を切断し、再び空へと舞い上がる。

『ウィルゴ選手、6ポイント獲得!』

今度は少し離れた位置にいる鳥の魔物へ狙いを定める。

少し距離はあるが今のウィルゴにはルファスから与えられた剣がある。

ラピュセルに力を込めて振るえば剣先からは白い刃が射出され、遠くの鳥を切断した。

『ウィルゴ選手、7ポイント獲得!』

速度を落とす事なく今度は固まっているゴブリンを見付ける。

身長が150程度の、棍棒を持った通常のゴブリンが二体。杖を持った希少種の魔法を使うゴブリン――ゴブリンマジシャンが一体の計三体だ。

ウィルゴは急加速して彼等の中まで切り込むと剣を振るい、すれ違いざまにゴブリン二体を葬った。

飛び去っていくウィルゴの背にマジシャンが火球を発射するが振り返る事もせずに横に移動して回避。

空中で上下逆さまになり、剣から光の刃を発射してマジシャンを切断した。

『ウィルゴ選手、20ポイント獲得!』

いける、勝てる!

ウィルゴはここにきて少しばかり、もしかしたら自分は強いのかもしれない、と思い始めていた。

しかしすぐに思い浮かぶのは仲間達の姿だ。

脳裏に思い浮かぶのは、もしもこの狩猟祭に仲間の誰か……例えばリーブラなどが参加したらどうなるか、というIF。

ウィルゴの思い描いた脳裏の世界では機関銃やらバズーカやらを装備したリーブラが燃え盛る草原の中を徘徊し、ドラウプニルを焦土へと変えながら目に付く魔物全てを殺戮していた。

あ、無理だこれ。やっぱり私弱い。

比較対象が単純に悪すぎるだけなのだが、まだ彼女はそれに気付かない。

ともかくルファス達の一員として、せめて恥ずかしくない程度には頑張るとしよう。

そう思いながらウィルゴは、現在自分がポイントの上でもトップを独走している事に気付かずに大空を飛翔した。

*

『ウィルゴ選手5ポイント獲得!』

『ウィルゴ選手9ポイント獲得!』

『ウィルゴ選手8ポイント獲得!』

何あの娘、超強い。

そんな戦慄を抱きながら彼……勇者瀬衣は必死こいて魔物を倒していた。

今現在無双しているウィルゴという少女が誰なのかは解っている。

昨日の変な一団の中にいた白翼の可愛い子だ。

開始前でもあの純白の翼は目立ち、あの子も参加するのかと驚かされたし、緊張している様子だったからもし危なくなっていたら助けてあげるべきかもしれないと正義感を燃やしていた。下心とか言ってはいけない。瀬衣だって男なのである。

だが甘かった。というか自惚れていた。

助ける? ……一体誰を?

さっきから空を飛んでヒット&アウェイで魔物を凄い勢いで駆逐しているあれを?

冗談だろう。あの子は自分などより圧倒的に格上だ。というか多分この祭の参加者で最強だ。

最初の緊張した面持ちは一体何だったのか。擬態だろうか?

弱そうなのに限って凄い強いというのはファンタジーのお約束のようなものだが、それにしたってあれは酷い。下手をすると剣聖より強いんじゃないだろうかあの子。

それは流石にないと思いながらも、しかしあの無双を見るとそんな気がしてならない。

あ、今度はワイバーン倒しやがった。

亜竜は本物のドラゴンと比べれば弱いらしいけど、それでもレベル80超えの怪物なんだぞ。

どうでもいいが瀬衣の現在のレベルは35。余裕でウィルゴとかいう少女に一撃で殺されてしまう実力である。

というかこの世界、レベル上がりにくすぎて泣けてくる。

こういうのって普通、もっとこう、レベル上がり易いのが普通じゃないだろうか?

昔見たライトノベルだと他と比べて主人公だけやけにレベルアップが早くて楽々チートとかやってたのに何だこれは。

『ウィルゴ選手、12ポイント獲得!』

『バニーダンディ選手、3ポイント獲得!』

『ビキニマッスル選手、7ポイント獲得!』

次々と選手の名とポイントが実況され、瀬衣の心に焦りが生じる。

やばい。このままでは成績上位を狙うどころではない。普通に最下位が見えてきた。

実際のところは瀬衣も結構頑張って上位にギリギリ食い込んでいるのだが、本人はそう思えないのだろう。

瀬衣は取り憑かれたように刀を振るい、魔物を斬り倒していく。

しかし命を奪う事にはまだ抵抗がある。いつまで引き摺ってるんだと思われるかもしれないが、やはり日本人にこれは辛い。

相手が結構可愛い犬の魔物とかだと攻撃する意思そのものがなくなってしまう。

おいやめろ、こっちに来るな。俺結構犬好きなんだよ。

尻尾振るな。後ろ足で立ってじゃれてくるな。後ろに付いてくるな。

そのような事を考えながら必死に戦っていた瀬衣だが、遠くから何か悲鳴のようなものが聞こえてきた事で意識を現実へと戻した。

「な、なんだ?」

向こうに強い魔物でもいるのだろうか?

そう考えて視線を悲鳴の方向へと向ける。

そして瀬衣は硬直した。

視線の先……数百mは先だろう草原に、何かでかいのがいるのだ。

この距離でもハッキリと見えるほどに巨大な『恐竜』が暴れ回っている。

『あ、アクシデント! アクシデントです!

近くの森をテリトリーとする恐竜のディノギガントが会場に乱入しました!

皆様、それとは戦わないで下さい。それは狩猟祭のターゲットではありません!』

――恐竜いんのかよ、この世界!

瀬衣は青い顔をして、遠くで暴れている恐竜を見る。

あれが魔物と生物のどちらにカテゴライズされているかは分からないが、とりあえず祭用の魔物など比較にもならないヤバイ化物だという事だけは見て解った。

だってあの恐竜、あろう事か魔物を捕食しているのだ。

魔物達が逃げ、亜竜すら戦意を失って逃走している。

そしてそれを追いかけて襲う様はまさに捕食者。食物連鎖の上位に君臨する存在だ。

だが最大の問題は人間までも餌と見なしている事だろう。

今の所冒険者や旅人は犠牲になっていないようだが、このままでは時間の問題だ。

誰かが食い止めなければ確実に人に被害が出る。

そして最悪な事に、参加者と思しき女性冒険者が恐竜の前で尻餅をついてガクガクと震えていた。

やばい、と一目で解る。あれを放置したら確実に喰われてしまう。

「くそっ!」

瀬衣は悪態を吐いて走り出し、恐竜の所へと疾走する。

その後に続いて何故か犬も疾走した。

恐竜が今食っている魔物を完食するまでにかかる時間は精々数秒。その間にあそこまで行き、尻餅をついている女性冒険者を引っ張って逃げる。

戦う? 冗談じゃない。身の程くらいは弁えている。

自分に出来るのは、あれを討伐する為の戦士達なりが派遣されるまでの間に誰も死なせないように逃がす事くらいだ。

時間さえ稼げばフリードリヒやガンツがここに来てくれるはずだ。そうなれば勝ち目も見えてくる。

「おい、早く逃げるぞ! 立つんだ!」

何とか辿り着いた瀬衣は女性の手を掴んで引き上げようとする。

だが女性はまるで動かず、首を振るばかりだ。

「だ、駄目……腰が抜けて……」

「っ、仕方ないな!」

瀬衣はすぐに女性を背負って逃げる事を決意する。

だが駄目だ。重い。女性が重いのではなく、身に付けている鎧が重い。

ついでに剣も重い。これではとても背負う事など出来ない。

「おい、鎧と剣を捨てるんだ! これじゃ背負えない!」

「で、でもこれ高くて……買う為の借金もまだ返してないし」

「そんな事言ってる場合かあ!?」

今は一刻を争うのだ。

ディノギガントが魔物を捕食し終える前に逃げなければならない。

だが既に時遅し。恐竜は魔物を飲み込んでしまい、こちらへと視線を向けた。

最早逃げる事は不可能と察した瀬衣はすぐに刀を構え、恐竜を威嚇する。

ここでまだ女性を見捨てて逃げるという選択を選ばない辺りが彼という男だろう。

もっとも女性の方はその選択を迷いなく選んだらしく、瀬衣など放置して這って逃げようとしているが。

「GIGAAAAAAAAAA!!」

恐竜が吼え、こちらへと突進する。

速く、そして重い。

一歩ごとに地面が揺れるくせに、何だこの速度は。

瀬衣は覚悟を決めて刀を握り、死を避ける為に恐竜の動きを冷静に観察する。

警戒すべきは口! あの噛み付きをまずは回避する。

そして何とか足を斬る事が出来れば、逃げる事もまだ不可能ではない。

――瞬間、白い影が間に割り込みをかけた。

手にした剣を薙ぎ、風圧で恐竜を跳ね飛ばす。

純白の羽根が舞い、瀬衣の眼前に白い天使が舞い降りる。

後にそれは天使などではなくただの天翼族だと理解するのだが、それでもその時の瀬衣には紛れもなく、彼女の存在は天使に見えていた。