軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第74話 ウィルゴ、君に決めた

受付を済ませた俺達は一度田中まで戻り、そこで今夜を過ごす事にした。

宿をとる事も考えたのだが、この国は宿までテントであり、あまり居心地がよさそうだとは思えない。

そこは獣人との感性の違いなのだろうが、旅行者の為に人間が好みそうな宿とかも用意した方が稼げるんじゃないだろうか、と少しだけ思う。

明日の主役であるウィルゴは早々に就寝し、アリエスも既に夢の中だ。

俺は特に理由もなく田中の外に出て夜風に当たり、普段はあまり使わない頭を使って物思いに耽っていた。

考えるのはこの国の護りについてだ。

レーヴァティンにはアリオトの結界。スヴェルにはレヴィア、ギャラルホルンはメラクの威圧。

そしてブルートガングは王都そのものが移動要塞であり、量産型リーブラをも用意していた。

となると、この国にも相応の護りがあるのだろう。

思えば、今の所これらは俺の味方をしてくれていたが、敵に回る可能性も考慮しておくべきかもしれない。

この国の住民にしてみれば魔神族も俺もそう大差はない。共に脅威としか認識しないはずだ。

ならば国の護りが俺に牙を剥く可能性だって充分にありうる。

それでも負ける気は全くしないのだが、問題はウィルゴに牙が向かった場合だ。

その事を考えて、今のうちに何か彼女を守る方法を考えるのは間違いじゃないだろう。

……とりあえず暇な時にディーナから情報を聞き出しておこう。あいつは胡散臭いが情報は今の所9割は正確だ。

「マスター」

後ろから声がかけられる。

振り向くまでもなく声の主は解っている。

俺は前を向いたまま、その部下の名を呼んだ。

「リーブラか。どうした?」

「マスターと少しお話しておきたい事がありまして」

リーブラはそう言うと、俺の隣へと立つ。

彼女の重さは見た目に反してかなりのもののはずだが、それをまるで感じさせない軽やかな動きは大したものだといつも思わされる。

隣を見ればリーブラは難しい顔……いや、これはいつもの事か。

いつも通りの無表情のまま、普段よりも少しだけ深刻な口調で話し始めた。

「率直にお尋ねします。あのディーナという女性は一体何者ですか?

まだ破損データは復元出来ていませんが、あれが二百年前には居なかったという事くらいは推測出来ております」

「……気付いていたか」

「はい。そしてマスターがとうにその事実に気付き、私達に隠している事も」

俺としては結構上手く隠せているつもりだったのだが、やはりバレバレだったらしい。

まあ他はともかくリーブラにはいつまでも隠し通せるもんじゃないな。

俺演技下手だし。何より馬鹿だしな。

俺は苦笑し、その事を責めもしない従者から視線を外す。

「済まなかったな」

「いえ。きっとマスターもお考えがあっての事だったのでしょう。

しかしその上で進言させて頂くならば、それは私も知っておく必要があると考えます」

俺はリーブラを一瞥し、そして少し考える。

リーブラは、現状では多分一番信用出来る相手だ。何せ精神操作にかからない。

つまり女神だろうがディーナだろうがリーブラを操る事は不可能と言っていい。

だから仮に女神がリーブラを邪魔に思っても、それを操作する方法がないのだ。

一番やばいケースは『ゴーレムは精神操作にかからない』という事そのものがブラフだった場合だが、それはまずあるまいと俺は考えている。

もしそうなら、そんなブラフを撒くよりもさっさとリーブラを操ってしまった方がずっと早いし俺の信用も得る事が出来た。

それをしなかったという事は出来ないという事だ。

「そうだな……其方には話しておこうか。

とはいっても余も正直な話、殆ど奴の実態は掴めていない。

魔神族七曜の一人でもあったが、どう考えても魔神族ではなさそうだしな」

「でしょうね。天力を使う時点で魔神族や吸血鬼はまず在り得ません。

しかし、それならば一体何者だというのですか?」

「余が思うに、女神に連なる何かであるのは間違いないと見ている。

それがパルテノスのように仕えている程度のものなのか、それとも更に密接な関係なのか……あるいは女神そのものなのかは分からんが」

そう、ここまではもう確信と呼んでいい段階で解っている。

ディーナと女神は決して無関係ではない。裏で必ず繋がっている。

彼女の秘密を解いた先に女神がいるのだ。

解らないのは、どの程度の関わりなのかだ。

かつてのパルテノスと同じような立ち位置なのか。より親密な腹心の部下なのか。

それとも……女神のアバターなのか。

それを判断するにはまだ情報が揃っていない。

「マスター。彼女は危険です。

即刻拘束し、尋問にかけるべきだと判断します」

「早まるな。そんな事をしても転移で逃げられるだけだ。

そして一度逃げられてしまえば、もう奴を探す術はない」

「……泳がせるというのですか?」

「さてな。泳がされているのは我々の方かもしれん。

どちらにせよ、奴は現状唯一の女神へ繋がる手掛かりだ。手放すのは軽挙だろう」

今の所ディーナの思いのままに踊っているのだろう俺だが、ディーナにも多分解っていない事がある。

それは俺がどの辺りまで『戻って』いるかだ。

こればかりは俺本人でなくば完全には解らないだろうし、あいつは以前俺に『本当にプレイヤーか?』と確認をした。

あれは今にして思えば俺がどこまで戻っているかを探ろうとしていたのだろう。

恥ずかしい話だが、本来の俺ならばディーナを疑うという事自体をまずしなかった。

こうして誰かを疑って思考を巡らせるという事自体がもう『俺』の考え方じゃない。

だがこれは逆を言えば、最初の頃の阿呆な俺を外面上保ち続ければ、向こうからは自分がどの程度疑われているかが解り難いというメリットがある。

だから今はまだこのままでいい。

考えなしで楽観的な俺のままでいい。

「それにな、奴が完全に我々の敵だとすると、いくつか不可解な点も出て来る」

「不可解な点ですか?」

「ああ。確かにディーナは余を思い通りに動かし、誘導してきたのだろう。それは間違いない。

だがな……今の所、それは余にとって何一つマイナスではないのだ。結果論ではあるが、全て余の利に働いている。これがどうにも解せん」

プラスを多く与えてマイナスを隠す。これならば解る。

だが違う。マイナスが一つもないのだ。

スヴェルでのアリエスとの再会。王墓でのリーブラの回収。

ギャラルホルンでのアイゴケロスの復帰。ブルートガングでのカルキノスとスコルピウスの参入。

そして今まで巡ってきた王都での七英雄との仲の修復。全てが俺の利だ。

……おかしいだろう? 女神にとってルファス・マファールは邪魔者ではなかったのか?

だからこそ二百年前に七英雄と潰し合わせて封印したのではなかったか?

なのに、何故そうまでして無力化した相手に今更力を戻す真似をする? それが全く理解出来ない。

これが9割確信まで迫っている『ディーナ=女神のアバター』説に待ったをかけ続けるのだ。

早計に考えるな。疑惑で目を曇らせるな。もっと冷静に情報を吟味しろと俺の中の何かが訴え続けている。

俺はまだ何かを見落としている。

「よくは説明出来んがな……今ディーナを追い詰めるのは間違いのような気がするのだ」

「気がする、ですか? そんな不確かな」

「解っている。だがもう少しだけ時間をくれ」

何だろうな。俺にもよく解らないんだが、今はまだディーナを問い詰めるべきではないと思うんだ。

既にパーツはほとんど揃っていて、パズルの絵は完成しかけている。

残りのパーツがなくとも、ここまでに集めたパーツだけで絵の全体像は想像出来る段階だ。

だがもしかしたら残りのパーツ全てを集める事で完成する『騙し絵』の可能性もなくはない。例えるならばそんな感じか。

「……解りました。マスターがそれを望むならば私はそれに従いましょう」

「すまんな、リーブラ」

「構いません、私はマスターの道具です。

ならばマスターが望む道を全力でサポートするのみ。例えそれが間違いであろうとも間違いごと撃ち砕くのが私の役目です」

「頼もしい限りだ」

いや本当、頼もしい部下を持てたものだ。

問題は頼もしすぎて道の先にある物を全部吹き飛ばしてしまいそうな事だがな。

ともあれ、少し冷えてきたな。今日はもう寝るとしようか。

*

狩猟祭当日。

魔法か何かで撃ち上げたのだろう閃光が花火のように空で華を咲かせ、数多の種族が開催はまだかと観客席で賑わっていた。

観客席は流石にテントではなく、映画の上映会のようにいくつもの椅子が並んだ会場だ。

その一番前には馬鹿でかいスクリーンのようなものがあり、全員が注視している。

……この世界ってカメラないはずだよな? どうやって映すんだ?

「ああ、あれはミザールが死ぬ前に造ったマナスクリーンです。

空気中のマナを通して離れた場所の映像を受信し、映し出す事が出来るんですよ。

ブルートガングにも同様のシステムがあって、それで中にいながら外の映像を見る事が出来るらしいです。

まあ、ブラックボックスが多すぎて同様の物は残念ながら造れないそうですが」

またミザールか。

ディーナの説明を聞きながら俺は空を仰いだ。

何であいつだけミズガルズの文明をぶっちぎりで無視してるんだよ。

お前本当は現代日本人だろ? と聞きたくなってくる。

これで現代日本の知識とか一切なしの現地人とか完全に生まれる時代と世界間違えてるわ。

「もはや何でもありだな、あの髭」

俺は呆れつつもウィルゴを手招きする。

彼女はこれから出場だが、万が一があっては俺がパルテノスに顔向け出来なくなる。

という事でこの祭りのレベルを考えればちょっとオーバーキルかもしれないが、ディーナに塔から取り寄せて貰った武器を渡しておく事にする。

俺が中堅レベルの頃に使っていたお下がりだが、まだ現役でいけるはずだ。

「ルファス様、これは?」

「余が昔使っていた剣だ。名をラピュセルといい、周囲のマナを天属性の魔法として発射する事が出来る。

魔法を使う事が出来ない天翼族が好んで使っていた逸品だ」

天翼族は魔法を使えない。

だがゲームにはお約束のように、使うだけで魔法と同じ効果が発動する武器というものがある。

これもそんな武器の一つで、レア度もそれなりに高めのやつだ。

俺も序盤から中盤にかけては結構お世話になっていた。

まあレベル500を過ぎる頃にはこんな効果に頼るくらいなら自分で通常攻撃した方が強かったのですっかりお払い箱になってしまったが。

しかし今のウィルゴならば充分に戦力になってくれるはずだ。

問題は……この世界では天翼族がマナを嫌うというのが死に設定じゃない事だな。

ゲームの頃はそんなのはただの死に設定だった。

だからマナが溢れるヘルヘイムに平然と天翼族がドカドカと大挙するという設定無視な光景も数多く見られたし、この武器も普通に人気武器だった。

だがこの世界の天翼族は普通にマナを嫌う。

だからウィルゴがこの武器を嫌がるなら、他の武器に代える用意もあった。

その場合は、ちょっとオーバーキルが度を過ぎてしまうが俺がレベル500くらいの時に愛用していた槍でも渡そうかと思っている。

しかしその心配は無用だったようで、ウィルゴは花が咲くような笑顔を俺に向けてくれた。

「有難うございますルファス様! 私、絶対優勝しますね!」

よし、どうやら当たりだったようだ。

スコルピウスが後ろで嫉妬の炎を出して周囲の草を燃やしているが、あいつに俺のお下がりを渡す気はない。

何かあいつに渡すと、変な事に使われそうで怖いからな。

というかスコルピウス、本当に炎を出すな。周囲の迷惑だ。

「ウィルゴ。剣だけでは火力に不足します。

私からはこの対ゴーレム砲を……」

「止めよリーブラ」

俺に張り合ったのか、本当に火力不足と判断したのかは知らないがウィルゴにロケットランチャーのような何かを渡そうとしていたリーブラの頭を叩いて止めた。

お前それ、オーバーキル通り越して会場が吹っ飛ぶレベルだろうが。

というかどっから出した、そんなもん。

「気を付けてねウィルゴ! 危なくなったらすぐに呼んで! メサルティムで飛んでいくから!」

「我ならば全ての参加者を恐怖に沈めて無力化する事も出来る。必要ならば言うがよい」

「あらあ、いっそ毒でも撒いてみるのはどうかしらあ? これなら簡単に勝てるわよお?」

「ならばミーは……」

アリエス達が何か凄く物騒な事を言っているがカルキノスだけは何も出てこない。

彼はしばらく考えて、やがて頭を抱えた。

「カルキノスは足遅いから駆け付けるの間に合わないよ」

「汝、遠距離攻撃も出来んし補助魔法もないしな」

「ぶっちゃけ防御とカウンターしか出来ない脳無しだからねえ、アンタ」

「盾以外役目ないですよね」

「Noooooo!!?」

アリエス、アイゴケロス、スコルピウス、ディーナが何の遠慮もなくズケズケとカルキノスの心を抉った。

おいやめろ。確かに事実だけど、そいつ盾としては十二星で一番優秀なんだぞ。

……あ、でも本当に盾以外に出番ないな、こいつ。