軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第72話 スコルピウスのあまえる

強化しなくても充分強かったリーブラを更に強化してしまうという馬鹿をやらかした翌日、俺達はドワーフ達に監視されながら……もとい、見送られながらブルートガングを後にした。

本当はもう少しのんびりしたかったのだが、こちらにはスコルピウスがいる。

流石に国を襲った奴をいつまでも留まらせるわけにもいかず、俺達は早急な出発を余儀なくされたわけだ。

むしろ一日だけとはいえ留まらせてくれただけで寛大すぎると言えるだろう。

普通に考えれば即退去ものだ。

で、問題のスコルピウスはというと目が覚めてからずっと俺の腕にへばり付いている。

胸をこれでもかと押し当ててくるが、それ同性だと意味ないだろ。俺の中身男だけどさ。

まあ、俺としても今までずっと寂しい思いをさせて挙句暴走までさせちまったわけだし、これでスコルピウスが満足するならいいやと、あえてそのままにさせていた。

だがそれがウィルゴ以外の他の十二星は気に喰わないらしく、後ろからの視線が少し痛い。

アリエスは不満そうにしているし、アイゴケロスは呪い殺さんばかりの勢いでスコルピウスを睨み付けている。

リーブラはずっと機関銃を手にしているし、カルキノスは『ミーだって再会したばかりなんですよ!』と喚いていた。

そんな、ますますカオスになってしまった俺達を乗せて今日も田中は平常運転を続けている。

次の目的はミザールが教えてくれたエロス改めピスケスを探す事だが、一つここに問題がある。

ピスケスの場所は俺達の誰も把握しておらず、ディーナですら掴んでいないという事だ。

さて、これどうしたもんかね。

「ああん、物思いに耽るお顔も素敵ですわあ、ルファス様」

腕にひっついているスコルピウスが何か言いながら更に絡んでくる。

どうでもいいが耳元で喋るのを止めて欲しい。結構くすぐったいのだ。

そんな考えを察知したのか、リーブラが文字通りの鉄腕でスコルピウスの頭を掴み、俺から引き剥がした。

「ちょっとお、痛いじゃないの! 何するのよお!?」

「そこまでですスコルピウス。再会が嬉しい気持ちは理解しますがマスターの迷惑となっております。

これ以上は私が許しません」

「はあ? 何で妾がルファス様と愛を育むのにアンタの許可がいるのよお?

あまり調子に乗ってると妹達と同じようにスクラップにするわよお?」

「止めておく事を強く推奨します。戦えば粉々になるのは貴女の方です」

スコルピウスとリーブラが俺を挟んで火花を散らし、目を逸らさずに睨み合いを開始した。

アリエスはどうしていいか分からずわたわたしているし、アイゴケロスは腕まくりをして参加する気満々だ。

カルキノスは止めようともせずにハイテンションで笑いながら二人を煽り、ウィルゴはそそくさと被害を受けない位置に逃げていた。

そしてディーナは見事に背景と同化している。

「してませんよ!?」

まあ背景というのは冗談だ。

実際には我関せずと隅っこで紅茶を飲んでいる。

そうしている間にもリーブラとスコルピウスの間に漂う空気が険悪なものになり、やがてスコルピウスの髪が揺らめいて先端をリーブラへと向けた。

それに合わせてリーブラも拳を握り、一触即発の状態となっている。

これは流石にやばいと思い、俺は二人の間に割って入った。

「やめよ。其方等、田中を壊すつもりか?」

「む……命拾いしましたね、スコルピウス」

「アンタがでしょ? リーブラ」

俺が入る事で何とか争いを止めたものの、やはりまだ睨み合っている。

こいつら仲悪いな、おい。

アリエスとアイゴケロスはかなり仲がいいのだが、どうやら十二星全員が仲良しというわけでもなく、こうして相性が悪いのもいるようだ。

まあ十二人もいれば仲の悪い組み合わせの一つくらいあるか。

とりあえず今のうちにスコルピウスのステータスでも確認する事にしよう。

【12星天スコルピウス】

レベル 800

種族:エンペラー・バーサクスコーピオン

属性:火

HP 90000

SP 8000

STR(攻撃力) 4800

DEX(器用度) 3105

VIT(生命力) 6570

INT(知力) 2100

AGI(素早さ) 3800

MND(精神力) 3300

LUK(幸運) 5500

……レベル、800に戻ってるし。

これはあれか? 女神の影響を解いたから元に戻ったのか、それとも俺と再会した事で憎悪が晴れたせいなのか、どっちが原因だろう。

で、レベルが下がったせいでHPもダウンしてるから、ブラキウムにも耐えられなくなったようだ。

うん、これはリーブラの言う通りだな。戦えばリーブラが勝つわこれ。

というかあいつ、何で相性で負けるはずのアリエスとスコルピウスの両方に勝てるんだよ。

やっぱ改めてブラキウムの性能が吹っ飛んでいると痛感した。

あの技一つだけで最強候補に入ってるのがリーブラだから仕方ないといえば仕方ないんだけどさ。

しかしステータスだけで強さが決まるわけではない、というのはスコルピウスも同じだ。

彼女の本領は何と言っても毒攻撃にこそあるわけで、極端な話ステータスはそこまで高くなくてもいい。

更に狂化による攻撃力倍加もあるので実際の攻撃力は表示されている数値とまるで異なる。

で、幸運も高いので頻繁にクリティカルヒットも出すし、ブラキウムさえなければリーブラに負ける事は多分ないだろう。

恐るべきはこのスコルピウスをリーブラに勝てるまでに強化していた女神の影響か。

二百年前は七英雄がこの理不尽なパワーアップをしたっていうんだから、そりゃ俺が勝てるわけないわ。

「それでルファス様、今後はどうしましょうか?」

「とりあえず居場所の分かっている者達を集めるしかあるまい。

確かアルフヘイムにヘルヘイム、ムスペルヘイムの三箇所だったか」

とりあえずこの中から選ぶならばアルフヘイムが位置的にも一番楽だろうか。

何よりここにいる『双子』のジェミニは二人で一人なので仲間にすると二人同時に加入してくれるという嬉しい特典がある。

そのように先の事を考えていた矢先、突然田中が停車した事で俺の思考は中断された。

何だ? 田中が自分で停まるとは珍しい事もあったもんだ。

「停まっちゃいましたね。何でしょうか?」

「どうした田中。何かあったのか?」

『YES、BOSS』

俺は前の方へと行き、窓から外を見る。

すると前方1キロ程の位置に、やたら多くの人影がある事に気付いた。

向こうはこちらに気付いていないようだが、獣人や人間、エルフなどが節操なく集まり同じ場所へと向けて歩いている。

空を見れば天翼族までもがおり、何らかの共通の目的を抱えて旅をしている事は明白であった。

「ディーナ、奴等の向かう先に何かあったか?」

「ええと、この位置と方角ですと……ああ、ドラウプニルがありますね」

「獣人の国か。だが何故そこに他の種族までもが向かう」

俺の質問にディーナが「うーん」などと首をかしげている。

どうやら彼女にも分からないらしい。

だが、そこで代わりに声をあげたのはスコルピウスだった。

「ああ、それは近々あの国で狩猟祭が行われるからですわ、ルファス様。

テイマー達が捕獲した魔物を一斉に放って、誰が一番魔物を狩れるかを競う下らない雑魚共の強さ比べがあるのです」

「ほう、よく知っていたな」

「ええ、それはもう。だってブルートガングを落としたら次は狩猟祭に乗じてあの国に魔物をばら撒いて責め込む予定だったんですもの」

「……そうか」

やべえ、スコルピウス回収してマジ正解だった。

俺がこいつ戻さなかったら、危うくフロッティ、ブルートガング、ドラウプニルの三国を潰すという最悪の三連コンボが成立していたかもしれない。

スコルピウスは罪悪感などまるで抱いていないかのように(というか実際抱いてないのだろう)また俺の腕へと引っ付き、そこでふと顔を上げてディーナを見た。

「ところで、そこの青いの誰え? あと、そっちの白い羽根のも」

「今更ですか!?」

「白い羽根のは新しく覇道十二星入りした『乙女』のウィルゴです。先代のパルテノスが死去してしまったので彼女が代わりに参入しました。

そこの青いのは『背景』のディーナ・ハイケイン様です」

「ちょっとお!? さらっと嘘教えないで下さいよリーブラ様!

私にそんなセカンドネームはありませんから!」

「背景なんて星あったからしらあ? まあいいわ、よろしくねえ、背景さん」

「その呼び名やめてえ!?」

ディーナが半泣きで俺を見る。

その視線は何とかしてくれと無言で訴えているのがよくわかった。

美少女の涙目というのは中々保護欲をそそるものがあるが、しかしそれ以上にディーナは不思議と弄りたくなる。

だから俺はあえて、乗ってみる事にした。

「なるほど、星が輝くには確かに背景がなくてはならん。

いわば星を引き立たせる空間……即ち背景という存在もまた覇道には必要……」

「ルファス様!?」

「いいではないか、背景。ある意味星よりずっと凄いぞ。 宇宙(せかい) そのものだ」

「全然嬉しくないですよ!」

そろそろ半泣きがマジ泣きになりそうなので、弄るのはこの辺で止めてもいいだろう。

まあスコルピウスは本当に誤解してそうな気がしないでもないが。

「しかし狩猟祭か」

狩猟祭そのものにははっきり言って全く興味などない。

こう言っちゃ何だがスコルピウスの言う通り俺達から見ればレベルの低い祭りにしかならないだろう。

例えるならゲームを極めた廃人が初心者がせっせと狩りに勤しんでいるのを見るようなものだ。そんな事してる暇があるならアイテムでも集めていた方がマシだ。

だから俺は参加する気など微塵もない。

ドラウプニルの広さは知らないが、俺のスピードなら王都中を飛び回って全ての魔物を倒す事だって不可能ではない。

他の面子も同様で誰が参加してもオーバーキルとなるのは目に見えている。

だが、俺はあえてその大人げないオーバーキルを実行しようと考えていた。

「悪くない余興だ。ウィルゴ、参加してみるといい」

「え? 私ですか?!」

ウィルゴは俺達の中では最もレベルが低い。

しかしそれでもこの世界では破格のレベル300であり、やはりオーバーキルとなるだろう。

だが俺は、他の参加者には悪いが彼女に少し自信を持って貰いたかった。

彼女は多分、自分の強さに気付いていないのだ。

何せずっと森の中でパルテノスに育てられ、外に出れば俺や十二星に囲まれての旅で完全に自分は弱いと思い込んでしまっている。

井の中の蛙大海を知らず、という言葉がある。本来これは井の中で暮らして世界の全てを知った気でいる蛙が広い海を知らない様を嘲るものだ。

しかしその井が小さいとは一言も書かれていないし、もしかしたら蛙は1mを超える化物だったのかもしれない。

だが井の中に暮らしている蛙は自分がどれだけ大きくて強いかを知る術がない。

彼女はまさにそれだ。井戸の外にいる蛙達が揃って自分よりも小さくて弱い蛙である事を彼女は知らないのだ。

自惚れて欲しいわけじゃない。だがせめて自分の実力に見合った自信は持って欲しかった。

それを与える事が、パルテノスからこの子を預けられた俺の義務だとも思うからだ。

「ルファス様、狩猟祭での優勝をお望みですか?

ならば妾にお任せを。全ての魔物と参加者を毒で染め上げて差し上げましょう」

「我にお任せ下されば獣人の国を恐怖と絶望の底に沈めてご覧に……」

「王都ごとブラキウムで……」

「ええと、羊形態に戻って王都を踏み潰して……」

「な、なんの! でしたら私は王都ごと明けの明星で……」

「Nooo!? ミーだけ大規模攻撃がない!? これでは優勝出来ません!」

「其方等全員参加禁止な」

お前等、何物騒な張り合い方してるんだよ。

王都は魔物じゃないからな。王都倒しても優勝出来ないからな?

「と、まあこやつ等は参考にせずともよい。

其方ならばこんな阿呆共を参考にせずとも充分に優勝を狙えるだろう」

「あの、でも私そんな広範囲攻撃技ないですし」

「だから参考にせずともよい。そもそも狩猟祭はそういうものではないぞ」

アホ共が変な張り切り方をしたせいでウィルゴが誤解しかけたが、とりあえずそこだけ訂正しておく。

狩猟祭ってのはいかに早く魔物を狩るかだ。断じて大規模攻撃を乱射する祭りではない。

俺はウィルゴの頭を撫で、どうだ? と尋ねてみる。

彼女には是非ここらで自信を付けてもらいたい。これは俺の本心だ。

せっかく実力と才能があるのに化物に囲まれたせいで自分を過小評価してしまうのは可哀想すぎる。

「はい。それじゃあ……頑張ってみます」

「ああ、気楽にやるといい」

これでウィルゴの参加も決まった。

ならば後はドラウプニルに行くだけだ。

俺は田中に命じ、進路を変更した。