軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第68話 ウェヌスのテレポート

魔神族の居城は人類の生存圏の外――暗黒大陸と呼ばれる魔の支配域にある。

その正確な場所は知られておらず、少なくとも人類側が飼いならした魔物などで容易く攻め込める位置にはない。

それは魔神族も同様の事であろうが、彼等には転移の術があった。

正確に言えば魔神王と、七曜の一人であるウェヌスが転移の術を用いて魔神族の移動を短縮しているのだ。

もっともテラは父のエクスゲートによる移動しか出来ない。彼がウェヌスを信用していないからだ。

そしてその不信は解消される事なく、むしろここ数日でますます強まっていた。

否、強まるどころではない。もはや確信と呼んで間違いなかった。

あれは――断じて魔神族の味方ではない。

「ウェヌス! ウェヌスはいるか!」

テラが大声で己の部下の名を呼ぶ。

彼女は神出鬼没で、居ないと思っていても呼べば出て来る。

呼び出してから数分。空間に裂け目が生じ、金色の髪の少女がフワリとテラの前に着地した。

「お呼びでしょうか、テラ様」

「貴公に聞きたい事がある」

「何なりと」

ウェヌスの正体は魔神族の中においても謎とされている。

ある日突然、七曜のリーダーであるソルが連れてきた美貌の少女。

元々、普通の生き物とは異なりどこからか自然発生する魔神族であるが故に出生などを問われる事はなく、魔神族らしからぬ肌や瞳の色も他ならぬテラ自身が前例であった為にすんなりと通された。

何よりも魔神王が彼女の存在を認めてしまった事で誰も何も言えなくなってしまい、気付けば完全に溶け込んでいた。

だがやはりこの女はおかしい、とテラは思う。

何故ならばウェヌスはエクスゲートの術を使える。天と魔、二つの素質を持たなければ発動しないと言われる古の秘術を。

魔神族とは魔の化身である。故に天法など使えるはずもなく、それが唯一可能なのは彼等の王である魔神王のみだ。

父は恐らく知っている。こいつの正体を。その目的を。

だがそれはきっと、父の利にはなっても魔神族の利にはならない。

父が何を見ているのかは分からない。疑いたくない。

だがこの女を野放しにする事だけは、間違いだとはっきり断じる事が出来る。

「まず一つ。燻っているアリエスの存在をマルスに教え、奴の功名心を利用して先走らせたのは貴公だな?」

「あら、利用だなんて酷いですわ。私はただ、厄介なスヴェルを落とす簡単な方法を教えてさしあげたまでの事。まあ、ルファス・マファールというイレギュラーによって失敗してしまいましたが……流石にそれを予想しろというのは酷というものです」

何一つ悪びれずにウェヌスが微笑む。

流し目を送ってくる彼女から眼を逸らし、テラは次の話題を切り出した。

彼女と話す際にやってはならない事がある。それは眼を合わせる事だ。

この女と眼を合わせると、普段ならば考えもしないような事を考えてしまう事がある。

意識が引っ張られてしまう。

後になって冷静になるとおかしかったと気付く。

ウェヌスは恐らく、こうして話している間にも何かを仕掛けてきているのだ。

「二つ。ギャラルホルンの火種の存在をユピテルへ吹き込み、アイゴケロスを連れて行くように誘導したのも貴公だな?」

「ええ、その通りです。しかし残念ながらこれも失敗してしまいましたが。

ああ、策士策に溺れるというやつですね。ドヤ顔で彼を送り出した自分が恥ずかしいですわ。反省していますとも、ええ」

よくもぬけぬけと言う。

テラは知らず拳を固く握り、頭に血が登る。

だがその手を隣のルーナが握る事で冷静さを取り戻した。

そうだ、熱くなってはいけない。こいつを前に怒りに支配されるのは自殺行為だ。

「三つ……ルーナの潜入に合わせてスコルピウスを動かし、事を大きくしたのも貴公だな」

「ええ、頑張るルーナ様を応援しようかと思いまして」

「戯けが……どこの世界に、潜入任務を派手にする奴がいるか。

あれでは『誰かが潜入します』と教えているようなものだろうが」

ルーナの潜入は、本来ならば彼女と側近の数人だけで行われるもののはずであった。

断じてあれだけの数の魔神族や、スコルピウスまで伴って行うようなものではない。

堅牢な護りを誇るブルートガングに秘密裏に侵入し、上層部を暗殺する。それが本来の予定であった。

だがそれをブチ壊したのがこの女だ。

スコルピウスを真正面から突撃させてブルートガングを戦闘配備に移行させ、無意味に魔神族を援軍として送り込む事で潜入までも大事にした。

結果、ルーナの潜入に気付いたアイゴケロスが出て来るわ、外にはルファス・マファールが出て来てスコルピウスを捕らえてしまうわの大失敗だ。

「いや、そもそもの事の始まり……勇者召喚の儀でルファス・マファールが誤って召喚されたというのがもうおかしい。

あれは貴公がやった事ではないのか? エクスゲートに横から割り込みをかけるなど、貴公か父くらいにしか出来まい」

「…………」

「更に貴公はルファスをも誘導し、レーヴァティンにて父と衝突させた。

更に父の突然の遠征……これも貴公が何かを吹き込んだからだろう?」

魔神王は今、この城にはいない。

数日前、否、ルファスとの戦いが行われたその日から部下を率いて何処かへと遠征に出掛けてしまった。

その部下というのも魔神族ではない。父がモンスターテイマーの力で捕獲し育てた、父専用の精鋭部隊だ。

そんなものを連れて行った事からも、それがどれだけの事態なのか分かる。

テラの追求を前にウェヌスは表情を崩さない。

ただ微笑みを僅かに深くして、ふてぶてしく答えるだけだ。

「最後の問いにだけお答えしましょう。

――ええ、仰るとおり。私があの戦いを演出しました。

それが閣下の望みでしたので」

テラは目を細め、素早く腰の剣を手にする。

そして神速で薙ぎ、ウェヌスの首筋へと剣先を当てた。

ルーナでは抜刀すらも見えないだろう閃光の如き一閃。だがそれでも尚、ウェヌスは揺らがない。

「貴公、何を企んでいる? 我等を使って何をしようとしている!?」

「そうですね……貴方にならばあるいは、教えてしまっても構わないのでしょうね。

閣下も貴方の事だけは気にかけておられますし、私も閣下を敵に回す気はありません。しかし」

そう言い、ウェヌスはルーナを一瞥した。

「残念ながら彼女の前ではお話出来ません」

「ルーナは俺が信頼する唯一の部下だ。問題ない、話せ」

「出来ません。信頼する、しないの問題ではないのです」

ウェヌスがそう言うや、ルーナの背後に空間の裂け目が生じた。

狙いは言うまでもない。このまま剣を振り抜くつもりならばお前の愛しい女を撃ち殺すぞ、と脅しているのだ。

七曜は基本的に同格だが、ウェヌスだけはそれが当てはまらない。

底が全く見えないこいつを相手に賭けをするには、ルーナというチップは余りに重く、代えが効かない。

テラは歯を食い縛って収刀し、それと同時に空間の裂け目も消えた。

「わ、私の一体何がいけないと!? 何故私では駄目なのだ!」

「貴女が お人形(NPC) だからです」

「は? にん、ぎょう? 私が?」

「ええ、人形である事を自覚していない可哀想な お人形(NPC) 。

貴女は自分が玩具である事にも気付いていない。あの方と出会うまでの、かつての――と同じように」

最後の方の言葉は小声であり、よく聞き取れなかった。

だがそれでも、ルーナが侮辱されているという事は分かる。

テラは怒りを顔に滲ませ、ウェヌスを鋭く睨み付けた。

「ウェヌス。俺の権限を以て、本日限りで貴公を七曜から除名する。

今後、俺の前で好き勝手は出来ぬと思え」

「……まあ、思ったよりは早かったですが、どのみち潮時でしたか。

幸い、こちら側の十二星は無事回収しましたし、もういいでしょう」

「何?」

「そろそろ、演ずるのも飽いたという事です」

ウェヌスが嗤い、髪が波打つ。

それと同時にテラとルーナを包囲するように空間の裂け目が複数出現し、同時にウェヌスは自らの横に創り出した裂け目に手を入れて魔法を連射。

するとテラ達を包囲している裂け目が一斉に輝き出した。

「貴様!?」

「それでは御機嫌よう、お二方。次は敵としてお会いしましょう。

閣下にもよろしくお伝え下さい」

ウェヌス――否、ディーナが空間の裂け目に自ら飛び込み場を離脱する。

それと同時に一斉に裂け目から金色の輝きが放たれ、テラとルーナを襲った。

テラにとってこの程度は軽いダメージにしかならない。だがルーナにとっては致命的だ。

テラはルーナを咄嗟に抱きかかえると、己の身を盾として全ての攻撃を背で受け切った。

元よりウェヌスのこの攻撃は二人を倒すためのものではない。

ルーナというお荷物がいる事を利用して、テラを動けないようにして離脱するためのものだ。

攻撃が止み、テラはまず腕の中のルーナの無事を確認する。

その次にウェヌスの姿を探すも、既に彼女はどこにもいなかった。

*

「――と、いうわけで七曜をクビになっちゃいました」

「其方は何をしているのだ」

スコルピウスとの戦いが終わった後、突然『呼ばれてる』とか言い出してエクスゲートで消えたディーナを待つ事数分。

戻ってきたディーナは開口一番、やらかしすぎて魔神王の息子さんに今までの悪事が全バレしてクビにされてしまった事を俺に告げた。

何でも、息子さんに「お前がやったんだろ?」と問われて、そこで誤魔化せばいいものを「それも私だ」とドヤ顔で大物ロールしてクビにされたらしい。

こいつはもしかしなくてもアホなのかもしれない。

「いや、結構テンパってたといいますか、必死だったといいますか。

余裕ぶっこいてましたけど、実際やばかったですからね私。

テラ様、あ、もう様は要らないですね。テラさんって私と同じレベル1000で、しかもステータスが妙に高いんですよ。ボス仕様です。HPとかルファス様より高いんですよ。

まあそれでも戦えばルファス様が勝つと思いますが、私は無理です、ボコられちゃいます。

そんで捕まって縛られて薄い本みたいな事になっちゃうに決まってるんです!」

「いや、そのような事をする輩には見えんかったが」

「甘いですよルファス様! 男は狼なんです、野獣先輩なんです!

ああやって堅物ぶってるのに限って裏では色々妄想してるんです。

あの人、絶対ルーナちゃんで抜いてますからね!」

「おいやめろ、いきなり生々しくなったぞ!?」

何だか妙にありそうな話をしだしたディーナを軽く小突き、俺は話を中断させた。

そういうのは男のプライバシーだ、軽々しく触れるもんじゃない。

まあ、あの壊れ物でも扱うかのようなお姫様抱っこを見るに、ただの部下としては見ていないだろうと俺でも思う。

多分あれだ。息子さんはルーナって子に気があるんだろう。

それは別に悪い事じゃないし、好きな子をオカズにしてしまうのはある意味男として健全な証だ。

だがそれでは、折角の主人公的なイケメンが台無しになってしまうしイメージも崩れる。

だからそこは、触れてやらないのが男の情けというものなのだ。

だがやはりイケメンは爆発しろとも思う。

「ともかく、これからはダブルスパイも出来んと」

「出禁喰らいましたからね」

「駄洒落か」

「あ、わかります?」

「2点」

「酷い!?」

ディーナのダブルスパイは魔神族側の情報を得るという点で結構頼りにしてたのだが、これからはもう彼女の情報を当てに魔神族の動きを知る事が出来ない。

でもよく考えてみれば、こいつ魔神族の動きとかを俺達に知らせた事もないからあんまり変わらないな。

何だ、全然役に立ってないじゃないか、ダブルスパイ。

「で、これからどうします?」

「そうだな。とりあえずあの量産型リーブラ三体は修理しておいてやろう。

それとあの木っ端微塵になっているのは……まあ、素材として使えるだろうし一応回収してブルートガングに返してやろうか」

バラバラになっているのは俺でもどうしようもないが、中破までならスキルで修理してやれる。

問題はあいつ等が俺を敵と判断して襲いかかってきた場合だな。

ブラキウムもない劣化リーブラ(壊れかけ)が三体来た所で俺なら軽くあしらえる自信はあるが出来ればそれは避けたい。

ブルートガングに敵と認定されてしまう。

そんな事を考えていると比較的ダメージの浅い量産型がこちらに向かって歩いて来ているのが見えた。

何だ? 見た所武器とかは構えていないので戦闘の意志はなさそうだが……

「――データ照合、一致。ルファス・マファール様ですね。

貴女のご来訪をお待ちしておりました。

ブルートガング王室エリアへお越し下さい。我等がマスターがお待ちです」

え? マスター?

……いや、そいつはもう死んでるだろ。

俺はそう思いつつも、口に出す事は出来なかった。

まさか、とは思う。

あいつ(ミザール) 、まさか生きてんのか?