軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第67話 野生のイケメン野郎が現われた

ルファスとスコルピウスの戦いが決着したのとほぼ同時刻。

ブルートガング内の戦闘もまた決着を見ていた。

否、決着という言葉を使うならばそもそも最初から付いていた。戦うまでもなく決していた。

それほどまでに両者――アイゴケロスとルーナの差は大きく、埋め難い物だったのだ。

それをここまで引き伸ばしたのはひとえにルーナの粘りがあってのものであり、地理的な優位もまた彼女を助けた。

だが所詮引き伸ばしは引き伸ばし。いずれ来る結果を変えるようなものではない。

ルーナの華奢な身体はアイゴケロスの巨大な腕に掴まれ、その口からは悲痛な叫びが木霊している。

「あっ、あああああああああーーーーッ!!」

「終わりだ、七曜のルーナ。偉大なる主に歯向かう愚かな害虫よ。

さてどうしてくれようか……腕を引き千切ってやろうか? 足をもいでやろうか? 生きたまま内臓を抉り出してやろうか? それとも同時にやってみるか?」

アイゴケロスの本性は血と恐怖と死を何よりも好む残虐な悪魔である。

ルファスという主とその世界統一の理念に惹かれているからこそ、普段はその凶悪な素顔が隠れているが一度解放されればそこに容赦など存在しない。

敵は殺す、如何なる手段を用いても殺す、残忍に殺す、後悔させてから殺す。

それが存在意義であり、彼の本能だ。

さあ恐怖の悲鳴をあげろ弱き者よ。その顔を懺悔と絶望に染めて苦しみながら死へと向かえ。

覇道十二星天、『山羊』のアイゴケロス。

彼が十二星に迎え入れられたのはその強さ故ではない。

『危険』だったからだ。

ルファスが管理し、制御しなければ魔神族以上の恐怖となって人類に被害を与える危険性を秘めていた。

生来より他者を苦しめるのが好きだった。絶望の顔を作り出すのが生き甲斐だった。

勇気だの希望だの口にして向かってくる矮小な者達が圧倒的な力の差を前に膝を屈し、その顔を涙や鼻水で歪めながら命乞いをし、死んでいく。

そういうのが生まれながらに大好きだったのだ。

闇を好む事に理由などない。死を愛する事に気取った理屈など要らない。

ただ、そう生まれたのだからそう在るべし。

死こそが美しい。絶望こそが甘露だ。

そんな彼だからこそ、ルファスは己の配下へと迎え入れた。

余りに危険に過ぎるその大悪魔を管理し、監視する為にだ。

そして何より、彼には真なる『魔』としての矜持があった。

それが一層、魔神族に対する残忍性を強めていた。

「愚かなり、偽りの魔よ……創られし魔が真の魔に敵うと思ったか?」

「い、偽り……だと!?」

「然り。汝らは神の玩具なり。魔に似せて創造されし紛い物なり」

「そ、それは一体……!」

アイゴケロスは 地獄(ヘルヘイム) にて生まれ出でた生粋の悪魔である。

故に 魔(マナ) に対しての理解度、観察眼はルファスすらも凌ぐ。

同種の臭いを嗅ぎ分ける才能、とでも言えばいいのだろうか。

彼には 理解(わか) るのだ。マナの濃さが。

だからルファスに無条件で従い、頭を垂れた。彼女こそが真に魔を統べる者だと本能で理解したが故に。

だから魔神族の歪さにも気付いた。ああ、こいつ等は違うと。

何より奴等から感じる忌々しい力! 神の力! 天の力!

ああそうだ、こいつ等は魔ではない。我等魔に似せて創り出された模造品。

それらしく形を整えただけの――出来損ないだ!

だから嫌悪した。こんな劣化品如きが自分達を差し置いて魔を名乗るのが心底不快だった。

「汝は疑問に思った事はないか? 何故汝等魔神族が死した後に“死体が残らない”かを」

「……! そ、それは……死んだらマナに分解されるから……」

「何故マナに分解される? 我等魔物すら死すればそれは死体となり大地に還る。

何故汝等魔神族だけがまるで初めから存在しなかったかのように消える?

その現象に本当に見覚えはないのか? 役目を果たしてマナに『戻る』。それは汝等が見飽きる程に見てきた現象ではないのか?」

そこまで言われてルーナはハッとした。

知っている。マナから生み出されて形となり、役目を終えてマナへと戻る。

その現象を彼女は知っていた。

「まさ……か……」

「そうだ、汝等魔神族の正体は――」

まさに絶望を与えるだろう『正体』。

それをアイゴケロスが言葉にする、まさにその直前の事であった。

ブルートガングの入り口から蒼い剣閃が輝き、器用に建造物を避けながらアイゴケロスへと飛びかかった。

突然の奇襲ではあるが、アイゴケロスもこの距離で直撃を許すほど鈍間ではない。

余裕を以て回避するも、それに続くように剣閃を放った本人が地面から跳躍する。

一撃目はフェイク。アイゴケロスの注意を逸らす為の物であり、本命は建造物に隠れながら、かつ高速で地面を走り接近していた。

再び蒼い剣閃が輝き、アイゴケロスの腕を両断。その腕に囚われていたルーナを姫抱きで抱え、建物の上に着地した。

「ヌウッ、汝は……!」

切断されたのはマナで具現化した巨大な魔法であり、アイゴケロス本人ではない。

だがそれでも有象無象が容易く切断出来るものではなく、それだけでこの襲撃者のレベルの高さを物語っていた。

短く切りそろえられた髪は青というよりは蒼。

純白のマントをはためかせ、同じく白い鎧に身を包んでいる。

肌の色は人間と近い薄橙であり、瞳の色は真紅。

その口には牙もなく、だが全身から漲るマナの気配が彼を魔神族であると証明する。

「 魔神王の息子(テラ) か!」

「そういう貴公はアイゴケロスか。随分と俺の配下をいたぶってくれたようだな」

魔神族の中で最も警戒すべき相手は魔神王である。それは決して揺るがない。

だがその次に、そして覇道十二星ですら警戒せざるを得ない相手が存在している。

それこそが魔神王の息子であり、七曜が忠誠を誓う主である彼……テラであった。

アイゴケロスも魔神族に協力していた時に何度か顔を合わせてはいる。

だがその実力は未知数。本気というものを見た事がない。

加えてあの外見は何だ。

魔神族は青か緑の肌を持ち、黒眼と白眼が反転しているのが種族として共通している。

だが奴のあの姿はまるで人間。あまりに異なる。

「テ、テラ様……」

「全く。無茶をするなとあれほど言い聞かせただろう」

「……申し訳、ありません」

「あまり心配をさせるな……間に合って本当によかった。」

抱いたまま視線を絡め、自分達の世界へと入る魔神族の二人。

そこにアイゴケロスが空気を読まずに拳を叩き込むも、テラは優雅さすら感じる動きで避け、別の建物の屋上へと移っていた。

絵面だけを見れば、果たして誰が彼を魔神族と思うだろう。

片や巨大な悪魔の化身。

片や囚われの少女を救いに来た騎士。

これではどちらが悪党か分かりやしない。

「ふん、丁度いい。汝もまた我が主への贄に捧げよう」

「本音を語るならば俺も貴公には腸が煮えくり返っている。

だが今は貴公など相手にしていられん。悪いが退かせてもらうぞ」

テラは一対一ならばアイゴケロスにだろうと勝てるという自信があった。

それは七曜のマルスなどに見られる何の根拠もない無謀なだけの自惚れとは異なる、確かな実力と観察眼による確たる自負だ。

だがこの地にはあのルファス・マファールもいる。

覇道十二星の『山羊』、『牡羊』、『天秤』に加えて黒翼とくればいかにテラでも勝ち目などないに等しい。

否、今の弱体化しているというルファスですら一対一でも勝てるかどうか……。

「逃げられるとでも」

「思っているさ」

テラはルーナを抱えたまま、壁へと向かって跳躍する。

そして片手で剣を薙ぎ、あろうことかブルートガングの壁を切り開いた。

それはブルートガングを崩壊させるようなものではなく、精々一が一人か二人通れる程度の小さな傷でしかない。

だが脱出にはそれで充分。テラは壁に開けた亀裂から飛び出し、ブルートガングの外へと飛び出す。

その一瞬、外にいた黒翼の女性と眼が合った。

「…………」

「――」

互いに無言。刹那の間の交差であったが故にリアクションを起こす間もなく、そのまま両者の視線は外れてテラは場を離脱した。

底知れない、と改めて思う。

今のルファスは女神から何らかの干渉を受けて全力を発揮出来ない状態にある、と父から聞いてはいた。

だが、それでもあれなのか。力の半分以上を削がれて尚あれなのか。

眼が合った一瞬で喰われるかと錯覚した。それほどの存在感があった。

やはり父以外がアレと戦うという今の選択は完全に間違えていると確信する。

そしてテラは思う。

早急に方針を転換する必要がある、と。

七曜や十二星を動かし、悉くルファスにぶつけている参謀気取りの『あいつ』に真意を問いただす必要がある、と。

「ルーナ」

「は、はい!」

「今、七曜は……否、魔神族全体がある者の意思によって操られている。

父はそれを知っていて止めようともせず、それどころかやけにあの女に協力的だ。

ソルに至っては、完全に操り人形と呼んでいい。

今、魔神族の中において俺が信頼出来る者はほとんどいない」

ルーナを抱えたままテラは空を『蹴る』。

すると空中で彼の身体は加速し、景色が凄まじい速度で後方へと流れて行った。

「貴公は数少ない、信頼に値する者だ。どうかこんな戦場で無駄死はしないでくれ。

俺には貴公が必要なのだ」

「テ、テラ様……」

その言葉は部下に向けてのものなのだろう。

それはルーナにも分かっている。

だがそれでも、裏があるのかと勘ぐってしまう。むしろあって欲しいと思う。

主従関係なく必要だと、そう思われたい。

そこまで考え、ルーナは煩悩を捨てるように首を振った。

「貴公、何をしているのだ?」

「な、何でもありません!」

こちらの気持ちなど知りもしない上司の言葉が、今は少しだけ腹ただしい。

*

何、今のイケメン野郎。

俺は突然ブルートガングの壁をブチ抜いて出てきたイケメン君を見送り、しばらく呆けていた。

何と言うか、今のはきっと男の敵というやつだろうと本能で理解出来る。

無駄なまでのイケメンフェイスに白一色の鎧とマント。

何だ、あの『俺が主人公だ』と言わんばかりの外見は。この世界の主人公は勇者さんだろうが。

しかも何か魔神族っぽい女の子をお姫様抱っこしていた。爆発しろ。

「ほらルファス様、見ました? ああいうのが正しいヒロインの扱い方ですよ!

首根っこ捕まえて飛ぶとか言語道断ですよ!」

「いや、それだと我等が悪役になってしまうのだが……ああ、そういえば悪役だったか。

で、あれは一体誰なのだ?」

隣でまだ先ほどの扱いを引き摺っているディーナに、今のイケメン野郎の事を尋ねる。

魔神族っぽいのを抱きかかえていたし、多分魔神族の関係者だろう。

ならば向こうとの二重スパイであるディーナに聞けば答えも出るはずだ。

「ああ。あの人は魔神王の息子さんですよ。魔神族の王子様ですね」

「イケメンで王子とか実在したのか……」

「乙女ゲームなら間違いなく攻略対象ですよ」

「やった事がないから分からん」

生憎と俺はアクションとRPG、格闘ゲーム派だ。

アドベンチャーとか恋愛ゲームとかはあまり好きではない。

というかあれ、要するにセーブロード機能が付いただけのライトノベルや恋愛小説だろう。

なら普通に本を買えばいいだけではなかろうか? 何が悲しくてわざわざ高い本体を買ってライトノベルを読まなければならないのだ。

「……ルファス様って本っ当、女の子らしくないですよね……」

「それはまあ、中身が男だからな」

「え?」

「ん?」

俺の発言を聞いたディーナが呆然とし、俺の事を凝視してくる。

ん? 今何かおかしな事を言ったか?

「え? え? あの……ルファス様って、 中身(プレイヤー) の方は……男性の方? ……そういえば女性なら知ってて当然の事にも色々無頓着でしたし……」

「言わなかったか?」

「言ってないですよ! 初耳ですよ!」

「あー……そういえばそうだったか。まあ案ずるな。

性欲はこの身体になった時に余の何が気に入らんのかは知らんが家出して、未だに戻って来ていない。

だから女性の肌とかを見ても別に何も感じんぞ」

「それはそれで何か悔しい!?」

わたわたしているディーナを放置し、俺はウィルゴと合流すべく歩を進める。

多分中の方も片付いているだろうし、リーブラ達も後で労っておこう。