軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第47話 おめでとう、乙女は怨霊に進化した

「で、これはどういう事なのだディーナ。

其方確か、12星は全員健在と言っていたはずだが」

「え、ええと……いや、その。

だって結界が残ってましたし、まだ生きてるって思うじゃないですか。

というか、何でパルテノス様がいないのに結界だけ残ってるんですか」

俺に問い詰められたディーナは居心地が悪そうに言い訳し、それから結界だけが残っている事態に疑問を発した。

追求逃れのような気がしないでもないが、言っている事はもっともだ。

アリオトの結界は本人が死ぬ事で発動するタイプだったが、これは時間持続型であり、一定時間が経過すれば消えてしまうものである。

にもかかわらず1年経ってまだ持続しているのは明らかにおかしい。

高レベルならばそういう事も可能なのだろうかとも思ったが、どうもディーナの反応を見るに違うらしい。

となると、何故残っているのかという疑問に到達してしまう。

「それが……お婆ちゃん、死んだ後も怨念だけで現世に留まってまして……。

今でも森のどこかを怨霊として彷徨ってるんです」

「……乙女とは一体」

何だか200年でパルテノスがとんでもない事になってる……。

これじゃ乙女のパルテノスじゃなくて悪霊のパルテノスだよ。

「あー、うむ。とりあえず事情はわかった」

要するに、12星健在はディーナの勘違いというわけだ。

そして勘違いの最大の要因は結界がまだ残っていたからであり、それを知るディーナは『パルテノス健在』と思いこんだ。

だが実際にはパルテノスは死んでいて、怨念だけで結界を維持していたと。

リサーチ不足……と責める事は出来ないな、これは。

流石にこんなのは予想しろというのが酷だ。

「とりあえず、余が会って成仏させてやるしかあるまい」

仮にも『乙女』の称号を持っていた者が悪霊にまで身を落としているのは、流石に哀れというか居た堪れない。

俺(ルファス) への忠誠でそこまでやってくれているのは素直に嬉しいが、同時に申し訳なくも思う。

いい加減、俺から解放してやるべきだろう。

「ウィルゴといったか。

パルテノスの霊が何処にいるかは分かるか?」

「いえ、それが私にも……。

付近のどこかにいるのは間違いないんだけど」

俺の問いに対し、ウィルゴが首を横に振る。

結界が残っていた以上、近くにいるのは間違いない。

しかし、霊だけあってその実体を掴むのは困難らしく、孫のウィルゴでも場所を把握しているわけではないようだ。

「あの、それじゃ何で霊になったっていう事を知ってるの?」

「あ、それはね。お婆ちゃんが時々出て来て結界を張り直すからその時に見たの」

アリエスのもっともな問いに、ウィルゴがサラリと答える。

どうでもいいが喋り方被ってるなこの二人。

ディーナは自分と被ってるとか寝言を吐いていたが、むしろこれはアリエスとキャラ被りしてるんじゃないだろうか。

敬語は目上……この場合は俺に対してのみのようだし、こっちの口調が素なのだろう。

常時敬語の胡散臭いディーナとはやはり似ていない。

「という事は、結界の効力が薄れるまで待っていればいいわけか」

「この前直したばかりだから、多分しばらくは出てこないと思いますけど」

「…………」

少し待ってみるか、なんて気楽に考えた俺だったが、ウィルゴの言葉でその考えは脆くも破綻した。

最近張りなおしたばかりじゃ、当分出てこないだろう。

それでも数ヶ月も待てば出て来るだろうが、流石に少し面倒臭い。

……ま、別に急ぎの旅ってわけでもないし気長に待つのもいいか。

と、結論を出しかけていた俺だが、何やらアイゴケロスが魔力を高めているのを察知して慌てて振り向いた。

「ならば結界を壊してしまえばいいわけだな。

そういう事ならば我にお任せを!」

「え? ちょ、アイゴケロス?」

「御安心下さい我が主! すぐにこの結界を砕いてパルテノスを引き摺り出してみせましょう!」

「いや、待っ……」

「インビジブルブレイク!」

俺の言葉も聞かず、アイゴケロスのアホが魔法を発動する。

月属性の上位魔法『インビジブルブレイク』。

その効果は範囲持続型の魔法などを消滅させる打ち消し魔法だ。

防御や支援魔法があるなら、当然それを消す魔法もある。

そうした相手の厄介な支援を打ち消すのが12星におけるアイゴケロスの役割であり、俺もかなり重宝したものだ。

だが、それを今使えなどと俺は一言も言っていない。

ガラスが割れるような呆気ない音が森に響く。

それと同時に、確かに先刻まではあった、この森を守る何かが消えるのを感じた。

やりやがった、このアホ山羊。

何でこう、12星っていうのは人の話を聞かない奴ばかりなんだ。

久しぶりの出番で張り切っているのは分かるが、それにしたってこれは強引すぎる。

パルテノスに敵と勘違いされたらどうするんだ。

「如何です、我が主」

「其方が早計なアホという事はよく分かった。

次からは少し考えてから動くように」

「!?」

ドヤ顔でこちらを見てきた山羊を軽く叱り、森を見回す。

アイゴケロスが落ち込んだようにしょぼくれているが知った事ではない。

とりあえず俺がここにいる以上、パルテノスに敵と認識される事はないと思うがどうなる事か。

「…………」

腕を組み、何分も無言でパルテノスの登場を待つ。

こうなってしまった以上、結界の修復の為にも出て来るしかないだろう。

問題は結界を破壊した俺達を敵と認識して襲って来ないとも限らない事だ。

流石に俺の事は分かると思うが、何せ怨霊だ。最悪俺の事を忘れているかもしれない。

しかし怨霊か。

そういうオカルトってあんま信じてないはずだったんだが、我ながら随分すんなり受け入れたものだ。

まあここまで吹っ飛んだ状況に身を置けば、今更幽霊くらい驚くにも値しない。

『ああ、本当に幽霊っているんだな』って感じだ。

だから、実際目の前にゾンビやら幽霊やらが出ても驚かない自信がある。

もう変な事に慣れすぎて、感覚が麻痺してしまっているのだ。

しかし待てども待てども、一向にそれらしき物は現れず、時間だけが過ぎていく。

「……出てこないな」

「出てきませんねえ」

俺の呟きに、隣にいたディーナも不思議そうに同調する。

てっきりすぐにでも出て来ると思ったのだが、少し拍子抜けした気分だ。

案外もう成仏してしまっているのだろうか?

それとも定期的に張り直しているだけで、それ以外は寝ているのだろうか?

その後も俺達はしばらくの間怨霊パルテノスの登場を待ち続けたが、結局その日のうちにパルテノスが現れる事はなかった。

……マジでどうなってる?

*

「勇者よ、前回は済まなかった。

万全を期したつもりの編成であったが、わしの見立てが甘かったようだ」

ルファスと魔神王の戦いを目の前で観戦するという異常事態に遭遇した勇者一行は、再び剣の国レーヴァティンへと引き返していた。

格好悪いとか言う輩もいるが、だったらお前等ルファスか魔神王の前に出てみろと瀬衣は叫びたかった。

あれは無理だ。人数を何百人何千人集めても勝てる気がしない。

王は見立てが甘かったなどと言っているが、それは今も変わっていないと瀬衣は思う。

そう、見立てが甘い。精鋭を集めれば……人数を集めれば……武器を集めれば……。

そうした小細工でどうにかなる相手だと思うのが、もう完全な誤り。

分かる訳がない……あの恐ろしさと絶望感は、直接あの戦いを見た者でなければ分かるはずがない。

仲間の一人であったはずのアルフィはすっかり怯え、この旅の同行を拒否してしまった。

しかしそれを責める事など瀬衣には出来ない。

自分だって、叶うならば今すぐ日本に逃げ帰りたいのだから……。

「アルフィの離脱はあまりに惜しい。

しかし安心せよ。彼女以上の精鋭をわしは既に用意しておる」

王は大仰に手を広げ、側に控えている者達を紹介する。

「まずは『鬼人』の二つ名で恐れられ、傭兵では最強とも噂される、アルフィの父ガンツ!」

王に呼ばれ、ハゲ頭のいかつい中年男が前に出る。

背中には人の大きさほどの巨大戦斧を背負い、腰には一振りの剣。

真新しい鎧は何だか妙に似合っておらず、恐らく王から賜ったのだろうそれを着心地悪そうに着こなしている。

その顔を見て、瀬衣が思わず『娘と全然似てない』と思ったのも仕方の無い事だろう。

遺伝子の神秘、ここにありだ。

「次に、かの黒翼の王墓を攻略し宝を手に入れた冒険者、『鷹の瞳』!

頼むぞ、ジャンよ!」

「王命、確かに承りましたぜ、陛下!

勇者の坊主は俺に任してくんな!」

自信に溢れた声で無礼とも思える返事をしたのは、如何にも冒険者です、といった風体の男だ。

茶色の髪は逆立ち、鋭い瞳はギラギラと輝いている。

まるで怖い物などない、と言わんばかりの気迫と勢いを感じる。

彼ならばあるいは、実力差が開いている相手であろうと構わず突撃するかもしれない、とすら思わせてくれた。

その後ろに立つ3人もまた、自信に溢れた顔でジャンの言葉に頷く。

「そして……思えばわしは間違えておった。

未来を担うはずの若き者達や異世界の若人ばかりに戦いを押し付け、自らが安全な玉座に留まり……。

そうだ、自明の理であった。

自らが火中に飛び込まずして、どうして世界が救えよう」

王の、自らを責めるような言葉に場の全員が思わず顔をあげる。

瀬衣もまた、何か嫌な予感を感じていた。

何かこの王、とんでもない事を今から言ってくれそうな気がしてならない。

そしてその予感は正しく、王は実にトチ狂った事を叫び始めた。

「わしも共に往くぞ勇者よ! 共に世界を救おうではないか!」

「王ォォォォォ!!?」

玉座から立ち上がり、馬鹿みたいな事を宣言した王に側近の者達がこの世の終わりのような顔で叫ぶ。

しかし王は気にした様子もなく、更に言葉を続けた。

「わしも今でこそ爺だが、若い頃は最前線でバリバリ戦ったもの!

今更命など惜しみはせぬ。我が民達の明日の為、わしもまた礎となろう!

自らが死線に立たずして何が剣王の子孫か! 兵士達よ、わしの剣を持って来い!

剣王が血脈、アリオト6世の剣技を見せてくれ――」

「王、ご乱心! 取り押さえよ!」

「何をする貴様等ー!?」

クルスの号令で一斉に兵士が動き、王を取り押さえにかかった。

王はそれに対し老人とは思えぬ豪腕を振り回して抵抗し、千切っては投げ千切っては投げの大奮戦をするも、やはり数には敵わず取り押さえられ、ズルズルと引き摺られて行った。

あれ、いいのだろうか? 不敬罪とかどうなってるの? と思わないでもない。

「……あの、アレいいんですか?」

「問題ありません。王のご病気です」

「いやでも、不敬罪とか」

「いつもの事ですし、王はそういう事をあまり気にされない方なのです。

でなきゃフリードリヒ殿なんて、とっくに投獄されてますよ」

「……周りへのこう、威厳とか、見栄えとか、そういうのも王様には必要なんじゃ……?」

「……もう諦めました」

どうやらクルスもこれで、あの王には結構苦労しているらしい。

そういえば彼は王の相談役だったな、と改めて思う。

なるほど、王があれではさぞ大変だろう。

というかあんな脳筋が王様では、実質政治関係は彼がやっているのではないだろうか、とすら思ってしまう。

それにしても、と瀬衣は改めて自分の旅の仲間を見る。

剣聖フリードリヒ。

その補佐を務める副団長のアマゾネス(本名不明)。

後衛のスペシャリスト、クルス。

傭兵のガンツ。

冒険者のジャン。

同じく『鷹の瞳』のリヒャルト、ニック、シュウ。

そして自分。

「…………」

――なんだ、この無駄に濃い面子……。

瀬衣は、何だか無性に悲しい気持ちになった。