軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第42話 公式のラスボスが現れた

「このままでは殺されるぞ、勇者は」

俺の発した言葉に、各々が頷くなどの行為で同意を示す。

といっても、その雰囲気は悲壮なものではない。

そもそも12星にとって勇者など、言い方は悪いが他人のようなものであり、悲観する理由がないのだ。

しかし俺にとっては別。

ゲームのシナリオ通りならば魔神王さんを倒してくれるのは勇者なのだから、ここで死なれては困るのだ。

だからあえて深刻な事態ぶって発言してみたのだが……アリエス達は何だかどうでもよさそうに「そうですね」とか言っていた。

多分俺が世間話程度のノリでこの話をしている、とでも思っているのだろう。

「流石はルファス様。

その通りにございます。

魔神族は恐らく今日か明日――勇者の出発に合わせて、7曜の誰かを差し向けるでしょう」

「まあ、そりゃそうなりますよね。

わざわざ強くなるのを待つ必要なんてありませんし。

お行儀よく勇者の強さに合わせてモンスター配置してダンジョン置いて、なんて都合のいい事をやってくれる道理がありません」

アイゴケロスの言葉にディーナも頷き、全世界のRPGをディスるような発言をかます。

仕方ないだろ。初手ラスボス突撃とかやらかされたらゲーム成立せずプレイしてもらえないんだから。

ラスボスさん達だって、プレイヤーに楽しんで貰うために必死なんだよ。わかれよ。

というか勇者の出発がやけにタイミングがいいというか……いや、違うか。

この話を俺に振ったのはディーナだ。

つまり彼女は、勇者出発のタイミングに合わせてこの話題を出したんだろう。

どうやらディーナにとっても、ここで勇者を倒されるのは困る事態らしいな。

「……レーヴァティンには例の剣聖とやらがいたな。

それに剣の国を名乗るからには兵士の錬度も悪くあるまい。

7曜に攻め込まれたと仮定して……どの程度やれる?」

魔神族側の戦力を、恐らくはディーナと同じくらいには知っているだろうアイゴケロスへ問う。

するとアイゴケロスはふむ、と呟いた後に口を開いた。

「そうですな。あの国には剣」

「剣王アリオトが張った結界があるので、7曜程度では返り討ちに遭うでしょう。ルファス様」

俺の問いにアイゴケロスが答えようとしたところを、何故か強引に割り込んだディーナが先に答えた。

何ていうか、うん。お前実は説明するの大好きだろ?

それとも説明ポジションを取られると焦ったのだろうか。

変なポジション争いをする二人とは対照的にアリエスとリーブラは平和なものだ。

アリエスはトウモロコシの二つ目に突入し、リーブラは我関せずと隅で置物になっている。

「結界?」

「はい。勇者のスキル『 受け継がれる魂(ソウル・サクセッション) 』。

その効果は、ルファス様も知っての通りです」

「…………ああ、なるほど」

『 受け継がれる魂(ソウル・サクセッション) 』。

その効果は効果範囲内のプレイヤーキャラの能力を大幅に上昇させ、同時に敵の能力を著しく下げる範囲結界スキル。

それだけならばただのバフとデバフと合わせ技だが、このスキルの頭おかしい所は戦闘終了までずっと効果が継続する事だ。

ただしその分デメリットは大きく、これを使用した勇者はノータイムで死んでしまい、蘇生魔法をかける暇もなく街へ送還されてしまう。

ゲームだと、これを使用して死んだはずのアリオトが戦闘後に街からダッシュで駆け付けて「お前は死んだはずの!?」、「残念だったな、トリックだよ!」とかふざけた会話も交わせたもんだが……。

……この世界では、使用=死……だろうな。当然街から走って戻ってくるなんて愉快な事が出来るわけもない。

「道理で、英雄抜きで未だに存続しているわけだ。

……いや、違うか。今でもアリオトは国を守っているのだな」

スヴェルはメグレズとレヴィア。

ギャラ国はメラクの『威圧』。

そしてレーヴァティンは結界。

それぞれの方法であいつらも自分の国を守っているわけだ。

スコルピウスのアホに滅ぼされたという『フロッティ』は多分そういった強固な守りがなかったのだろう。

しかしフェクダはモンスターテイマーのクラスもあったのだから、強力な魔物の1体くらいは国の守りに就いていてもおかしくないはずだが。

……魔神王さんとの戦いでやられてしまったのか?

ともかく、現在も存続している国には何らかの守りがあると見て間違いないだろう。

「なるほど、国内ならばひとまず安全というわけか」

「そうですね。僕やアイゴケロスでもあの結界の中で人海戦術を取られればかなり手こずると思います。

勿論向こうにも壊滅的な被害を与える事が出来るでしょうが」

アリエスの言葉を聞き、12星でも警戒する結界か、と感心する。

この世界での人類と12星のレベル差は天と地ほどもある。

にも関わらずアリエスが攻め込むのを躊躇するのだから、その効果は計り知れない。

勿論弱体化と向こうの強化があって尚、国を半壊には追い込めるだろうし騎士団もほぼ壊滅してしまうだろうが、少なくとも7曜程度なら突破出来る代物ではあるまい。

無論これは他の7曜にディーナみたいなレベル1000が紛れ込んでいない事前提の話ではある。

そして、ディーナみたいな奴がいない事の証明でもある。

何故なら、もしディーナ級の奴がいるなら結界の外から隕石の一つでも落としてやればそれで終わってしまうからだ。

つまり7曜は多少の差はあれどディーナ以外の6人はドングリの背比べと見ていいだろう。言っちゃ悪いが雑魚の集いだ。

しかし俺はあの国に行っても特に何の影響も感じなかったが、結界など本当にあったのだろうか?

プレイヤーである俺には影響しなかっただけなのか、それとも本当は影響していて俺が間抜けにも気付かなかっただけなのか。

少し気になるな。

「私ならば98%の確率でレーヴァティンを攻め落とせます、マスター」

「やらんでいい」

何故か自慢気に語るリーブラを諌め、俺は溜息を吐きたいのを堪えた。

……つくづく、リーブラが墓に引きこもっていてくれてよかったと思う。

こいつなら結界なんて関係なしにブラキウムぶっぱで終わってしまうからな。

固定ダメージの前ではバフもデバフも関係ない。

「話を戻すが、国内ならば手出しはされんという事だな?」

「スコルピウス様や魔神王、その子息が出てこない限りは安全かと。

しかし逆を言えば彼等が出てくれば滅亡の危機に晒されますし、何より国の外に出てしまえば襲い放題です」

「つまり?」

「旅立ちの瞬間を狙われます。王都から出て即、7曜とエンカウントするでしょう」

ディーナが確信を感じさせる声ではっきりと断言した。

なるほど、つまり王都を出て速攻で「あ! 野生の7曜が現れた!」となるわけだ。

うん、詰むなそれは。というかボスがわざわざ出向いてくるなよ。

RPGじゃ禁じ手だぞ、それは。

そして7曜の一人でもある彼女がこうまで言い切るって事は既に決まった予定という事か。

多分勇者には例の剣聖なども同行するだろうが、それでも7曜相手となれば凌げるものではあるまい。

「勇者を狙って必ず7曜が現れる、という事は逆を言えば討ち取る格好の機会でもあるな。

全員、ここで待機せよ。余は一度レーヴァティンまで戻る」

本音を言えば勇者さんを助けたい、といったところだがそれではアリエス達は納得すまい。

だからとりあえず、それらしい事を口にして俺は立ち上がる。

7曜程度なら誰かを同行させる必要はないだろうし、そもそも全力飛翔した俺と同じか、先んじて移動が出来るのなどディーナくらいだ。

リーブラなら少し遅れて合流出来るかもしれないが、わざわざ王都の近くにこんな危険物を連れて行く必要もない。

ブラキウムとか発射されたら最悪王都に被害出るし。

ディーナは……いや、駄目だな。

ディーナ=ウェヌスは向こうも知っている情報だ、と彼女自身が言っていた。

その彼女が俺の後ろに控えて明確に7曜などと敵対すれば、それは裏切りと取られてしまう。

そうなれば折角のWスパイも台無しになるだろう。

しばらくは、ウェヌスは味方、と向こうに思わせておいた方がいい。

「マスターお一人で出向くおつもりですか?」

「問題はない。7曜程度なら残りの全員がかかってきても討ち取れる」

リーブラが心配そうに聞いてくるが、問題はないだろう。

少し慢心しているのかもしれないが、7曜がマルスやユピテル程度の実力しかないのなら負ける気がしない。

味方不足なら最悪、そこらで適当にゴーレムを作るという手もある。

ま、油断せん限り負けはしないだろう。

「明日には戻る。心配は要らん」

アリエス達にそう言い、俺は田中の外へと出た。

ともかく、今の世界の情勢を考えると7曜を減らせる時に減らすというのは間違いじゃないはずだ。

魔神王さんは何考えてるか知らんが、あんま自分で動いているという印象を受けず、積極的に動いているのは7曜や12星だ。

7曜は現在二人を倒し、ディーナはスパイなので実質4人。

ここで減らせれば後は3人となり、かなり人類も有利になるだろう。

俺はそんな事を思案しつつ翼を広げ、空へと飛翔する。

重力から開放される感覚っていうのはいいものだ。

何度やっても飽きないし、天翼族でよかったと心から思う瞬間だ。

風を切り、遥か離れているはずの距離を一気に詰める。

田中で数日かけて旅してきた道を、わずか数十分で戻るこの感じはたまらない。

しかしこの翼、本当にどうなってんのかね。

人間が飛ぶには20m以上の翼が必要、とかどこかで見た記憶があるが俺の翼はそんなに大きくない。

大翼には違いないが、片方の翼の大きさは精々1m半くらいだ。

にも関わらず普通に飛べているのだから、全くファンタジーである。

飛ぶ事約数十分。

俺はかつて最初にこの世界に喚ばれた地であるレーヴァティンの上空にいた。

懐かしい、というほど過去ではない。

日数にすれば実の所、ほんの数週間程度しか経っていないはずだ。

結構これでもこの国には感謝しているのだ。

この国が召喚をミスってくれたから俺がここにいる。

ここにいて、アリエス達と出会えたのだ。

これは多分、おかしい考え方なんだろうな。

普通なら本来の平和で、身の危険なんかほとんどない日本の生活から引き離された事を憤るべきなのだろう。

早く帰りたいと願う事が正しい心の動きなのだろう。

だが……何故だろうな。俺は全くそう思わないんだ。

ホームシックというものにまるでかからない。故郷を懐かしく思う気持ちすらない。

平和な生活、保証された安全、苦もなく手に入る衣類に食べ物に確かな造りの住居。数々の娯楽。

……大違いだ。

魔神族に脅かされるこの世界とは雲泥の差で、どちらが幸福な世界かと言えば満場一致で向こうが幸せに決まっている。

しかし、何故なんだろう。

まるで夢……スクリーン越しの映画のように現実感がなく、俺にとってそれは別世界のように感じられる。

実感がまるでない。

確かに向こうで過ごして成長して生活した記憶があるというのに。

なのに、まるで他人の記憶……ドラマか何かで見知らぬ他人の平和な生涯を見せられたかのような、他人事のような感覚。

どうも、結構やばい感じに『ルファス』の感覚に染まってきているらしい。

いや、あるいは最初から……。

……よそう、今はそんな事考えてる時じゃない。

いや、考える場合じゃなくなった、というべきか。

首を振り、改めてレーヴァティンを見る。

注視してみればなるほど、確かに結界らしきものが王都全体に張り巡らされているのが分った。

本来はここまで広範囲に展開されるスキルではないはずだが、またゲームと現実の差が出たという事だろう。

あるいはアリオトの最期の意地か。

「なるほどな……これでは7曜では近寄れぬわけよ。其方もそう思わぬか?」

そう呟き、俺は“後ろにいる誰か”へと声をかけた。

姿は確認していないが、今しがた……丁度俺が首を振る直前辺りに突然現れた誰かの気配。

それが俺の後ろで何をするわけでもなく佇んでいるのをハッキリと感じる。

突然の出現、となればまず疑うべきは『エクスゲート』による転移だ。

ディーナに確認したが、現在この世界に存在する転移魔法はエクスゲートのみであり、それ以外の転移はないと断言していた。

そしてエクスゲートの使用には条件があり、『天法』と『魔法』の両方の力を合わせ持つ事。

だから魔法しか使えない吸血鬼や天法しか使えない天翼族では決して行使出来ないという。

また、そもそも魔法の行使そのものを苦手とする獣人なども現代では多分使い手なし。

その事から使い手の限られた魔法だという。

ディーナ……ではない。

この突き刺さるような敵意と圧迫感は彼女のものではない。

だからといって7曜も違う。

奴等にしては存在感が大きすぎる。

ならば。

ならば答えは限られてくる。

そして既に答えは得ている。確信に近い予感がある。

一度も会った事のない存在だが、よく知っている。

いずれ来るだろうこの出会いの時を、200年の昔から共に予感し共有し、恐れ、そして待ち望んできたのだから。

「なあ――魔神王」

余(おれ) は自分でも不可解な事に、好戦的としか表現できないような笑みに顔を歪め。

後ろにいる『そいつ』へと語りかけた。