軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第30話 ギャラルホルンは(内戦の)力を溜めている

どうもこの国は俺が思う以上に多くの問題を抱えているらしい。

宿のソファに腰かけながら、俺はそう痛感していた。

まず、俺自身が神殿で遭遇したモブ顔の男――あ、そういや名前聞いてないな。

とりあえず暫定として適当にモブレッド(仮)とでも呼んでおこう。

彼が語るメラク王への憤りは恐らく、彼個人だけのものではない。

あんな神殿が建てられ、世界的悪党である俺の像なんかが堂々と祭られているのだ。

それ自体がもう、王への叛意をありありと示していた。

いやね、白翼派の差別意識が酷いってのは何となく分かる。

だがあんな事をしていたら火に油もいい所だ。

俺がこんな事を言うのもなんだが、白翼派の差別意識の一端は混翼派自身にも原因があるんじゃなかろうか。

しかし、どうも問題はそれだけではないらしい。

「――と、いうわけでして白の街は現在内戦の準備を進めているようです」

現在俺達は宿に集まり、今日一日の情報交換を交わしていた。

その一番手としてディーナが名乗りをあげたのだが、彼女が語るそれはまさに爆弾。

相手への疑心暗鬼が限界に達した白の街の連中が既に内戦の準備をし、義勇軍を結成しつつあるというとんでもない情報だった。

おいメラク、何やってるんだ。内戦秒読みに入ってるじゃないか。

このままだと誰も侵略してないのに国が滅ぶぞ、これ。

「会話から見るに、『ジュピター』なる人物が白の方々を煽っていると見て間違いないでしょう。

まあ、多分偽名でしょうがね」

「……うむ、報告ご苦労だった、ディーナ」

俺は額を押さえつつ、ディーナを労う。

とりあえず黒幕がいるってのが救いか。

もしかすれば、そいつを何とかすれば争いは止まるかもしれない。

……もっとも、ここまでヒートアップしたものが止まるかは正直疑問だが。

「報告致します。

本日13時23分42秒。白の街にて魔神族7曜の一人であるユピテルと遭遇、交戦致しました」

続いてリーブラが爆弾を投下する。

彼女は今日、白の街に行きそこで魔神族と戦ったらしい。

放置しても滅びそうなこの国に魔神族とか、いよいよもって不味い状況だ。

こりゃ本当に何もせず俺達がここを立ち去ったら国が滅びかねないな。

そうなれば3人の英雄で保っていた戦力バランスは崩れ、魔神族による大侵攻を招きかねない。

「戦力と相性から考えるに、私ならば勝率99%を下回る事はありませんが逃げに徹されてしまった場合の捕捉が困難です。

次は確実に仕留める為にホーミング弾の練成と銃の整備を申請します」

ホーミング弾……ガンナークラスが使う、命中率の高い弾丸だ。

俺自身はガンナークラスを持っていないが、一応作る事は出来る。

それを言うならリーブラもガンナーのクラスなど持っていないのだが、まあそもそもゴーレムや魔物はプレイヤーキャラとデータが根本からして違う。

問題は、リーブラが弾丸を所有していないという事だ。

「……左程貴重な物ではなかったと記憶しているが、持っていないのか?」

「遺跡防衛にて手持ちは全て使い切りました」

「…………」

そういやこいつ、200年遺跡から動いてなかったな。

となると、ホーミング弾に限らずそれ以外にも弾切れを起こしている可能性がある。

やれやれ、それも一緒に補充しておいてやるか。

弾丸はゲームなら簡単に購入出来たが、多分この世界では結構入手し難いのかもしれないし、俺が造るのが一番確実だ。

というか機関銃、よく200年も壊れなかったな……流石はミザール製か。

「不足している弾丸と武器を紙に纏めておけ。

後で一緒に練成しておく」

「感謝致します」

リーブラは開幕ブラキウムが強過ぎるのでそこまで弾丸を消費しないが、それでも無いと有るとでは全然違う。

彼女の戦力を万全にする事を決め、次に俺はアリエスを見た。

「其方の方では何かあったか?」

「…………」

「……アリエス?」

「あ、いえ! 僕の方では特にこれといってルファス様の御耳に入れるような事は……」

ふむ、どうやらアリエスの方は異常ないようだ。

少しどもったのが気になったが、まあ誰だって考え事くらいする。

とりあえず今はこれ以上問題が増えなかった事を喜ぶべきか。

「最後は余だな。

この黒の街だが、あろう事か余の銅像などを神殿で祭っていた。

これでは白の連中を無駄に刺激するだけだ……内戦は秒読みに入っていると見て間違いないだろう」

「あら、いい街じゃないですか」

「マスター、内戦の際は黒の街を全面支援する事を提案致します」

「僕もそれでいいと思います」

「……其方等……」

俺が黒の街の問題点を挙げると、3馬鹿トリオが何故か黒の街に好意的になった。

いや、内戦防ぐのが一番いいのであって、俺達が片方に味方してどうするよ。

いや、そりゃ多分勝てるよ。

この街の連中のレベル、軽く調べてみたけど高い奴でも精々50ってところだし、そんなのが何万人束になろうと俺達のうちの誰にも勝てない。ディーナは正直未知数だけど。

でもそれやったら恐怖の覇王に逆戻りだ。明日には全世界で指名手配されてしまう。

「まあ、冗談はともかく放っておけばいいんじゃないでしょうかね。

この国の問題はメラクがどうにかすべきであって、ルファス様が気にするべき事ではないかと。

自分の汚い尻くらい自分で拭かせましょうよ」

内戦をどう防ぐかと考える俺に、ディーナが冷淡とも思える提案をする。

まあ実際俺の立場考えれば、わざわざこの国の為に骨を折る必要はないんだよな。

そもそも俺、世界的悪人なわけだし。

下手に関わると厄介な事になりかねない事くらいは自覚している。

「ディーナ様。それでは3人の英雄によって成り立っていた均衡が崩れ、魔神族の侵攻を招きます。

これ以上魔神王の勢力を勢い付かせる事は我々にとっても不利……せめて十二星天全てを集め、かつての戦力を取り戻すまでの間は英雄達に魔神族の相手をしてもらう必要があります」

おお、リーブラが意外とまともな意見を出した。

何か漁夫の利っぽい思考が見え隠れしているが、とりあえず放置推奨のディーナよりはマシだろう。

と思っていた俺だが、即座にその考えを撤回させられる事となった。

「ですので私としては黒の街に味方し、白の派閥を一掃して国の意志を統一すべきだと提案します。

現状の国が二分している状況は好ましいものではありませんし、互いに足を引く恐れがある以上、早期解決が望まれます。

加えて黒の派閥に実権を握らせれば後々、ギャラルホルンはルファス様の手駒としても使えます」

おいこらリーブラ。お前腹の中真っ黒だな。

要するにそれって、こっちにとって邪魔になる白の街だけ消して、後はメラクと魔神族に潰し合ってもらおうって事だろう。

確かに互いに足を引っ張りあっているよりは、どちらか片方に実権握らせて意志統一した方が魔神族の攻撃にも備えられるんだろうが、ちょっとシビアすぎやしませんかね?

後はアリエスだが……こっちは特に提案はなさそうだな。

まあ元々自己主張する方じゃないし、ここは俺達に任せるという事だろうか。

しかしどうすっかね。ディーナとリーブラの意見は冷淡だが、一理ない事もない。

だが流石に街滅ぼすなんて事は今の俺じゃ無理だ。そこまで冷徹になり切れないし、少なくとも今の俺はそこまでメラクやこの国に恨みもない。

俺としては都合よくジュピターとかいう奴とユピテルとかいう魔神族だけを取り除いて、後はメラクの手腕に任せたいというのが本音だ。

「……今、この国とメラクが落とされるのはリーブラも述べた通り、我々にとっても不利となる事態だ。

だからといって積極的に片方の派閥を潰そうとも思わん。

とにかく、まずはユピテルとジュピターとかいう奴を見付け出して捕らえるとしよう。

上手く行けばそれで内戦も止まるやもしれん。

……というかその二人、同一人物ではないのか?」

「まあ、そう思いますよねえ」

このジュピターとユピテルだが、状況を考えるに多分同一人物だろうと俺は睨んでいる。

ディーナも同じ考えのようだし、リーブラとアリエスも頷いていた。

まずユピテルだが、こいつはリーブラが止めなければ進行方向的に考えてディーナと遭遇していた可能性が高いという。

そしてディーナは時計塔前を通る不審人物(レイドとかいう名前らしい)を尾行し、内戦の企てとジュピターとかいう奴の情報を得た。

ならば思うのだ。ユピテルが目指していたのは時計塔ではなく、ディーナが見付けたこの隠れ家だったのではないのか? と。

更にジュピターとかいう奴は本来来るべき時間に来なかった、と不審者達が話していた。

これはリーブラと遭遇して撤退を余儀なくされた為の無断欠席であったと推測出来る。

そして極めつけはユピテルの変装。

リーブラが最初見た時、そいつは肌の色を変えて人間に擬態していたらしい。

というかもう、露骨すぎるくらいだ。

もうジュピター=ユピテル確定でいいんじゃないかな。

そもそも、人類がわざわざこの国を内戦に陥れるメリットがない。

ただでさえ滅亡瀬戸際だってのに守護者である英雄を一人減らす真似してどうするよ。

だが魔神族であるユピテルが人間に化けているのならば充分に納得出来る。

「よし、まずはユピテルを捕らえる事に専念するとしよう。

恐らくこいつを捕獲出来れば状況は好転するはずだ」

「撃ち殺してはいけませんか?」

「可能な限り生け捕りの方向で進めてくれ。

公の場に引き摺り出して証言させたい」

激突寸前まで高まったこの内戦ムード、言い方は悪いが止めるにはスケープゴートが必要だろうと俺は思う。

今のまま止めようとしても、恐らく両者共に引っ込みがつかない。

自分の過ちを認める事は難しい。ましてやそれが国単位だと尚更だ。

引くに引けない状況というやつだ。

だが、それが第3者の手によって引き起こされたものだとすれば、そちらに責任を転嫁する事が出来る。

我々は踊らされていただけなんだ。さあ、これからは仲良く手を取り合いましょう……てな。

漫画や小説でも使い古された手法だ。

要するに分かり易い悪役を一人用意して、全部そいつのせいにしましょうって事だ。

あまり褒められた方法じゃないのは自覚してるが、な。

「生け捕り推奨……了解しました」

「ただし」

「……?」

「其方等の無事が最優先だ。

もしも生け捕りの危険度が其方等の命を脅かすものならば、この命令は撤回する。

――危険と判断したならば殺しても構わん。無論、逃走も許可する」

リーブラ達に対し、自分でも驚くほど簡単に殺害許可が出る。

俺にとって、今この世界で優先すべきはこいつらの命だ。

寄る辺のない俺にとって、ディーナ、リーブラ、アリエスの3人は家族にも等しい。

だから、許可だってしよう。

こいつらが死ぬくらいならば、俺は他者の殺害を選ぶ。

俺の倫理観も大分おかしくなってきたな。

小動物の死体一つ直視出来ないチキンな俺よ、一体どこに行った。

「御安心を、マイマスター。

先の勝率は決して虚偽ではありません。

装備さえ整えばユピテル如き、見事捕らえてみせましょう」

「頼もしいな。

ならば余は、その勝率を少しでも高める為に練成に勤しむとしようか」

とりあえず、今回はリーブラを信じてみるとしよう。

こいつが出来ると言っているんだから、俺が信じないでどうする。

現状、敵の顔を知ってるのはリーブラだけなわけだし、こいつに一任するしかない。

「…………」

とか考えていると、リーブラが無言で俺を見ている事に気付いた。

何だ? まだ何か言いたい事があるんだろうか?

それとも俺からの言葉を待っている?

正直、無言で見られても分からないんだが、何か言った方がいいんだろうか。

……とりあえず、適当にそれっぽい事言っておくか。

「……我が忠実なる配下、十二星が一人、天秤のリーブラに命ずる。

決して死ぬ事なく、見事魔神族を余の前に連れてきてみせよ。

其方の働きに期待している」

「Yes、My Master!」

俺が命じると、待ってましたとばかりにリーブラが応えた。

どうやらマジに命令待ちだったらしい。

俺が命令しないとずっとあのまま俺を凝視していたんだろうか。

こいつも大概、よく分からないキャラだよなあ……。