軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第17話 アリエス、ゲットだぜ

外套の留め金を外し、翼を広げる。

瞬間感じる解放感。

自分の翼で自分を拘束するっていうのは、俺はどうもあまり好きになれない。

いや、好きな奴がいたらそれはそれでドン引きだが。

さて、何かベラベラ長台詞言いながら俺の回りをウロウロしてた奴を殴っちまったが、こいつがメグレズの言ってたアリエスの裏にいる奴だろうか?

正直大して強くなかったから微妙だが、扇動くらいなら口さえ回れば雑魚でも出来る。

……ああ、それと7曜の一人だとか名乗ってたな。

「7曜、なあ。聞かぬ名だ」

「説明しましょう!」

俺が疑問の声を発すると待ってましたとばかりにディーナが転移してきた。

うん、その、なんだ。

非常にありがたいんだが、お前最近説明が趣味になってないか?

「7曜とは魔神族が抱える7人の将軍格の呼び名であり、その発足は80年前。

現状魔神王とその子息を除けば魔神族の最高実力者と言って過言ではありません」

「……この程度でか? 見たところレベル300しかないようだが」

「魔神族の質も下がっているという事です。確かに人類は魔神王に負けましたが、魔神族だって無傷じゃありません。

向こう側も実力者のほとんどを失っています。

でなきゃとっくに世界は滅ぼされてますよ」

ああ、なるほど。疑問が一つ氷解した。

俺は以前『これでどうやって均衡保ってるんだ』と考えたが、よく考えりゃ魔神族の戦力が当時そのままって仮定がまずおかしかった。

あの沢山いた高レベルプレイヤーや中堅プレイヤーがこの世界にも居たとして、それが全滅するような戦いだったんなら、そりゃ向こうだって大打撃受けてなきゃおかしい。

……ん? となるとあれか?

もしかして今のこの世界、魔神王さんくらいしか俺と戦えないんじゃないか?

「ところでルファス様、止めは刺さないんですか?

魔物を一匹も殺していないようですが」

「ん? ああ……それなのだが、流石に利用されているだけの魔物を無為に殺すのは趣味ではなくてな。

余の敵はあくまで魔神族のみだ」

そう言い、俺は軽く指を振る。

すると、先ほど魔物を蹴散らしてそのまま地面に転がっていた数多の剣が一斉に姿を消した。

練成ならぬ分解、てとこかな。

「魔物はどうするんですか?

マスターを失った今、野に帰るだけですがこのまま人を襲わないとも限りませんよ」

「それも考えてある……『キャプチャー』!」

俺はモンスターテイマーの基礎にして奥義である『キャプチャー』のスキルを起動する。

その効果はHP一定以下、あるいは行動不能状態の魔物を一定確率で己の手持ちモンスターに加えるというものだ。

一度にキャプチャー出来る数と成功率はクラスレベル上昇に伴い増加し、俺ならば同時に10体捕獲が出来る。

この数ならば50回以上は繰り返す必要があるが、しかし俺は試したい事があった。

それはゲームじゃ絶対出来なかった裏技であり、同時に敵キャラが当たり前のようにやっていた事だ。

あのマルスとかいう奴だってモンスターテイマーの技能で魔物を操るって点は俺と同じのはずだ。

ならば奴に出来て俺に出来ない道理はない。ここはゲームじゃないんだから『バランスブレイカーなので敵だけに使用が許される』なんて事はないはずだ。

即ち……このモンスター達を、個々にではなく一つの集団として視る!

【魔物混成軍】

レベル ■■

種族:■■

HP ■■■■

SP ■■■■

STR(攻撃力) ■■■

DEX(器用度) ■■■

VIT(生命力) ■■■

INT(知力) ■■■

AGI(素早さ) ■■■

MND(精神力) ■■■

LUK(幸運) ■■■

……出来たは出来たけど、何だこりゃ。

表示が全部バグったみたいな事になってるぞ。

個々で数値が違うから表示出来ないんだろうか。

これじゃ正確な強さがまるで分からん。

しかしキャプチャーは普通に成立し、ここに倒れてる魔物を全て配下に入れたという手応えを得た。

後は、こいつ等全員に無闇に人を襲わないよう指示してそれぞれの住処に戻らせればいい。

ちなみに連れ歩く気はない。こんな数を連れて歩いたらあまりに目立ち過ぎる。

「さて、これで後は其方だけだな――アリエス」

俺は視線を少し先……そこでこちらを凝視しているアリエスへと向ける。

その表情はまさに驚き一色。自分の見た物が信じられないといった顔だ。

ま、気持ちはわからんでもない。

200年間も死んだ事になってた奴が今更になってノコノコ出てきたんだ。

そりゃあどの面下げて戻ってきたと言いたくなる。

しかし俺はあえてそれを気にしない振りをし、アリエスへと近付いた。

「どうしたアリエス。己の目で見た物が信じられんか?

それとも他人の空似とでも疑っているのか?」

「……ウ……ア……!」

さて、アリエスがどう出るか。

これで大人しくなってくれるならばよし。

もし『偽者だ!』とでも言われるなら、少し厄介な事になる。

正直、言葉を凝らして相手を納得させるっていうのはあまり得意じゃない。

いくらステータスの知力が高かろうと、あれはあくまで記憶力や物覚えなどを現した数値であって発想力や機転を表示したものじゃない。

つまり俺は瞬間記憶能力にも等しい記憶力と、一度覚えたら絶対に忘れない記憶容量があるが別に頭の回転までよくなったわけではないのだ。

「嘘、ダ……ルファス様ハ、死ンダハズ……!

今ニナッテ、惑ワスカ……!」

「別に惑わしてはおらんよ」

まあ、俺が純粋なルファス本人かと言うと少し疑問が残るのは確かだ。

しかしこの体は間違いなくルファス本人であり、その意思もまだここに残っている。

ならば俺はルファス・マファールなのだろう。

根拠はないが、そう思える何かを俺は感じている。

だから俺は、あえてこう言おう。

「余は紛れもなくルファス・マファール本人だ。

他人の空似でもなければ擬態でもない。幻でも幽霊でも夢でもない。

それでも信じられぬというならば――そうだな、いっそ身体で試してみるというのはどうだ?」

俺はそこまで言い、指の関節を鳴らす。

ルファスがルファスである何よりの証。それは強い事。

顔立ちも翼も口調も、全てはどうとでも真似る事が出来るものでしかない。

だがこの『強さ』だけは誰にも真似出来ないし、真似させない。

俺は指をクイ、と動かしてアリエスを誘う。

「かかってこいアリエス。

其方が200年でどこまで成長したかこの身で試してくれる。

それと同時に知るといい。今ここにいる余が紛れもない余自身であるという事をな」

「オ――オオオオオオオオオオッ!!」

アリエスが気合の篭った、そしてまるで歓喜するような叫びをあげる。

叫ぶだけで空気が震え、肌にビリビリとあいつの強さが伝わってくる。

俺は決してバトルジャンキーじゃない。

喧嘩だってまともにした事がないし、したくもない。

ああ、しかし高揚感はどうだ。

俺は今、間違いなく昂ぶっている。

この世界に来てようやく、まともな『戦い』が出来る予感に心を弾ませている。

「オオオオオ!」

アリエスがその全身の重量を活かして俺に突進する。

普通ならば怯えて身が竦みそうな光景。

しかし俺は、そこに微笑ましさを感じた。

まるで迷子の仔犬が飼い主を見付けて飛び込むような……それと似たようなものをアリエスに感じたのだ。

ならば、俺の取る行動はたった一つ。

「ふむ、200年経っても甘え癖は変わらずか。

ならばよろしい、余が抱きしめてやろう」

飛翔して片手を突き出す。

それと同時にアリエスの頭部を受け止め、なかなかの負荷が腕にかかった。

まるで爆発のような音が響き、俺の身体が後方へと運ばれる。

流石に地に足の付いていない状態だと踏ん張りも利かないが、空中こそ天翼族の戦場だ。

俺は翼を広げ、前へと進む。

それだけでアリエスの身体を止め、それどころか彼の身体を押し戻した俺は彼の頭に両手を当てた。

「可愛いものだな」

おかしな話だ。

この100mを超える怪物羊が甘えん坊の仔犬か何かに見えて仕方ない。

あるいは成長して大きくなっても可愛い事に変わりのないでかい犬か?

どちらにせよ、俺はどうやらこいつを嫌いにはなれないらしい。

とはいえこの図体だ。スキンシップも少し過激になってしまうのは仕方のない事だろう。

「そらっ!」

腕に力を込め、アリエスを持ちあげる。

ペットを持ち上げて高い高いをするように頭上に掲げ、そして軽く放り投げてやった。

宙を舞う巨大羊。地面に衝突し、本日最大の揺れが大地を襲う。

だがまだだ。まだこんなものじゃ終わらない。

そうだろう、アリエス?

「次だアリエス。遠慮は要らん、全力で来い」

俺が誘うと同時にアリエスが言語化し難い咆哮をあげる。

全身の毛が逆立ち、虹色に輝く炎の化身へと変わる。

レヴィアを苦しめたメサルティム。それがこいつの必殺技というわけだ。

防ぐのは容易いが……どれ、ここは受け止めてやるか。

「メ゛エ゛エ゛エ゛エェェェエエエ!!!」

燃え盛る炎の化身となって突撃してくるアリエスを今度は最初から両手で押さえ込む。

すると掌に熱が伝わり、真夏のような暑さが俺を襲った。

ふむ、なるほど。この炎の塊を受け止めても俺主観では真夏の暑さ程度にしか感じられないか。

つくづくチート染みていると自分でも思う。

とはいえ熱いものは熱い。ダメージはほとんどないが、ずっとこれが続けば流石に熱中症くらいにはなるかもしれない。

なら、さっさと離してしまうとしようか。

「ほっと」

再びアリエスを投げ、地面に叩き付ける。

それが終われば今度はこちらの番だ。

相変わらずアリエスは炎に包まれているが、俺にとってそれは真夏の暑さと同程度のものでしかない。

だが真夏の中動けないなどという事はないし、むしろ普通に運動くらいする。

つまり、ほとんど無問題なわけだ。

「そうだな……久しぶりに撫でてやろうか」

アリエスの頭上まで飛び、その巨大な頭を『撫でる』。

するとアリエスの頭は地面に衝突し、更に勢い余ってバウンドした。

次に顎を撫でる要領でアリエスの顎に手を当て、跳ね上げる。

続けてアリエスを掴んでグルリと反転させると、腹を撫でてやる。

まあ撫でるといっても、アリエスの背中が当たっている地面が砕ける程度の力だがな。

「さて、どうだ。

これでもまだ余を信じられぬか? アリエス」

「ウ、ウウ、ウ……」

身体を起こしたアリエスへ問いかけると、彼は低い唸り声を上げはじめた。

これはもう少し可愛がってやる必要があるかな?

そう思っていたが、そこに不意打ちを叩きこまれた。

何とアリエスが突然小さくなり、人型になって俺の胸に飛び込んできたのだ。

「うわああああああん! ごめんなさいぃぃ、ルファス様ああああ!!」

突然の事に硬直する俺に抱き付き、ビービー泣くアリエス(?)。

その身長は俺よりも低く、恐らく155~160程度だろう。

腰まで届く髪の色は……何だこりゃ。見る角度によって色が変わる。こんなんありか?

手足は細く、身体には白いローブを羽織っている。

いや、正確に言うと人になった瞬間裸だった気がしないでもないがディーナが一瞬でアリエスの背後に瞬間移動してローブを着せたように見えた。

ディーナを見てみれば、彼女は満足そうな顔でサムズアップしている。

お前……実は12星天より速いんじゃないのか?

いやしかし、これは……。

確かにテイマーにはモンスターを擬人化するスキルがあったし、俺も覚えていた。

そしてアリエスにも確かに人の姿を与えている。

――ミザールに『最近の流行りは男の娘』とか言われて、つい悪ノリして外見を女にエディットしちまったけどな。

そのせいでアリエスの擬人形態は性別詐欺と化してしまった。

昔の俺の過ちの一つだ。おのれミザール。

というかアリエス性格変わりすぎじゃね?

さっきまでの威圧感どこにいったし。

それともこっちが素で、さっきまでがおかしかったのか。

とりあえずアリエスを引き剥がし……って、うげ! 鼻水付いてる!?

「ああもう、泣くな泣くな。其方、200年経っても泣き虫のままか」

「だ、だって、だってえ……う、うぐ……びえええええええええ!!」

「ああああああ! わかった、わかったから! 心配させて悪かったから!」

結局俺はこの後、アリエスが泣き止むまで20分以上、泣く子をあやす羽目になった。

ちなみにディーナは最初の5分くらいで飽きてどこかへ消えていた。お前はそれでも参謀か。