軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第177話 火龍の炎の渦

火龍の熱く気持ち悪い告白に対するベネトナシュの返答は蹴りであった。

文字通り山のように巨大な龍の横面を蹴り、反対側に回り込んで蹴り上げる。

流石に龍ほどの超巨体ともなればベネトナシュといえど一撃で派手に飛ばす事は出来ない。精々が大きく仰け反る程度だ。

しかしダメージは確実に刻んでおり、次々と叩き込まれるベネトナシュの打撃が火龍を追い詰めていた。

ベネトナシュ程の圧倒的なパワーとスピードがあればサイズ差は決してハンデにはならない。

むしろ火龍にとっては余りに小さすぎる標的を狙うのに苦労するだろう。

しかし、火龍とてただ殴られっぱなしではない。

ベネトナシュの速度に対抗し、その長大な身体を素早く動かすことでベネトナシュを囲んだ。

「これは……」

まるで自らの身体で球を作るように、隙間なくベネトナシュを閉じ込める。

相手が速いというならば、答えは単純。閉じ込めてしまえばいい。

勿論火龍の馬鹿げたサイズを考えれば、その閉じ込めた空間の広さも尋常ではない。

地球で言う所の日本程度はスッポリ入ってしまうだろう。

だが広さは問題ではない。閉じ込めたという事そのものに意味があるのだ。

火龍の体表は数万度の熱を持ち、火龍自身の意思でその温度は上昇させる事が出来る。

いわばこれは逃げ場なしの炎の牢獄だ。

ベネトナシュの再生力ならばすぐに焼死はしないが、それでもダメージが再生力を凌駕してしまっている。

このまま死ぬ寸前まで追い詰めて捕獲でもしようという算段だろうか。

さしものベネトナシュもこの熱量の前では意識が霞み、汗が気持ち悪いほどに流れる。

「ふん、蒸し焼きにでもするつもりか? 舐めるなよ」

ベネトナシュが空を翔け、火龍の身体を力任せに殴り付けた。

逃げ場がないのは向こうも同じ。この体勢では回避のしようがない。

光速の乱撃が内側から火龍を抉り、衝撃に火龍の口から血が溢れる。

しかし不利なのはベネトナシュだ。この熱気に常に晒されていては体力の消耗も激しいし、本来の力も思うように発揮出来ないだろう。

勝ち目がないとまでは言わないが、それでも分の悪い我慢比べである事は間違いない。

両者にとって誤算があったとすれば、それはこれが一対一の勝負などではないという事か。

「 撃(て) えええええええいっ!」

火龍に向けて数百の誘導弾が飛来し、一斉に爆発を起こした。

一発一発が半径数十㎞を焦土に変え、生き物を消し去ってしまうだろう超火力の攻撃だ。

標的を外した誘導弾はいくつものキノコ雲を生み出し、続いてその攻撃を行った巨大ゴーレム『ブルートガング』が最大戦速で体当たりをかました。

仮にも王都であるはずのそれは体当たりと同時に全高1100mの鋼の巨人へと変形し、拳を握り込んだ。

そして鉄拳。火龍を殴り、ベネトナシュの脱出を外側からサポートする。

まだ終わらない。ブルートガングのゴーレム射出口から三体の量産型リーブラとゲートキーパーが飛び出し、龍へ集中砲火を浴びせた。

『雑魚共が! 我が恋路の邪魔をするか!』

火龍が口を開き、ブルートガングへ火炎を放つ。

二百万度にも達する超高熱の火炎放射は太陽の周囲で輝くコロナにも匹敵する。

地上のいかなる金属だろうと溶かしてしまうだろうその火炎が、しかしブルートガングに当たる前に二つに割れた。

「一方的なのは恋路とは言わねえぜ!」

火龍の火炎を裂くという絶技を披露し、アリオトが鱗を切断した。

手にしているのは長剣と短剣の二刀一対の神剣リーヴスラシルだ。

それに続くようにマグマの中から火龍すらも掴み取れる程の巨大過ぎる腕が生え、顎を殴り上げる。

「ハッハァ! 懐かしいなあ、この感覚!」

ブルートガングの上で仁王立ちするミザールが腕を組んだまま高笑いし、錬成した腕で火龍を抑え込んだ。

そこに守護神レヴィアが飛び込み、火龍の身体へと体当たりを見舞う。

「サイコ・コンプレッション!」

「アプサラス!」

メラクが手を翳して火龍の動きを一瞬止め、メグレズが水の白鳥を生み出してぶつけた。

まだ英雄達の攻撃は終わらない。

レヴィアの頭の上からドゥーベが跳躍し、全霊を込めた拳を突き出した。

すると拳圧が獰猛な熊の顔となり、火龍の顔に炸裂する。

そこに畳み掛けるように天を覆い尽す程の矢の雨が降り注いだ。

フェクダの放った矢の雨は一点に狙いを集中し、殺到するように火龍の身体に極小さな穴を穿つ。

だが火龍にとっては小さな穴でも、人一人が出るには十分だ。

焦熱地獄から脱出を果たしたベネトナシュが飛翔し、成層圏を抜ける。

そして手の中にマナを凝縮した。

ミズガルズのマナは確かに枯渇している。アホ山羊のせいで残っていない。

だがベネトナシュはこの戦いの前に世界の真実を見た。この宇宙そのものが女神の魔法であり、マナで構成されているという事を知った。

ならばある――集めるべきマナなど、それこそ無限に。

「『銀の矢放つ乙女』!」

放たれた銀の矢が火龍の胴体に突き刺さり、弾ける。

そして、火龍の胴体が半ばから千切れ落ちた。

*

星々の海を二体の怪物が泳いでいた。

片方は黒。片方は白。

世界の光と闇を司る二体の龍は絡み合い、噛み付き合い、互角の攻防を繰り広げている。

口から吐き出す閃光は遥か彼方へと消えて大爆発を起こし、尾の一振りが数多の彗星を薙ぎ払う。

二体は絡み合いながら土星の周囲を泳ぎ、互いを滅するべく星すらも砕く破壊の業を惜しみなく相手に向けて使用し続けていた。

『月龍……愚かな男よ。神を裏切り、我等が敵に回るとは』

『そうかもしれんな、日龍よ。だが私に後悔はない』

『天龍だ。是非、親しみを込めてそう呼んでくれ』

白い龍が口から破壊光を放ち、オルムも同じく黒い破壊光を出して相殺した。

一瞬の均衡の後に白と黒の光が爆散し、ミズガルズからでも確認出来る輝きを放つ。

衝撃波が吹き荒れ、そして土星の輪の二割ほどが消し飛んだ。

しかしそれを為した二体は尚も健在のまま、相手の出方を伺うように睨み合う。

『まあよい。後悔の有無など実の所俺には全く関係ないのだ。興味すら沸かん。

重要なのは一つだけよ。貴様が裏切り、俺の前にいる……その事実だけが重要なのだ』

『それほどに、私が許せぬか』

オルムの言い聞かせるような静かな言葉。

しかしそれに日龍は心からの嘲笑をもって返した。

『ククククッ……いいや違うね。むしろ逆だ、月龍よ』

『逆、だと?』

『そうだ、よくぞ裏切ってくれた。よくぞ俺の前に敵として現れてくれた。

ずっと昔から思っていた……世界は余りに退屈で小さすぎると。

いや、それはいい。まだそれは我慢出来た。

だが我慢出来なかったのはな、月龍……お前達のような強い者がすぐ近くにいるのに、それと戦う事が出来なかった事だ!』

天龍はそう言うや、全身を発光させた。

すると天龍の身体の至る箇所から、まるでレーザーのように光が迸り周囲を無差別に攻撃し始める。

だがオルムはその弾幕の中を事もなげに突っ切り、天龍へと衝突した。

『そうだ月龍、俺に痛みをくれ! 俺に生きている実感をくれ!

ずっと願っていた―― 他の龍(おまえたち) と戦いたいと。

殺し、殺され、喰い、喰らわれ……ああ、それが出来ればどれほどの至福かと幾度も夢に見た』

天龍が恍惚とした口調で思いの丈を叫び、尾で彼の首を絞め上げた。

だがオルムもまた尾を動かし、天龍の首を絞める。

二体の力はほぼ互角だ。いや、ルファスとの戦いで一時的とはいえ限界を超えた事を思えばオルムが勝るかもしれない。

しかし勝敗の天秤は僅かずつではあるが天龍へと傾いていた。

やはりオルムは龍だ。女神に敵対した時点でその力を削がれてしまう。万全の力で立ち向かう事が出来ない。

ルファスの支配下に置かれた事でかろうじて戦う事は出来るようになったが、それでも本能が起こす拒絶反応は余りにも大きなハンデだ。

『痛みもなくただ眠り続けるだけの生……敵のいない無敵の存在、龍……ああ、何と下らん。

つまらん、惨めだ……生きながらにして死んでいるようなものだ。

故に感謝するぞ、月龍よ。我が兄弟よ。俺は今、この瞬間の為に生きていた。この時こそを待ち望んでいたのだ。

これが痛みか、これが歓喜か……ああ……これが生きているという事か!』

天龍は痛みすらもを甘美として受け入れ、口の端を喜悦に歪める。

さあ戦おう、殺し合おう、兄弟よ。

この戦いという名の至高の瞬間を楽しもう。

そう叫ぶ天龍だったが、しかし視界の端で何かが光ったと思った次の瞬間、蒼い斬撃が彼の眼球へ直撃した。

いずれ再生するが、それでも片目を潰されたという事実は大きい。

折角の楽しみを邪魔された天龍が殺意を込めて攻撃の飛んできた方向を睨む。

そこにいたのは翼の生えた白い馬と、それに跨ったテラだ。

無論ただの馬などではない。ポルクスの呼びかけにより現世に舞い降りたアルゴナウタイの一角にして、かつては十二星に次ぐ実力者としてフェニックスやハイドラスと並び称された魔物……『天馬』のペガサス。そのレベルは十二星と同格の800であり、ルファスが限界を超えた今は1000にも達する。

その固有スキルは、搭乗者を己の力で保護する事でいかなる環境であろうと連れていけるというものだ。それがたとえ宇宙であろうと例外ではない。

「父よ、援護する!」

エスパーやサイキッカーのクラスを得ていないテラは本来、ルファスや龍などのように宇宙空間で話すという芸当は出来ない。

だがペガサスの力によってその声はオルムへと届く。

テラが刃を薙ぎ、斬撃が天龍へ刻み込まれる。

それは天龍にしてみれば掠り傷でしかないが、それでも僅かな痛みで集中力を乱されるだろう。

『鬱陶しい!』

天龍が口から破壊光を放つ。

だがペガサスがそれと同時に消え、一瞬で反対側へと回り込んだ。

彼は確かに十二星ではない。だが、だからといって全ての面において十二星に劣るわけではない。

事、スピードという面に限れば十二星でも彼に追いつける者はサジタリウスだけだ。

ペガサスの速度は一瞬ではあるが亜光速にすら達する事が出来る。

これを狙って仕留めるのは龍といえど至難の業だ。

『月龍の分身か……貴様如きが俺の至福を邪魔するかあ!』

天龍が再び破壊の奔流を放った。

ペガサスは素早くそれを避けるが、今度は天龍もそれを追って顔を動かす。

すると破壊光も顔の動きに合わせて曲がり、射線上に存在していた星々を薙ぎ払い、爆散させる。

当たるまで吐き続ける事で無理矢理撃ち落とす気だ。

いかにペガサスといえどこれから逃れるのは難しいだろう。

しかし我が子の危機にオルムが猛り、天龍へと黒い破壊光を浴びせた。

その一瞬で天龍の尾が緩み、オルムが天龍の首へと喰らい付く。

世界で最も硬い龍の鱗といえど、同じ龍の牙であれば噛み砕ける。

しかし天龍も負けじとオルムの首元に噛み付き、二体は互いを喰らい合いながら土星へと落下した。

同時にガスの中へと飛び込んだ二体だったが、オルムが一早く顔を上げて天龍へと突撃する。

体当たり――文字通り自分の身体を相手へとぶつける原始的な攻撃方法だ。

だがそれも龍の巨体と速度で行えば尋常ではない破壊力を生み出す事となる。

二体の龍が流星となって宇宙を飛び、射線上に存在していた数多の岩石や小惑星を砕き散らしながらミズガルズへと落下してマグマの海へと沈んだ。

その衝撃で更にミズガルズが崩壊し、だがマグマなど二体にとってはぬるま湯と変わらない。

マグマの中で尚も戦いを続行し、同時にマグマから飛び出した。

『はーっ……はーっ……』

『フン……流石に消耗してきたようだな。

そうだろうともよ。お前にもう世界の加護はない。

俺は世界のバックアップにより無限の力を得ている。だがお前はもう無限ではない……有限だ。

SPだけではない。HP回復の速度もまた俺とお前では大きな開きが生じているのだ。

どうせならば万全の貴様と戦いたかったが、しかし勝負とは酷なものだ。

……この勝負は俺の勝ちだな、月龍』

龍は自前でも十分なまでの自己再生力を持っている。

だが天龍はそこに加えて世界のバックアップまでも得ているのだ。

先程潰された目もすでに完治しており、一方オルムはまだ傷が癒えていない。

これは世界のバックアップの有無だけではない。オルムの身体そのものが戦いを拒絶しようとしているが故の再生力の低下だ。

同じ龍同士でありながら、この差は余りにも大きすぎる。

『楽しかったぞ、月龍……貴様への敬意と感謝を込めて今、楽にしてやろう』

天龍がオルムに止めを刺すべく口を開く。

だがそこに、幾筋もの閃光が飛び込んで天龍の横面へ炸裂した。

王都だろうと消してしまえるだけの攻撃だが……弱い。余りにも脆弱極まる攻撃だ。全くもって話しにならない。

星すらも砕くこの究極と呼んでも間違いではないレベルの戦いにおいて“たかが”王都一つ消せる程度の攻撃など、最早攻撃とは呼ばない。強い弱い以前の問題外……攻撃ですらないのだ。

天龍には傷の一つも付かず、何か弱いのが頬に触れたくらいにしか感じない。

人間で言えば綿が頬に当たった程度の感覚だろう。

だが不快には感じたのだろう。天龍の瞳がギョロリと動き、その弱く小さい者達を見た。

そこにいたのは、空を覆い尽す程に大挙している魔神族の軍勢だ。

「……あっちゃー、全然効いてないわね、アレ。一応私らの全力での総攻撃だったんだけどねえ」

「やっぱ無理ですよサートゥルヌス様! 逃げましょうよ! 勝てませんって、あんなの!」

軍勢の先頭に立つのは魔神族七曜の一人であるサートゥルヌスだ。

彼女は豊満な胸を支えるように腕を組み、口元は笑みに歪んでいる。

だが余裕があるわけではない、むしろ逆だ。

あまりに力の差がありすぎて、笑うしかないのだ。

「逃げるって、何処に?

もうこの世界に安全な場所なんか無いじゃない」

「し、しかし……」

「覚悟決めなさいよ。こうなったら魔神王様に勝って頂くしか私達の道はないわ。

戦わずに消えるか、戦って死ぬかの違いよ」

サートゥルヌスは目を細め、先に消えていった者達の事を思い出した。

決していい奴等ではなかった。むしろ悪党の類だっただろうし死んだのも自業自得の部分が大きい。決して同情するわけでも、哀れむわけでもない。

だがそれでも――そう、それでも生きていたのだ。

確かに自分の意思で、自分の心を持ってこの世界で生きていた。

人形などでは、断じてなかった。

だからサートゥルヌスは不敵に笑う。

「意地見せてやりましょうよ……私よりも性悪な女神様にさ。

ここで何もせずに消えたらそれこそ私等、ただのお人形よ?

だったらせめて、最後に一華咲かせたいじゃない」

サートゥルヌスが手の中になけなしのマナを集める。

ダメージが通るなどと思っていない。勝てるなどと最初から考えてはいない。

きっとこの数秒後、奴の反撃にあって自分はこの世から消えるだろうと分かっている。

だがそれでも、座して世界の終わりを待つなど性に合わないのだ。

「全員、攻撃系のスキルや魔法はどうせ無駄だからやめなさい。

魔神王様へのバフ及び回復、敵に対してはデバフを中心とした嫌がらせに徹するわよ。

雑魚には雑魚なりのやり方があるってのを見せてやりなさい!」

サートゥルヌスの命令に応じ、魔神族達が一斉に魔神王への支援に回った。

一人一人は大した事がない。ハッキリ言って雑魚だ。

だがそれでも、数千、数万と数が集まればそれは膨大な支援となる。

一つ一つではオルムを全回復させる事など出来ない回復スキルも、数千と集まれば全回復まで届く。

レベル差に関係なく相手の防御を下げるスキルがあるとして、それは龍の防御をほんの1しか下げられないとする。

だがそんなものでも数が集まれば数百くらいはダウンさせる事が出来るかもしれない。

その数百の差があれば魔神王が逆転してくれるかもしれない。彼等はそこに賭けた……賭けるしかなかったのだ。

『……塵共が。俺の邪魔をするなあ!』

だが相手は天龍。その気になれば魔神族など一瞬で滅亡させてしまえる怪物だ。

破壊光など必要ない。ただ鼻息一つ吹くだけで事が済む。

しかし弱い者達の必死の足掻きが彼の怒りに触れたのだろう。

彼等の攻撃は攻撃ですらない。力の差がありすぎて戦いそのものが成立しない。

だが『雑魚が己の至福を邪魔した』という事実そのものが許しがたいのだ。

天龍は口を開き、容赦なく最大威力の光を口へと集約させる。

(あ、無理ねこれ。死んだわ。マジ死んだわ。

まあ、これなら痛いって感じる間もなさそうってのが唯一の救いね)

サートゥルヌスは腕を組んだまま、汗を流しながらも不敵な笑みを崩さない。

恐怖に怯えて命乞いしながら死ぬなんて無様は晒さない。

どうせ死ぬならせめて気高く散りたい。最後の最後まで戦って、意地を見せ付けて死んでやる。

最初からその覚悟をもってここに臨んでいるのだ。

そして天龍の咆哮が放たれ――。

――る事はなく、上から落ちてきたアイゴケロスが天龍を下敷きにした。

そして、それにより無理矢理口を閉じられた天龍は口内で光を炸裂させてしまい、盛大に自爆した。