軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第170話 ルファスのこうげきりょくがぐーんとあがった

英雄達を返り討ちにし、身体の一部を奪って呪いまでかけて力を半減させた。

だがオルムの心に安心など無かった。不安しかなかった。

女神のシナリオを無視する事は彼女への反逆にも等しい。

それらしい言い訳こそしたが、恐らく信じてなどいないだろう。

その証拠に、新たに息子が立ち上げたメンバー『魔神族七曜』の中には明らかに女神側からのスパイと思われる者が二人も紛れ込んでいるし、そのうちの片方はどう見ても女神の分身体だ。

魔神族の滅びは遠ざけたが、所詮はいずれ来る結末を少し先に延ばしただけ。

依然として女神のシナリオでは魔神族はいずれ倒される悪のままだ。これを根本から変えぬ限り未来は変わらない。

だがオルムにそれは出来ない。力云々の問題ではない。

仮に他の四龍全てを退けて女神との直接対決に臨んだとしても、その先にいけないのだ。

龍の役割は世界の管理であり、女神の代行。その女神本人と戦えるように創られていない。

これは感情や理屈抜きの本能だ。絶対に抗えない。

女神に挑むことが出来るのはルファスだけだ。

ベネトナシュも悪くはないのだが、彼女は女神にそもそも興味を抱いていないので戦いすらしないだろう。

理想はルファスとベネトナシュが手を組んで、かつ覇道十二星も加えて全員で女神に挑み、かつルファスが魔神族を滅ぼさない事だが……それも難しい。

あれだけ魔神族を敵視しているルファスが魔神族を見逃すなど考えにくいし、女神を倒す前に必ず彼女の攻撃の矛先はこちらへと向かう。

女神のシナリオを覆すならば、この世界にはルファスが必要だ。

だがそのルファスは魔神族にとっての恐怖の具現。死の星だ。

どうすればいい? どうすれば……。

(彼女にも呪いをかけ、その呪いの解除を条件として従わせる事が出来れば……)

考えた末、オルムが辿り着いたのはルファスを自分が従えるという策でも何でもない稚拙なものであった。それぐらいしか道が見付からないのだ。

ルファスを打ち倒して英雄達と同じように呪いで力を半減させれば、彼女とてこちらの要求を飲まざるを得ない。女神と戦う前に力が半減していては話にもならないだろう。

だから上手く呪いさえかければ、その呪いの一時的な解除を条件としてまず女神を倒すまでの共闘を飲み込ませる事が出来る。

その後は女神との戦いで消耗した彼女を自分が何とか倒せたならば……。

「……今となっては机上の空論だな。そもそも、そのルファスがもういないのだ」

いなくなって分かった。ルファス・マファールだけが女神に対抗し得る唯一の存在だった。

彼女だけがシナリオを覆す事を可能としていた。

だが、もう全ては手遅れだ。ルファスはこの世界から消え、女神に歯向かえる者はいなくなった。

そう諦めかけたオルムに、しかしもう一人の反逆者が悪魔の誘いを持ちかける。

「そうでもないですよ」

「……!」

声をかけられて、初めて気付く。

部屋の中にいつの間にか、女神の分身体が潜んでいた事を。

いつからいたのかが、全然分からなかった。

この魔神王すら全く気付かぬ程の見事な気配遮断。まるで背景と完全に同化したかのような存在感の消去。

それに戦慄を覚えつつもオルムは平静を装う。

「申し訳ありませんがここ数年程、貴方を観察させて頂きました。

そして確信を抱きました。ああ、この方は女神様を裏切っている……と。

あの報告も嘘だったのですね」

「……」

オルムは無言で手にマナを集めた。

知られた以上は葬るしかない。

だが、女神の分身体を殺しなどすれば、それこそ自分が反逆者である事を明かしているも同然だ。

……詰んでいる。どう足掻いても手遅れだ。

それにスパイはもう一人いる。ここでこいつを殺しても、もう一人が異常に気付くだけだ。

そう葛藤するオルムへ、女神の分身は有り得ない事を提案した。

「私と手を組みませんか?」

「何……?」

「私もまた、女神様への反旗を翻した者。このつまらない物語の終わりを望む者です」

それは有り得ない事だった。

何故なら彼女は女神の分身であり、つまり女神の記憶と人格を有している。

本来ならば女神から離反するなど考えられない。

何故ならそれは女神が女神を裏切っている事に等しいのだ。

「君は……アロヴィナスではないのか?」

「私の名は三つあります。一つは魔神族七曜のウェヌス。一つは覇道十三星のオフューカス。そして両親が付けてくれた本名、ディーナ。

……アロヴィナスという名は誰からも与えられていませんね」

「女神の分身が、女神自身を裏切るというのか?」

「信じられませんか?」

「ああ、信じられないな。……だが、今はそれが真実である事に賭けるしかないか。

いいだろう、その誘いにあえて乗ってやる」

蛇遣いの誘いに、世界を一周する蛇はあえて乗った。

いいだろう、こいつの狙いは知らんがあえて使われてやる。

どのみち、こちらはもう後などないのだ。

そうして二人は手を組み、ディーナはオルムの裏切りを誰に明かす事もせずに隠蔽した。

更に彼女は計画の全容こそ明かさなかったものの、ルファスが約二百年後に復活する事も予言し、それまで人類が滅びてしまわないよう巧みに魔神族を操作し続けた。

今となっては彼女に感謝してもし切れない。

決して善意からの協力などではなかっただろうが、結果として二百年の時間を得る事が出来た。

女神の分身であるディーナが『オルムは裏切っていない。今までになかった英雄の大侵攻に本気でビビッてつい本気を出してしまっただけ』、『灰色に近い白』という判定を出し続ける事で女神も本格的な粛清に乗り出す事が出来ず、オルムやテラは生かされ続けていた。

そして彼女のおかげで今がある。

ルファスと直接戦い、後は勝利して呪いをかけるだけだ。

だが、その壁は余りにも高く……。

それでもこの戦いだけは負けられない。負けるわけにはいかない。

*

消えそうになる意識を無理矢理に繋ぎ止め、オルムは破壊光をルファスへと浴びせた。

今ならば 痛感(わか) る。己の命すらも捨てて自分に挑んで来た勇者達の気持ちが。彼等の尊さが。

かつて、愛する者の為ならばどこまでも強くなれると謳った者がいた。ああその通りだ。あの子の為ならば私はどこまでも強くなれる。

かつて、大事な人が幸せならば自分はどうなっても構わないと吼えた男がいた。

その通りだ、勇者よ。お前達の言葉こそが正しかった。私が間違えていた……!

死んだその先に彼等と同じ場所に行けるとは思わないが、それでも会えたならば生前の事を詫びよう。

だから今は……今だけは、お前達の強さを私にも貸してくれ!

『ほう……?』

ルファスはオルムの攻撃を受けながら、しかし彼の様子が変化している事に気が付いた。

攻撃の威力、速度、そこに込められた信念。全てが先程とは違う。

この感じには覚えがある。自分やベネトナシュもかつて通った道だ。

『面白い。限界を超えるというのか』

オルムの突進を浴び、その重量に押されてルファスは太陽へと押し付けられた。

無論、こんな事をすればオルム自身も無事では済まない。

太陽の中心部の温度は実に約千五百万度。耐えられる物質など存在しない。

オルムの鱗が焼け、熱さに気を失いそうになる。

それでも耐えられるのは、愛する存在がいるからだ。誰かを想う心を知ったからだ。

『自滅覚悟か。その心意気はよし。

確かに日属性の私といえど、太陽熱は効かん事はない。熱いと言えば熱いし、きついか否かを問われればきつい。

だが……我慢出来ぬ程ではないぞ?』

ルファスが獰猛に笑い、オルムの頭の鱗の一枚を掴んで更に奥へと投げ飛ばした。

オルムの顔が焼かれ、その間にルファスが中心部から脱する。

無論これで終わりではない。周囲に漂う星々を材料とし、錬金術を発動している。

『錬成――“片眼の英雄”』

星々を素材に生み出されたのは巨大な老人であった。

髭は長く、つばの帽子を目深にかぶったその素顔は見えない。

黒いローブを羽織り、瞳は片方が潰れていて片眼のみが怪しく輝いている。

八本の足の馬に跨った、龍よりも尚巨大なそれは軽々とオルムを鷲掴みにした。

惑星すらも周回するオルムの頭と尾を掴み、力任せに引き千切らんと左右に伸ばし、オルムが声にならない悲鳴をあげる。

相手が巨大ならば、更に巨大な者を用意する。単純ではあるが効果的な一手だ。

胴体が軋み、少しずつ身体が裂け始める。

(つ、強い……強すぎる……!

わ、私はこんな化物に勝てる気でいたのか?

こんな……こんな絶望的な戦いを、 勇者達(おまえたち) はしてきたのか!?)

ルファスとオルムの実力差はそのまま、オルムと歴代勇者の実力差だ。

彼等は諦めなかった。力の差を薄々理解しながらも、それでも挑んで来た。

腕を失い、足を失い、それでも心は折れなかった。

魂の煌きを以てオルムへ挑んで来た。

(ま、負けぬ……これで負けては、私が殺してきた者達に顔向け出来ん!)

オルムが吠え、限界以上の力を振り絞った。

巨大な老人の片腕を砕き、首に巻き付いて首を砕く。

ただの小惑星へと戻っていく偽りの神の現身を見ながらルファスは頬を緩めた。

やはり限界を超え始めている……一体どんな心境の変化があったかは知らないが、大した飛躍ぶりだ。

オルムの口から再び破壊光が放たれ、だが威力は更に上昇している。

ガードの上からでもルファスに衝撃を通し、巻き込まれた他の星々が削られる。

更に渾身のブレスがルファスを飲み込み、その身体を一瞬で遠くへと飛ばした。

ルファスはそれを片腕で弾き飛ばすも、直後にオルムの姿を見失った。

……見失う? あの巨体を?

疑問は一瞬。しかし気付いた時には既に、人型へ戻ったオルムがルファスへ踵落としを放った後だった。

これも咄嗟に防ぐが、何せ踏ん張りの効かない宇宙空間だ。面白いように身体は吹き飛ばされ、その後を追ってオルムが再び龍へと戻る。

そして咆哮を浴びせ、人型に戻って反対側に回り込んで蹴り上げ、龍へ変化して喰らい付いた。

本来は力を封じ込める目的であったはずの人型形態への変化を利用しての怒涛の攻めだ。

『おおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』

そして――遂に限界を超えた。

オルムのレベルが女神の決めた上限を上回り、ベネトナシュと同じレベル1500にまで達したのだ。

無論それはただのレベル1500ではない。レベル1000の時点で既にベネトナシュ以上の力を持っていたオルムが限界を超えたのだ。

ならばその強さはまさに未知数。アロヴィナスすらも想定していない頂きだ。

更に力強さと速さを増したオルムが光となり、ルファスを滅多打ちにする。

人の姿で、龍の姿で。持てる限りのありとあらゆる技を使い、最強を追い詰める。

勝てる。いや勝たなくてはならない、絶対に。

脳裏に浮かぶのは息子の幸福な未来。それだけだ。

その為に、この絶望を乗り越えなければならないのだ。

『其方を 強敵(てき) と認めよう』

未だ余裕の崩れぬルファスの念話が聞こえたと同時に、オルムの頬を凄まじい衝撃が貫いた。

牙がへし折れ、鱗が砕け散る。

それでもかろうじて意識を繋ぎ止めたオルムの前に、先程よりも更に威圧感を増したルファスが静かに浮遊していた。

『見事だオルム。そして詫びよう……其方程の男を相手に 五割(・・) の力で勝てると考えた事を』

『……は?』

『――七割強だ。ここから先はベネトと戦った時と同じレベルにまで上げさせてもらうぞ』

ルファスの言葉と同時に彼女の全身を虹色の炎が包んだ。先程も使用したメサルティムだが、先と違い今度は一瞬のみの使用ではない。常時発動し続けている。

更にパルテノスと同じスキルを使用し、一瞬でいくつもの補助天法が上乗せされる。

力の差が縮まったのは一瞬の事。直後にすぐ引き離された。

絶望は乗り越えられない。

だから絶望と呼ぶのだ。