軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第136話 ルファスのひのこ

英霊達の旗艦、アルゴー船。

それは全長350m、全幅52mの巨大な空飛ぶ船だ。

カストールとポルクスの二人が揃っている時のみ顕現可能で、その推進力にはマナを用いている。

造るのに使用された木材は妖精兄妹の『本体』の枝の一つで、それゆえか高い自己修復能力を持ち、撃墜されたとしても数日経てば復活するという反則染みた存在だ。

この船を動かすのはポルクスによって呼び出された英霊達で、俺達は別に何もしなくてもいい。

航海士を務めるのは『羅針盤座』のピクシス。バンダナを巻いた隻眼の男はミズガルズの空を知り尽くしていると豪語した。

機関長と名乗った『帆座』のスハイルは白いコートを羽織った女海賊だ。

顔立ちは悪くないが、鋼鉄のように鍛え抜かれた腕と太い足、そして割れた腹筋のせいで余り女性らしさは感じない。

『艫座』のナオス、トゥレイス、アスミディスケは見分けのつかないドワーフ三人衆で、機関士を担当しているらしい。だから髭の色くらい変えろっての。

操舵手には『竜骨座』のアヴィオールという、どう見ても人間ではない男が就いている。

というかこいつはドラゴンスケルトンというアンデッドモンスターである。もっといい操舵手はいなかったのか。

その他、多種多様なアルゴナウタイが様々な役割を分担、担当して俺達の今後の旅を支えてくれるようだ。

二人ほど何故か俺達の元からそそくさと立ち去ってしまった黒いローブを羽織った英霊もいたが、まあポルクスの事だ。変な奴は呼び出していまい。

アルゴー船の最大速度はマッハ5にも到達し、六時間半あればミズガルズを一周すら出来るという。

どう考えても見た目と実際の速度が合っていないが、実にファンタジーとしか言いようがない。

……どうでもいいが、乗組員がアリエスをじっと見ているのは何なのだろうか。

「それはですね。昔、私達は虹色羊を探して世界中をこのアルゴー船で飛び回った事があるんです。

結局その時は見付けられませんでしたけどね」

と、説明してくれたのはご存知カストールだ。

アルゴー船の船長でもあり、今まではコスプレでしかなかった船長ルックが実に堂に入っている。

その恰好、飾りじゃなかったのか。

「初めて聞いたな」

「もう何千年も前の話ですから」

数千年前か。そりゃあ確かに話す意味はないな。

その頃の虹色羊はアリエスじゃないだろうし、俺だって生まれていない。

ま、それはどうでもいいか。

「アリエスを不埒な目で見る輩がいたら余の判断で船から投げ落とすぞ」

「承知しております」

冗談めかして言うと、カストールは苦笑しながら答えた。

それと同時にアリエスを見ていた乗組員達は慌てたようにそれぞれの作業へと戻る。

さて、それじゃあ空の旅といきますか。

……レーギャルンの住人には少し悪いことをしてしまったな。アルゴー船の登場に一番驚いたのは彼等だろう。

まずアルフヘイムにポルクス、カストール、テラ、ルーナを降ろして、ついでに勇者一行もここで降ろした。

更に勇者一行には今度の移動用手段として鈴木を再び貸しておく事にした。

そうしてアルゴー船が向かうのは、今までは踏み込まなかった未踏の地――即ち、人類の生存圏の外である。

アクアリウスはムスペルヘイムに居る事が確定しており、まずはそこにアリエス達を降ろす。

また、この時にアリエス達と一緒に帰還用の田中と、アクアリウスの代わりに龍の封印を任せる英霊を数人一緒に降ろす事も決まっている。

アクアリウスの代役に選ばれたのは『水蛇のハイドラス』、『鳳凰のフェニックス』の二名だ。

ハイドラスはドラゴンの一種である水竜という種族で、人化している現在は青髪を腰まで伸ばしたイケメン野郎でレベルは800。

フェニックスは鳥系モンスター最強と呼ばれる不死鳥であり、高い対熱能力と再生力、空戦能力を誇る。こちらは赤い髪をポニーテールにしたイケメン野郎で、レベルは同じく800。どちらも俺が捕獲した魔物だが、実は捕獲した当初から育ててはいない。元々強かったからな、こいつら。

「おお、ルファス様。こうして再び現世でルファス様と会えるとは感激の極み。

死して尚待ち続けた甲斐がありました」

「この出会いの奇跡に感謝を」

無駄にキラキラとしたイケメンエフェクトを輝かせながらイケメン二人が俺の手を取る。

線もやたら細いし、こいつら出る世界間違えてないか?

どっちかというと、少女漫画にいそうな感じのイケメン野郎だ。無駄にキラキラしてるし。

というかこいつら、死んでたんかい。ゲームではあの決戦で出した覚えもないんだがな。

「不死鳥が死んだのか」

「うっ……それを言われると弱いですね。

私は不死鳥と呼ばれていますが、別に死なない訳ではないのです。

再生力を上回る程に細切れにされてしまうと、流石に……」

不死鳥が死んでアルゴナウタイ化っていうのも、ある意味凄いな。

しかし、やはり一番意味分からんのは、あの竜骨だろう。

ドラゴンスケルトンって事は最初から死んでいたはずだが、それが死んでアルゴナウタイ化ってどういう事だ。

というか蘇生するならちゃんと生前の姿で出て来いよ。何でスケルトンのままなんだよ。

「ルファス様、そろそろ人類の生存圏を抜けます。

魔神族の襲撃があると予想されますので、備えて下さい」

リーブラの忠告を受け、俺は船の外を見た。

するとなるほど、確かに魔神族らしき連中がこちら目掛けて殺到しているのが見える。

別にあの程度は戦力が充実している今、俺が何もしなくてもリーブラや乗組員達だけでどうにかなるのだろうが……折角だ。

奴等にも、ルファス・マファールの復活を実感して貰った方がいいだろう。

「問題ない。余が出よう」

リーブラの前を横切り、船から飛び降りて飛翔する。

すると視界に広がる、魔神族の群れ、群れ、群れ。

これは凄いな。空が埋まってしまっている。

総数にして……数え切れんが、まあ一万は超えているか?

どちらにせよ、普通に考えれば多勢に無勢だ。普通ならばな。

「へっへえ! 人類の生存圏から出て来た馬鹿がいやがるぜえ!」

「ヒュウ、女だぜ」

「いい女じゃねえか。ヤりてえな」

俺の姿を認めた魔神族達が何やら野次を飛ばしてくるが、俺はそれを見ながら人差し指を上へ向けた。

指先には小さな、ビー玉サイズの光球が生まれ、淡く俺の顔を照らす。

「お? やる気みてえだぜ」

「勇敢なレディだ。きっとあいつ、俺達のレベルを知らないんだぜ。無知って怖えなあ」

「よし、戦う前に絶望を与えてやろう……どうしようもない絶望をな。

聞いて驚け、俺達のレベルは250だ! お前達が必死に戦っている七曜なんてのは、実は俺達とそう大差はなくてな。あいつ等程度の実力なんざ、この暗黒大陸じゃ当たり前なんだよ」

「驚いて声も出ねえか? そりゃそうだ、今まで苦しめられていた相手と同じだけの強さを持つ奴がこんなに沢山控えてるんだ。ブルっちまって声も出ねえだろ?」

あー、うん。フラグ立て乙。

RPGでよくいるよな、こういう奴等。

前半から中盤にかけて登場していた敵軍の幹部と同格くらいか、あるいは圧倒的に強いくせに、何故か終盤のダンジョンで雑魚やってるような奴等。

俺もゲームやりながら、何でこいつ等を幹部にしなかったんだ? とか疑問に思っていたものだ。

チラリと船を見れば、ベネトは完全に興味を削がれたのか、どうでもよさそうに欠伸をしている。

だがそれも仕方ないだろう。レベル250といえば、確かに強いっちゃ強いんだがな……それでも俺やベネトから見れば物足りない相手でしかない。

「よおし、まずは魔法で驚かしてやろうぜ」

「へっへ、ちびっちまうんじゃねえか?」

「殺すなよ、後で愉しむんだからな」

先頭にいた魔神族が何か言いながら魔法を俺に向けて発射した。

迫る魔法を見ながら、しかし俺は口の端を歪める。

ま、こんなもんだろうな……レベル250じゃ。

あえて受けてやってもいいんだが、しかしそうすると服に埃がついてしまう。

だから俺は、指先の光球にマナを注ぎ込み、一気に膨張させた。

一瞬で巨大化した光球は飛んできた魔法を全て呑み込み、それでも止まらずにまだ膨張し続ける。

呆気に取られる魔神族達の前で、やがてそれは直径50m程の小型太陽となってようやく収まった。

本当はまだでかく出来るんだが、あまりやりすぎるとミズガルズが焦土になっちまうからな。

ま、このくらいでいいだろう。

「え……あ……?」

先程まで吠えていた魔神族達は完全に硬直し、目が点になっている。

股間には黄色い染みが広がり、ガタガタと震えていた。

ま、喧嘩を売る相手が悪かったな。

翼を隠して眼鏡で変装しているから分からないのも無理はないが、次からは相手に気を付ける事だ。

俺は指先を動かし、完成した『ソーラーフレア』を魔神族達へ向けて軽く解き放った。

回避は出来ない。小型太陽はそれ自体が強い重力を持ち、自ら敵を引き寄せるからだ。

次から次へと魔神族が絶叫をあげながら呑み込まれ、絶望に満ちた耳障りな断末魔のコーラスが俺の鼓膜を打つ。

――直後、爆発。

人類の生存圏を出た第一歩を飾る景気付けの花火が上がり、キノコ雲が空へと昇った。

範囲はかなり絞ったはずだが、それでもやはり派手になってしまうな。

ま、これに懲りたら次からは気軽に喧嘩など売らない事だ。

『峰打ち』の効果でHPが1だけ残った魔神族は地面に転がって涙を流し、己の無事を喜んでいる。

……倒してしまってもよかったんだがな。テラの件もあるし一度くらいは大目に見るさ。

もしも彼の目指す魔神族の転生なんて夢物語が本当に叶うならば、あるいはもう魔神族と争う必要もなくなるかもしれない。

だが、そうなった時に俺が魔神族を絶滅させていては話にならんだろう。

だから一度だ。一度だけは、見逃しておく。

まだ俺にも、そのくらいの甘さはかろうじて残っているからな。

「流石です、ルファス様! 今も健在の素晴らしい太陽の如き一撃、お美事にございます!

やはり万物を焼き尽くす炎の輝きこそが至高、水なんて屁ですよ、屁!」

「素晴らしいです、ルファス様! 実に見事な『日属性』の魔法でした!

何か勘違いした焼き鳥が自分と同列に語っているようですが、火属性など比較対象にもなりません! 所詮火など日の劣化ですね!」

「あ゛?」

「ん゛?」

俺が戻ると、ハイドラスとフェニックスが手放しで絶賛してくれるが、その言葉にはどこか他の属性を貶しめる毒が含まれている。

互いにそれを感じたのだろう。二人は今までのキラキラエフェクトを捨て、一瞬でチンピラ染みた血走った眼になると互いを睨み付けた。

「んだ、テメェ? チョーシこいてんじゃねえぞ、水蛇が。蒸発してえのか?」

「ああ゛? 焼き鳥がピーチクパーチク喚いてるんじゃねえよ。喰われてえかコラ」

「あ゛?」

「は?」

互いに相手の胸倉を掴み上げ、メンチを切るその姿はまさにチンピラ。

見た目が美形でもやはり魔物か。本質的には結構暴力的なんだな。

合図もなく殴り合いを開始した二人を無視し、俺は手すりに背を預けた。

人類の生存圏は魔神族の支配圏と聞いていたから結構警戒していたし、戦力を整えてからじゃないと危険とも思っていたが……考えすぎだったな。

あいつらがただの尖兵で、後にはもっと強い奴が控えている可能性もゼロではないが予想よりは全く脅威ではない。

まあ仮に強めの奴が出てきても、今なら問題ないだろう。

次からはアルゴナウタイに任せてしまおうか。

「アリエス様! アリエス様も火でしたよね!?

二人で一緒にこいつボコっちまいましょうや!」

「ちょ、てめえ汚ねえぞ! 喧嘩に他人呼ぶんじゃねえ!

テメエの火は全然効かねえけど、あの方の火は半減しても効くんだよ! 割合ダメージだから!」

ハイドラスにマウントポジションを取られ、鼻血を流しながらフェニックスがアリエスに援軍を求めた。

まあ火VS水じゃ、そうなるよな。

突然呼ばれたアリエスは、あわあわしているが、その頭をスコルピウスが軽く叩く。

「無視していいわよお、アリエス。あんな馬鹿共なんて放っておけばいいわあ」

「うむ、喧嘩は一対一で行うものだ」

「サジタリウス、アンタはズボン履きなさいよお……」

言っている事は真っ当だが、股間の矢をブラブラさせているサジタリウスには全員が呆れ顔だ。

お前、ズボン作ってやっただろ……何でまだ裸なんだよ。

幸いにしてディーナのかけたモザイクがまだ残っているが、実に見苦しい。

ベネトに至っては汚物を見るような眼でサジタリウスを見ており、拳をゴキゴキと鳴らしていた。

サジタリウスは二百年前、殆ど味方の前にすら姿を見せずに人前に出る時には必ず変装していた、と聞いている。

それは彼が暗殺に特化しているからだと思っていたが……案外、本当の理由はこの露出癖が見苦しいから人前に出るなとルファスに命じられたとか、そんな所かもしれないな。

「おいマファール。アレ殺していいか?」

「半殺しなら許す」

「よし」

「ルファス様!?」

サジタリウスが縋るように見てくるが、知らん。

ベネトに蹴り飛ばされて船の外に放逐されるサジタリウスと、それを回収する為にロケットパンチを発射したリーブラを見ながら俺は思わず苦笑した。

全く騒がしい連中だ。

だが、どうやら退屈しない船旅になる事だけは確からしい。