軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第134話 ポルクスはアイネイアースをくりだした

アルゴナウタイはほぼ片付き、今は死なない程度に弱らせてアイゴケロスに捕縛されている。

アリオト、ドゥーベ、フェクダ、ミザールも無力化。

そしてポルクスの頼みの綱の竜王はレオンと絶賛喧嘩中。つまり、これで向こうの札はほぼ尽きた事になる。

余(おれ) はルーナとテラを守るために展開した結界の外に踏み出し、ポルクスの前に立った。

彼女の前にはエルフの英霊が一人いるが、 余(おれ) の相手にはならない。

というか倒す気もない。これを倒すとポルクスを守る結界が消えて彼女が焼け死んでしまう。

ともかく、勝負有りだ。もう彼女に勝ち目はない。

「詰みだな。それともまだ手札が残っているのか?

ならば早めに出す事を勧めるぞ……真っ向から捻じ伏せてやろう」

どうも七英雄相手だと身体が上手く動かなくなるが、それ以外ならば問題はない。

竜王だろうが過去の英雄だろうが何でも来い、だ。

指の関節を鳴らし、ポルクスの次の手を待ち構える。

「ふ。ならばリクエストにお答えしましょう。

舞い降りなさい、原初の天翼……天の星を司る者! ウラヌス!」

天から光が差し込み、スポットライトのように地上を照らす。

照らされた箇所には花が芽吹き、神々しい輝きを纏いながら白い衣を纏った純白の翼の男が降りて来た。

その翼は三対六枚。背中からは後光が差し、少年少女の天翼族が一緒に召喚されて、彼の降臨を祝うようにラーラーと聖歌を歌いながら飛び回っている。

ウラヌスと呼ばれた男は慈愛の微笑を浮かべながらゆっくりとゆっくりと、地面へと近付いていく。

そう、本当にじれったいくらいゆっくりと……。

「さっさと降りて来い!」

「へぶっ!?」

余(おれ) は、そんな彼の上に跳躍するとブン殴って地面に叩き落した。

大地が揺れ、地面に落とされた彼は両手両足が変な方向に曲がり泡を吹いている。

何だ、脆いなおい。原初の天翼族とかいうから凄い強いと思ったのに全然大したことないぞ。

彼は 余(おれ) の一撃で絶命したようで、呆気なく光の粒子となって消えた。

周囲のお子様天翼族はそんな 余(おれ) の所業にドン引きしてしまったようで、ガクガク震えながらへたり込んでいる。

ちなみに彼等が焼け死んでいないのは今もポルクスを守っている英霊がバリアを張っているからだが……さっき咲いた花は一瞬で竜王の炎の余波で焼けてしまった。

「あ、あれ? ならばこれはどうです! 顕現しなさい原初の人間。

汝、人類種の祖にして始まりの聖域の守護者――アイネイアース!」

ポルクスの召喚に応え、光の粒子が人の形を取る。

そして現れたのは引き締まった肉体を惜しげもなく晒した半裸の男であった。

美青年と呼んでいい容姿なのだろうが、それにしても腰に布一つしか付けていないというのは頂けない。

いや、理由は分かる。何せこいつは最初の人間……つまり言っちゃ悪いが原始人みたいなものだ。

人類の祖と言えば聞こえはいいが、ぶっちゃけそれは文明も何もない時に生まれたってわけで、実物はこんなもんだろう。

偉人には違いないが……。

「服を着ろッ!」

「ぶふぉ!?」

余(おれ) の拳を受けた男は錐揉み回転しながら吹き飛び、四散しながら遥か遠くへと消えた。

随分手応えがないな、と思ったがそれに対する答えは俺自身の記憶の中にあった。

どうも聖域の守護者というのは一子相伝のようなもので、次代に引き継いだ時にそのレベルやスキルを跡継ぎに移行できるらしい。

無駄にレベル1000の強者を増やしたくない女神らしいやり口って所か。

そして同時に納得もいった。道理で人間でありながら歴代の守護者全員が強いわけだ。

アイネイアースは死ぬ寸前にそれを行ったらしいので、つまり今召喚されたこいつは力を失ったただの抜け殻ってわけだ。

いかに全盛期の状態で復活させるアルゴナウタイといえど、移行してしまった力までは取り戻せないらしい。

まあそれを抜きにしても聖域の守護者を名乗る以上、今の弱体化したメグレズなどと互角程度の力はあるだろうが……ま、 余(おれ) の敵じゃないな。

余(おれ) は呆然としているポルクスへ手招きをし、挑発する。

「次」

「…………い、いいでしょう! ならばとっておきです!

かつて異なる世界より召喚され、神より賜った大いなる力で世界に平和を取り戻した存在。

来たれ、異世界の勇者!」

雷鳴が轟き、スパークを纏いながら一人の男が 余(おれ) の前に降り立った。

鍛え抜かれた肉体は鋼。

黒く輝く筋肉に、輝くスキンヘッド。

男らしい顔はまるで獣のようで、眉も剃られている。

身に付けているのはボクサーパンツとボクシンググローブ。

どう見ても日本人ではない身長190ほどのボクサーが「I am the Champion!」とか叫びながらシャドーボクシングをしている。

アロヴィナス……お前……。

「その……ずっと昔に強さ優先で呼んだらこんなの出ちゃいまして……」

「……そりゃあ強さだけで選んだら、こんなのが来るだろうな」

うん、瀬衣少年って実は凄い王道な勇者なんだな。今改めてそう実感したよ。

というかこいつ、さっきから何言ってるか全然分からねえ。

余(おれ) 、英語喋れないんだよ。

日本語はミズガルズ共通語に自動翻訳されてるっぽいのに何で英語はそのままなんだよ。

エクスゲート・オンラインは各国の言語に対応してるはずだっただろうが。

「余談ですが彼が自分の言葉を広めようとしたせいでミズガルズには一部翻訳不能の言語が根付いてしまいました。貴女の所の蟹さんのように好んで使う人もいるようですが……」

「こいつのせいかッ!」

「Nice Punch!」

カルキノスの英語モドキ、こいつのせいかよ!?

そう思った瞬間、 余(おれ) の拳はボクサー勇者を捉え、地平線の彼方へ飛ばしていた。

ったく……一応真面目な戦いなのに、変なの呼ぶなよな。

「で、まさか今のが切り札なのか?」

「ぐ……も、もう何でもいいから来なさい! 英霊召喚!」

どうやら本当に崖っぷちらしい。

ポルクスがヤケクソを起こしてアルゴナウタイを発動する。

しかし召喚は無限でも魂は一つ。既に召喚されて捕縛されている英霊は呼び出せない。

つまり彼女に残された手札は本当にあと僅かしかなく、大して脅威になるものはないだろう。

そう思っていたのだが、次の瞬間その認識はある意味で覆された。

「呼ばれて僕、参上!」

現れたのは……いつぞや 余(おれ) が殴り飛ばした、何かウロチョロしてた 奴(マルス) であった。

彼は気取ったように 余(おれ) を一瞥し、一体どこから自信が出てるのかも分からない勝ち誇った笑みを浮かべる。

そして剣を抜くと、 余(おれ) の回りをグルグルと走り始めた。

「今こそ見せよう、蘇りし僕の本当の実力を!

あの時は手を抜いてすまなかった。君を見誤っていたんだ。

だがもう容赦はしない、この七曜の一人『火』のマルスの全力をもって君を焦がし尽くそう!

刹那――即ち時の輪が交わるその一瞬に見るがいい、蘇りし僕の本当の『魂の波動』を――――!

炎とダイアモンド・ダスト、 双(ふた) つの対極のパワーが混じり合う事でこの瞬間新たに進化する 聖域(ここ) に混沌より生ずる。

交わらざりし力に今齎されん永遠にして一瞬の奇跡、時を超え神化せし未来への胎動!

奏でるがいい、炎よ。絶望の唄を。

唄うがいい氷よ。祝福の賛歌を。

君はもう囚われた。逃げ場はどこにも存在しない。道は未知にて閉ざされた。

恐れよ、怯えよ、そして祝福し称えるがいい。これが僕の生み出す刹那の光。

死の瞬間君は見るだろう。君を無へと誘う優しき抱擁。散れ! 究極奥義・大紅蓮――」

「五月蠅い」

相変わらず無駄に台詞が長い馬鹿を殴り、空の彼方へと追放した。

今の 余(おれ) はあいつと最初に戦った頃と違って大分この身体に馴染んでいるから、同じステータスでも全然威力が違う。ついでに言うとアルカイド発動中なのでステータスも違う。

夕刻になり、顔を出していた月にクレーターが増えたのを見届け、ポルクスへと視線を戻した。

「どうやら本当に手札が尽きたらしいな」

「え、ええと……りゅ、竜王がまだ……」

ポルクスは最後の頼みとばかりに竜王を見るが、それと同時に竜王がベネトの一撃で地面に叩き付けられ、白眼を剥いていた。

どうやら観戦に飽きたベネトが竜王を横から殴って仕留めてしまったらしい。

獲物を横取りされてしまったレオンが喚き、ベネトも負けじと「いつまでもダラダラ戦っているからだ」と口喧嘩をしているが、まあ今はどうでもいいだろう。

「で、竜王がどうした?」

「ぐぬぬ……」

「さ、もういいだろう。ポルクスの身体から離れろ」

余(おれ) の勧告に、しかしポルクスは二ィ、と笑った。

そして攻撃するならどうぞ、と言わんばかりに両手を広げる。

「いいえ、詰んでいるのは貴女の方です。

貴女にこの身体を攻撃出来ますか? 私を倒すというならばいいでしょう。どうぞおやりなさい。

ただし、貴女の力で攻撃などすれば確実にこの娘は死にますがね」

「……っ」

ちいっ……!

腹が立つが、奴の言う事は尤もだ。

奴がポルクスから離れない限り、 余(おれ) には打つ手がない。

『峰打ち』で攻撃するという選択もあるが、恐らくその程度では離れないだろう。無駄にポルクスを傷付けるだけだ。

これが何らかのステータス異常の類であれば治す手はいくらでもあったんだが、ステータス上は何の異常もない。

リーヴスラシルでマナのみを斬る――駄目だ。女神は別にマナになって憑依しているわけじゃない。

亡霊系の敵のみにダメージを与える日属性魔法――これも多分無意味だろう。

HPではなくSPにダメージを与えるウォーリアスキル――論外。あいつのSPは無限だし、やはり何の意味もない。

どうする……何か方法は……。

「ポルクス、負けるな」

何も出来ずにいると、 余(おれ) の隣にいつの間にか立っていたカストールがポルクスへ話しかけていた。

女神に、ではない。今は恐らく眠っているだろうポルクスへ、だ。

説得か……あまり意味があるとも思えないが、しかし双子であるカストールの言葉ならば何か効果を現すかもしれない。

こいつに少し任せてみようか。情けない話だがな。

「私達はずっと、今という時を待ち続けていたはずだ。

いつまでも続く脚本、繰り返される死。お前はそれが嫌で、いつも泣いていた。

脚本を超えるべき時は今なんだ。私達はもう、女神の三流の脚本から離れなければならない。

自由を手にするんだ……そうだろう、ポルクス!?」

「三流……」

カストールの説得に、ポルクスの顔が目に見えて落ち込んだ。

地味にアロヴィナスにもダメージ入ってるな、これ。

そういやこいつ、つい最近もベネトナシュに三流とか言われてたっけ。

ポルクスの身体から女神の力のようなものが僅かに離れ、その眼に理性の輝きが戻る。

これ、ポルクスが内側から抵抗してるんだよな? 女神が落ち込んで勝手に離れようとしてるわけじゃないよな?

とはいえ、チャンスだ。アレをどうにか出来ればポルクスを救える。

だが……アレは何だ? スキルなのか? 魔法か? それとも天法か?

いや、例えるならばアレは力そのもの。女神の欠片。

そんなものをどうにかする技など、 余(おれ) にはない。

ヴィンデミ・アトリックスなら……いや、駄目だ。多分意味がない。

何か……何かないか……。

――俺を呼べ。

「!?」

脳裏に突然声が響いた。

聞こえた声は、一度だけ聞いたもので、しかし忘れようもないものだ。

恐らくは 余(おれ) が俺となる前。まだ冒険者だった頃からずっと聞いていた声であり、だからこそ記憶の中に強く残っている。

――俺の名を呼べ、友よ。さすれば俺は如何なる時であろうとお前の剣で在ろう。

ああ、そうだな。確かに其方がいた。

許せよ。未だ完全に眼が覚めているわけではないのだ。

だが嬉しいぞ。こんな状態でも其方は余を余として認識してくれる。

ならば魅せよ。存分にその力を振るえ。

「天と魔。二つの力により開け、時空の扉。

汝、ご都合主義を砕く破壊の腕を持つ者。

――エクスゲート! 来い、タウルス……否――アステリオス!」

タウルスの真の名を呼び、天力と魔力を衝突させ、世界に穴を穿つ。

タウルスとは覇道十二星が完成してから余が奴に与えた、いわば役職名。真名ではない。

アリエスなどは元々固有名を持たなかったため、それがそのまま本名となったがタウルスは違う。

そして奴の真の名を知っているのはこの世で一人、余だけだ。

余の召喚に応じて現れたのは二百年前から変わらぬ頼もしさを見せる相方とも言うべき存在。

コートを翻し、『牡牛』の名を持つ巨漢が顕現した。

その右腕には紫電が迸り、仮面の奥の瞳は討つべき敵を捉えている。

「――アルデバラン!」

放たれるのは、相手の力を破壊する強制キャンセル能力。

それが天法であろうと魔法であろうと、スキルであろうと関係ない。

神の脚本すらも砕き散らす一撃がポルクスから僅かに離れていた女神の意思へと炸裂した。

空間に亀裂が走り、女神とポルクスの繋がりを無理矢理に断ち切る。

そして、まるでハンマーか何かで岩を砕いたかのような爆音が響き、殴ったそれを霧散させた。

まあ今のは女神のほんの一部分……髪の毛一本にも満たない程度の力なのだろうが、それにしても凄まじいチートぶりだ。部下がここまで反則染みていると余の立場が少し危ぶまれる。全く、頼もしい限りだ。

「……以前よりも、お前らしくなったな、ルファス」

「まだ完全ではないがな」

友の言葉に余は軽く笑みながら答えた。

仮面で顔は見えんが、まあこいつの事だ。きっとニヒルに笑っているのだろうという事が分かる。

せっかく人化しているのだから顔を晒せばいいとはいつも思うのだが、まあこれもアステリオスの拘りだ。

真名と同じで、顔も余以外には見せたくないらしい。

でかい図体をしている癖に繊細というか乙女チックというか……ま、そこが面白い奴でもあるのだがな。

アステリオスがエクスゲートに呑まれ、送還されるのを見届ける。

それから余は……。

……いや、 余(おれ) は頭を振って、混乱していた思考を戻した。

やべ、今完全にルファスに成り切ってた……いや、あるいは乗っ取られていたのか?

ベネトと戦った時とほぼ同じ状態になりつつあったぞ。

やばいな。どんどん『俺』とルファスの境界が曖昧になってる気がする。

女神を切り離したことで強制送還されているアリオト達を眺めつつ、 余(おれ) は意識を失ったポルクスを抱き上げた。

次は、正気のお前達と会いたいものだ。

そう思いながら……。