軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第102話 野生のレオンが現れた

どうも、ルファスです。

俺は現在、ディーナ達と合流すべく飛びながら先程までの事を思い返していた。

ベネトナシュにタコ殴りにされた後の記憶が曖昧で、しかし確かに俺がベネトナシュを倒してしまった事だけは理解出来る。

だが先程のアレは一体何だったのだろう?

いや、何が起こったのかは分かるんだ。

恐らくはベネトナシュに追い詰められた事で本当の『ルファス』が表に出てベネトナシュを倒してしまった。そのくらいは俺でも分かる。

分からないのは、何故俺がそれを自分でやった事であると認識しているかだ。

俺以外の誰かが身体を動かしたのを第三者の視点で見ていたわけではない。

俺が封じ込められて、その間に本当のルファスが戦っていたわけでもない。

あれは……確かにあれは俺だった。俺がやった事だ。

何と例えればいいのだろうか……例えるならば泥酔して気が大きくなって普段やらないような事をやってしまう奴がいるが、別にそれは二重人格とかそういう類ではなく間違いなく本人がやらかしている事だろう。

少し分かりにくいかもしれないが、無理矢理例えるならばそんな所か。

あの時の俺も実際、普段の俺を指して『寝惚けている』と言っていた。

そしてそれは正しく……何というか、あの時は目が覚めたような気分だったのを覚えている。

意識がハッキリして、枷が取れたように感じた。

今までにもこういう事は何度かあった。

スコルピウスと戦った時などは特に顕著で、俺は闘争そのものに愉しみを見出していた。

俺が――俺でなくなっていく。

同化しているのか? それとも吸収されているのか?

どちらにせよ、最初にこの世界に来た時から考えると俺は随分と変わってしまった。

最初の頃からおかしい部分はあった。

平和な日本で生きていたはずなのに、いとも容易く生物を殺せた事に違和感はあった。

何度目かは分からぬが、またも己の見通しの甘さを突き付けられた気分だ。

まだ猶予はあると思っていたがとんでもない。俺に猶予などなかった……恐らくは最初から。

このままの状態が続き、『ルファス』が真に目覚めたとき俺がどうなるかは分からない。

先ほどまでのように同化に近い形となるのか、それとも完全に取り込まれて消えてしまうのか。

そして恐らく、この状態は女神の意図したものではないだろう。

ルファスを邪魔に思っている彼女が、ルファスの覚醒を喜ぶはずがない。

これは女神の失態なのだろうか? ルファスという強固な意志を封じるのに、俺という余りに脆い蓋を用意してしまったが故の出来事……だとすると、少々女神が間抜けに過ぎる。

それにあの時、俺がベネトナシュとの戦いで口にした言葉は一体何だったのだろう。

『全てが予定通り』……俺はあの時、確かにそう口にした。

一体何が予定通りで、何を思ってあんな事を言ったんだ?

自分で自分が分からない。

俺は……俺は一体、誰なんだ?

*

時間は遡り、ルファスと別行動を取ることとなったアリエス達はティルヴィングへと田中を走らせていた。

主の事は心配だが、それでも彼女ならばベネトナシュに負ける事はないだろう。

復活してからはどうも本気を出す気配が全くないが、それは結局のところ本気を出すまでもない相手ばかりだからだ。

だからルファスが本当の力を発揮すればいかにベネトナシュでもまず勝利する事は不可能に近い。

その絶対の信頼があるからこそ、アリエス達は後ろ髪を引かれる思いをしつつも打倒レオンを目指して進むことが出来たのだ。

「見えてきたよ! あの壁に覆われてるのがそうじゃないかな?」

「生体反応多数……蛇人や巨人、蟲人のものと一致……間違いありません。ティルヴィングです」

田中の窓から見える城砦に覆われた都市を見てアリエスが声をあげ、リーブラがそれを肯定する。

それから田中を飛行形態へと移行し、空へと浮上。

上空からティルヴィングの街並みを見下ろした。

城砦で囲われた都市の中は、更に壁でいくつかに区分けされる事でそれぞれの亜人に合わせた街となっている。

結果、ドリアードなどの植物人の住処は森林で覆われているのに、壁一枚を隔てた魚人の区はあちこちに穴が開けられ海水で満たされている。

上から見ると酷い混沌具合だ。

中央にはやけに目立つ、無駄に大きな王城が聳え立ち存在感を誇示している。

恐らくレオンはあそこだろう。

「さて、どうします? 乗り込みますか?」

カルキノスがそう言いつつ、皆を見る。

だがリーブラとディーナが揃って手を顔の前で振り、否定を示した。

「いえ、恐らく城にはサジタリウスが仕掛けた罠があるでしょう。都市にも何らかの仕掛けがあるかもしれません」

「まあ、わざわざ相手のテリトリーで戦う事はないですよね」

向こうには罠のスペシャリストであるサジタリウスがいて、そして自分達が来る事も予期しているはずだ。

ならばわざわざ踏み込む必要がどこにある。

罠があると分かっていて踏み込む必要性など何処にもない。

リーブラはそう結論付けると、右腕を砲門へと変化させて田中から出る。

それを見て、やろうとしている事を察した他のメンバーも田中の屋根の上へと移動した。

「そこにいると分かっているのです。ならば取るべき手段は一つ……先制攻撃あるのみ!」

リーブラが砲門を城へ向け、彼女の視界の中では城の中に赤いアイコンとなってレオンが表示された。

そこにターゲットロックオンのマーカーが表示され、命中率が表示される。

それと同時にアイゴケロスが魔力を高め、ディーナが手を掲げ、アリエスが掌の中に炎を生み出す。

スコルピウスは大きく息を吸い込み、そして一人だけやる事のないカルキノスは棒立ちをした。

「 右の天秤(ズベン・エル・ゲヌビ) 最大出力、ファイア!」

「死ねえい! デネブ・アルゲディ!」

「アクア・ジャッジ・ガベル!」

リーブラの腕から毎度お馴染みの破壊の閃光が放たれ、アイゴケロスの腕から黒い波動が解き放たれる。

ディーナが発動した魔法は大質量の水となり、まるで裁判官が打ち下ろす小槌のように城へと墜落した。

随分大きな小槌もあったものだ。

「メサルティムVer.3!」

「グラフィアス!」

アリエスは巨大な火球を生成して発射し、地味にVer.3などと名付けている。

やはり本来の用途と違う使い方をしている自覚はちゃんとあったらしい。

そしてスコルピウスが口から発射した『グラフィアス』は猛毒のブレスだ。

本来ならばブレス系統はドラゴンなどが使うスキルなのだろうが、そこは毒の女王。毒ならば彼女の十八番だ。

そしてカルキノスはといえば、残念ながら出番がない。

彼の得意技である『アクベンス』は相手の攻撃を受けてから発動するカウンタースキルであり、まずは相手の攻撃を待たねばならない。

そして彼の持つ攻撃スキルはそれ一つだけであり、つまりアクベンスが発動出来ない状況下では通常攻撃しかやる事がないのだ。

他に持つスキルといえば防御力上昇の『テグミン』。

戦闘不能になった時のみ発動可能な、次に行われる味方の攻撃によるダメージ値を倍化し、ダメージの限界突破すら果たす『アルタルフ』。

物理攻撃を自分に引き寄せる……ルファスに言わせればタゲを取るだけのスキル『アセルス・ボレアリス』。

魔法攻撃を自分に引き寄せる『アセルス・アウストラリス』。

これがカルキノスのメインスキルであり、見て分かるように全く自主的に攻撃出来るラインナップではない。

壁としては彼は間違いなく優秀だ。

だがこの場ではただの案山子でしかなかった。

そんなわけで今日も蟹さんは出番がないのである。

そうしてカルキノスが飾りになっている間にもリーブラ達の一斉攻撃が城に突き刺さり、大爆発を引き起こす。

幸いにしてディーナが城の周囲に展開したシールドによって都市にはさほど被害が出ていないようだが城の中は大惨事だろう。

ともかくこれでまずは先手を打てた。

城に仕掛けられただろう罠もほぼ壊滅だろう。

とはいえ相手はレオン、十二星最強の雄だ。

この程度で死ぬはずもなく、全員が既に二発目の構えへと入っている。

「もう一度撃ちます。このまま遠距離攻撃でレオンの体力を削りましょう」

城でふんぞり返っているならばそれでよし。

その城を墓標にしてやるまでだ。

そう判断して照準を合わせたリーブラだったが、次の瞬間には表情が険しくなった。

「ッ、来ます! 全員散開して下さい!」

リーブラが指示を下し、全員が疑う事なくその場から飛び退いた。

直後、凄まじい圧力を伴って一人の男が城から飛び出し、田中の屋根を破砕して通過。

重力に引かれて落下し、地面へと着地した。

降り立ったそれは、身長にして2mを超える巨漢の男だ。

まるで鬣のように赤黒い髪を揺らめかせ、肉食獣そのままの獰猛な瞳でかつての同胞達を見上げる。

身にまとうのは肌に密着するタイプの黒いボディスーツ。

下には所々が破れたズボンを着用し、口元を歪に釣り上げた。

「よォ……随分懐かしい顔が並んでるじゃねェか」

男の特徴を一言で示すならば――筋肉の塊であった。

発達した上腕二頭筋、鋼鉄のような胸筋、八つに割れた腹筋。

顔立ちもアリエスやカルキノスといった見眼麗しい者達が集う十二星の中では異色も異色。

決して不細工の類ではないが、明らかな場違い。

男らしいといえば聞こえはいいが、まるで野獣を思わせる凶相だ。

これならばまだ冒険者のジャンや傭兵のガンツの方が理知的な顔に見えるだろう。

その隣に、これまた濃い顔立ちのケンタウロスであるサジタリウスが着地する。

一人でも濃いのが二人並んでもっと濃い。

まるで今にも男の汗の匂いが届いてきそうな男臭さと場違い感に溢れている。

どうしてルファスはレオンの人間体をこんな外見にしてしまったのだろうか。

この場に集まっている他の十二星が何だかんだで見眼麗しい者達で構成されている分、より彼等の濃さは悪い意味で浮いてしまっていた。

「だが……ルファスは来てねェのか……。

こりゃあつまらん戦いになりそうだな」

「ほう。言うではないか、裏切り者風情が」

吐き捨てるように言ったレオンへ、アイゴケロスが怒りを露に黒いマナで覆われる。

一瞬で老紳士から山羊頭の悪魔へと変貌した彼を見てもレオンの余裕は崩れない。

むしろさっさと来いと言わんばかりに手招きまでしているではないか。

「後悔しろ!」

アイゴケロスが飛び出し、拳をレオンの頬へ叩き込む。

余波でレオンの後ろにあった木が砕け散る程の拳圧。

だがレオンは表情を変えずに、わずかに仰け反る事もなくアイゴケロスを冷たく睨んだ。

「なんだよ……随分温いパンチ打つじゃねェか……。

パンチってのはなァ、こう打つんだよォ!」

叫び、レオンの剛拳がアイゴケロスの顔面に突き刺さる。

それだけでかつて魔王とまで呼ばれた魔物は吹き飛び、城壁に衝突して貫通する。

そのままいくつもの建造物を薙ぎ倒しながらティルヴィングの都市の中へと飛び込んでしまい、姿が見えなくなった。

「ッ、アイゴケロス!? この!」

親友がやられた事で激高したアリエスが跳躍し、レオンの太い首に蹴りを放つ。

だがレオンは僅かに動くだけでそれを避け、アリエスへ反撃の拳を放つ構えを見せた。

しかしそれよりも早くスコルピウスの髪が腕に巻き付き、その動きを封じる。

更に尾の先端がレオンの首に刺さり、毒を流し込んだ。

「ふふふっ。油断しすぎよお、お馬鹿さあん。

妾のスキル『シャウラ』の効果は勿論アンタも知ってるわよねえ。

この毒は一度打ち込めばエリクサーか最上位の天法を使わない限り決して消える事はない。

アンタがいくら強かろうが関係ない……これでもうアンタは終わりってわけ」

「ほう? ……それで?」

「は? それでって……だからこの毒は消えないんだってば」

「だから?」

レオンはニィ、と笑い己に巻き付いている髪を掴む。

そして、まるで何でもない事であるかのように言い放った。

「馬鹿はテメェだ! そんなモン、毒が回り切る前にテメェ等を皆殺しにすりゃあいいだけの話だろうがッ!」

髪を掴んで引き寄せ、スコルピウスの腹に拳を叩き込む。

すると何かが折れる不吉な音が響き、スコルピウスの紫の唇から鮮血が溢れた。

そのままスコルピウスの身体が吹き飛び、見えなくなった所で遠くから何かにぶつかるような轟音が響き渡る。

それを見てアリエスは戦慄を禁じえなかった。

やはり強い……!

途方もないほどに、単純に、ただ強い!